その頃暁は商船の方に着いていた。
「あ、あいつら帰りやがったな…まあ、戦闘は避けたみたいだけど…」
レーダーではカオティック・ブルーと〈天使〉を示す光点が連れ立ってアースゲインの方に移動していた。まさか大輔が捕まって連れて行かされてるワケがないのでその点は心配していないが。
そんなことよりも暁にとってはこの船に注文したモノが積まれているかの方が大事である。海賊によって破壊された格納庫のドアをどける。と、
「…ってか、邪魔だなおい」
その海賊のものと思しき小型の連絡艇が二機、着陸している。お陰でデアボリカを置くスペースがない。仕方がないので斬艦刀の出力を1%程度に設定して刀身をビームで覆い、それで連絡艇をいくつかに分断する。単なる鉄くずになったそれらを格納庫の脇へと押しやり、開いたスペースに着艦。さっさとハッチを開いて外に出る。もちろんノーマルスーツは着用済みだ。
いくつかドアを開けて中に入ると――引き上げようとしている海賊達に遭遇した。
「て、てめぇっ!」
叫ぶなり拳銃を引き抜いてこちらをポイントしてくるが――如何せん遅い。それより早く暁は腰の刀を抜き放ちざま海賊どもを切り裂いていく。
「随分と年代物の武器使ってやがんな」
刀を鞘に収め、宙に浮いている銃を眺めて言う。それらは確かに結構な旧式なのだが、彼らとて刀なんぞを振り回している人間に言われたくはないだろう。暁の刀はビームサーベルなどではない、普通の鋼の刀身である。そう、鋼だ。高鋼積層材でも何でもないただの鋼。前時代的にも程があるが、その刀身には一点の曇りもない。
彼は律儀に海賊達を格納庫から全て放り出して、銃を回収してからブリッジに向けて歩く。歩くと言っても無重力なのだが。いくつかのドアをくぐり、酸素があることを確認したり敵がいたりしないか調べたりしながら慎重に進んでいく。
そして辿り着いたブリッジへのドアを覗き込む。案の定海賊が数人、残っていた。商船の乗員と思しき連中を隅に寄せて縛り上げている。
「なるほど…ちっときついが…ま、何とかなんだろ」
その様子を確認した彼は先程回収した拳銃を取り出し、点検する。カートリッジ式のオートマチック拳銃で、先程彼が言ったようにかなり旧式。手入れはそれほどされていないが、ジャムったりはしない程度にはなされているらしい。その中から一番使い物になりそうな2丁を選んで、フルオートマチックモードからセミオートマチックモードに設定を変更、両の手に構える。
そしてドアを一気にくぐり抜け――同時に目に付いた海賊二人の頭を撃ち抜く。彼らが銃声に入り口の方を見、銃を構える前に更に銃撃、銃撃、銃撃。散発的な反撃をあっさりと回避しながら事は済んだ。全て頭部に的確に命中させている。海賊達は恐らく誰に殺られたかすら把握出来なかっただろう。人質を狙うという発想さえ浮かばなかったようだ。
「つまらねぇな…雑魚ばっかりか…」
溜息を吐きながら暁は刀を抜き、人質を戒めるロープを切っていく。
「あ、ありがとうございます…」
「気にすんな。こっちも仕事だからな…あんたらから金を取ろうとは思ってねぇし。代わりに…修理費とかは出せねぇけどな」
当たり前である。防衛機構が襲われた人のための修繕費など出せようはずもない。保険屋さんの活躍に期待といった所か。
「さて…俺が注文したものは積まれてっかな?」
さっさと本題を切り出す。連れと何かしら事情のありそうなキリスト教徒は既に基地に帰っているのだ。のんびりしていると取り残されそうで怖い。
「は…あなた様のお名前は…?」
「あ、ああ。悪ぃ、俺は蒼魔暁だ…ほれ、身分証」
どうにかノーマルスーツの中からとりだしたカードには「第一級傭兵 蒼魔暁」と記されている。傭兵というのは一種の国家資格のようなもので、第一級クラスならいちいち手続きをせずとも独自の判断で軍事兵器を購入、使用する権限を与えられる。
「ああ、蒼魔様ですか。ええありますよ。こちらの方へ来ていただけますか?」
あんな目に遭った後だというのに比較的落ち着いている商人の後に付いていく。彼らもこんな仕事をしている以上覚悟は出来ていたのだろう。
そして――格納庫。彼は端の方に何やら積まれているスクラップを見て一瞬絶句し、後ろをちらりと振り返るが、暁は無視を決め込んでいる。諦めたように溜息を吐いて、商人はでっかい梱包物の方へと歩いていく。
「これです。えーと…サインを頂けますかな?」
「おう。あき…そうま、と。ついでにあのデアボリカの始末も頼めるか?」
「判りました。それくらいなら問題ありません」
図々しい注文にも笑顔で応対する。そうすることでリピーターを付けることが出来るからだろう。暁はもう注文する気は全くなかったりするが。
「んじゃ俺はこれ乗って帰るから。あんたらも帰って早く船とか人、治したいだろうし」
言い捨てて梱包剤を取る。そこに在ったのは彼の搭乗していたデアボリカと同じ様にダークブルーを基調とした配色のHMTだった。
デアボリカより幾分大柄だがよりスマート。装甲の材質は高鋼積層材『シャドウ』。出力、推進力、交戦可能時間の全てがデアボリカよりも高いカスタム機である。
その個体名を――『アズライト』と言った。
暁はさっさとアズライトに搭乗し、起動。起動チェックシークエンスを全て省略し、起きあがる。
「さて…と、行くとしますかっ」
デアボリカの脇に放ってあった斬艦刀をひっつかみ、彼は虚空へと身を躍らせる。ようやく舞台に立つ準備は整ったのだ。後は踊るだけ――まずは自分の役柄の確認をしなければならない。
アズライトは自らの家となるべき場所へ向かって、火を吹いた。