((((((((((雨と青空))))))))))





「気圧がこうも低い日が続くと、どうにもやりきれないのよねぇ。」



ナミが、キッチン兼会議室で、のびている。



ゴーイングメリー号は、ここ一週間ほど、
降り続く雨の中を航行していた。
嵐というほどの雨でもなく、航行自体に問題があるわけでもないのだが、
重くのしかかるような空気は、航海士のお気に召さないようだ。



「ナミさん、人一倍天気に敏感だから…。」

ナミの前に座るが、それに答える。

「そうなのよ。繊細だから、私…。」



額の髪を、かきあげながら、けだるげな表情を作ってみせる。
それに一番に反応を示しそうなコックは、残念ながら、席をはずしている。
食料の傷み具合を調べるのだと言って、格納庫に行っているのだ。
この天候では確かに、食料の傷みも早いだろうと思われる。
船の食料を一手に担うコックとしては、当然の心配だろう。



誰も、反応を示してくれずに、寧ろ、そっぽを向かれて、ナミは苛立たしげに、

「気圧なんて、ちっとも感じない莫迦もいるけどねっ。」

言葉を吐き捨てる。



は、ナミの視線を追う。



ドアについた丸窓の向こうに、ルフィが見える。



「ルフィ!? この雨の中、何をやってるの?」
「あいつの考えることなんて、誰にもわかりゃしないわよっ。」



は、ナミが言うのを、聞き流し、バスタオルと傘を持って部屋を出る。



そこで、声をかけようとして、躊躇う。



ルフィは、チョッパーと一緒に、楽しそうに走り回っている。
帽子も被ったままで、頭の先から爪先まで濡れそぼっている。
それでも、楽しそうに大きな口を開けて笑っている。



の顔には、知らず、笑みが浮かんでいる。
手には大きめのバスタオルが、出番を待っている。



声をかけられず、じっと見つめていると、チョッパーが何かをルフィに言い、
その途端に、ルフィの動きがぴたりと止まる。
空を見上げる。
どきりとするほど、真摯な表情だ。
髪が額に張り付いている。
の背筋を、ぞくりとするものが這い上がってくる。
それを押さえ込むように、持ったタオルを握り締め、自分の心臓を押さえ込む。



と、ルフィが、腕を伸ばす。

空に向かって。

何度も。

何度も。



指の先が見えなくなるほどに、長く、腕を伸ばしては、バチンと戻す。

それを、何度も繰り返す。



「何、やってるの?」

さすがに気になって、甲板に下りてくる。



「あ? か。」

ルフィが、にっかりと笑って、を見る。

その顔をすぐにもとの真摯なものに戻して、視線を空に向ける。
も釣られて視線を上げる。



傘の向こうに、鈍色(にびいろ)の空が広がる。
遮るもののない海の上の空は、大きい。
空を映す海も、空と同じ青鈍(あおにび)色に澱んでいる。



空と海の間を、雨がレースを編むように、つなげている。



「チョッパーがヘンなこと、言うんだ。
雨を降らせる雲の上は、青い空が広がってるんだってさ。
太陽があって、いつもと同じように、光ってるんだって。
見たこともねえくせに、そんなこと、言うんだ。」



それは、チョッパーの言うことが正しい。
確かに理論上では、そのはずだ、
太陽が消えてなくなっているわけではないし、
いくら厚い雨雲だといっても、太陽のある空間にまで雲があるはずもない。



けれど、ルフィの言っている疑問も、わからないわけじゃない。
実際、自分たちの置かれている状況の中に、太陽はない。



「だから、それを確かめようと思って。」

そう言って、を、悪戯っ子のような笑みを浮かべて見やると、
また、腕を伸ばす。



「確かめるって?」

まさか、とは、思うが、一応たずねてみる。



「雲を掻き分けてみる。」



やっぱり…。



頭を抱える。



「雨雲は確かに、低い位置にあるけど、その距離は2kmはあるんだから、
無理だって、さっきから言ってるんだけど。」

チョッパーが困り果てた表情で言う。



「気の済むまでやらせたら? チョッパーも、傘に入る?」
「おれは、トナカイだから、大丈夫だ。
濡れても、毛が水分を弾くから、皮膚までは届かない。
人間は不便だな。」
「そうね。」

そう、チョッパーに相槌を打ってから、

「ルフィも、ほどほどにしときなさいよ。
一応、人間なんだから。風邪引いてもしらないから。」
「おれは、大丈夫だ。」

何の根拠も示さず、自信たっぷりに答える。



は、ただ、笑ってため息を落とす。



すべてが濡れている甲板に、
腰を下ろすところも、寄りかかれるところもなく、立ち尽くす。
部屋に戻ればいいのだが、ルフィを一人にしておきたくなくて、なんとなく。



傘を持つ手が疲れて来たころ。

ルフィは、相変わらず、むなしい努力を続けている。

チョッパーは、呆れて、船室に戻ってしまった。

は、小さなくしゃみを一つ。



、どうした? 大丈夫か? "風邪"ってヤツか?」
「ん。私は大丈夫。
ちょっと、鼻がくすぐったかっただけ……」

と、言いも果てず、2度立て続けに、くしゃみ。



「大丈夫じゃねえな。チョッパー呼んでくる。」
「大丈夫だってば。ルフィ。それより、いい加減、諦めた?」
「諦めねえ。」
「もう、上から下まで、びしょびしょじゃない。」
「おれがここにいるから、なのか?」
「え?」
「おれがいるから、もここにいるのか?」



突然、核心を衝かれて、は、答えを返せない。



「ん〜〜〜」

ルフィは、しばらく腕組みをして、

「やめる。」

相変わらず、唐突に言う。



きょとんとして、ルフィを見つめていると、ルフィは、の手を取って、

「だから、も部屋に入れ。」

引っ張っていこうとする。



「あ、ああ。私のために、諦めたの?」
「ん? 諦めたりなんかしねえぞ。やめただけだ。」

何を言ってるんだと、言わんばかりに言う。
それが、いかにも、ルフィらしくて、小さく笑う。

「何が、おかしいんだ? 
それより、の手。やっぱり、冷てえ。」
「ルフィもね。」

ルフィの帽子をとって、持っていたバスタオルを、ルフィの頭に被せる。

「拭いて。」

言いながら、ルフィの頭を、タオル越しに、ごしごしとこする。



「くすぐってぇ。」

ルフィが言うが、嫌がっている風でもない。
笑い声まで漏れ聞こえてくる。



髪を拭いて、顔を拭いて、肩を拭く。



ぽふんと、ルフィの顔が現れる。



「なんか、あったかくって、くすぐってえな。」
「そう? あとは、ちゃんと風呂に入ってあったまった方が……」
「やだ。」
「は?」
に、こうやって貰ってるほうがいい。」

そういって、タオルを肩に乗せたまま、に抱きついてくる。

「この方が、早くあったまりそうだ。」



は、持っていた傘を取り落として、慌てる。



「ちょ、ちょっと、ルフィってば。」
、顔が真っ赤だぞ。」

ルフィが、歯を見せて、笑ってみせる。

「もうっ。ルフィったら……。」
も、濡れちまったな。」

ルフィは、自分にかけられたタオルを、の頭にもかける。



そのまま、の頭を自分の方へ引き寄せて、軽く口付ける。



「る…るるる……」

は、真っ赤になって、周囲を見回す。

「るるる、って、何だ?」
「ルフィっ!」
「なんだ?」

無邪気な顔をして、の次の言葉を待つ。



咎めるつもりで、ルフィの名を呼んだは、脱力感を感じてしまう。



「なんだ、?」
「…本気で、雲を掻き分けるつもりだったの?」

ルフィを責めても無駄だとわかったは、話を変えてみる。

「おぅ。おれはいつだって、本気だぞ。」
「そうだったね。ルフィは、いつでも本気だ。」
「そうだ。」

ルフィは胸を張って、答える。



根拠のないルフィの自信は、いつも、どこから湧いて出てくるのだろうと、は思う。
突然突拍子もないことを言うこともあるが、ルフィの自信に救われることも多い。



「いいね。ルフィの本気、大好き。」
「おれも、が大好きだ。」

一瞬の間も措(お)かずに、ルフィに言われ、は言葉に詰まってしまう。

が、好きだ。」

ルフィは、もう一度、の頭を抱き寄せ、その耳元で囁く。



雨の甲板には他に、人影もない。
雨のカーテンが、やさしく二人を包み込んでいるだけだ。



雨が二人を濡らす。
ルフィの髪を伝って流れる雨滴が、の頬を流れる。
冷たさは感じない。
寧ろ、火照った頬には心地よい。



を包み込む身体も、熱い……。
は、それを受け止める。



の手が、ルフィの背に回ると、ルフィの口付けが、さらに深いものに変わっていく。



雨が上がれば、それまで雨に閉じ込められてきた人間たちが出てきてしまう。
だから。



もう暫く、このまま。



青空はおあずけで…………。






END



(2002/07/08)

【後書きという名の言い訳】


☆「あら。始めっから、二人は
  出来てるような設定になってしまいましたね…。
  そーゆーつもりもなかったんだが。」
R「おれは、が好きだーーっ」
☆「はいはい。他に言うことを知らないのか?」
R「おれは、肉が好きだーーーっ」
☆「(呆)」
R「おれは……………」
☆「もう、いいっっ。」
R「もがもがもが」
☆「くり坊さま。リクエストをありがとうございました。
  一応、雨を舞台にしてみましたが…。
  こんなので、良かったでしょうか(どきどき)。
  お気に入りませんでしたら、おっしゃってください。
  また、書き直させていただきますので…(おずおずと)」
R「おぉ、くり坊! リク嬉しいぞ。また、頼むなっ!!」







あき☆様、ありがとうございました! くり坊