「へ…まさかてめぇとこんな所で遭うたあな…ハイゼン!」
 カオティック・ブルーは仲間達からやや離れた場所で、一機のHMTと対峙していた。
『ふ…俺も驚いたさ。貴様らがこのような辺境に雇われていると知ったときにはな…だが、お陰で今回の仕事は楽しめそうだ』
 相手のHMT――「スティンガー」からも似たような感想が漏れる。喜悦を押さえ込んだ冷静な声。
「相変わらずの戦闘狂だな…何だってこんな連中に雇われた?」
『ここなら…ニュー・エルサレムやイスラムの他に、連合とも戦えるからだ。楽しみは多い方がいいだろう…?』
 彼の性格から予想していたが――実際本人に言われるのを聞くと感慨が沸く。大輔は溜息を吐いた。
「ンな事だろうとは思ったけどよ…龍鳴に苦労かけんぞ?」
『今更だ。貴様とて、蒼魔に迷惑をかけっぱなしだろう。このような辺境にまで逃げてきたのでは…な』
「ちぃ…」
 図星を突かれ、言葉が途切れる。確かにこんな所まで来たのは彼がある女性から逃げて来たせいだが…
『さて…久しぶりの邂逅とはいえ、このような話をしている余裕はあるまい。俺は構わんがな』
 言われて状況を思い出した。暁や虹乃なら雑魚相手に遅れを取るとも思えないが…不慮の事態というのはいつでも発生しうる物だ。彼のせいでその可能性を高めるのはナンセンスに過ぎるだろう。
「そうだな…ンじゃ手前ェをさっさとぶち斃して、手伝いに行くとするか」
『出来るなら…な!』
 そして傭兵同士の戦闘は幕を開けた。
「ストライィィィィク・ナック――」
『遅い!』
 カオティック・ブルーが右腕を放つより先に、スティンガーからビームの閃光が飛来する。慌てて回避して反撃するものの、それはあっさりと躱された。
「流石だな…なら!」
 帰ってきた右腕を装着しながら左手を相手に向ける。その五指から無数のバルカン砲が放たれるが――ハイゼンベルクは左手の盾で慌てずにそれを受け止めた。
『ハンドバルカンか…えげつない物を使う』
 数十発の弾丸に叩かれた盾はあちこちがへこんだが…恐らくは超鋼積層材で作られているのだろう、致命的な破壊は起きていない。
 ハンドバルカンはその名の通り、指から弾丸を連射する武器だ。一発の威力は劇的に高いというワケではないし射程は短いが、五指から同時に放たれる上に速射性に優れているためにあっという間に敵をスクラップにしてしまう。おまけに弾数は五千発と、汎用性はともかく近接戦では無類の強さを誇る。大輔の様な接近戦のエキスパートがこれを扱うというのは殆ど反則とも言えるほどに強力だ。だが、ハイゼンベルクは全く動じていない。
「うるせぇ! 勝ちゃいいんだよ勝ちゃあな!」
『それはその通りだな』
 悪役のような科白を吐く大輔に同意して、スティンガーがビームライフルを放つ。その銃口がこちらに向けられた瞬間、大輔は右手のフィールドバリアを展開して飛来したビームを薙ぎ払った。死をもたらす蒼い閃光は、それによって屈折し、カオティック・ブルーを逸れてあらぬ方向へと飛んでいく。
『上手く使うな。高出力のフィールドバリアでビームを曲げたか』
 バリアはビームを弾く効果があるのは前述の通りだが、高出力のものに対しては威力を減衰させる事は出来ない。せいぜい、若干狙った場所とは違う点に当たるという程度の物だ。フィールドの場合は威力は多少減らせるものの射線をずらす事は出来ない。だが、この両方の性質を持つフィールドバリアなら、高威力のビームをねじ曲げる事も出来る。当然それを行うには高い技量が必要となるが。
「手前ェ、今コクピット狙いやがったな!?」
 流石に命の危険を感じた大輔が叫ぶが――ハイゼンベルクはこともなげに言い放った。
『勝てばいいのだ。勝てば…な』
「本気ってワケか…いいぜ、殺ってやろうじゃねぇか!」
 それからは無言だった。ハンドバルカンで牽制しながらカオティック・ブルーが相手の死角に回り込もうとする。だが、シールドの影から放たれたビームがその動きを妨げる。カオティック・ブルーがストライク・ナックルを放ちスティンガーがシールドで弾道を曲げる。その腕と肩を繋げるワイヤーをシールドのエッジで切ろうとすれば射出と同時にバーニアを全開にしたカオティック・ブルーがシールドの上から蹴りつけて動きを止め、ハンドバルカンを放つ。それを読んでいたスティンガーはやはりバーニアを吹かし射線を避けて距離を取る。
 伯仲した実力者同士の戦闘に、周りの兵士達は攻撃することすら出来なかった。

 一方、暁と虹乃は順調に敵機を墜としていた。
 既に40機以上は撃破しただろうが…未だに何処を向いても視界内に緑と赤の髪の少女の姿をしたHMTが一杯に映る。
「くそ…やっぱ多いな。面倒くせぇ…」
『泣き言を言っている暇はありませんよ?』
 だるそうな暁の言葉に、虹乃が無情な科白を吐くが…あながち間違いではない。飛び道具では同士討ちがほぼ間違いなく起こる状況であるために、少女達は手に光の刃を持ち全方向から斬りかかってきている。アズライトもラグエルも流石に全てを回避することは敵わず、一次装甲にいくつかの亀裂を負っていた。
「何かこう…一気に戦況を打開する武器ってのはねぇんかね?」
『人に頼らないでくれませんか? 傭兵なのでしょう、貴方は』
 それでも、互いに戦いながら会話を交わす余裕は失っていない。暢気な科白と辛辣なツッコミが互いの通信機から漏れる。
「ちぇ…キリスト者ってのは案外ケチなんだな。ンじゃあ…行くぜ。援護はよろしくぅ」
 言ってアズライトが斬艦刀を構える。その隙を逃すまいと敵HMTが殺到するが、厚さを増したラグエルの弾幕がそれを阻む。数秒後、刀身を覆うビームの光が一際強くなりる。
「蒼魔 暁、とっておきの必殺技――繚乱散華!」
 信じられない程速く、めったやたらと振り回される斬艦刀から、無数のビームの刃が放たれる。一撃一撃が、並のビームライフル以上の速度と威力で以てフィールドバリアすら無視して敵を切り裂いていく。
 ある程度の時間破壊を撒き散らした後、アズライトはその動きを止めた。全身の至る所から過熱したのであろう冷却剤を吹き出す。
「ふう…どんくれぇ殺ったかな?」
『およそ30と言ったところでしょうか。正確な数は分かりませんが…にしても、よくそんな速度でそんなもの振り回せますね。刀身には推力補助機構はないんでしょう?』
 長い刀身を持つ斬艦刀を振り回すのには宇宙であろうと当然それに応じた力が必要になる。今までのアズライトより明らかに速い斬撃を、それも無数に放つというのはどう考えても不可能だ。
「リミッター解除した。言ったろ、とっておきだって」
 冷却剤や各部のパーツの消耗が激しいこの技は、一度の戦闘にせいぜいが2回、無理をしても4回しか使うことが出来ない。4回使ってしまえばアズライトは強制的に動力がダウンするだろう。一度でも使えば、その後念入りなメンテナンスを必要とするのだ。しかも乱戦時には攻撃の方向を考えなければ味方に当たりかねない。色んな意味で余り使えない技である。
『無茶をしますね…それで、今の攻撃によるそちらの影響は?』
「一回だからまだ大丈夫だ。戦力の低下は2%以下だよ」
 呆れたような、しかし心配そうな声音で訊ねてくる虹乃に、暁は冷静に答える。戦力低下が著しい技をこんな時に使うわけがないのだ。虹乃にもそれは分かっているが、彼らの事だ。無茶を承知でやるかも知れないと言う不安がどうにも取り除ききれない。
「まだ半分くれぇしか墜としてねぇな。もちっと気張るか」
 パン、と顔を両手で叩いて暁が気合いを入れ直す。当然回避行動は怠らない。虹乃も気を引き締め直して掃討に当たる。
 それから数分もしただろうか。見慣れない女性型のHMT――少女の姿をしているというワケではなく、装甲が薄くやや丸みを帯びた外見の通常のHMTだが――が二機、こちらに飛来する。
『これ以上はやらせん! 我々が相手をしてやろう』
 入った通信の声は――和夕。
「ようやく教祖サマとエースパイロットのお出ましか!」
 どことなく楽しそうに暁が吼える。
『散開します。存分にやってください』
「おう! そっちもな!」
 アズライトとラグエルが離れ、敵もそれに合わせたのか、一機ずつ迎え撃つ姿勢を見せた。
 そして最初のクライマックスが訪れる。