アースゲインを出てから実に20分後、3人は敵の側へと辿り着いていた。そろそろ遠距離用の武器なら届く様な距離である。
『そろそろ散開しましょうか』
「おっしゃ。了解」
『先制攻撃は任せたぜ』
 虹乃の言葉に暁と大輔は二つ返事で返す。この中で一番射程が長いのが彼女のラグエルだからだ。そして二機のHMTは戦闘機から離れる、と――
『何だ、貴様らは――?』
 何処かで聞いたことのある声で通信が入る。宣戦布告をしてきたのと同じ人物。
「わざわざ総大将がお出迎えか? 心遣い、痛み入るぜ」
 それには暁の軽口が応じる。『真・宇宙聖女愛好会』なる組織のトップ。確か名前は和夕とか言ったか。直々に出てきたというのはにわかには信じがたいが間違いはあるまい。
『何だと訊いて――』
『消えなさい』
 重ねて誰何する声に被せるように虹乃が言い、ラグエルから多数の火線が放たれる。
 黒い宇宙に幾つもの赤い華が咲く。それが開戦の合図となったのだが――
『あんだ? あの機体――』
「…………」
 大輔が戸惑いの声を上げ、暁は無言。というのも、対峙した無数のHMTの外見に理由があった。
 宇宙を覆う無数のHMT、殆どが同じ機体だというのは恐らく生産効率の問題だろう。それについては問題はない。どの軍もやっていることだ。だが、問題なのはその機体――
 緑の髪をした少女に、見える。
 勿論人間であるはずはない。ここは宇宙空間だし、何よりやや小型とはいえサイズがサイズだ。だが、顔はややデフォルメされた――マンガやゲームのキャラクターのように――可愛らしい少女で、その身にはいわゆるメイド服を纏っている。正気の沙汰とはとても思えないが、彼らの団体名からすれば納得出来ないこともない。暁が無言なのはただひたすらに呆れたからだ。物も言えないとはまさにこのことである。
「……でっけぇフィギュア…か」
『舐めてますね』
 ようやくそれだけを口にした暁に、虹乃が何かを懸命に抑えた口調で言う。
「さっさと潰そうぜ…」
 疲れ切った暁の声に、二人は最早無言だった。
 次の瞬間、三機に無数の光が収束する。連中の放つビーム兵器だ。脱力しきっていた暁だが、油断しているワケではない。スラスターを一気に吹かしてそれらの攻撃を全て回避する。
「一応武器は普通なのか…」
 妙なところに感心しながら、暁は左手でアズライトの腰に付いている銃を取り、ろくに狙いも定めずにトリガーを引く。
 幾つもの銀光が放たれ、敵HMTの何機かはそれに当たってよろめく。それを見た虹乃は驚いたようだ。
『ニードラーですか…渋いですね』
 ニードラーとは、磁気の力で針を打ち出す射撃武器である。通常の銃弾に比べて軽く、貫通力が高い。だが、衝撃を与えることはできないためにいまいち使われることのない武器だ。生物を相手にするならともかく、機械同士の戦闘では装甲を貫通できてもダメージ効率が悪いのである。
 しかし、暁にとっては問題はない。なぜなら――
 再びアズライトがニードラーの引き金を一瞬だけ引く。マズルファイアを伴わない弾は、少女型HMTの肩のジョイント部を貫いた。
 そのまま何度か極短時間だけ引き金を絞り、その都度針はHMTの重要部分を貫いて、的確に戦闘力を奪っていった。
「ちゃんと使えばこの通り、ってな」
 彼の射撃の腕ならば、貫通性能の高いニードラーの方が便利だと、ただそれだけの話だった。虹乃は感嘆の息をもらす。
『流石ですね…ですが、援護は私がやります。蒼魔さんも葵さんの様に戦ってくださって結構ですよ』
 大輔の駆るカオティック・ブルーは初っ端からフィールドバリア兵器全開で突っ込んでは殴っている。その一撃を受けただけでHMTは大破だ。
 同士討ちを恐れているのか、敵の砲撃は思ったほどでもない。ならばやりたいようにやるか。暁はそう判断して、ニードラーを腰に戻す。
「んじゃ…頼んだぜっ!」
 斬艦刀を両手で握ったアズライトが、バーニアを全開にして突っ込んでいく。対艦戦闘時とは違い、斬艦刀のビームの刀身は鋼の部分を覆う程度で出力が抑えられている。光を纏う刃は、高鋼積層材と見られる装甲をあっさりと断ち切った。

「非常識な火器よね…ホント…」
 虹乃は溜息混じりに口の中で呟く。自分の機体については今回は棚上げである。フィクションでしかみないような出力の武器は、ラグエルにも積んであるのだが。
「まあ…いいか。援護しましょう…お二人とも、注意してくださいね!」
 今回は通常兵器だけで問題あるまい。ラグエルは大量の銃弾とビームをばらまく。この機体は中型戦艦と同程度の弾幕を張る事が出来る。普段はそんなに撃てる事に意味を見出せないのだが――味方機に当てる趣味はないし、大抵味方機は側にいるのだ――こういった状況下では便利だと認めざるを得ない。
 裁きの〈大天使〉は黒と緑に覆われた宇宙を、滅びを撒き散らしながら飛翔する。散発的な攻撃はまともに照準が合わせられていないのか、当たる気配がない。
 幾つもの爆発が起きるが――あまり敵の数が減ったようにも見えない。
「流石に数が…多いっ!」
 前方の固まってる敵に火線を集中。屑鉄の残る空間を突っ切ろうとしたその時――
「な…っ!?」
 正面から――今し方攻撃したはずの空間からいくつかビームが飛んでくる。慌てて回避をし、そこに目をやると、多少壊れてはいるものの未だ健在なHMTがあった。
 外見は殆どを占めている緑髪の少女ではなく、赤く長い髪を持ったやはり少女のものだ。緑髪より多少は大きいが、やはり小型HMT。服装はほぼ同じだが、全身を淡い光が覆っている。
「フィールドバリア…?」
 いわゆるバリアと呼ばれる光波防御兵器には二種類ある。対実弾用と対ビーム兵器用で、前者をフィールド、後者を従来通りバリアと呼ぶ。
 フィールドは運動エネルギーを減衰させる「場」を発生するという性質のある粒子を散布することで形成し、実弾にもビームにも効くのだが、運動エネルギーを割合で減らすという粒子の妙な性質のために、主に実弾防御用として使われる。
 バリアはビーム粒子を弾く強力な電磁波の場を展開する事によって創られる。実弾やレーザーには効果がないが、フィールドよりビームに対する防御力は一般的に高い。その他の欠点は弾くことの出来る限界以上の出力のビームには全く効果を上げない事。
 フィールドバリアというのはこの両方の効果を持つ。すなわち、弱いビームは完全に弾き、強力なビームや実弾はある程度威力を減衰させる。カオティック・ブルーにも搭載されている強力な防御システムなのだが如何せんコストがかかるため、そうそう実装することは出来ない。
 余談だが、これらの全てはレーザー兵器には何の効果も上げない。レーザーに対しては煙幕を張るなどの分かり易い防御策を講じるのが常である。
 フィールドバリアと高防御力の装甲を併用すれば、今の攻撃を凌ぐことも確かに可能だ。だがまさかこんな辺境でそんな高性能機と戦うとは思わなかった。
『退きなっ!』
 虹乃が攻撃を回避しながらどうやって赤髪を斃すか考えていると、暁が叫びながら勢いよく突っ込んでくる。アズライトはそのままラグエルの脇を通り抜け――
 あっさりとぶった斬った。
「……………」
『へっ。フィールドバリアったって、もンのすげー斬れる剣で斬りゃ関係ねぇぜっ!』
 元気よく吼える暁に、虹乃は軽い頭痛を感じた。
『んじゃこのまま掃討すっぞ。赤い髪のヤツは俺に任せてくれりゃあ、いい』
「はい…お願いしますね。ところで葵さんは…?」
 ふと疑問を感じる。さっきから近くにはいないようだが――
『ああ、あいつなら――』
『へ……めぇ……んな所…遭う……な……くぜ…!』
 暁が口を開いたのと機を同じくして、激しいノイズと共に大輔の声が通信機から漏れる。
『つーワケで、知り合いと邂逅中だ』
「邂逅って…いいんですか?」
 こんな所で邂逅するということは則ちその相手は敵と言うことになる。しかし、暁は至って気楽に応じた。
『ああ、気にすんな。傭兵やってりゃあることだ』
「はあ…」
 完全に割り切っている暁とは違い、そういう感覚に疎い虹乃は大輔が心配になった。知り合いと殺し合ったとなれば志気が落ちるのは仕方がないが…それで足手まといになられては困る。
『…にしても…まさかあいつが連中に雇われてるたぁな…』
「貴方もお知り合いなんですか?」
 問われた暁は、一瞬きょとんとしてからそれに答える。
『ああ…ハイゼンベルクっつー特級傭兵だよ。実力の方は折り紙付きだ』