Sweetie.



「七原ぁ」

三村の部屋にあるベッドの上で、壁に凭れて座っている七原は雑誌を
読んでいた。すぐ横にある机に向かってハードカバーの本をぺらぺらと
捲っていた三村は、手を止めて七原を呼んだ。その声に七原は顔を
上げる。

「ん?」
「今日は何の日?」
「・・俺の誕生日?」
「おおっ正解っ!」

三村は大げさに手を叩きながら七原のいるベッドのほうへ体を向ける。
雑誌を傍らへ置きながら、七原は三村に向かうように腹這いになって
ベッドの上で寝転がった。

「ってゆうか、だから三村が俺んち来い、って言ったじゃん」
「あれ?そうだっけ?」
「そうだって。で、何?なんかくれんの?」
「んー、なんかして欲しいこと無い?」
「へ?欲しいものじゃなくて?」
「そ。物じゃなくて、して欲しいこと。今日はサービスしちゃうけどな♪」
「・・お前のほうが楽しそうに見えるんだけど」

わざとらしく大きな動きで体を起こした七原は、胡坐をかいてさっき
までと同じように壁に背を付ける。その様子を見て三村は、まるで
猫みたいだ、と思った。七原は右膝に右肘を付き、右手を握って
その上に顎を置く。

「して欲しいこと、ねえ・・」
「んな真剣に考え込むなって」

言いながら三村は椅子から降り、七原のいるベッドに体を乗せようと
片膝を付いていた。手を伸ばし、その肩に触れようとしたときに七原は
急に顔を上げた。

「あっ!」
「え?」

三村は一瞬驚いて手を止める。

「じゃあさ、押し倒してもいい?」
「は?」
「して欲しいことじゃなくて、させて欲しいことってことで・・」

七原は差し出されたままの三村の手首を掴み、引いた。中腰の三村の
顔を見上げ、にっ、と笑う。様子を窺うように覗く七原の顔を三村は見下ろす。

「・・却下」
「えー、何でだよ!」
「俺は、“して欲しいことはない?”って聞いたの。だから俺に
 何をして欲しいかじゃなきゃだめだ」
「・・へ理屈じゃん、それ」
「言ったことは守ってるだろ?」
「んー・・・」

考え込む七原。三村は少しうな垂れている頭を見ながら掴まれたまま
の左手首を放そうと、空いている右手で自分の手首を掴んでいる七原の
手を取ろうとした。と、その右手も七原は左手で捕らえた。

「・・え?」
「今日さ、俺の誕生日だよね」
「・・・」

すっと目を閉じた七原の顔が近づいてくるのを、三村は黙って見ていた。
手首を引かれるままにキスをする。相変わらずに三村は目を開いた
ままだった。薄く開いた七原の唇が自分の唇を包む感触を感じながら、
中途半端に上げたままになっていた腰を下ろす。ゆっくりと放たれた
腕を七原の首に廻しながら三村は目を閉じた。背中をふんわりと抱く
腕が心地よい。

少しの間、ほとんど触れるだけのキスをしていた。時々啄むように
して七原は三村の唇を包んだが、三村は何もせずにそれを受けて
いた。





「いいの?」

腕を廻したままで薄く目を開けると、少し心配そうな顔で窺う七原が
いた。三村は一瞬だけ笑い、また目を閉じて自分から口付ける。さっき
までのキスとは違い、深く、深い。舌を捻じ込んで、七原の口の中を
好きなように弄る。少し苦しそうに息の上がった七原の様子を見て、
唇を離す。

「・・み、むら?」
「・・・キスで俺のこと感じさせてくれたら、やってもいーよ」

三村は誘うように自分の唇を舐める。促すようにして唇で唇に触れて
やると、七原は躊躇いがちに頬に触れてきた。優しく触れるその手と
唇を、三村は少し焦れったく感じた。内心、もう少し乱暴にしてもいい
のに、と思っていたが、今日は七原の好きなようにさせてやろうと既に
決めていた。

ぎこちなく舌を入れてくる七原はひどくかわいかった。そのまま押し
倒したくなったが、それは我慢する。今日は七原の誕生日。


じんわりと息が上がってくる。差し出される七原の舌は甘く、自然
背中に廻した手に力が篭る。七原の着ているTシャツを掴んでいた
手はキスをしたままで捕らえられ、頭の上で組まれるようにして押し
倒される。離れた唇を目で追っていると、七原は笑う。

「いー眺め♪」
「・・上等」

数度またキスをした後、頬を伝い首筋に触れた指がシャツの裾から
入り込んでくる。背筋がぞくぞくする。やられるほう、ってのは経験が
無いわけではないが、やはり不慣れなために正直言って、少し、怖い。
きつく閉じた瞼にキスが降る。ゆっくりと開くと、七原がふんわりと笑って
いた。つられて笑う。




「・・っぁ」

陽が落ちかけた部屋は薄暗く、ぼんやりとした七原の影が自分の
上にある。苦しむような自分の声がいやに大きく聞こえた。

「・・だい、じょうぶ?」

覆い被さっている七原の背中をきつく抱いているために、その声は
耳元で囁かれていた。はっきり言って大丈夫ではない。痛いし苦しいし
つらかった。けれども丹念に愛撫され、そのつらさも極めて小さいもの
になっていると思う。腕の力を緩め、七原の顔を見上げるようにして
覗く。

「・・っいい眺、め・・・♪」

暗くてあまり表情は読み取れないが、多分拍子抜けたような顔を
しているのだろうと思った。耳朶を甘噛みされ、そこでまた囁かれる。

「上等・・」
「・・ん・・ぁっ」

言葉とは裏腹な優しい突き上げに声を漏らす。部屋は既にほとんど
真っ暗になっていて、もう、目を開けているのか閉じているのかよく
解らなかった。



机の上に置かれたデジタル時計の表示は0時6分。隣で寝ている
七原の誕生日は6分前に過ぎている。

「ああそうか・・」

寝返りをうつ七原の頬に触れながら、三村は1人呟く。

「来年もあるっけ」





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★alice1127様、ありがとうございました! くり坊