かすかな、けれども美しい歌声で、ミコトは目をさましました。いったいどこから聞こえてくるのでしょう。不思議に思った彼女は、ベッドから起き上がり、上着を羽織りました。

 真夜中のことです。部屋のランプを持ち出して、同じ部屋で静かな寝息を立てているビビとエーコを起こさないよう注意しながら、ミコトはそうっとドアを開け、廊下に顔をのぞかせてみました。

 アレクサンドリア城内は、しいんとしています。見張りの兵士達が、お城のあちこちを見回ってはいるのでしょう。ですが、遠くから訪ねてきたお客のことを気遣ってか、あたりからは気配ひとつ感じず、物音ひとつ聞こえてきませんでした。

 ただ、あの歌声をのぞいては。

 ミコトは、部屋の外に出ました。目を閉じて、歌声がどこから届くのか、確かめます。ミコトのいた客室から続く、いくつもの扉の並ぶ長い廊下を渡ります。ひんやりした夜の空気に時おり身震いして、やっぱりストールか何か持ってくるべきだった、なんて後悔しながら。

 そしてとうとう、ミコトは石造りの塔をらせん階段の先で、声の主を見つけたのでした。

「起こしてしまった?」
 やって来たミコトに気づいたガーネットは、少し申し訳なさそうに言いました。
「ごめんなさいね。大きな声を出すつもりではなかったのだけど。エーコ達の目も覚ましてしまったかしら?」
「いいえ、エーコもビビもぐっすり寝ているわ。ほんの小さな声だったもの。きっと、私達の部屋にも、風に乗って届いたのだと思う。ここまで来るのにも、注意しないと聞き逃してしまいそうな程度だったし」
「そう。なら良かったけれど」
 あ、と何かに気づいたように口元を押さえ、ガーネットは笑いました。
「どちらにしても、あなたを起こしてしまったのよね、ミコト? ごめんなさいね」
「いいえ、いいのよ。……眠れないの?」
 ミコト達がアレクサンドリアへやってきたのは、クイナからの手紙がきっかけでした。ジタンがいなくなってからというもの、ガーネットがずっと塞ぎこんでいるようだからと。当たり前のことかもしれないけれど、そばで見ているのは辛いアルと悩むクイナに、少しでも元気がでるのならと、エーコはビビとミコトを連れて、アレクサンドリアにやってきたのでした。
「ええ。きっと、あなた達が訪ねてきてくれたからだと思うわ。嬉しくて、目が冴えてしまったのね」
「……いつも眠れてないのじゃないの?」
 ミコトの言葉には答えず、ガーネットはさみしげに微笑むだけでした。

「わたしね、嬉しいときや悲しいとき、この歌を歌うの。幼い頃からずっとそうなの。嬉しい時には、自分の幸せがますます特別なものに感じられるわ。悲しい時には、少しだけ、気分が慰められる気がするの。ミコトは歌は好き?」
 わからない、とミコトは答えました。歌ったことがないから、と続けると、ガーネットはにっこり笑いました。
「じゃあ、教えてあげるわ。黒魔道士の村のみんなに歌ってあげれば、きっと喜ぶわよ」
 こっちへいらっしゃい、と、ガーネットは自分の座っているベンチをミコトにすすめます。促されるまま、ミコトはガーネットの隣に腰を下ろしました。
「まず最初はね……」。

 嬉しかったのか、それとも悲しかったからなのか。ガーネットが歌っていた本当の理由を、とうとうミコトは訊けずじまいでした。

 けれども、もしも悲しくて歌っていたのだとしたら……。

 その悲しみを少しでも和らげることができるならという願いを、ミコトは歌のなかに込めたのでした。




"子守唄" Mikoto & Garnet / 緋未 /2005.Apr.


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