Fate/stay night二次創作「果て無き未来」
衛宮士郎は、どこかの村に居た。辺りを見回す。
死体 死体 死体 死体 死体 死体 死体――
倒壊した家の脇に。井戸の口に上半身を突っ込んだ状態で。街道に通じる通りの真ん中に。自動車に潰されるように。
死んでいる。それは殺戮ですらなく。無造作に引きちぎられた肉体と。干涸らびているヒトだったモノと。一方的な破壊の爪痕。
「……くそっ」
駆け出す。いい人達だった。見ず知らずの彼にも、穏やかに接してくれた。なのに。
死んでいる。
ヒトとしての尊厳を踏みにじられて。ただ理不尽にコワされた。それが許せない。赤い外套をはためかせて、士郎はただただひた走る。
――いた。
未だ生き残っているヒトを、嬲るようにして歩いている。醜悪なモノ。
吸血種、と。呼ばれる存在。
ためらいなく拳銃を引き抜き、引き金を引く。四五口径の拳銃が、咆吼と共に聖別銀を吐き出した。
ソレは気付いて、それから避けた。人智を超えた反射能力と運動神経。残像すら残さずに視界から消え去る。だが。
「――投影開始」
拳銃を持たない左手に、陰剣莫耶を生んで、無造作に振るう。金属同士が噛み合うような、硬い響きを残して。二人は距離を取って対峙した。
「魔術師か。このような僻地にいるとは驚きだ」
「何故、こんな事をする」
互いに呟く。吸血鬼は士郎の問いに答えた。
「食事だ。我は吸血種。なればこそ、ヒトを襲い、喰らう。理解出来ぬか?」
「人間だったはずだ。元は」
「然様。確かに百年ほど前は我もヒトだった。それが?」
死徒。真祖と呼ばれるホンモノの吸血種に血を吸われたか、あるいは魔術を極めてなるマガイモノの吸血種。彼らは己の組織崩壊を免れんと他者の組織を奪い取る。肉体の欠損を他のモノの肉体で埋める、継ぎ接ぎだらけの生きた死者。
「殺したな」
「それが今や我が根源」
「喰ってもいない」
「永き生には戯れも必要故に」
「戯れでヒトを殺すか」
「ヒトとて行う。超越してすら縛られるというのは些か不本意だが」
「ならば、私はそれを許さん」
「やってみるがいい。魔術師」
銃撃。回避。反撃。剣で受ける。ここ数年、修羅場をくぐり抜け続けてきた士郎だが、反射速度では及ばない。元々相手は人間の限界を超えている。魔術使い、人間に過ぎない士郎には荷が重い。それでも、退かない。人間を超えた能力を持つ相手など、聖杯戦争で幾度も見てきた。それに比べれば、眼前のモノなど蠅が留まる速度だ。
「投影開始
「ぬっ!?」
投影した黒鍵を放つ。概念武装としての側面を持つそれは、確実に吸血鬼の肩を貫いた。直後に炎上する。
「火葬式典――貴様、代行者か」
「たわけ」
本当の代行者ならば、死徒の発生から分析を行う。その存在根本を調べ上げ、死徒となった大元を回呪して、彼らの再生能力――復元呪詛を無効化するのが通例。いかな概念武装とはいえ、正面から打ち破るのには必要な魔力が多すぎるためだ。だから普通はやらない。だが、衛宮士郎は普通の魔術師ではなかった。
二十七の撃鉄が脳裡に浮かぶ。黒鍵を幻視する。一つに付き、一本。目算して、行程を開始する。
通常、九つに分類されるそれを全て行う事で、士郎の投影する武器はホンモノに近付く。それまではそう思っていた。だが、自己の固有結界を識り、彼は本当の事に気が付いた。本当に必要な行程は、ただ一つ。
I am born of my sword
理念の共感も経験の憑依も必要ない。何故なら、それは既に彼の中にある。必要なのは同じモノを鍛ち直す事などではない。士郎は、ただ己の中にある剣を喚び出すだけでいいのだから。
剣の丘から喚び出された二十七の黒い釘が、吸血鬼を全方位から撃ち貫く。如何に人間以上の速さを持っているとはいえ、逃げ道などない。吸血鬼は、その全てを身に受け、燃え上がる。
「が――っ! 貴様……!」
「火中にて滅べ。幻想破壊
直後、火葬式典にあるまじき爆裂によって、その躯は世界から消え去った。
衛宮士郎。衛宮 切嗣の養子にして、彼の名を継ぐ最強の魔術使い。