テーブルの上には、いろとりどりのケーキの山。 「う〜ん、おいしっ!」 本当に幸せそうにケーキをほお張る少女。 その名をリナ・インバースという。 そしてその向かいの席で、コーヒーカップを手にもったままうつむいている青年。 彼の名を、ガウリイ・ガブリエフという。 「ほーんと、こんな美味しいケーキ、初めて食べたわーv」 幸せのにじみ出るような声でうっとりと語る少女――リナの前には、空になった皿が いくつも積み重なって、まるで山のようになっている。 見ているだけでも胸焼け しそうな量のケーキが彼女の腹には納まっている。 だが、彼女はこれで満足する風 もなく、新たなケーキを求めて席をたった。 「たまたま通りかかった町で、たまたま見つけた菓子店が、たまたま半年に一度のケ ーキ・バイキングをやってるなんてね。 ホントらっきぃっ!」 「……そうだな」 かたや青年――ガウリイのほうは、手元のコーヒー以外何もない。 最初はケーキも 置いてあったりしたのだが、彼が口をつけようとしなかったためリナがとった。 コーヒーを飲みながらうつむくだけのガウリイに、リナが訝しげな顔をする。 「どうしたの? ケーキも食べないし……まさか具合でも悪いわけ?」 「……いや。 オレはいいから……早く新しいケーキとってきたらどうだ?」 答える間も常に顔は伏せたまま。 だがそれ以外に目立った異常もなかったため、リ ナはそれきり気にせず、新しいケーキを取りに入った。 リナがケーキを熱心に皿にとっているのをみながら、ガウリイが呟いて顔をあげる。 「……ったく……反則じゃないのかよ……」 その顔はほのかに赤い。 よく見ると、耳まで赤くなっているようだ。 「ケーキであんな顔するかぁ? 普通……」 どうやらガウリイはリナのケーキを食べる幸せそうな顔にクラクラきていたらしい。 「真正面であんな顔みせられたら、照れる以外ないだろーが……」 ぼやくその表情もどこか幸せそうで、あたりにいるものの精神に多大なダメージを 与えている。 魔族なら一撃で滅びるかもしれないほどの幸せオーラをあたりに振り まきながら彼はさらに続けた。 「あーもうキスしてぇ……ちくしょー保護者なんていうんじゃなかった……」 彼が保護の対象としていた少女は、もうとうに大人の女性へと外見は変化していた。 だが、本人はまだそれに気づいていないらしく、こうして無防備に魅力的な表情を 見せて彼を翻弄しているのである――もっとも、これはいつまでも子供扱いのフリを やめない彼のせいもあるのだが。 「……ふう、そろそろ大丈夫かな」 そういうとガウリイは大きく息を吐いた。 そして、普段どおりの『保護者』の仮面 を被った。 リナを恐がらせないためである。 「平常心……平常心だ……」 自分を落ち着かせるために彼は小さく呟く。 やがて、皿いっぱいのケーキをもってリナが戻ってくる。その頃にはすっかり普段の 表情にもどってガウリイはいつものように話し掛ける。 「ホントによく食べるよなー……その分少しでも胸にまわれば……」 「うっさいわ!」 いつものやり取りを交わしながら、ガウリイは内心ホッとする。 (よし、大丈夫だ。 バレてないバレてない……) だがしかし。 「ふんだ。もうガウリイに分けてやんないから!」 拗ねた様子でそう言い放ち、リナが顔をそらす一瞬。 ふわりと髪が動き、いつもは隠れている白い首筋があらわれる。 そして不満げに尖らせている唇が光の加減で艶やかに光る。 様子をうかがう様にちらりと向けられる視線が―――― 全てが彼を無意識に挑発する。 (……ああっ抱きしめたいっ…………!) 心の中で絶叫し、彼は再び赤くなった顔を隠すため下を向いた。 『保護者』という立場と本音の間で翻弄される彼の日常がいつまで続くのか、それは 彼女の無意識だけが知っている―――― |