〜 星灯りの奏鳴曲 〜


 今日は7月7日、いわゆる七夕というやつであって……。
「栞、それ曲がってない?」
「そうこというお姉ちゃん、嫌いです…」
「あははー。舞は何をお願いします?」
「……ひみつ」
「あ、美汐。マジック取って〜」
「はい、真琴。でも下に紙を敷かないと写ってしまいますよ?」
「うぐぅ……上手く書けないよ…」
「美坂と付き合えますように……と」
「私は何をお願いしようかな?」
 水瀬家のリビングに全員(北川含む)集合しているのだが……。
「おい、名雪」
 ちょっと名雪を呼び寄せる。
「なあに、祐一?」
「みんなで何やってんだ?」
「何って……七夕の短冊にお願い事を書いているんだよ?」
「……なんで?」
「なんでって…おかしなこと言うね、祐一。
 七夕なんだからお願い事するのが普通でしょ?」
「いや、それは大いに結構なことだが……なんでみんな集まってるんだ?」
「今日はみんなで七夕パーティーするからだよ」
「パーティー?」
「うん、そうだよ」
 名雪が笑って答える。
「んなこと、いつ、誰が決めたんだ?」
「昨日の夜、お母さんと私と祐一で一緒に決めたでしょ?」
「……そうか」
「どうしたの、祐一?」
「読者への説明ご苦労、名雪」
「???」
「気にするな、こっちの話だ」
 さて、こんなもんで状況説明も終わったな。
 俺も願い事でも書くか。
 ……っと、その前にみんなの願い事を見てみるか。
 香里は………クッ、見えん。
 ほぅ、栞は『 絵が上手くなりますように 』か。
 そんな願いは神様も叶えるのが大変だね。
『 そういうこという人、嫌いです 』
 む、栞の電波か?
 ………気にせずに次いこう。
 佐祐理さんと舞は……。
『 あははー 』と『 はちみつクマさん 』
 2人とも、それは願い事じゃないと思うぞ。
 さて、真琴と天野は…。
『 肉まん 』と『 無病息災 』
 ……ま、気にしないでおこう。
 天野は大体の予想通りの願いだしな。
 真琴の方は述語がなくても願いが叶うのかどうか、気になるがな…。
 あゆは……見なくてもいいや。
「うぐぅ、ボクのだけ見ないなんて酷いよ祐一君」
「わかったわかった」
『 たいやき食べ放題 』
 むぅ、食べ放題か…。
 決して作者はこれを書きながら『 ヨー○ル食べ放題 』なんて聴いていないぞ?
 さて、北川は……。
『 美坂と○×△□◇(具体的過ぎて放送できません)』
 まぁ、放って置こう。
 その内に香里が何とかするだろうしな。
 名雪のは……。
「祐一。み、見ちゃダメ!」
「少しくらい…」
「絶対にダメ!!」
「わかったよ……」
 何でそんなに隠したいのかわからんが、まぁいいか。
 俺はなんて書こうかな…。
 …………。
 よし、こんなもんでいいだろ。
 俺が短冊を竹に括り付けると、ちょうどリビングのドアが開いた。
「名雪、悪いんだけど買い物頼んでいいかしら?」
「うん、いいよ」
 ペンを置き、立ち上がる。
「じゃあ、人参何本か買ってきてちょうだい?」
「うんっ」
「あ、俺も行きますよ」
「え、祐一? でも…」
「ここにいても暇だからさ、な?」
「うん、じゃあ行こっ」
「じゃあ、お願いね。2人とも」
 それだけ言うと秋子さんはキッチンに戻っていった。
「んじゃ、行くか?」
「そうだね」
 俺たちが玄関で靴をはいていると香里と栞も来た。
「あれ、香里に栞ちゃん。どうしたの?」
「私たちも付き合うわ」
「でも…」
「ふふっ。お姉ちゃん、本当はちょっとお菓子とか買いに行きたいだけなんですよ」
「し、栞っ」
「ふふっ。じゃあ、いこっ?」
 ってことで4人で商店街を目指す。
 秋子さんを待たせているので、手早く目的のものを買う。
 ついでにみんなで飲むジュースなんかも買う。
「さてと……。ほら栞、荷物貸してみろ」
「えっ? あ、このくらい自分で持てます」
「病人は大人しくしてるもんだぞ?」
「私、もう病人じゃないですっ」
 栞がプイッ、とそっぽを向く。
「ったく……いいから貸せって。結構重いだろ?」
「重くなんて……ないです」
 妙な間が空いてるのが怪しい。
「重いんだろ? ほら、素直に貸せって」
「……じゃあ」
 栞が俺に買い物袋を渡す。
 まぁ、こんなもんだろ。
 予想していたよりも多少は軽いが、栞が持って帰れる重さじゃない。
「…………」
 む、なんか視線が…。
「名雪? どうしたんだ?」
「……どうもしてないよ」
 少し声を荒立てながら名雪は先を歩いていった。
「何だあいつ?」
「相沢君、わかってないわね……」
「なにがだ?」
「言葉どおりよ。さ、栞。行きましょ?」
「あ、待ってお姉ちゃん」
 香里と栞も先に行ってしまった。
「なんなんだよ、一体……」
 取り残された俺の手の中の買い物袋が少し重く感じた。


 夜も更け、パーティーも無事に終わり、みんな帰っていった。
 みんな楽しんでいったけど……。
 名雪の様子が少しおかしいことが気がかりだな。
 当の本人は部屋にこもっちゃったし……。
 しょうがない、訳を聞いてくるか。
「あ、祐一さん」
 リビングのソファから立ち上がろうとした時、秋子さんに声をかけられた。
「はい?」
「名雪の様子、見てきてもらえませんか?」
「俺もちょうどそう思ったところです」
「じゃあ、お願いしますね」
 秋子さんは微笑みながらキッチンへと消えていった。
「さてと……お姫様はどうしてるかな?」
 俺は名雪の部屋へと向かう。
『 コン、コン 』
 ノックをするが……。
「……誰?」
 起きてはいるみたいだな。
「俺だ」
「祐一? 何か用?」
「いや、ちょっと話でも」
「私、明日早いから…」
「明日は学校休みだぞ」
「部活で朝練があるから…」
「お前、明日は午後からだって言っただろ」
「う〜」
「……入るぞ」
 名雪の部屋のドアを開ける。
 部屋の中では名雪がベットの上で膝を抱えて座っていた。
「どうした?」
「別に何でもないよ……」
「なんか今日の名雪、変だぞ?」
「何でもないって言ってるでしょ!」
 名雪が叫び声をあげる。
「あ………」
 そして視線を俺から逸らす。
「本当にどうしたんだよ……。俺、何か悪いことしたか?」
「…………」
「黙っててもわからないぞ?」
「………栞ちゃん」
 名雪が小さな声で呟く。
「栞? 栞がなんかしたのか?」
「違うよ、祐一だよ……」
「俺が栞になんかしたってのか?」
 記憶を辿ると………結構あるかも。
「祐一、栞ちゃんのお買い物袋、持ってあげたでしょ?」
「え? ああ……」
「前のお買い物の時、祐一、私のは持ってくれなかった……」
「そうだっけ?」
「そうだよ!」
 名雪がまた声を荒立てる。
 ん、待てよ……。
「もしかして……やきもち焼いてるのか?」
「う〜」
「なんだ、そうか、そうか。かわいいなぁ、名雪は」
 名雪の頭を撫でる。
「だって、祐一って栞ちゃんにはいつも優しいし……」
「それで、俺が栞のこと好きだ、と思ったって?」
 少しだけ頷く。
「そっか……。でも名雪、それは違うぞ」
「どう違うの?」
 瞳を潤ませながら聞いてくる。
「栞はなんて言うか……妹みたいな感じでな」
「妹……?」
「ああ」
「じゃあ、祐一は香里が好きなの?
「何でそうなるんだよ……」
「だって栞ちゃんが祐一の妹なら、祐一は香里と……」
「待て待て待て、勝手に人の戸籍をいじるな」
「だって……あっ……」
 俺は名雪を優しく抱きしめる。
「これで言わなくてもわかるだろ?」
「………うん」
 しばらくそうしていると、名雪が何かを思い出したように声を上げた。
「あっ! 私まだ短冊つけてない……」
「え? でも、もう……」
 時計を見る限り、すでに7月7日を30分近く過ぎている。
「あ……。じゃあ、お願い事叶わないね……」
 少し俯く名雪。
「何を書いたんだ?」
 隠されて見れなかったので、少し気になる。
「うん……」
 恥ずかしながら短冊を俺に手渡す。
 そこには……。
『 祐一と、いつまでも一緒にいられますように 』
 と書いてあった。
「でもこのお願いも、もう叶わないんだよね……」
「そうかもな、神様は願い事が多いから『 締め切り厳守 』って感じだもんなぁ」
「………うん」
「でも、俺の願いは叶えてくれるだろ?」
「祐一、なんて書いたの?」
「……見に行ってくれ」
 あんなの言えるかよ……。
 名雪がベランダに置いてある竹の場所に行く。
 俺もそのあとをついて行く。
「え〜と、祐一のは………あった!」
 名雪が俺の短冊を見つけたみたいだ。
「俺の願いは神様が叶えてくれるとして……」
 そう、俺の願いは……。
『 名雪を幸せに出来ますように 』
 そして俺は名雪を引き寄せる。
「名雪の願いは俺が叶えてやる」
「うん……うんっ!」
 やがて、2つの影が1つになる。
 夜空には彦星と織姫が、2人を照らすように光り輝いていた。


  SilverCherry 寄贈日  不明

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