背比べをしてみると、ちょっとだけ負けているのがくやしくて
『ほうら、やっぱりあなたのほうがちびじゃない』
ついっとつま先立って、バランス保てずぐらぐらしながら声だけは得意げに
うん、そうだねと笑ってくれるあなたはあたしよりずっとずっとオトナで
そうとも知らず得意げに威張っていたあたしは間違いなくとても幸せな子供だった
タンタラスのアジトをのぞくと、入り口から背を向けたブランクがアイアンソードの手入れをしていた。
「ジタンならいないぜ、エーコ。朝早くアレクサンドリアに出発したからな、ちょうどあっちについてる頃だろ」
声をかけるより先に、こちらを振り向くでもなく言われてしまって、驚いた。気配で感づいたのだろう。さすがタンタラスの一員といったところだ。
「いいのよ、ジタンに会いに来たわけじゃないもの。ねえ、みんな出かけているの? ルビィは? シナさんもいないの?」
「ルビィは買出し。シナは荷物持ちでルビィのお供」
「今夜はクリスマスディナーなのね」
「ああ。ルビィは張り切ってるよ」
「マーカスは?」
「黒魔道士の村。で、ボスがシド大公に呼ばれて、お前の城(いえ)だ」
「ええ。さっきリフトのところで会ったわ」
おおうチビ姫さん、お出かけかい。この寒いのに元気だよなあガハハハですって。レディに向かってチビだなんて、デリカシーってものがないったら。まいってしまうわ本当に。
「それで、ブランクは?」
「俺は薪を買いたしに行ってて、今戻ってきたところだよ。この寒いのに、万一きらしたら大変だからな。今夜から明日まで、ほとんどの店が閉まっちまうし」
「そうよね。ルビィに大目玉もらっちゃうものね」
「何言ってんだ」
食事のおしまいに出されたデザートに、思わずわあっと歓声をあげた。ケーキのまわりにたくさんぬられたクリームは、一日あそびまわったお外の白い雪のようだった。まあるいケーキの上にちょこんと乗っているのは、おおきなとんがり帽子を被った男の子と、頭にちいさな角のある女の子。二人は楽しげに顔を見合わせ、仲良さそうにほほえんでいた。
「自分では、うまくできたと思うんだけど。どうかな、ビビ君、エーコちゃん?」
ナイフを持った288号さんはにっこりしながらたずねてくれる。さあ、どのあたりを切り分けようか?
「大きく切ってね288号さん。それからエーコ、このお人形も食べたい! だってとってもかわいいんだもの!」
「ありがとう、エーコちゃん」
「ビビにはこっちの男の子を。ねえビビ、そうしましょうよ」
やり取りが終わるとようやくブランクは体をひねり、エーコと目を合わせた。
「入らないのか?」
ぴゅうっと冷たい風が吹き抜け、エーコは体を縮こませた。あたれよとブランクが勧めてくれた暖炉はオレンジ色の炎がうっとりするほど美しく、魅力的であったけれど。
「ありがとう。でも、劇場街に来るついでに、あいさつに寄っただけだから」
「劇場街に? 今日はどこの劇団も、芝居はやってないだろ」
「ううん、そうじゃなくて、ツリーを見に」
毎年クリスマスの時期に大劇場の前に飾られるツリーは、リンドブルムの名物だ。天辺の星飾りが見えないほどの大きなもみの木で、普段は芝居に興味が無い人間も、こぞって劇場街を訪れる。ツリーにまつわる、いろんな噂のせいだった。いわく、ツリーの下で愛を誓い合う恋人達は必ず幸せになれるだとか、ここでサンタクロースにお願いすれば、翌日には枕元に望みのおもちゃを見つけることができるのだとか。
「お前もオモチャがほしくてサンタクロースにお願いしにきたのか?」
「エーコはそんなに子供じゃないわよ失礼ね!」
毎年すてきなプレゼントをくれてたサンタクロースの正体くらい、もうとっくに知ってるんだから!
いぃーだっとそっぽを向いたが、こんな時には決まって笑われるのだ、こちらは真剣だというのに。
サンタクロースに会いたくて、エーコとビビは夜更けまでがんばって起きていた。いつ頃来るんだろう、はじめましてよりメリークリスマスって言ったほうがいいのかしら、でもこんな遅くまで起きているなんてって、叱られたりはしないかしら?
隣り合わせのベッドの中でひそひそ話をしているうちに、どちらからともなく眠ってしまった。目が覚めたのは、お日さまの昇ってずいぶんたった後でのことだ。起こしに来てくれた288号さんと24号さんに、おはようお寝坊さん、朝食のしたくが整ったよとからかわれた。
「すっごーい! エーコのほしかったリボンがちゃあんと入ってる! しかもモグのぶんも!」
「ボクのもだよ、エーコ」
挨拶もそこそこに跳ね起きて、エーコは枕元にかかった靴下の中に手を入れた。望みのものを見つけたエーコは、ビビといっしょに声を弾ませた。
「サンタクロースってすごいのね、何でも知っているのだわ! ああ、会ってみたかったわ。ねえ、ビビ」
「うん。白いおひげの、おじいさんなんだよね」
「エーコが思うに、おひげってきっと、シドのおじさんみたいなのよ。それで、みんながほしいものを知ることができちゃう魔法を使うの」
24号さんと288号さんは、くすくす笑ってエーコ達の話を聞いていた。
「そうだね。シド大公が持っている飛空艇のような大きなそりで、子供達にプレゼントを配ってまわるんだろうね」
「ね、二人はサンタクロースに会ったことがあるの? ね、24号さん、どんな人なの? エーコたちにも教えてちょうだい」
「うーん……。ひ、ひみつ、かな」
「ずるぅーい!」
――ほら、やっぱり。
むくれながら振り返ると、肩を震わせているブランクがいる。
「ああ、悪い悪い。そうだな、エーコはオトナだもんな」
腰に手を当てひとにらみしたら、さらりと水に流しましょう。くくくっと含み笑いのブランクを、許してあげるのもレディの務め。
「みんなが来たら、もう一度寄るわ。……ああ、ブランク!」
大劇場へと向かう前に立ち止まり、そうそうこれを言うために、エーコはアジトに寄ったのだから。
「クリスマス、おめでとう!」
「クリスマスおめでとう、エーコ。後でまたな!」
ブランクに手を振って、アジトの大時計に目をやった。時刻は待ち合わせの三分前。劇場に続く螺旋階段を下りきる頃には、ちょうど時間ぴったりになる。
――急がなくっちゃ。みんな、先に来て待っているかしら? この寒空のなか、待たせちゃったらかわいそうだわ。
地竜の門で落ち合えばいいものを、強引に集合場所を変更したのはエーコだった。だってツリーの下で待ち合わせって、なんだかオトナな気がしない、と。
――だけど、もし遅刻なんかしたら、しかりつけてやるんだから!
マダイン・サリを離れて初めて過ごしたクリスマスから、数年が経過した。背が伸びて、髪も伸びた。いろんな人と出会い、いろんな人と別れた。これから先12月24日が訪れても、あの日と同じイブを経験することはない、もう二度と。
けれども、エーコは忘れることはない。クロマの村で長く門番を務めてくれたミスター・スノーマンの名前も、かけがえのない友達のことも。この先何度クリスマスが訪れても、ずっと、ずぅっと。
「楽しかったわ、みんな、どうもありがとう。ねえ、来年もこうして、いっしょにクリスマスをおいわいしましょうね?」
エーコが言うと、ビビは黙り込んだ。288号さんもみんなも、困ったように笑うばかりだった。
「……エーコ。ボクもとっても楽しかったよ。でね、お願いがあるんだ。来年もその次の年も、エーコはずっとずっと、クリスマスを楽しんでほしいんだ。うまく言えないけれど、今日のことを思い出して、悲しくなったりしないでね」
エーコははっとして、息をのんだ。ごめんなさい、は言ってはいけない。
「こんなに楽しい日を思い出すのに、どうして悲しくならなきゃいけないの? へんなビビ」
精一杯の強がりは、あまりうまくいかなかった。窓のところまで駆け寄ってお迎えはまだかしらと見上げた空は、青く澄みきっていて、綺麗だった。
吹き上げる冷たい風に、エーコは瞬きを繰り返した。おかげでちょっぴり涙がでたが、ほおに伝わるほどではない。すんと鼻をならし、マフラーに顎をうずめて、足を速める。階段を下りきってすぐ、深い常緑の大木を見つけた。赤、金、緑のオーナメントで飾られたその木の下の、とんがり帽子を被った男の子たちも。
涙はとっくに乾いてしまった。
「みんな!」
エーコは大きく手を振り、声を張り上げる。
「クリスマス、おめでとう!」
さあ、今年もイブを楽しみましょう。
BACK BACKtoSTORIES BACKtoINDEX