それはいつの事だったのか。
あるいは実際にあった事だったのかすら。
分からない。
分からない。
分からない。
分からない――こんな歪な世界では。
「シン!」
朱い空の下で息を荒げていると、俺の周囲に居た
「破ッ!」
腕に纏った手甲で貫く。皮を破り肉を裂き骨を砕いて血が重吹く。魔法や飛び道具と違い、ダイレクトに肉体を破壊する感触が伝わってくる近接戦というのはこれだから嫌いなんだが。そんなことを言ってもいられない。そのまま腕を振り回して、侵魔を抜く。ついでにその侵魔を別のにぶつけたりもする。ぶつかってよろめいた所に――
「燃えろっ!」
プラーナを籠めた一撃を撃ち込む。手甲が猛火を纏い、二体の侵魔をこんがりと灼き上げた。
「ようやく援軍かい」
一息吐いてそんなことを言うと、乱入者――俺には援軍――であるところの剣士がかなりキレた顔でこちらを睨んでくる。
「たわけっ! 独断で先行するなど! 貴様は何を考えている!」
「はっはっは。
「貴様が楽観的過ぎるのだ! 全く…!」
「ようやく本気を出せるなあ」
「っ!? 待…!」
無月が制止の声を上げかけたが、もう遅い。さっきよりも大量のプラーナを手甲に喰わせる。
「ヒノカグヅチ。《
ヒノカグヅチ――極東の島国の炎の神と同じ名を持つ我が愛用の武具だ。〈火〉の属性を持つ俺とは相性が良く、貰ったのである。こいつは三つの能力を持っている。内一つは先程侵魔のウェルダンを作った炎であり、もう一つが今俺が起動した能力。
喰わせたプラーナをヒノカグヅチがエネルギーに変換して、俺の躰にフィードバックする。俺の能力を全体的に引っ張り上げるという効果がある。プラーナは元々エネルギーだとよく言われるが、世の中には効率、対費用効果ってものがあるのだよ。まあ、欠点もあるんだが。
「たわけぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
何やら無月が悲痛な声で絶叫してたりするが。まあ気にしない方向で行こう。どちらにせよ起動しちゃった以上は効果が切れるのを待つしかないんだし。ほら、そんな悠長なことをしてるから。
「無月、来てるぞ」
「ちぃっ!」
隙ありと見て襲いかかってきた侵魔の一撃を、無月はその手に持った剣――刀と言うやはり極東の武器だ――で容易く打ち払い、返す刃で切り裂いた。と、見ている場合じゃないんだ。
「よっ…とりゃあ!」
俺の方にも襲いかかってきた侵魔を、殴り倒して迎撃。ついでに渾身の力を込めて踏みつける。ぬ。なかなかにやかましい悲鳴。もうやらないようにしよう。脚に武器はないんだし、足技苦手だし。
「まあ、ほら。さっさと片付けよう」
「…その後で死ぬほど説教してやる。覚悟しておけ」
何やら底冷えする声で、殺気すら滲ませながら無月が呟くのが聞こえる。が、無視して駆けだした。何故なら、俺が先行した理由を聞いたら、こいつは本気で俺を怒る事は出来ないだろうから。