戦争が三つどもえになって更に5年――まだまだ終わりは見えない。
 各国は自国内の思想を統制し、情報も統制し、これ以上内なる敵が現れない様に務める一方で、同盟国同士で連絡を取り合い、技術を進歩させ、敵を滅ぼす力を求めていた。
 そんな危険な風の吹き荒れる中でいくつか、キリスト教――ニュー・エルサレム軍、イスラム軍、他宗教連合軍の三軍の緩衝地帯――この場合は宙域と言うべきか――があった。日系の惑星国家である。
 日本が元々宗教色が非常に薄い国であったためだろう。ニュー・エルサレム軍もそれほど目の敵にせず、それゆえ他の二軍も手を出さない。
 彼らは一応連合軍に参加してはいるが、やっていることは専ら後方支援であり、前線で戦うことは滅多にない。それが彼らが選んだ生き残るための方策であり、事実彼らへの被害は最小限で済んだ。
 日系の国は地球時代から続いて、経済力や工業力に優れているため、文句は出るがそれも殆ど形骸化したものである。兵器を作る技術も戦争当初こそ他国より遅れていたが――平和ボケも相変わらずなのだ――長引く戦争特需をいつまでも捨て置くわけもなく、そしてその気になれば彼らが優れたモノを作り出すことは難しくなかった。今では連合軍有数の兵器の生産量を誇り――他の二軍にも勿論裏から流している。
 こうして日系の国はこの時代の台風の目となっているのだ。

 新星暦75年。某宙域。
「…遅いですよ」
 虹乃はそう呟きながら、操縦桿を操作する。
 彼女の繰る小型の戦艦――と言うか大型の戦闘機と言うか――『ラグエル』は飛来する数条のビームを危なげなく回避し、それと同時に敵機である人型機動兵器(HMT)の死角に移動する。
 慌てて転換しようとする連合軍正式量産機『デアボリカ』だが――
「言ったでしょう…?」
 それより早くラグエルの放つ光に灼かれて、大破する。
「…遅い、と」
 最後の敵を墜としたラグエルは回頭した。そこへ通信が入る。
「――こちらラグエル」
『虹乃修道士。君にやってもらいたい事があるのだが』
 単刀直入に、聴き手に有無を言わさぬ勢いで話す相手は虹乃の直属の上司――という言い方も変だが、他に例えようがない――である神父であった。
「やってもらいたい事…?」
『うむ…大天使級を授かった君になら頼める事だ』
 厄介そうな任務ね――
 彼女は胸の裡で、こっそり溜息を吐いた。

 同じく75年。地球。
「なあ、すげー眠みぃんだけどさ…」
「文句言うな、俺なんか寝てねぇんだぞ?」
 駅のホームを歩きながら愚痴る黒髪の青年に、蒼い髪の青年ががさらなる文句をつける。ここは日本の、秋葉原である。日本の電気街の双璧をなすこの地は、旧暦以前よりも範囲を広げており、以前の東京都ほどの範囲が秋葉原という地名になっている。その一角。昔ながらの電気街を、二人は歩いていた。
「んで…大輔。今度は一体何作ったんだよ?」
「おう、よくぞ訊いてくれた。ならば説明してやろう」
 蒼い髪の青年はここで一拍置いて、口調を変えて続ける。
「説明しよう。今回お前をここに連れてきた理由は、俺が傭兵稼業で稼いだ金の大半をつぎ込んで作った――」
「ああ、そういやオリジナルのHMT作ってもらってるって言ってたっけ。完成したのか」
「………」
 科白の途中であっさりと結論を言われ、葵 大輔(あおい だいすけ)は憮然とする。
「…………なあ、暁」
「何だ――あたたたたた!」
 絞り出す様な声に黒髪の青年――蒼魔 暁(そうま あき)が気楽に答えようとした瞬間、大輔がヘッドロックをかける。暁は何とかそれを引き剥がす。
「いきなり何しやがるっ!」
「人の説明を途中で端折るんじゃねぇっ!」
 往来でいきなり怒鳴り合う二人。だが、この街の喧噪の中ではそれほど目立たない。面積が広がり、辺りの人口密度が減ってもここは人が多い。初めてここに来た人は面食らうだろう。
 まあ、それはともかく。
「んで、何処まで行くんだよ?」
 額をさすりながら問う暁には答えずに、大輔はとあるビルの地下へ続く階段を下りていく。
「…毎度思うんだけどさ…殆ど秘密基地だよな」
「ま、趣味人の集う地だし。今更だろ」
 かなり長い階段を下りながらぼやく暁に、身も蓋もない答えを返す大輔。何でエレベータをつけないんだろう、などとぼやき続ける暁を後目に、さくさくと階段を下りていく。そして最下層に辿り着くとそこには――
「これ…か…」
「どうだ。すげーだろ?」
 そこにあったのは、蒼を基調としたペイントの全高20m程の鋼鉄の巨人。HMTとしてはそれほど大きいものではなく、寧ろ標準サイズなのだが――殆ど余裕のない閉鎖空間に置かれているそれはかなりの威圧感を醸し出している。
「いらっしゃい――と、葵くんか」
 格納庫――としか表現できないこの空間――の奥、蒼いHMTの足の影からここの主人であろう中年男性が歩いてくる。
「ちっす。出来たって聞いたんスけど」
「ああ、そうだよ。我ながら自信作でね、君の注文は殆どクリアしてる」
 いつものことなのだろう、挨拶もそこそこに本題に入る大輔に、店主は気を悪くした様子もなく答える。その表情が満ち足りていることからも、その自信の深さを伺うことが出来るが――大輔は聞きとがめた一節を追求する。
「殆ど? 何かダメだったんスか?」
「ん、ああ。一部君の注文とは違うんだけど――聞いてくれ。装甲材の事なんだけど…」
 当然装甲材は重要な部品の一つである。最も、兵器の部品は殆どが重要――いざというときに不調を起こされると死に直結する――だが。
 やや緊張の面もちの大輔に、店主は続ける。
「何と、超鋼積層材『ヴェライト』が手に入ってね。それを使ってみたんだよ。だから強度は注文以上で長持ちするし、軽い」
「え…マジスか!?」
 ちなみに超鋼積層材『ヴェライト』は現在軍の最新鋭機が使っている非常に優れた装甲用の金属だ。大輔の注文書にはそれよりかなりグレードの落ちる高鋼積層材『アガパイト』の名が書いてあった。
「それは嬉しいッスけど…生憎それほど金に余裕が…」
「ってか…これで割高な料金請求する人は普通、いないぞ」
 言いにくそうな大輔にぼそ、っとツッコミを入れる暁。勝手に注文書より高価な素材を使って、料金を上げるのは犯罪だろう。
「そういうことだよ。気にしないでくれ、いつも贔屓にして貰ってるし――私も使ってみたかったしね」
 何せ、オリジナルのHMTを注文する人などほぼ皆無。装甲に使用できるだけの超鋼積層材が手に入っても使い道がないのだろう。型落ち品では彼の手腕は発揮できないし、修理するだけでは面白くないのだ。そういう意味ではこの店主も生粋の趣味人――秋葉原の住民である。
「そうスか。助かります。んじゃ、料金は振り込んでおくんで…こいつは上に送っといてください」
「うん、分かったよ。じゃあ、またの注文待ってるよ」
 そういって二人は店を後にした。
 その後もいくつか軍事関係の店を回って、帰りの電車の中。
「どうよ? 結構なモンだろ?」
「ああ、確かにイイカンジの機体だったな。で、だ。名前は決まってンのか?」
 軍の横流し品は名前があるが、オリジナルの機体にはない。当然だが。
「当然だろ」
 暁の問いに大輔は自信満々に答えた。
「カオティック・ブルー、だ」