「異国に伝わる話でな」















ウラシマ















「ある若者が、海辺で助けた亀に連れられて海の底に行くと、そこには表現できぬほど美しき建物があり、天女と見まごうほどの女性がおったそうだ」




「それは本当に仙女だったのではありませんか?」




「あるいはそうなのかも知れぬが・・・・・・。
そこで2人は相思い、夫婦となって3年の月日が流れた」








「ある日、若者は故郷が恋しくなった。妻である女性にその旨を伝えると、決して開けてはならぬと1つの硯箱をくれたそうだ」




「開けてはいけない物をくれたのですか?」




いぶがしげに楊ゼンの整った眉がひそめられた。




「若者は故郷に帰ってみた。しかし、懐かしいはずの故郷はすっかり様変わりしておった。見知ったものも誰もおらぬ。不審に思い通りすがりの者に聞いてみると、彼の時より300年経っているという。
悲嘆に暮れた若者は、開けてはならぬ硯箱を開けた。すると中より白い煙が出て、若者は白髪の老人になってしまい、やがて消えてしまったそうだ」




楊ゼンには太公望の言いたいことがわからない。なぜ突然この人はこんな話をはじめたのだろうか。




「おそらくその人間の若者が連れて行かれたところは仙人界でしょう。せっかく不老不死の秘術を手に入れられたのに下界に下り、そこでの事実に恐慌状態に陥って愚かにも自分の時を封じてあった硯箱を開けてしまい、止まっていた時間がいっきに流れ出した。・・・・・・そんなところではありませんか?」




「愚かか・・・・・・」太公望は小さく笑った。




「でもな、楊ゼン。その若者が箱を開けたのは、我を忘れた行動からではないと思うのだよ」




太公望の物言いはあくまで穏やかだった。




「その若者は知っておったのだ。その箱を開ければ、堰き止められていた自分の時が再び流れ出すことを。
知っていて、あえて開けたのだ」




「知っていてなぜ開けたのですか?」




いいようのない不安が楊ゼンを襲った。




手を伸ばせば触れられるとこにいるはずの目の前の人に、しかし手を伸ばすのが怖かった。




全身を強張らせたまま、そのままほどけて消えていってしまいそうなその人をただ見つめていた。




「わしにはその時の若者の気持ちがよくわかる・・・・・・」








楊ゼンが見つめるその顔は、己の天命を受け入れ、静かにその時を待つ老人のそれであった。








「わかるのだよ、楊ゼン」










射し込む光はすっかり朱くなっていた。















――了














−−−
ちょっと思い付きで書いたものです。
ただいまリクの方を制作中なのですが、なかなかまとまらないので時間稼ぎにこっちをアップ。
これはだいぶ前に書いたものですね。オリジナルが終わるだいぶ前。
最初は背景もだいぶ書いていたのですが(夕日が差す執務室で、とか)、結局やめてしまいました。
ラストの一文はそのなごりです。
全部消して会話だけの方がよかったかなあ・・・・・・。
こんな中途半端な代物でごめんなさい。
なんか毎日カウンタが回っているのが申し訳なくって・・・・・・。















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