ピピピ…ピピピ…ピピピ…

「………う〜ん………」

 ピピピ…ピ…カチ

 静かな薄暗い部屋の中、栞はベッドの上でぼぉっとしている。

『……今日、何で早起きしたんだっけ?』

 時刻はまだ六時前。季節は春になったとはいえ、まだ外は暗い。
 栞はまだ完全に起きない頭で、考えている。

『……ジョギングするためだっけ?』

 何か違う気がすると、まだ考えている。
 考えている内に、いつの間にか六時を過ぎていた。

「栞、何時まで寝てるの?」

 部屋の外から、姉・香里の声がする。

「あっ!」

 栞は思い出したとドタバタと準備をし始めた。

「い、今行くよ。お姉ちゃん!」

 学校へ行く準備を終え、部屋を出る。

 結局今まで先送りにされていた約束。
 そう、今日は香里と一緒に弁当を作る約束をしていたのだ。
 二月の半ばに外国で手術を受けて以来、今では月一度の通院だけで普通に学校に通っている。
 丁度外国で最先端の医療技術が開発され、栞は病院の紹介で外国に渡り、見事病を克服した。
 しかし、念のために月に一度、簡単な検査のために通院している。結果は言うまでも無く良好である。
 キッチンでは既に香里が準備をしていた。

「あら、やっと起きたの?」

 香里は、『約束しておいて何やってるの』と言いたげな顔をしている。

「う、ごめんなさい…」

「いいから、早く作っちゃいましょう。あまりゆっくりしてると遅刻するわよ」

 しばらくすると、キッチンからいい匂いがし始める。
 二人で同じ物を作り、同じように詰めていく。
 栞はそんな作業が、姉と一緒に同じ事をする事が嬉しくて仕方がなかった。
 程なくして、無事(?)弁当は完成した。


Dreams
                   by Lathi=AM−LARM


「「いってきまーす」」

 二人は一緒に家を出た。
 いつもよりも、少し遅い登校。

「少し急いだ方が良さそうね」

「うん、そうだね」

 遅刻するほどではないが、少し急いだ方が良さそうである。
 少し速めに通学路を歩いていく。
 しばらく歩いていると、向こうに見慣れた二人が歩いていた。

「ねえ、お姉ちゃん。祐一さんと名雪さんがいるよ」

「あら、本当。今日は雨かしら」

 ちなみに、かなり酷いことを言っている。
 二人に気づいた名雪が、祐一と一緒にこっちへ歩いてくる。

「おはよう。香里、栞ちゃん」

「よう。栞、元気か?」

 二人は挨拶を交わす。

「おはようございます。元気です」

 そんな栞の挨拶に、祐一はポムポムと頭を叩く。

「今日は、どうしたの?」

「うん。お母さんがあのジャムを出したんだよ」

 栞はハテナマークを七つ位浮かべていたが、香里は『ああ、なるほど』と納得した。
 言うまでもなく、例の謎ジャムである。

「いや、参った…」

「祐一が甘いのはダメなんて言うからだよ」

 そしていつもと変わらない日常が始まる。
 昇降口で香里たちと別れた栞は、自分の教室に向かう。予鈴まではあと五分位ある。
 昼休みが待ち遠しい。
 やっと、香里と一緒に中庭でお弁当を食べるという夢が叶うのだ。
 今でも、これが夢なのではないか。目が覚めるとベッドの上なのではないかと思ってしまうことがある。
 でもそれは、それだけ今、栞が幸せであるということ。
 もう一度一年生をやることになったけど、それでも新しいクラスで、新しい友達も出来た。
 栞は、今この時が一番幸せなのだ。


 静寂の中を破る音が鳴る。

きーんこーんかーんこーん…

 四限目の終わりの合図と共に、栞は机の上を片付け、急いで中庭へと向かう。
 急いだにも関わらず、既に廊下は多くの生徒がいる。いわゆる、学食組である。
 しかし、だからといってゆっくりしている暇はない。春は中庭で弁当を食べる生徒も多いからだ。
 学食同様、良い場所を取るには急がなければならないのだ。
 栞が中庭へと続く扉を開けると、そこには既に多くの生徒達がいた。

「栞、ここよ!」

 中庭に着いた栞を香里達が迎える。
 三年生の方が中庭に近いので、香里が先に来ていた。

「遅れてすみません」

「俺達の方が中庭に近いからな。それより早く食おうぜ」

 祐一は、『そんなの気にするな!』というジェスチャーをした。
 ちなみに、祐一・名雪・北川の三人はパンである。
 楽しい昼休みは過ぎて行く。

「おっ、それ美味そうだな」

 祐一は栞の弁当から、ひょいっと卵焼きを奪った。

「そんなことする人嫌いです」

 いつものお約束のようなやりとり。
 そのグループから笑い声が決して途切れることはなかった。


 夜、自室で栞は机に向かっている。
 栞は病を克服してから、日記を付けるようにしていた。
 一番上の引き出しから日記帳を出し、今日のことを記していく。

『今日、私の夢が叶いました。
 お姉ちゃんとお弁当を作って、昼休みに祐一さんたちと一緒に食べました。
 とっても美味しかったです。
 放課後、帰ろうとするとお姉ちゃんが校門で待っていて、一緒に帰ろうと言ってくれました。
 お姉ちゃんと商店街によって、そこで一緒にアイスクリームを食べました。
 今日は、楽しいこと嬉しいことがたくさんありました。明日もあると良いです。
 こんな日々が、ずっと続きますように… 』

 こうして、栞の夜は更けていく。
 

Fin


−後書き−

『Happiness』に続き同人誌からの転載で、今度は栞SSです。
ED後の栞ってこんな感じじゃないかと思いますが、どうでしょうか?
原作中では栞の夢である『同じ制服を着て、一緒にお昼ご飯を食べる』という描写が無かったので、自分なりに書いてみました。
良かったら感想等下さい。

2002年3月19日転載
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