にゃあ。 「あれ? ……どっから入ったの? んー?」 宿の部屋で、荷物を置いてくつろぐリナの足元に擦り寄る一匹のネコ。 おとなしくリナに抱き上げられたところをみても、相当人に慣れているようだ。 「ここの子? かわいーv」 のどをゴロゴロならしながら甘えてくるネコと遊んでいると、部屋のドアがノックされた。 「おーい、メシいくぞー……って、何だそれ?」 ドアを開けて現れた自称保護者はリナの抱きかかえるネコを見るなり言った。 「は? ネコよ、見てわかるでしょ?」 「喰うのか?」 「なんでよっ!」 リナのスリッパを受けた頭を抱え、ガウリイはうめいた。 「ててて……冗談だって」 「当たり前よ。本気でいってたら、混沌の海に沈めるわよ」 「んで、どうしたんだ? そのネコ」 「部屋に入ったらいたの。 ここのネコじゃないかな? ……あっ!」 突然ネコがリナの腕から飛び降りた。 そして、ついて来いといわんばかりに振り返りなが ら階段を下りていく。 慌てて後を追うと、食堂のテーブルの上に丸まっていた。 ちょう ど二人がけのテーブルである。 「もしかして案内してくれてるの?」 にゃあ、という鳴き声はイエス、という意味だろうか。 二人が顔を見合わせていると、奥からでてきた女性の店員が「あら」と声をあげた。 「珍しいわね、お前がまともに働くなんて。ついでだからメニューも持ってきて頂戴」 その言葉に従ってメニューを引っ張ってくるネコを見て、リナは目を丸くした。 そんなリナをみて、店員は笑いながら説明する。 「メイはうちの名ウェイトレスなんですよ。 ただ、気に入ったお客さんのときだけしか 働かないんです。 お客さん達は気に入られたみたいですね」 「へー……」 そのネコ――メイという名前らしい――は二人の激しい食事バトルの間も動じたふうもなく テーブルの下でくつろいでいた。 案外図太い神経をしているのかもしれない。 そして食事が終わり部屋に戻ろうとすると当然のようについてこようとする。 「よっぽどお前さんを気に入ったみたいだな。 ……物好きな……」 「物好きとは何よっ?! あたしの人徳よ、じ・ん・と・く! どっかのクラゲと違って 見る目があるのよねー、メイは」 「……あっそ」 肩をすくめたガウリイを、リナは階段からけり落とした。 「うーりうりうり」 ぱたぱたと鼻先で動くひらひらに、メイがじゃれつく。 それを動かしてリナもベッドの上 をころころと移動する。 ガウリイはそれらを見ながら椅子に座って剣の手入れをしていた。 「にゃー♪ にゃはははははっ!」 「楽しそうだな」 「だってネコと遊ぶのなんか久しぶりで……ガウリイもやりたい? でもダメー」 「何でダメなんだよ。 ……ま、別にオレは見てるだけでいいけど」 「あー? 何で? ネコ嫌いなの?」 「ネコに似た生き物は大好きだけど、ネコはそれほど。」 ガウリイの答えに、リナは首をかしげた。 「ネコに似た生き物? 何それ? どんなやつ?」 「ん〜そうだなぁ……栗色の毛で、赤い目をしてて、ちいさいんだけどとっても強いやつ」 さほど考えたふうもなくスラスラとガウリイは答えたが、リナはさらに混乱を深めたようだ った。 「はあ? どんな生き物よそれ。 んーと……トラみたいなの? でも赤い目ってあまり聞 かないし……まあ、ガウリイの言う事だから『ネコに似た』ってあたりから間違ってるかも しんないけど」 「いくらオレでもそんなとこから間違えるかよ」 「ドラゴンみてトカゲとか言うやつが何いってんのよ」 「……ンなこといったっけ? オレ……」 「いったわよ。ま、どーでもいいけど。 ほらメイ〜v」 再びリナはネコとじゃれあいはじめる。 そんな様子をしばらく見ていたガウリイも、やが て剣の手入れに戻った。 それからさらにしばらくして、音が途絶えたことに気づいたガウリイが顔をあげてみると、 ベッドの上でリナがネコを抱くようにして丸まって寝ていた。 「ご飯の後はお昼寝かぁ? ……オレも部屋にいんのにそんな無防備に寝やがって……」 苦笑して、剣を置いて立ち上がる。 ベッドに近づき、リナの腕の中で丸まって寝ている ネコをリナを起こさないようにそっと持ち上げた。 ネコが目覚めて身をよじる。 「こら、騒ぐなよ。リナが起きるだろ」 それを聞いたのか、ネコは大人しくガウリイに従った。 ガウリイは、ネコをいったん自分 の座っていた椅子の上にのっけた。 そして、丸まったリナにシーツを掛け、囁く。 「オレが大好きなのはな、ネコみたいにちっちゃくて可愛くて、ころころ動くから目が離せ なくて、素直じゃないリナ・インバース、ってやつなんだが……いつ気づいてくれるんだ ろうな?」 彼の想いが届くのはまだまだ先のことである…… |