パタンという音に振り返れば、俺は部屋に独りきりになっていた。
ベッドの座った跡が、今の今までがこの部屋にいたことを物語っている。




俺はパソコンに向き直った。
1年生数人分のデータの整理が残っている。
それを片付けなければならない。




バックボレーのパワー不足。


『ねぇ、今週末も部活?』


原因:身体の軸の傾き,バランスの欠如


『いや、ここのところ練習が続いたから休みだ』


対策:ラケットを前へ出すのと同時に逆の手を後ろに引く
(作用、反作用の法則)


『じゃあ、一緒にいられるね!』


ほとんどの1年が自分の体勢を客観的に見られていない。
だからだろう。
やはりフォームの崩れが目立つ。
もっと客観的に自分を見られるようになれば、
プレーはより良いものになるだろうに・・・






ショートクロスの角度の甘さ。


『ああ・・・まぁ、そうだな』


原因:ショートクロスと通常のストローク時の打点の位置が同じ


『どこか行く?』


対策:打点を通常より45度前にする
(インパクト面をショートクロスの方向へ向けることで確実性を増す)


『申し訳ないけど、少しデータ整理をしてからでいいかな』


本来、ショートクロスではボールの左側半分ぐらいを捕える。
しかし、意識だけがボールの左側に集中していてもインパクト面が
普段と変わらなければボールの軌道は変わらない。
まぁ、簡単に言えば考えているだけじゃダメだということ・・・






『貞治はテニスとデータが大好きなんだね』




俺は今、1年のデータを整理しているはずだ。
それなのに、の声が聞こえる気がするのは何故だろう。




集中できない。




パソコンの電源を落とす。
真っ黒いディスプレイに映った自分の顔が目に入る。
眼鏡のせいで表情の判別がつかない。
俺は今、どんな表情をしているのだろうか。






俺が悪いのか?
いや、俺は悪くないだろう。
そもそも「少しデータ整理をしてから」と明言していたのだから。
だって「わかった」と言っていたはずだ。
それなのにどうして・・・・・・






についての予測は外れることが多い。
だが、見当すらつかない事態になるとは。






溜め息を吐いたと同時に腹がなった。
時計を見れば13時。
昼飯時だ。
に閉められたドアの向こうから良い匂いがする。
母親がが来るといって喜んでいたから、
昼飯はそれなりに豪華なのだろう。






『貞治っ! アンタ、ちゃん放っておいて何してるの!!』


母親の怒鳴り声が聞こえてくる気すらする。
たとえ俺が悪くなくとも、絶対にの肩を持つはずだから。










「そりゃ、嫁と姑は仲が良いにこしたことはないんだけどね・・・・・・」








俺は独り言を零してリビングへ向かった。



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