Crystal Nights Story


 

第2回       ちょっとした冒険


 レグス村の朝は日の出とともに始まる。ほとんどの人は畑に出て農作業を
はじめるが、中には出かける用意をする人もいる。
僕の兄さんもその1人だ。

「じゃあ、いってくるよ。」

 兄さんは今日、少し離れた町に出かける。レグス村は基本的に自給自足だが、
服の生地などは手に入らないのでこうして時々町に行っては手に入れてくる。
僕も何度か連れていってもらったことがあって、町の人のこともよく知っている。
特に生地屋のアリーナさんは僕のお姉さんみたいなものだ。

「いってらっしゃ〜い!アリーナさんによろしくね!」
「ああ、わかった。アルスも今日1日、がんばれよ!」


 そういうと、兄さんはすごいスピードで走っていった。町までは、
普通の人なら1日かかるので1泊2日になる。
でも兄さんはそれを半日で行って帰ってくる。つくづく凄い人だなあ、と思う。

「さて、と。僕もそろそろ行こうかな。」
 今日もドメイン先生の修行だ。しかも今日は魔法理論なんだよなあ。
あの人の話は、下手なスリープよりも効く睡眠魔法だよ。
でも行かないと怒られるし、行くしかないか。  そういえば、兄さんは覚えてるかな。
いつか僕が1人前の魔術師になったら、2人で世界を冒険しようって約束を。
あれからもう5年もたったことだし、忘れてるかな。
僕としては、かなり魔法もうまくなったと思うんだけどなあ。
先生によれば、まだまだヒヨッコらしいけど。  しばらく歩くと、先生の家が見えてきた。家の庭には桜の木が植えてある。
その桜がもうすぐ咲きそうだ。春だなあ、と思う。そう言えば、最近はそんなに寒くなくなってきた。
の精霊さん、お疲れ様。

「先生、おはようございます。アルスです。」
 コン、コン、とドアをノックした。奥のほうから「は〜い。」という声が聞こえた。
シェラさんだ。しばらく待つと、ドアをあけてシェラさんが出てきた。
「あら、アルス君、おはよう。でもごめんなさいね、今日はできないわ。
あの人、どうやら風邪を引いちゃったらしいの。今も熱があって寝てるわ。」

 風邪、か。どうしたんだろう。昨日はあんなに元気だったのに。
でもこれで今日は勉強しなくて済むぞ。
「じゃあ、お大事に、といっておいてください。」
「はい、ちゃんと伝えておくわ。」

 シェラさんは軽く微笑んで、ドアを閉めた。僕も、いったん家に帰ることにした。

  さて、これからどうしよう。近所のポールの家に遊びに行こうかな。
あ、でも彼は今日、子守りの仕事があったんだ。じゃあ、どうしよう。ほかにいくところはないなあ。
家でのんびり過ごすかな・・・

「そうだ!!」  僕はとってもいい案を思いついた。今日は兄さんがいない。先生も家で寝ている。
と、いうことは・・・僕がどこに行ってもわからない。
 僕は家まで走った。とにかく急いだ。早く思ったことを実行してみたくなった。
そう、あの森へ行ってみよう。兄さんは危険だから行くなといってたけど、僕は
ずっといってみたいと思っていた。チャンスは今日しかない。

 バンッ、と扉を勢いよくあけると、すぐに物置へと走った。中には、
兄さんが普段使っている武器があった。大小さまざまな剣や短めの槍、木を切り出すための斧もある。
冒険に出るならやっぱり、ということで、剣をひとつひとつ持って試し振りをしてみた。
どれも重い。その中で一番軽いショートソードをもっていくことにした。
防具は僕用のレザーアーマーがあるから、それを身につける。
 次は食料だ。夕方までに帰れば兄さんにはわからないから、
お昼御飯はあったほうがいい。好物の桃ウサギの耳と水をもって袋に入れた。
 準備をしながら、僕の心臓はドクン、ドクン、と波を打っていた。
早く行きたくてしかたがなかった。 ようやく僕も冒険に出れるんだ。
 さあ、行こうと扉を開けると、そこには1人の少年が立っていた。頭がすっぽり入るくらいの大きな帽子、
そこからでているピンとたった耳、少し垂れてる瞳。あれ?ポールじゃないか。

「やあ、アルス。君も休みかい?」
「君もって事は、君も?」

どうやら、ポールが子守りをしている赤ん坊が熱を出して、今日はお母さんが
自宅で看病してくれているらしい。
 当然、ぼくら二人は意気投合した。

 村はずれの森は、その名をグリーンデビルという。緑の悪魔なんて、いかにも何か出そうな感じだ。
その中を、ポールと二人で歩く。

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ・・・

「アルス〜、こわいよ〜」

何だよ、君がついていくっていってんだろ?まったく、弱いなぁ・・・
「大丈夫だよ、ポール。僕がついてる」
「アルスって、強いんだね。さすがブラックさんの弟だね!」


ポールはかなりの重装備だ。一度家に装備品をとりにいったんだけど、その格好を見て驚いた。
僕のレザーアーマーとは桁外れに重そうな鎧、盾、そしてカンムリ。兜じゃなくて冠。
冠をかぶった(それでも耳はでてるけど)ポールに、僕は恐る恐る聞いてみた。

「ねえ,ポール。その頭のものって・・・」
「え?これ?」
ポールはうれしそうな顔をした。
「これはいつも話してる、家の家宝さ!!倉庫に会ったやつをこっそりと、ね!」
ポールの家は、あんまり裕福じゃない。でもその昔は由緒正しい家だったそうだ。
ひぃおじいちゃんはなんでも、ここから少し離れたところにある「ガルマン王国」に仕えた騎士様だったらしい。
その騎士様がそのときの王さまを命がけで守ったことがあって、家宝の 冠はそのときに頂いた。
だからその冠には「ガルマン王国」の印が入っている。
なぜ僕がこの話を知っているかというと、ポールが何度も、しつこいほど、話してくるから。
おそらく家でも何度も聞いたんだろうな、ほんとにしつこいくらいに話すんだ。
ほら。今も横でしゃべってるし・・・

「その時ね、ひぃおじいちゃんは傷だらけになってもモンスターから逃げなかったんだ。
すごく血もでてたんだって。僕だったらぜったいに逃げ出すだろうなぁって思うんだ。でもね・・・」


ひぃおじいちゃんはポールにとって一番の自慢話だから、いいかげんに聞くわけには行かない。
同じことを何回聞いても、初めてのように驚いたり、感動したりしないと。
それに、うわさの冠を僕は今日はじめて見たわけで、僕自身、新しい気持ちでこの話に聞き入っていた。

そんな話をしながらしばらくあるくと、森の奥にぽっかりと穴が空いている・・・洞窟らしい。
今までモンスターの影も見えなかったから、正直言ってがっかりしてたけど、これで面白くなったぞ。

ゴクンッ・・・・

ポールがつばを飲みこむ。僕も気持ちは同じだ。この洞窟には、何があるのだろう・・・
(第2回、了)

新登場人物紹介

ポール(男)
 アルスの幼なじみ。他の人間と違って耳が少し立ってるけど、村のみんなは気にしていない。家宝の冠がお気に入り。