もしも、其れが見えたとしても。



私は









『向こう側に見えるモノ』















「・・・スカー?」


隣で眠っている彼の名前を呼んだ。
でも、熟睡しきってしまっているのか反応無し。
私は小さく溜息を吐いて、スカーの横顔を眺める。
それから、スカーの胸板に自分の顔を押しつけて
彼の鼓動が聞こえる様にした。


「・・・・・・。」


それから、私を閉じこめている腕を
ぼんやり見つめる。


「・・嫌な夢、見ちゃったなぁ・・・・。」


私がこんな夜中に眼が冴えてしまっているのは
他でもない、ある夢を見たからだ。







その中で私は観客席にいて
スカーが戦う試合を観戦していた。
いつものように、スカーは楽勝で勝ち進む。
返り血を浴びながらも、時折此方を振り向いて
あの得意げな笑みで、笑うのだ。
試合が終わって、
いつもの様に私は彼の控え室に向かう。
いつものように扉を開けて
『お疲れ様!』と言うはずだった。
そしてスカーも『疲れてなんかねぇよ』と
苦笑を返してくれるはずだった。
いつもみたいに成るはずだった。


でも、扉の向こうに在ったのは

血溜まりの中

仰向けに成って倒れているスカー。












「・・・・ホント、呆れちゃう。」


夢の回想をし終えて、一人で闇の中呟いた。
私の消え入りそうな音色は、
静寂にかき消されそうになる。
押しつけた耳から聞こえるのは
スカーの鼓動だけで。
彼の体温が、酷く暖かかったコトだけが
あれが悪夢で在った事を明確にした。


「いつかは・・・そうなるって、解ってるのになぁ・・・。」


遠くで時計の針が、秒針を進めている音がする。


「・・・スカー・・・。」


口をついて、スカーの名前を呼んでしまう。
こんなにも愛おしい、彼の名前。
逞しい彼の腕が自分を閉じこめていると思うと、無性に
泣きたくなってしまうのは
夢の所為だろうか?


「・・・。」


不意に、本当に呼吸をしているのか気になって
スカーの顔を、覗き込む。
見ただけじゃ良く解らなかったから
手のひらを口元に、かざしてみた。
と。







、何してんだ?」

「・・・起きちゃった?」


眼を瞑ったまま、スカーが喋ったので
私は大袈裟に吃驚してしまった。
大きな手のひらが、私の頭を掴んで
スカーの胸板に押しつけられる。


「まぁな。」

「そっか・・・。」


気怠げな彼の音色に、生きている事を再確認。

大丈夫。
まだ暖かい。


「・・・どうした?・・・。」


普段のからかうような声からは、想像も付かないほど
穏やかな音色で、スカーが問う。
私は頬に、彼の体温を感じながら


「・・・・・夢、見たんだ。」


言うと。
閉じていた目を、開けて。
あの紅い瞳に私を映し出した。
少し怠そうに、後頭部を掻いてから
私の頭を、優しいタッチで撫でてくれて。
あんまり優しいから、
具合でも悪いんじゃないかと思ったほど。
スカーの手つきは酷く優しくて。


「怖い、夢。」


ああ、どうしたんだろ。
最近疲れているのかな?
涙腺・・・弱ってるみたいだよ。


「・・・泣くなって。」

「泣いてない。」

「・・・嘘吐けよ・・・。」


少し困った様な声で、私をあやすように頭を撫でる。
真っ暗な部屋では、スカーの表情が見えないが
きっと、複雑な表情をしているんだろう。
迷惑掛けているけど
今は、こうしていて欲しい。


「ったく・・・お前はガキか。」

「・・・ガキだもん。」

「へぇへぇ。」


ようやくしゃくり上げるのが、収まってきて
グズっと、花を一度大きく啜って
スカーの胸板にもう一度顔を押しつける。
苦笑しながらも、頭を撫で続けてくれて。
どうしても、もっと甘えたくなってしまうんだ。


「ねえ・・スカー。」

「あ?」

























「ずっと、隣に居させてね。」


気丈に微笑んで、スカーの瞳を捕らえる。














此の、闇の向こう側に見えるモノが


例え


死で在ろうとも


別れで在ろうとも


どうか、お願いだから


貴方の隣に居させて下さい。













「・・・寝ろよ。」

「うん。」


ぎゅうっと、音でも鳴りそうなくらいに抱き締めて
ボソリとスカーが呟いた。
もしも此処が明るかったら
スカーの表情が見えたのに。
今、彼がどんな顔、してるのか解らない。


「・・・・・・おやすみ。」

「・・あぁ。」


もう一度、瞳を閉じる。
瞼の中は真っ暗闇だったけど
抱き締めてくれる、スカーの体温が暖かいから
きっと、もう怖い夢は見ないだろう。
そして私は、安堵の息を吐いて眠りについた。












神様。



どうか




向こう側に見えるモノが



私達にとって、幸せなモノで在ります様に。














「おやすみ、。」















<END>





アゲハ様、ありがとうございました! くり坊