窓の外を笹が歩いていた。



………訂正。笹を担いだが歩いていた。










願い事










「なぁ…」
「ナニ」



跡部は後悔していた。『声なんぞ掛けなきゃよかった…』と。

好奇心は猫も殺すのだ。

後悔先に立たず。後に悔いると書いて『後悔』と読む。なかなか
やるね、昔の人。

そんな跡部はの指揮の元、折り紙で天の川を制作中。因みに、
ここは宅の居間である。










「7月7日はとうの昔に過ぎて、今は8月も目前だ。…これは俺の
 思い違いか?」



は短冊に紐を通していた手を休め、顔だけ跡部の方を向いた。



「思い違いだ。そう思っているのはお前だけ、今日は7月7日だ」
「………」
「お前の暦は狂っている…。きっと宇宙人に連れ去られたんだ。
 そこで後頭部にチップを埋め込まれたついでに暦の間隔をずら
 されちゃったのよ。お茶目さんね、グレイは」
「………お前は馬鹿か。素直に七夕を忘れてたって認めろよ、馬鹿」
「…何とでも言え。兎に角今日は7月7日だ。これは譲れん」
「馬鹿め」



馬鹿を連呼しつつも、跡部の手は先程から一度も休んでない。意外に
マメ男。





その跡部がふ…と眉を寄せる。

−気にいらねぇ…−



足元に転がる見本の天の川(作)と、只今制作途中である天の
川とを交互に見比べ、更に眉間の皺を深くした。

−何で均等に切り込みが入らねーんだ−





不器用なくせに凝り性らしい。










「つーか、そんな紙切れに書いただけで願いが叶うんなら、世話
 ねぇんだよ」
ジャキジャキと折り紙に切り目を入れながら跡部は言う。

そして舌打ち。どうやら切り過ぎたらしい。





「アンタってつくづく夢のないことを言う男ね。きっとアンタみた
 いな男は、父親になってから子供に『サンタなんて居ないんだよ、
 馬鹿』とか平気で言うのよ。そして子供の心はズタズタに傷付く
 のね」

紐を通し終わった短冊を纏めながら、『でも…』とは微笑む。



「その後、反抗期に入った子供に『お父さんのパンツと一緒に洗濯
 しないでよ!』とか『俺の髪が薄いのはオヤジから遺伝したんだ!!』
 とか言われて傷付くだろうから大丈夫。痛み分け」

「訳分かんねぇよ。つうか生々しいんだよ、馬鹿」



切り過ぎて不恰好になった天の川を広げながら悪態をつく跡部。
迫力がまるでない。





「ま、いいわ。取り敢えず要るものは揃ったから、チャッチャと
 飾り付けちゃおう。ハイ」



天の川制作係から、飾り付け係に人事異動らしい。社員は一人しか
居ない。





「何で俺なんだよ。お前が願い事するんだから、お前がやれ」
「…もう。しょうがないわね、ハイ、1枚あげるわ。さっさと
 書いてパパーっと飾り付けろ」
「………」

命令形です。

『何で俺が…』とブツブツと口の中で呟きつつも、悲しいかな…
ちょっとやる気が出ちゃってる跡部。真っ白な短冊1枚と、ビッ
チリ願い事が書き込まれた短冊多数、それにお飾りも少々入った
箱を受け取ってしまった(無論、跡部作の天の川も入っている)



「手伝ってやるんだから、お前も何個かやれ」

と、箱の中身を幾つかに押し付ける。は『え〜』と暫く
ぶーたれていたが、跡部がくくり始めるのを見て渋々作業を
開始した。





一方、跡部はというと。

お飾りをくくり付けながら、渡された短冊に何を書こうか…と真剣に
悩んでいた。『書かずに突っ返す』という選択肢もあるという事を
完全に忘れている。それをやったらやったで報復が怖いが。










−思い浮かばん−

焦る跡部。そりゃそうだ。七夕なんぞやるのはいつ以来だ?幼稚園
でやった記憶はある。が、それも園内行事だったので渋々参加した
のだ。



−どんなこと書けばいいんだよ−

この年でお願い事もくそもないだろう。そもそもこの馬鹿は何を
こんなに書いてるんだ?と、跡部は短冊の束を手に取った。










『人類が平和でありますように』

『今年こそ世界征服できますように』



思いっきり矛盾してる上に、何か基本的なところで間違いを犯して
いる。

ていうか、今年こそって毎年何かしてるのか、あの馬鹿は。幼稚園の
ガキの願い事じゃあるまいし…と、短冊を捲って次の願い事を見る。





『ナルシスト撲滅!←跡部』

『跡部の俺様っぷりが少しでも薄まりますように』

『跡部は茶髪にしてるけど、将来ハゲませんように』










向かいで作業をしていたの頭を、その短冊の束で思い切りシバく。
ギャアギャア喚いているのを無視し、ペンを取った。





『馬鹿がマトモになりますように』



〜END〜









マキーナ様、ありがとうございました! くり坊