すやすや……すやすや……
子供のような無邪気な顔で、安らかな寝息を立てる男。
その男を見る人間は、しかし、顔を一様に強張らせていた。
なぜならその横で鬼のような形相で怒っている女がいるからである。
黙ってはいるものの、全身から殺気ともいえるほどの激しい怒気が溢れている。
と、彼女が口を開いた。
「……あれほど……寝るなと……」
小さな、掠れた声が皆の耳に届く。よく見ると机に置いた手が小さく震えていた。
彼女の怒りが臨界点に達しようとしていることを知り、部屋中の緊張が高まる。
男をはさんで彼女の反対がわに座っていた別の男が、諦めきった顔で小さく首を振った。
その時、寝ている男の口元がわずかに動き――――
「……もう、食べられん……」
ぷち。
「何の……」
震える声で呟きながら、彼女は――――あろうことか今まで座っていたいすを振りかぶった。
「夢をみてんのよこの馬鹿がっっ!」
どがしゃああんっ!
「ぐえっ!?」
いすで殴られ、目が覚めた男が抗議する。
「なんてことすんだリナっ?! 痛いだろーが!」
「やかましっっ! あんたこれで何度目だかわかってんの?! 11回よ、11回!」
「……何が?」
「……このっ……!」
地獄の静けさを破って戦場のような騒がしさで喧嘩を始めた二人を、びくびくと見守る
他の人間に、二人と並んで座っていた男――ゼルガディスが気づいた。
「……やれやれ」
小さく呟いたその声に、皆の視線が集まる。
ゼルガディスは、嘆息してから簡単に告げた。
「今日の会議はお開きだそうだ。代わりの日程は後ほど連絡」
その言葉に、必死の形相で荷物をまとめて部屋から出て行く数人の男女。
何時の間にか、部屋にはゼルガディスと、喧嘩をしている二人――リナとガウリイだけになっていた。
「だいたいねぇ、なんであんた授業中も休み時間もあれだけ寝こけてるくせに会議中にまで
寝るわけ?!」
リナの声が響く。だが襟首つかまれているガウリイはとくにおびえる様子もなく。
「う〜ん…なんでっていわれても……」
「いいかげんにしろ、お前ら」
ゼルガディスの制止にようやく二人は振り向いた。
「あれ、みんなどこいったの?」
「帰らせた。どうせ今日も会議にならなかったからな」
「ははは、困ったなぁ」
「あ・ん・た・の、せいでしょうがっ!! 居眠りばっかりして!」
叫んだあと、リナはがっくりと肩を落とした。
「どうしてこんなのが会長に……」
「諦めろ。もう決まったことだ」
ゼルガディスのセリフに、リナのため息がかぶさった。

ことの起こりは一ヶ月ほど前。
生徒会役員の選挙になぜだか紛れ込んだ(とリナは今でも思っている)ガウリイが、女性陣の
圧倒的な支持を集め、何の間違いだか生徒会長になってしまったのだ。
そしてその補佐役、生贄ともいえそうな副会長というポストにうっかり選ばれてしまったのが
リナである。(ちなみにゼルガディスは書記である)
最初から絶望的な気分になりながらそれでも健気に生徒会を運営しようと頑張る二人をよそに、
会長は会議のたびに気持ちよくお昼寝モードに突入し……結局、未だに議題が何一つ消化されない
という前代未聞の事態となっているのだ。 
まあ、会長抜きで話を進めれば良いではあるのだが……夢をみて飛び起きたり、寝言を言い出したり
するために副会長を激怒させ、どうにも話し合いがすすまない。
そう、ちょうど冒頭の場面のように。


「あたしも納得いかないけど、選ばれちゃったんだから仕事はちゃんとしなさいよ!!」
「いやぁ……オレ難しい話って苦手で……」
「苦手でもやれっ!」
「そうだ! 代わりにリナやってくれないか? お前の方が適任だと――――」
「この…っふざけんなっ……!」
言われたせりふに、かっとなり――――そして、リナの目から涙がこぼれた。
「??!」
「お、おいリナ…」
「……あたしはっ……あんたの面倒みるために役員してるわけじゃない!!」
叫ぶと同時に、ガウリイの頬にこぶしをめり込ませ、リナは生徒会室を飛び出していった。
あとに残された二人の男は、ただ呆然とそれを見送るばかり。
「……どうするんだ……?」
しばらくしてようやく口を開いたゼルガディスに、ガウリイは滅多に見せない真剣に困った顔をして
うめいた。
「どうするって……どうすればいいんだ…?」




次の日、リナは学校に現れなかった。

後編


リクエストをあれだけ遅らせてなおかつ
<続く>とか……ほんとにごめんなさいです(汗)


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