嵐は、予兆もなくやってきた。




なかなか朝食の席に現れないガウリィを、リナは呼びにいった。
扉ごしに声をかける。
「ちょっと、なにやってんの?! ゼルもアメリアも下で待ってるってぇのに……」
待ってるのは自分も同じだったのだが、まるで仕方ないから呼びにきた、といわんばかりの
台詞をいう。
「ああ……」
しかし彼女の呼びかけにも、あいまいな返事が返ってくるだけ。
「…………ガウリィ?」
いつもと違うような彼の声に、リナは疑問を抱く。
なんだか、いつもと違う。声は同じだけどそうじゃなくて……
「開けるよ? いい?」
「どうぞ。その方が話がはやい」
話? 話って何の――言いかけた言葉は、口から出る前に消えた。
開けたドアのむこう、ベッドが見える。
そしてそこには上半身裸のガウリィ。 そして彼と同じベッドに……もう一人。
「……」
「……」
「……なぁに?あなた」
黙ったままの二人に代わり言葉を発したのは、ガウリィと一緒に――ガウリィに組み敷かれる
ようにベッドに横たわっている女性。
こちらも服をつけてはいない。 どうみても――そういうことのようだった。
凍りついたまま何も言えず突っ立っているリナをしばらく見やったあと、その女性がガウリィの
首に腕を絡める。
そして――――
「…………!!」
リナの見ている前で、二人が深いキスを交わす。
ガウリィはただじっと、抵抗もせずされるがままになっていた。
「…………邪魔、しちゃったみたいね……ごめん……」
掠れた声で短く謝罪したあと、リナはドアを閉めた。
ガウリィは、何も言わなかった。



「あれ? ガウリイさんはどうしたんですか?」
一人で降りてきたリナにアメリアが声をかける。
「……ガウリイならしばらく来ないと思うわよ」
感情のない声で無表情につぶやくリナに、アメリアが眉をひそめた。
「……どうかしたんですか? リナさん顔色悪いですよ?」
小さくかぶりを振って、リナは席につく。
「ガウリイさんがどうかしたんですか?」
心配そうなアメリア。 ゼルが席をたった。
「俺がみてこよう」
「……いかないほうがいいわよ」
ぽつりと呟かれた言葉に、階段へ向かいかけたゼルガディスが振り返る。
「どういうことだ」
「……女の人と一緒だから」
「……なに?」
何を言われたかわからない、というように聞き返してくるゼルに、リナは
何かの感情を押し殺したような声で答えた。
「だから、女の人と一緒だったの」
「……って、誰ですか?」
アメリアのあっけにとられたような質問に、とうとう叫ぶ。
「あたしが知るわけないじゃない! こっちが聞きたいくらいよ!!
なんでっ……!」
声を詰まらせ、うつむいたリナは次の瞬間宿の外へと飛び出していった。
「リナさんっ!」
「リナっ!」


ばんっ!
「ガウリイッ!」
ドアが外れるのではないかという程の勢いで扉を開けたゼルが、瞬間
言葉を失う。 すぐ後から部屋を覗き込んだアメリアも同様だった。
「……今日は邪魔の多い日ね?」
まったく動揺した様子もなく女が言った。 未だガウリイの首に腕を絡ませたまま。
「ガウリィ……お前……お前なんのつもりだ!」
「……オレ、じゃ……ないっ……!」
動かぬまま、掠れた声で答えるガウリイ。 女は微笑みながら再び顔を近づけた。
「何をいっているの? ……さっきのキス、気にいらなかった?」
「…………!」
急に、ガウリイが動いて女を突き飛ばした――だが。
まったくダメージを受けた様子もなく女はベッドから降りる。
下着のみの格好で立つ女は恥らう様子もなくガウリイを見やった。
「いい加減にしろっ!!」
「たいした方ですね。弱くかけたとはいえ僕の術を破るとは」
ガウリイの怒鳴り声にも動じることなく、女は微笑んだ――――どこか覚えのある、しぐさで。
「なかなか楽しめましたよ。あなたと、リナさんの感情は。
かわいそうに、リナさん、随分ショックを受けてましたねぇ」
その台詞を聞いて、ゼルガディスは気づく。この女の正体は――
「……ゼロス、お前か!!」
「ご名答です、ゼルガディスさん」
答えた瞬間、女の姿が霞み……一瞬後には黒い神官服をまとった男がそこにいた。
「今回はちょっと趣向を変えてみたんですけど、どうでしょう?」
心底楽しげにいう。 それはそうだろう。
人の負の感情こそがこいつの糧となるのだから。
「いやぁ、でも手間がかかりましたよ。 またガウリイさんには気づかれて
余計な術をかける羽目になりましたし。まったく相変わらず鋭い方ですねぇ」
「貴様……!!」
「……悪趣味だな」
怒りを含んだゼルの声ににっこりと笑って答える。
「なかなか面白かったでしょう?」
「酷過ぎます!! こんな……!」
「だから面白いんですよ。 ……さて、ではアメリアさんが生の賛歌など歌い
出さないうちに失礼します」
ガウリイが剣を振るうよりも一瞬早く、その姿が空気に溶けこむように消失した。
「……」
怒りをおさめるようにため息を一つつき、ガウリイがゼルとアメリアに向き直る。
「……まさかこんな手でくるとはな」
「考えてもみなかったよ。 ……で、リナは……どうしてる?」
「あっ! そうだ、リナさん出て行っちゃいましたよ?!」
「出て行った?!」
「ああ。よほどショックだったらしいな――真っ青になってたぞ」
「探してくる!!」
言うなり部屋から飛び出そうとするガウリイをアメリアが止めた。
「ちょっとガウリイさん! その格好で外出るつもりですか?!」
「それに今旦那が会いにいったところで素直に応じるとは思えんが」
宿を飛び出す直前のリナの様子を考えると、ガウリイの姿を見たとたん
逃げ出しそうに思える。 ゼルがそういうとアメリアもうなずいた。
「そうですねぇ……完璧に誤解してましたからねぇ……」
二人の言葉に、ガウリイが苦しげな表情になる。
「……じゃ、どうすれば……」
「俺達が探してくるから、旦那はここで待ってろ」
ガウリイが力なくうなづいた。



しばらくリナを探すうちに、ゼルガディスは街外れの草原で寝転がっているリナを見つけた。
”飛翔”を解除して降り立ち、ざくざく草を踏みながら近づいていく。
頭のすぐ横まで来ても、リナは彼を見ようとはしなかった。
仕方なく、彼の方から声をかける。
「……こんなところで何をしている」
「……あたしがどこで何してようと勝手でしょ。あのくらげが好き勝手やってるんだから
あたしだって自由に行動するわよ」
「わけのわからん意地を張るな。 ガウリイのところに戻るぞ」
手を引っ張って起こそうとする。 と、その手を払いのけてリナが叫んだ。
「嫌よ! ほっといてよ、もう! あたしは――あたしはもう会いたくないんだから!!」
「お前は誤解してるんだ!! あの女は――――」
「うるさい! 聞きたくない!」
逃げようと口早に”飛翔”の呪文を唱え始めた彼女を止めるため、ゼルガディスは思わず
手を振り上げ――――
「リナ!」
パンッ!
響いた音に、両者とも動きを止める。
「あ……」
リナは頬に手を当てた。 叩かれた痛みよりも、彼の予想外の行動に驚いた。
叩いたほうのゼルも、しばし驚いたように自分の手を見ていたが、やがて視線をリナに移した。
「……ガウリイの気持ちも考えてやれ。 いきなりお前がいなくなったら
あいつがどんな気持ちになるか――――」
「……せいせいするんじゃないの? 邪魔な子供がいなくなって」
「リナ――――」
「あいつにとってあたしは子供だもの。 手間のかかる、ただの子供――」
リナはうつむいた。 しばらくして、かすかな嗚咽が聞こえ出す。
「だからガウリイが誰といようが――いいのよ。 でも、もう戻りたくない……」
震える声で小さく呟くリナを見て、ゼルガディスはため息をついた。
これほど弱音じみたものをリナから聞くのは初めてだった。
それほどショックだったのだろう。 それはつまり――――
「……好きなら好きといえばいいだろう」
つまりは、そういうことだ。
「他の女といるのが許せないならそういえば――――」
「あたしにはそんなこという資格ないもの」
「……旦那は喜ぶと思うがな」
「……へ?」
驚いたように目を見開いているところをみると、ほんとに気づいてなかったらしい。
ゼルガディスはため息をもう一つついた。
「あとは自分で考えろ。 それから――お前が考えてるようなことは旦那はしてないぞ。
あの女はゼロスだ」
「へっ? ……ゼ……ゼロス……?」
「食事でもしたんだろう。術を使ったともいっていた」
「え……? ……ああああっ!!」
ようやく理解したらしい彼女が怒りの叫びをあげる。
「あの生ゴミ魔族っ……!!!」
顔を真っ赤にして絶叫するリナに、ゼルガディスが低く笑いを漏らした。



「……で、勝手に声も真似されるし、体は動かないし、お前は誤解して逃げていくし……」
「あんたが悪いんじゃない」
「……そーかぁ?」
部屋に戻り、説明を聞いたあと下した判定にガウリイは不服そうな顔をした。
「油断してるほうが悪いのよ。巻き込まれたこっちがいい迷惑だわ」
「……巻き込まれたって……」
「だってあたしには関係ないじゃない」
リナの答えに、ガウリイは一瞬反論しそうになったが、思い直して笑みを浮かべた。
「関係ない、ねぇ……その割にはショック受けてたじゃないか」
「だっだれが……っ!!」
「関係ないなら驚くことはあってもショック受けることはないよなぁ?」
「……くっ……」
言葉に詰まるリナをみて、ガウリイがふっと表情を変えた。
リナをからかう笑みから、真剣な顔へ。
「……オレ、少しは期待してもいいのか? お前が……オレを好きでいてくれるかも
しれないって」
「………………いいよ、その……期待してても……」
「……期待だけ?」
「それがいやなら自分からいいなさいよ……」
「そっか。じゃあ――――」
真っ赤なリナを抱きしめて、ガウリイは緊張しながら口を開いた。



「オレは、お前が――――――」








同人用のネタのはずだったんですが、途中からどんどん当初の予定とは
違うものに……でも変更前のほうが少女漫画ちっく(あわわ)。 これでもまだ甘さ控えめに
直したんです(笑)。 人に砂糖を吐かせまくることが目標(笑)

ブラウザで戻ってください。