それは夢――
脆く儚い、泡沫の幻――
お伽噺と誰もが笑い――けれど、誰もが心の何処かで否定しきれない古の秘技――
科学と言う名の魔法が作り――淘汰されたそれらの秘術で護られる砂上の楼閣。
夜闇の魔法使いと称される世界の護り手達の話の――これはただその一遍に過ぎない。
「いい趣味ね」
昏い空の下。いずことも知れぬ城の一室に佇む人影に、背後から声がかけられた。
「ベール=ゼファーですか」
人影が振り向く。白金にも劣らぬ光沢をたくわえた髪に、鮮血に勝るほどの紅を湛えた瞳。その美貌に浮かぶは無色の微笑。
「魔王ともあろう方が、僕に何か用でも?」
「相変わらずの態度ね、”観察者”」
優しい、美しい声に酷寒の声で返すのは可憐な容貌の少女。つぼみの美しさを持つ彼女の表情はしかし、冷徹の一言に尽きた。
”観察者”と呼ばれた青年は苦笑を浮かべる。
「僕は”傍観者”です。為す事はただ視るだけに過ぎず、事象を確定させる様な事は成せません」
「言葉遊びをする気はないわ」
あっさりと会話の流れを断ち切り、少女――魔王ベール=ゼファーは苛立たしげに口を開く。
「まだ動かない積もり?」
「動くも動かないも…僕が為すのは視るだけ、と今し方言ったでしょう」
「ふん…」
面白くもなさそうに鼻を鳴らし、ベールは皮肉気な笑みを浮かべた。
「そうして、いずれは
「心外ですね」
苦笑を消し、無色の微笑に切り替えて”傍観者”は言った。
「僕が貴女達の仲間になったとでも、思ってらしたんですか?」
「なっ…!」
その言葉に、魔王は一瞬虚を突かれた様な表情を浮かべる。
「僕は元々裏切り者ですよ。あらゆるものを裏切り、あらゆるものに敵対する。超至高神も古代神も、人も…貴女達魔も、いずれの例外もなく、平等にね?」
「…今、ここで私と戦う?」
優しい微笑みと、優しい声と。だが、ベールはそれに気圧された様になって、声を絞り出した。”傍観者”は表情を変えずに首を横に振る。
「言ったでしょう。僕は”傍観者”だと。誰とも戦わず、誰にも気取られず。故に、誰にも影響を及ぼさない。それが”僕”を成り立たせる絶対要素です。大気に刃を振るったところで、斬り裂く事も斬り裂かれる事もありませんよ」
大人が子供に諭す様な、そんな声音。
「だから、貴女も出来ればここには近付かないでください。互いの要素が揺らぎを持ちますよ?」
「まあ、いいわ。貴方が何もしないというのなら。少なくともこちらに悪影響は出ないんだから」
強気に言い放って――響きに拗ねた様なものが混じってはいたが――蠅の女王は踵を返した。
少女の後ろ姿を見送って、気配が城から消えたところで青年は窓の外を見る。その表情は――無数の戦場を駆け抜けた戦士のものとなっていた。
「そうだな。私が戦うのは――”ヤツら”だけだ」
その周囲を、無数の光の粒が舞う。
「なあ、TIS。彼らは元気かい…?」
光が集まり――彼は鎧を纏った。