――――泣いている 遠いのか近いのか どこかで 奇妙な浮遊感 位置がつかめない 闇 闇よりも濃く重い感情が 波のように覆い被さってくる 『哀しみ』 『寂しさ』 『恐怖』 『憎悪』 不遇を哀しみ 独りの寂しさに恐怖し そこにいない誰かを憎悪する―――――― あれは オレだ 膝を抱えて泣いている ガキの頃の―――・・・・・・・・・ イタイ クルシイ コワイ ドウシテ・・・・・・・・・コンナ? ――・・・・・おぞましい記憶を呼ぶ 声にならない『声』 問いかけに応えてくれるものも 差し伸べられる手もなく ただ震えているだけ・・・・・・・・・・ 「!」 『オレ』が 膝に埋めていた顔を上げる 光が 闇を侵食していく 『―――――――泣かないで』 鈴を鳴らすような声と 白い 手 『もう 泣かないで 怖がらないでね 大丈夫だから 私が 傍にいるから―――――』 柔らかい 笑顔 白い手のぬくもり どんなに欲しても与えられなかった 『愛』 揺れて 霞み 今はもう 届かなくても 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 ―――・・・・・・夢 か 見慣れた天井と湿った闇が、片側しかない視界を占拠する。 硬いだけの粗末なベッドに体を起こし、上体を壁に預けて短く息を吐き出す。 「・・・欲求不満ってやつか?」 誰に向けたものでもない問いは虚空に消え、独特の笑いが口許に浮かぶ。 色濃く揺れているのは『自嘲』。 取り出した煙草に小さな炎が点り、闇の中で短い命を謳歌し始める。 薄く開いた唇から灰色の螺旋が立ちのぼり、闇に同化して消える間際。 ―――・・・・・・・・・ 鮮明に浮かび上がり、溶けるように消えていく笑顔。 声に出さない呼びかけがそれを追いかけて漂い―――――――霧消する。 今 お前は 何をしてる? 『――あ、雨降ってきた。 ねえ、ボーン。見て見て、雨』 あー? 雨? 別に珍しくもないだろーが 『んーそれはそうなんだけど。 でも、なんだか嬉しいんだもん。 雨は好き』 こんなもん、ただの水だろ 上から降ってくるだけの 『・・・覚えてる? 私たちが初めて逢った日も、雨が降ってたの』 ああ・・・・・・・ 『あの日から、雨が待ち遠しくなった。 雨が降ったらボーンに逢えるんじゃないかって・・・・・・・そんな気がしたから。 それは今でも―――これから先もずっと、変わらない』 ――雨。 本心では、“嫌悪”の部類に入る。 思い出したくもない、幼い頃に枯れ果てた痛み=『涙』が、絶え間なく流れ落ちる雫に重なる。 『――・・・・・逢えなくても。 離れててもね、雨が降ってれば大丈夫。 ひとりでいても、ボーンが傍にいるような気がするのよ。 ・・・安心するし、嬉しいし。 だから雨が好き。 雨を待ってる』 いつの間にか、“二人の時間”に溶け込んでいた『雨』。 それは冷たい感情ではなく、あたたかな想いを呼ぶ。 ずっと降り続ければいいのに―――――そう呟くを抱きしめながら、胸の内で同じことを願った。 ―――――ゆるゆると吐き出した紫煙が宙に広がる様を見つめる。 『・・・・煙草吸ってるボーン、好きだな』 口説いてんのか? 『そうかも。 何て言うのかな・・・・・・・絵になる感じ』 嬉しいこと言ってくれるねえ 『――あ、写真撮ろうよ写真』 何だって? 『写真。記念に。 携帯の待ち受けにするから』 女ってのは好きだねえ そのテのことが 『・・・間違えて消去でもしない限り、写真はこの中に残るでしょ。 こういうのがひとつぐらいあってもいいよね』 ――・・・・・欲しいものがあるなら、何でも買ってやる 言ってみな、何が欲しい? 『・・・・・お金じゃ買えないと思うけど』 何だそりゃ 『――こころ』 こころ? 『そう、こころ。 ボーンのこころが欲しい。 いつでも・・・・・・・何をしてる時でも、私のことを考えて欲しい』 ・・・・形に残らないぜ 『それでいいのよ。 約束してくれたら、私は生きていけるから。 形があるものなんていつかは灰になるけど――――人のこころはずっと残る。 いつか・・・・・・死ぬときが来ても、変わらない気持ちがあったら幸せだと思うの。 ・・・・くれる?ボーン」 ――・・・・・とっくに、おまえのものになってるさ ―――――見せられるものなら 遺せるものなら この胸をかっさばいても構わなかった 『こころ』 おまえだけだ 他に誰もいない オレの『こころ』 そんなものがオレの内に在るなんて考えもしなかった おまえに逢うまでは いつか 死ぬ時が来ても オレの『こころ』は おまえだけのもの 「・・・・らしくないねえ」 低く笑い、右手指に挟んで膝に置いていた煙草を口内に含む。 “終身刑”=“永遠の別離” 生あるうちに二度と逢うことはない――――そう解っていたが、不思議と穏やかな気分だった。 ―――いるとしたら 『カミサマ』なんてヤツがいるんなら 感謝しよう おまえと引き合わせてくれた運命に 祈りもしよう オレに“光”を与えてくれたおまえが幸せであるように ここから出ることもないオレの たったひとつの願い ・・・もっとも オレに縁があるのは死神ぐらいなもんだろうが 叶うんなら オレの命でもなんでもくれてやる 『こころ』以外だがな 蒼い星 小さな国 おまえが住む 街 雨が降って 嬉しそうな顔を思い浮かべれば オレは生きていける 「――・・・・・・それでいい」 |
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魅月様、ありがとうございました! くり坊 |