"farewell"-2



「……そう。朝からいないと思ったら、カイはリンドブルムに行ってたんだね」
 エーコの言葉だけで、ビビはカイがリンドブルムに行った理由、そしてエーコがここ、黒魔道士の村に来たわけ……すべてを悟ったようだった。
 エーコには、何も言う事が出来なかった。しゃがんだままの姿勢で、彼女は必死で考える。彼に何と言えばいいのか。自分が彼に、何を言いたいのかを。
「ボクらはある日突然止まってしまうって、そう聞いていたんだ」
 ビビはうつむいたままのエーコの横顔をしばらく眺めていたが、彼女のとなりに座ると、やがてゆっくりと口を開いた。
「でも、なんとなく……ほんとになんとなく、なんだけど……感じるんだ。もうすぐだって。いつなのかっていうのは、ボクにもわからないけど。何も言わなかったけど、他のみんなもそうだったのかもしれない」
 帽子を直すしぐさをしながら、ビビの様子はまるで、自分自身に言い聞かせているようでもあった。
「それって」
 本当は、聞くのが怖かった。  相変わらずビビの顔を見ることが出来ないまま、なるべく気持ちを押さえた声で、エーコは続ける。
「ビビも感じてるってことなの?」
「うん」
 彼の答えは意外にもきっぱりとしたもので、その声からは苦しみも恐怖も、悲しみさえも感じられなかった。
 そしてそれを聞いたエーコは、ひざの間に顔をうずめてしまう。
「ねえ、エーコ……」
 その様子に気づいたビビが困ったように首を傾げて、震える彼女の肩越しに言った。
「ねえ、泣かないで……?」
「だって……っ……!!」
 顔を上げたエーコとビビの視線がぶつかる。彼の姿を映すエーコの二つの瞳からは、ますます大粒の涙がいくつもこぼれた。こみ上げる嗚咽を押さえることができずに、それでもエーコは、力いっぱいに叫んだ。
「だってそれって、もうエーコ達と会えなくなっちゃうってことなのよ? ビビは平気なの? ビビがいなくなっちゃうなんて、エーコはそんなのイヤっ!!」
「エーコが泣いてたら、ボクも悲しくなっちゃうよ……」
「エーコだけじゃないわ、きっとダガーだって悲しむわ、泣いちゃうわ! フライヤだってクイナだって他のみんなだって、それにそれに……ジタンが帰ってきても、ビビといっしょにおむかえできなきゃ、ジタンもがっかりするんだからぁ!!!」
 彼女の言葉はすでに絶叫に近かった。エーコは悲しかった。ビビの言葉が、ビビとの別れが、そして自分を押し殺して運命を受け入れているかのような、ビビの心が。悲しくて悲しくて、顔を真っ赤にしながら、あふれる涙に頬を濡らした。

 次の瞬間、エーコは自分の頭にそっとなにかが触れるのを感じて、驚いて顔を上げる。
「……ビビ……?」
 それはビビの掌だった。優しく置かれた小さな掌は、そのままくしゃくしゃと彼女の頭をなでる。
「ボクがクワンおじいちゃんといっしょにいたころ、こわかったり悲しかった時、おじいちゃんにこうしてもらうと安心できたから」
 突然の事に泣くのを忘れてしまったエーコは、恥ずかしそうにしながらも、彼の言葉に口をとがらせる。
「ま、まるでコドモをあやすみたいじゃない」
 エーコはコドモなんかじゃないわよ、と言う彼女に、ビビはそうだねと答えた。ビビがエーコの頭から手を離すことはなかった。
 手袋の向こうからでも伝わる気がする彼の掌の温かさ、柔らかさ。それはきっと、ビビの心そのものなのだろう。だからこんなに安心するんだわ、エーコはそんなふうに思った。

「ボクだって、ジタンが帰ってくるまで待っていたかったよ。だけど……ボクはジタンやみんなに、いつでも会うことができるから」
 エーコが落ち着いてきたことを感じたのか、ビビは静かに話しはじめた。
「おじいちゃんが死んじゃったときに、『ビビ、悲しむことはないアル』って言われたんだ。ボク、だから悲しんじゃいけないのかな、って思ってたんだけど、その時はどうしておじいちゃんがそんなふうに言ったのかまではわからなかった。でも……今ならちょっとだけ、わかる気がするんだ」
 ビビは空を見上げると、続けた。
「エーコとはじめて会ったとき、みんなでマダイン・サリに行ったよね? あの時はボク、自分がどこから来て、どこにいくんだろうって考えたら、からだがふるえたんだ。だけど今は、みんなとの冒険を思いだしたり、この村のみんなのこと考えると、うれしくなって……。ボクの心にみんながいる、たとえ止まってしまうほんのちょっと前だって、会いたいときにはいつでもみんなに会えるんだって思うと、もう、ふるえたりしなくなるから」


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