巻十九 "反乱"


第167話 「”戦線”」

   1ページ目にアラバスタの位置関係の略図が載っている。普通に読んでいると全く気づかないが、よく
  見ると
アルバーナの裏側に、謎のでっぱり(クレーター?)みたいなものが描かれている

   これは、一体なんなのか?一番可能性として高そうなのは、"プルトンの使用跡"という可能性である。

   以後の展開で言葉だけだが登場する、核兵器(?)・プルトンだが、何故それがアラバスタにあるかなど
  は結局明かにされていない。超長期的伏線(再びアラバスタが物語の部隊になった時に明かになる)と考
  えても良いが、ここは、敢えて「
裏設定」として考えてみよう。

   想像出来る設定としては、『数百年前、アラバスタ(アルバーナ?)はプルトンをかつて使って、滅びかか
  った。そのためプルトンを封印した。あのクレーターは、旧首都がプルトンで吹っ飛んでしまった跡である
  …』というところだろうか。

   話の本筋以外のところで、パッと見では気づかない絵をちょっと書いておくだけで、そこに裏設定を想
  像して楽しめる。これもワンピの凄さの一つである。

   なんだそんなこと、と思うかも知れないが、これは相当すごいことである。読者に裏設定を想像させると
  いうことは、それだけその物語世界がしっかりしているということであり、リアリティがあるという証左であ
  るからだ。

   物語世界がしっかり一定の枠を持ち、作者はその世界観をきちんと構築していて、裏切らない。しかも
  ストーリー上は明かされていない(描かれていない)物事も、きちんと物語世界に存在している。そういう
  
信頼が読者と作者の間に形成されていて初めて、裏設定というものが存在し得るのである。単なる荒唐
  無稽の行き当たりばったり漫画では、誰もそんなことに興味を持たないのだ。


第168話 「夢の街”レインベース”」

   サンジがプリンスの名をもらい、以後しばらく「Mr・プリンス」と名乗ることになるわけだが、クロオビに
  つけられた「騎士道」にしろ、この「プリンス」にしろ、どうも定着しないのが寂しい。

   思えばゾロの武士道に対する騎士道、ビビのプリンセスに対するプリンス、のような相対的・比較対象
  ありきなネーミングは、イマイチ
他者との関係でしかキャラを確立できない、サンジの悲しみというか、漂
  流っぷりを象徴している
ような気もする。

   ルフィ・ウソップ相手ではツッコミ役・チョッパーやビビ相手ならお兄さん役、ゾロ相手ならボケ役、ナミ
  相手なら奴隷役、と、相手によって変幻自在にキャラを変えて行くサンジ。 現実ならサンジはみんなに好
  かれる頼れる(かつ、どこか母性本能をくすぐる)人物な気がするが、ワンピ世界においては、どうも周り
  に濃いキャラが多く、割りを食ってしまっているような気がしてならない。

   だが、物語を書く方からすると、サンジはかなり「使いやすい」キャラとなっているように感じる。、たとえ
  ば日常会話のシーンを書く時には、キャラが変幻自在なのでオチをどの方向にでも転がせるし、逆に戦
  闘シーンを書くときにも敵の強さを表現するのに使いやすい。(ゾロやルフィはストーリー上よほどの大物
  しか苦戦・敗北させづらいし、ウソップ・ナミ・チョッパーでは、戦わせても、敵の強さの証明にならない)

   濃いキャラたちの暴れまくる本作。サンジの存在は、作者にとって、意図通りにストーリーを転がす上
  の潤滑油になっているのかもしれない。

   "サンジならでは"の何かを見せつけて、なんとか物語の主役に踊り出られるか、それともストーリーを
  自然に転がして行く潤滑油に殉ずるのか
。サンジの行く末を、見守っていきたいところである。


第169話 「”王国最強の戦士”」

   「海楼石」なるものが登場。これによって悪魔の実の能力者の弱点がもう一つ増えたことになる。これ
  がいかに能力者同士の戦いを面白くしてくれるか、作者の力量に期待したいところである。

   王国最強の戦士、ペルの戦いも爽快。前のコマでわざとフォォォォ…と溜めを作って、次のページの
  「飛爪」で一気に放出する、この演出はさすがである。

   しかし、個人的には好きなペルの活躍が、結局この一回だけになってしまう、というか、既にこの回の
  ラストでオールサンデーへの噛ませ犬の香りがプンプンするなんとも悲しい限り…


第170話 「”始まる”」(2001年第10号掲載)

   オールサンデーのハナハナの実の能力、クロコダイルのスナスナの実の能力、その二つが一気に明
  らかになる、内容の濃い回。怒って飛んで行くペルのスピード感や、流れるようにペルを真っ二つにクラ
  ッチしてしまうオールサンデーの美しさと力強さも、印象的である。

   ところで、邪推とは思うのだが、どうしてもこの回からは「キン肉マン」を連想してしまう

   ジャンプ黄金期の代表的作品、キン肉マン。現在大学生以下の人には、あまりわからんと思うので、
  読み飛ばして頂きたい。

   まず、ハナハナ(手が六本)とスナスナ(全身砂化)の悪二人組は、アシュラマンとサンシャインのはぐれ
  悪魔超人コンビを彷彿とさせる。ビビが思わず口にする「関節技…!」の台詞。これに「サブミッション」と
  ルビを振るのもキン肉マンならではだし、(48の殺人技&52の関節技)、ペルを仕留める「クラッチ」は、
  ラーメンマンの得意技、「キャメルクラッチ」そのものである。

   過去の作品のパクリは作品を貶める、と前に書いたが、ここまでオブラートに包んでくれるのなら、逆
  に昔からのファンへの隠れたメッセージぽくて、好感が持てる。歳を取ってる読者へのサービスをこうや
  って折りこんでくれる、これもまたワンピの一つの魅力と言えようか。


第171話 「”反乱軍統率者コーザ”」(2001年第11号掲載)

   ついに動き始めるストーリー。この辺の、前回との繋がりが一瞬わからない展開・ストーリー構成が、う
  まく謎と緊張を演出出来ているように思う。

   (国王が消えた理由は、182話まで不明(というか、結局直接的な説明はない。おそらくメリクリが地下から
  掘り進んで誘拐したのだろうが。この辺の読者の想像に任せる演出も、またニクい。))


第172話 「”反乱(うねり)”」(2001年第13号掲載)

   反乱と書いて"うねり"。敢えてこう読ませる。第100話「伝説は始まった」の、G・D・ロジャーの台詞を
  彷彿とさせる。「決して止まらない」とそこで書いていると言うことは、この反乱は止まらないと、ここで予
  言しているのか?と、予想し、またもワクワクさせられた題名である。(結果的には「時代のうねり」ではな
  かったので、止まったが…)こういう、
題名からストーリーを予想したくなるのも、また本作の魅力である

   ストーリー的にも、ついに反乱軍・国王軍ともに緊張が爆発する、盛りあがりの回。町の風景や逃げ惑
  う人々、それに反乱軍や国王軍の一人一人を丁寧に描き込んでいる(アシスタントの努力?)結果、場面
  の緊張感がリアリティを持って迫って来る。

   さて、ちょっと気になる点が一つ。コーザの台詞、「アラバスタはもう死んだ!」であるが、実はこれ、
  雑誌連載時は「アラバスタはもう死んだ!」であった("現"はない)。何故書き変えられてしまったのか、
  謎である。

   ここまでの反乱軍の描写からすれば、アラバスタを復興させようと考えている気配などなく、"現"なん
  て言い方をする理由がない。("現"ということは、"新"アラバスタがある、と言う意味に聞こえる) どう見
  ても反乱軍は国王を打倒することしか考えていないし、考えてたとして、コーザを中心にした民主的新国
  家樹立、くらいであろう。"現"をつける理由がない。(ゴロも悪くなってる)

   意図の不明な書き換えであるが…さて?


第174話 「”バナナワニ”」(2001年第14号掲載)

   この「”バナナワニ”」、普通に数えれば173話だが、ここで何故174話と表記しているかというと、
  誌連載時はこう表記されていたから
である。その時は「消えた173話」として、謎に思い「来週、サンジが
  電伝虫をかけてくる過程が描かれて、それを"173話"とするんじゃないか?(つまり、雑誌連載とコミッ
  クス掲載で、話の並びが入れ変わる)」などと、想像していたのだが、なんてことはない、単なるミスだっ
  たと次の週に判明して、ガックリした思い出がある。

   ビビの手錠はいつの間にかはずれているし、作者も疲れ気味だったのだろうか?

   とはいえ、「お前の方が小者だろ!」と言い放つルフィの迫力は鳥肌ものだし、ストーリーの勢いは衰え
  を見せていない。ちょっとしたケアレスミス、というところだろうか。


第174話 「”Mr.プリンス”」 (2001年第16号掲載)

   サンジがクロコダイルをマンマと罠に掛け、かつてないほどにカッコイイ登場を見せてくれる回。ここで
  もまた、どうやってサンジがやられずに逃げて来られたのか、とか、じゃあクロコダイルは誰を追っかけ
  てったんだよ、とかは
とりあえず謎のまま先へ進める演出で、スピード感溢れるストーリーテリングを見
  せている

   また、逃げるビビをクロコが叩き落すシーンを、直接描かずにビビとクロコのアップ絵に上から効果線
  を描きこむことで表現する手法は、迫力とリアリティを読者の想像力で補完し両立させる、秀逸な手である。


第175話 「”解放”」(2001年第16号掲載)

   前話で説明しなかった、サンジのクロコ騙しテクニックを、ここで説明する。テンションの低くなりがちな
  シーンを次の話の冒頭でやって、カッコイイ見せ場を前の話のラストでやってしまう。なかなかにうまい方
  法と言えよう。

   また、その過程でもダラダラと見せないように工夫が施されており、チョッパーの「おれにできること…」
  の
一言で、チョッパーの心理状況を描き切っている。しかも18巻でのウソップとのやりとりと繋がる、見
  事な台詞回しである。

   そしてラストはまたしても、謎を残して先へ進む前話の手法。今回は何故かMr3まで登場し、さらに強
  烈に次回への引きを残している。


第176話 「”Rush!”」(2001年17号掲載)

   Mr.3がバナナワニに食べられた展開が、実はここに繋がっていた。相変わらずのストーリー構成の絶
  妙さを思い知らされる回。また、ナノハナでナミが買った香水も伏線として使用される。もう、ありとあらゆ
  るストーリー要素が螺旋状に折り重なって新たな展開を呼ぶこの作りは脱帽するしかない。

   一方、隠れたお遊び要素も満載。ここまで"溺れるルフィを救うのはサンジの役目""ビビのウソップ鼻
  引っ張り""ルフィ以外の能力者を救うのはゾロの役目"という変なジンクスが出来上がっているのに、お
  気づきだろうか?

   クリーク戦後、アーロン戦で沈められた時、双子岬でナミに蹴飛ばされた時、と、ルフィを救うのはいつ
  もサンジだし、ビビは139話、203話でウソップ鼻引っ張りを見せている。また、156話でボンクレーを
  救ったのは状況から見てゾロだし、180話の川渡りでチョッパーを運ぶのもゾロである。

   こういう、お遊びジンクスを探して見るのもまた、ワンピの楽しみの一つであろう。

   ラスト、クロコダイルとの一騎討ち(?)を予想させる展開は、次回への期待感抜群の、見事な引きで
  ある。特にコミックス版はここで切れると次回まで3ヵ月待たされることを考えると、絶妙な区切り方であ
  る。


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