DIET


「あ〜疲れた〜……」
「そう思うなら盗賊いぢめなんか行かなきゃいいのによ……」
「何か言った?! ガウリイ!!」
「いーえ、なんにも」
夜の森のなか、二人の元気な声だけが響く。しかしそこにいるのは二人だけで

はなかった。
彼らの足元には不運な盗賊たちがうめきながら倒れている。
だが二人はそれを気にすることなく話を続けた。
「けどお前、確か睡眠不足は美容の敵とか言ってなかったか? こんなに夜
更かしばかりして……」
「そーね。でもストレスはもっと身体に悪いのよっ!」
「はいはい……」
ため息をついてガウリイは足元にある袋を持ち上げる。戦利品でいっぱいに
なっているそれを器用に片手でまとめて持ち――――
「……っうきゃああぁぁぁっ?! ち、ちょっとなにすんのよ!」
「何って……おい、暴れるなって! 疲れたんだろ? 運んでってやるよ」
抱き上げられて大暴れするリナをなだめながら、ガウリイはふと首を傾げた。
「……あれ?」
「なによっ!!」
「お前……もしかして」
「え? 何なのよ」
ガウリイは何も答えずリナの顔を見た。 その真剣な表情にリナは思わず
暴れるのもやめてしまう。
「何よ……」
顔が赤くなり、鼓動が早くなる。
やがてガウリイが口を開いた。
「お前……

太ったんじゃないか?」


「……は?」
一瞬何を言われたのか理解できず、間の抜けた声で返答するリナ。
ガウリイは構わず続ける。
「いやーなんかさ、持ち上げたときにいつもより重い感じがしてさぁ……」
「……おい……」
地獄から聞こえてくるようなリナの声に、ガウリイは「ん?」という顔を向
けた。
「……あんたは……それが乙女に向かって言う言葉かぁっっ!!」
腕の中から繰り出した頭突きがガウリイのあごにヒットする。衝撃に腕の力
が緩んだ隙に、リナは地面に降りた。
ついでにガウリイに持たせておいた戦利品の袋も奪い取る。
「いってぇ……何すんだよ……」
「うるさいっ! もーあたし帰る! あんたはこっから歩いて勝手に帰れ!」
言うが早いか、あっという間に呪文を唱えてリナは空へ浮かび上がった。
「お、おいちょっと待てよ!何を怒ってんだよ?!」
「じゃーねっ!」
ガウリイの声に耳も貸さず、そのまま森を離れかけ――――
一度止まって振り返った。
森の中を、金色の髪が移動しているのが見える。
ここからでは、徒歩で帰りつくのは大変だろう。
だが、ガウリイのことだ。きっと平気な顔して戻ってこれるだろう。
そう思って――――
「ファイヤー・ボール!」
どごおおおおんっ!
「のわああああっ?!」
きっちりトドメも刺して、今度こそ宿にまっしぐらに向かうのだった。


「あのバカくらげ……もーちょっとデリカシーとか、そんな感じのもの持ち
なさいよね……」
部屋に戻ってからも、リナの怒りは晴れない。 ベッドの上で転がりながら、
ぶちぶち文句をいい続けていた。
「誰が太ったっていうのよ……しっつれいな……」
そこで、ふと思いついて自分の二の腕を触ってみた。

ぷに。

「……あれ?」
伝わってきた感触に、リナは眉根を寄せる。 
(……今の感触は……)
もう一度。

ぷに。

今度こそ顔色が変わる。
「ち、ちょっと……マジ?」
慌てて全身をチェックする。
その結果――――認めたくないことだが、全身のサイズがわずかにではある
が増加しているようであった。
冷や汗をたらしながら――――でもわずかに希望も伴って最後の箇所をチェ
ックする。
そこは変化なしであった。 でも喜べない。なぜなら胸だからだ。
「どーしてっ、ここだけ変化がないのよ?!」
思わず悪態が口をついて出る。 が、意味がない。
「ああああっ、なんでっ?!いままで全然平気だったのにっ!!」
こうもいきなり太りだすのはおかしい――――そう思うのも無理はない。 
原因を探そうと、とりあえず今日食べたものを思い出してみたりする。
「えーと、まずモーニングセット5人前でしょ。んで、昼ごはんの前におや
つでケーキを8個食べて、昼は――そうそう、美味しかったから多めに食べ
たのよね、メニュー二回りぐらい。それで午後のおやつは――――変ねえ、
別にたいした量食べてるわけじゃないのに……」
朝食の時点で既に常人の一日分を食べ終えているのにそんな事を言う程度に
はリナは食べていた。
心当たりはバッチリである。
「う〜ん……どうしよう……多少体重が増えたって別に構わないけど……」
脳裏にガウリイの顔がよぎる。
「やっぱ……太ったとかいわれるとね……」
はあ。ため息をついて、リナはベッドから降りた。
「いままで気にした事なんてなかったからダイエットの仕方なんかわかんな
いのよね。一番てっとりばやそうなのは絶食だけど……ああやだやだ。美味
しいもの食べられないなんて拷問じゃない」
でも……と思い悩む。
(とりあえず、太ったとか言われる前の体重にぱっと戻して、そのあと
たっくさん食べればいいのよね)
そう結論付けてリナはダイエットを開始した。



翌日。
朝食を食べに食堂に下りてきたガウリイが見たものは、目隠しとマスクをし、
静かに座っているリナの姿であった。
あまりの怪しさにまわりのテーブルはがら空きである。
「……リ……リナ……?」
どう声をかけていいのかわからず、とりあえず名前を呼んでみる。
と、マスクの下からくぐもった声で返事があった。
「おはよう」
「……お、おう……ところで、なんなんだその格好……? 風邪でも引いた
のか……?」
「バカ? 風邪で目隠しなんかするわけないでしょ」
「なら、なんなんだ? お前、怪しさ大爆発だぞ?」
「いーじゃない、あたしのことは! ……それより、朝ご飯注文したらどう?」
何故か殺気だったリナの言葉に、ガウリイは慌ててメニューを開いた。
「あ、ああ、そうだな。 んじゃ……お前さんは何にするんだ? とりあえず
Aセット三人前?」
「紅茶15杯。」
「……は?」
聞き返すと、リナはさらに苛立ちを増した声で答える。
「だから、紅茶。15杯。」
「ええと……他は? ほら、モーニングセットとか……」
「しつこいっ! あたしは、それだけでいいっていってんの! ごたごた
いうな!」
「……具合でも悪いのか?」
リナがゆっくりと目隠しをとる。 その下から覗いたこれ以上ないほど殺気
だった目に、ガウリイは思わず引いた。
マフィアでも震え上がりそうなドスの効いた声で、ゆっくりと発音しながら
リナがいう。
「ごたごたいうな、っていったのよ、あたしは。 朝っぱらからドラスレ
喰らいたくなかったら黙んなさい」
「……はい……」
ガウリイの返事を聞いて、リナは再び目隠しをつける。
何がなにやらわからぬまま、ガウリイは自分の分の朝食とリナの紅茶を注文した。



「お前、ほんとに大丈夫か?」
「…………」
翌朝、再び前日のような格好で現れたリナにガウリイが問い掛けたが、リナ
は答えなかった。
否、答える気力が残ってなかった。 もう身体に力も入らない。
もうそろそろヤバイのかもしれない、という気もしたが、ここで止めるとな
んとなくガウリイの言葉に左右されたようで癪なのでやめた。
「昨日一日、何も食べてないだろ。 食欲ないのか?」
「…………」
これまた無言。 ガウリイはため息をついた。そして意外なことを言い出した。
「今日、ちょっと散歩しようぜ。少し町を出たところにな、いい景色の場所
があるんだって」
「……何よいきなり……」
「いいよな? じゃあ行こう」
言うが早いか、ガウリイはリナの手を掴んで立ち上がった。
「ち、ちょっと……!」
リナの抗議もなんのその。 ガウリイはリナの手を引いたまま歩き続ける。
「もう! わかったから……自分でちゃんと歩くから、手、離して!」
「ふらふらしながらそんなこといわれてもな」
「大丈夫だってば……!」
そんなやり取りをしながらついたその場所で、リナは思わず感嘆の声をあげた。
「へえ……確かにいい眺めね……」
「だろ?」
「ん……でもなんでわざわざこんなとこまで来たわけ?」
「そりゃあ……んー、そろそろ来ると思うぞ」
「は? 何が?」
「あ、ほらあれあれ」
ガウリイの示す先には一台の馬車があった。 でかでかと、『弁当配達しま
す!』の文字が書かれているのがみえる。
「飯、頼んでおいたんだよな」
「えーと、ガウリイ・ガブリエフさんですか? ご注文の弁当20人前、
確かにお届けしました!」
「あ、どーも」
「またご利用ください! では」
「……で?」
がらがらと去っていく馬車をみながらリナが聞く。
「なんなわけ? いったい」
「ピクニックでもしようと思って」
「はあ?」
ワケがわからない。 いきなり何を? 
困惑するリナにガウリイが説明する。
「……お前さんが何も食べようとしないから……だから、少し歩かせて、そ
れから景色のいい場所にでも連れて行けば食事する気にもなるかなーと思っ
たんだが……まだなんも食べたくないのか?」
「へ?」
「なら、せめて理由を教えてくれ。 リナが食べないと心配で……具合悪い
んじゃないかとか。だから」
「………………じゃない」
うつむいて、呟くようにリナは答えた。 聞こえなかったらしく、ガウリイ
が聞き返してくる。
「ん?」
「ガウリイが…………じゃない」
「オレが? 何を?」
「……あーもうっ! こないだ! アンタがいったんでしょ、『太った』と
かなんとか!」
「…………はあ?!」
「それでむかついたから体重落とそうとしただけよ! なんか文句あんの?!」
「ち、ちょっと待て! 別にオレはそんなつもりで言ったんじゃないぞ!」
「他にどんな意味があんのよ、乙女に向かってそんなこといっといて!」
「だから……お前、いままで細かったよな。それがちょっと丸く……」
「まだいうかこのおぉぉっ!」
「いやまて! だから! オレはちょっと大人っぽくなったよな、って
言いたかっただけで……!」
「……うに?」
目をぱちくりさせてリナが聞き返すと、ガウリイは少し困ったような顔で
答えた。
「だから、いままでずっと子供体型だったろ。……て怒るなって! それが
最近だんだん……大人びてきた、って言おうとしたんだよ。
なんだ、それでだったのか」
「だって……むかついたのよ!」
「はいはい。 ……でも、そんなこと気にしなくてもいいのに」
いつの間にか、ガウリイが真顔でリナを見ていた。 気づいたリナも少々
赤くなる。
「な、何?」
「たとえリナがどんなになってもオレは……」
「え……?」
心臓の音が大きくなる。 うっかり目を合わせたおかげでガウリイの視線に
捕まって、顔をそらすこともできない。
「オレは……リナが……」
(……ガウリイ……)
「リナが……す」
「お母さーんっ、こっちこっちー!
 いい場所みつけたよーっ!」

「……」
突然聞こえてきた子供の声に、ガウリイの声はかき消される。
見ると、家族連れが近づいてくるところだった。
二人は顔を見合わせる。 しばしの沈黙の後、自然に笑いがこみ上げてきて、
二人は笑い始めた。
「あははははっ、もう……なんだかバカらしくなっちゃった……」
「さ、メシにしようぜ。 お前、腹へってんだろ?」
「ん。じゃああたしが15人前、ガウリイが残りってことで」
「ちょっとまて、それは不公平じゃないのか?!」
「何いってんのよ! あたしが食べてないときあんたはぱかすか馬みたいに
くってたじゃない! だからこれはあたしの!」
「んなのアリかよ?! だいたいお前が勝手に食わなかったんだろーが!」
「あ、文句いったからマイナス5個。あたしが全部たべよーっと」
「くっ……そっちがそのつもりなら……こうだっ!」
「ああっ、あたしのエビフライ! よくもやったわね、この!」
そうしていつもの食事風景がよみがえるのだった。


おまけ。
「あー……おなかいっぱい食べるって幸せー……」
「……なあリナ」
「んー? なーにー……」
「……さっき、言いかけたことなんだけど」
「! ……うん」
「またいつか言うから、……返事、考えといてな」
「……うん」





あとがき:余談ですが私、高校生の頃までダイエットを
      die yet(訳するとまだ死なない、ってな感じ)だと思ってました。
     今でもたまに凄いやせ方してる人を見るとこっちの綴りの方が
     正解なんじゃ……という気になります(笑)
     内容についてはノーコメント。……こんなんしか
     出来なくてすみませんでした……


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