誰かに呼ばれた気がした。
「えっ?」と思わず小さくつぶやいて、声が聞こえた方に顔を上げる。
開け放された大きな窓の向こうには誰もいない。
だが、吸い寄せられるように自然そちらへと足が向かった。
「太公望?」
その小さな身体をめいいっぱい窓から乗り出させる。
青い空に飛び込んでいきそうなほどに乗り出した身体に、風がやさしく絡み付いてほどけた。
「まだ仕事はこんなにあるのですよ!どこへ行くのです! お待ちなさい、太公望?!・・・・・・太公望!!」
風が呼んでいた。
未来への懐古
誘われるままに向かった先は、城下でも郊外の小高い丘であった。
膝丈ほどに茂る草むらの中を、まとわりつく風とともにくるくると躍るように回っていた。
目に映るすべてのものがきらきらしく輝いていた。
街も、人も、犬も、虫も、草木も、大地も、空も。
すべてが等しく美しい。
やがて、足がもつれて投げ出されるように草の上に倒れる。
そのまま大の字に寝っ転がった。
地を這うように吹くやわらかな風が、火照った頬を優しく撫でる。
草の間から見える青空が驚く程近くて、思わず天に両手を伸ばす。
――大気に抱きしめられる。
糸が切れたように下ろした腕は、草々に受け止められた。
乱暴に下ろされたそれを省みることなく、おもむろに今度はうつ伏せに大の字になる。
草いきれで立ち込める土の濃厚な匂いを、胸一杯に吸い込んだ。
――大地を抱きしめる。
この世にあるすべてのものが愛おしかった。
胸が狂おしくなるほどに。
すべてのものが自分を慈しんでくれている。
「太公望師叔?」
名を呼んでくれるこの者が愛おしい。
「どうかされましたか? 周公旦君が、あなたの様子がおかしかったと言っていましたが。
具合でも悪いのですか?」
自分に近づいて跪き額に手を当てる、この者が愛おしくて。
そう言葉に出来ないほどにまでも愛おしくて。
情動のおもむくままに、腰に腕をまわしてきつく抱きしめる。
「す、師叔?!」
この世にあるすべてのものが愛おしかった。
懐かしいほどに。
すべてのものが自分を包んでくれている。
やがて低くなり安定した腰に、幼子がやるように顔をぐりぐりと押し付ける。
「師叔、どうかされましたか?」
やさしく問い掛けられる声も、背を撫でる手の感触も、押し付けた鼻が感じる体臭も。
不意に鼻孔の奥がつんと痛んで、涙がにじむ。
何故だろう、こんなにも愛おしいのは。
何故だろう、こんなにも懐かしいのは。
「師叔?」
何故だろう。
――了
−−−
前作から開いてしまい申し訳ありません。
しかもリクでねーんでやんの。
(リクも含めて)ネタはあるのですが、最後まで書ききる力がなくて、書きかけばかり6本も出来てしまいました・・・。
どうしよう、このまま書けなかったら・・・とも思いましたが、まあ学校が始まればまた書きたい病が出てくるかなと。
ねこにとって、現実逃避なんですよね、これを書くのは。
今は逃げたいことが何もないんです。強いて言うなら小説アップ(爆)。
これはねこの心情を師叔に代弁してもらったものです。
こんなことないですか? もう、世の中のものすべてが愛おしくてたまらなくなってしまうこと。
・・・ねこだけ?
ともかく、これはだいぶ前、師叔が宇宙人だったこともわからなかったくらい前に原案は作っていたのですが、宇宙人であることが発覚した今となっては、何とも伏線めいたものになってしまいました。
何だか書いているうちに、「ぼく地球(知ってますよね?)っぽいな」と。
これはいかんと何とか軌道修正しようとしたら、今度は「千尋(宮崎映画)っぽいな」と。
でももうねこの力量ではどうにもなりません。やっぱ筆のおもむくまま何も気にせずに書いた方がよかったか・・・(後の祭)。
最初、楊ゼンさんに膝枕をさせようと思っていたのですが、そんな体勢で顔をぐりぐりと押し付けるところは・・・と想像したら、何だか別の話になってしまいそうなのでやめました。 (下品!)
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