いつもと変わらない平日。 いつものように家を出て、桐夏と並んで学校へと歩き出した。 恭祐 『そう言えば今日だな』 桐夏 『うん、今日だね。恭祐君は何か用意した?』 恭祐 『…それがまだ何も』 桐夏 『駄目だよ、今日の帰りまでには何か考えておかなくちゃ』 恭祐 『そうだな。帰りまでには何とかするよ』 桐夏 『うんうん』 と、笑顔で桐夏と話しながら少し歩いていくと、後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。 綾  『恭ちゃーん!!』 恭祐 『まずい、綾だ!』 桐夏 『う、うん!』 その声に俺達は過敏に反応し、一端会話を途切れさせる。 綾  『おはようございます!二人とも』 恭祐 『よ、よう綾』 桐夏 『お、おはよう綾ちゃん』 だが、我ながら返す言葉が少しぎこちなかった。綾もそれに気づいたようだ。 綾  『……?どうかしたんですか?』 恭祐 『いや、なんでもない』 桐夏 『う、うん。なんでもないよ』 綾  『むぅ……?まぁいいけど…』 訝しげに俺達を見る綾だが、それ以上俺達を追及してくることはなかった。 そしてそのまま綾も一緒に、俺達三人で並んで学校まで向かった。 ……… そして時間は経過し、昼休み。 恭祐 『それで達也。お前は何を用意したんだ?』 達也 『任せろ。完璧なものを用意してある。抜かりは無い!!』 恭祐 『そ、そうか。ならいいけどさ』 異様なまでの達也の意気込みに少し戸惑いながら、カレーを機械的に口に運ぶ。 何でも今日は「カレーデー」とか言う日で、カレー絡みのメニューが半額になるという夢のような日だった。 桐夏 『私ももう準備は出来てあるよ。あと準備してないのは恭祐君だけだよ』 桐夏もカレーうどんをすすりながら、少し厳しい目で俺を見た。 達也 『人のこと言う前に自分の心配したらどうだ?』 カレーが安いのに、それでも素うどんをほお張る達也。 恭祐 『わ、わかってるけど…一体何をしたらいいのか悩んでるんだよ』 涼子 『相変わらず優柔不断だな、お前は』 カレーデーなのにも関わらず一人でサイコロステーキを食べている先輩が、俺を指すように見つめる。 カレーは半額で200円、ステーキは1500円だぞ…? 恭祐 『とにかく、帰るまでにはどうにかしますから…今は勘弁して下さい』 涼子 『お前だけ何も無し、なんて事態になってみろ。それこそ可哀想だろう』 と、先輩は続けて俺に釘を刺したとき。 綾  『あれ、食堂に皆揃ってるなんて珍しいですね』 一人だけ欠けていた綾が、俺達と同じ机に座る。 恭祐 『あ、ああ。今日はたまたま皆揃ってるみたいだ。ねぇ先輩?』 涼子 『え?あ、ああ。そうだな。たまにはこういうのもいいだろう?麻生』 綾  『そうですね。皆で揃ってご飯食べるのは楽しいですよね』 桐夏 『………』 ……… そして、ついに放課後。 達也 『いいか?お前が連れてくるんだぞ!!』 恭祐 『わかってるって』 桐夏 『それじゃよろしくね、恭祐君』 桐夏と達也は一足先に帰り道を歩んでいく。 俺はそれをゆっくり見送りながら、桐夏達とは別の方向へ歩き出した。 恭祐 『とっとと買い物済ませて迎えに行かないとな…』 俺の足の向かった先は、商店街だった。 ……… 恭祐 『結局大したものは選べなかったな…』 俺は少し大きめの袋と、小さな包装された箱を手に、校門前へと戻ってきた。 そろそろ陸上部の練習も終わる頃かな… そう思ってグラウンドの方へ目を向けると。 綾  『あれ、恭ちゃん?』 恭祐 『おっ、来たか』 ちょうど綾が俺の前までやってきたところだった。 予想しなかった俺の姿を見つけた綾は、目を丸くして驚いている。 綾  『なんでまだ学校にいるの?それに大きな袋まで抱えちゃって』 恭祐 『ああ、ただの荷物だよ。それよりせっかく綾を待ってたんだ。帰ろうぜ?』 綾  『………』    『……うん!!』 ……… 綾  『でも、なんで今日は待っててくれたの?いつもはさっさと帰っちゃうくせに』 学校からの帰り道。 近頃は日も長く、もう結構な時間なのにも関わらず太陽はまだ大地を照らしていた。 綾  『まさか何か企んでるんじゃないでしょうね…?』 相変わらず怪訝そうな面持ちで俺を見ている綾。 恭祐 『人聞きの悪いこと言うなよ。俺の好意を反故にする気か』 綾  『そんなんじゃないけど……』 勘の鋭いやつだ、と内心ドキドキしながら歩き続ける。 しばらく歩いていくと、ふと綾が、思い出すように言葉を発した。 綾  『そう言えば、恭ちゃんだけじゃ無くて桐夏さんも達也君も、涼ちゃんまで少し変だったよ?恭ちゃん何か知ってる?』 恭祐 『…そうか?俺にはそうは見えなかったけど』 綾  『そうかなぁ…?綾の見間違えなのかなぁ……』 どこまでも勘の鋭いやつ…!! 俺はまるで茨の道を進んでいくような気持ちで帰宅を歩んで行った。 ……… そして俺と綾の家が見えてくる。 綾  『それじゃ綾は帰るよ。じゃね、恭ちゃん!』 すると綾は、一目散に家へ帰ろうと駆け出してしまう。 ここで帰られたら、いちいち帰り際に待ち伏せしてエスコートした意味が無くなってしまう!! 恭祐 『ちょ、ちょっと待て綾!!』 俺は慌てて綾の手を掴み、引き止めた。 綾  『ん?どうかしたの?』 恭祐 『今日、ちょっと俺ん家に寄ってかないか?』 綾  『恭ちゃん家に?』 恭祐 『ああ。……俺、暇だからゲームでも付き合ってくれよ』 とっさに引き止める理由をこじつけて、綾を誘う。 綾  『ゲーム?恭ちゃん、綾とゲームしないって言ってたじゃん』 恭祐 『う……し、仕方ないだろ?綾しか相手がいないんだから』 綾  『ん〜……ちょっとだけだよ?』 恭祐 『よかった…じゃあ来てくれよ』 綾  『うんっ』 よしっ!! 恭祐 『じゃあ、先にドアを開けてくれないか?』 綾  『………?…うん』 何とか綾を誘うことに成功した俺は自宅のドアノブを綾に捻らせた。 そして綾がノブを捻ってドアを開けると… 綾  『わぁっ!?』 一斉にクラッカーの弾ける音が響き渡る。 そして玄関口で待ち構えていたのは… 綾  『桐夏さん、涼子さん、達也君まで!?』 桐夏 『お誕生日おめでとう、綾ちゃん!!』 涼子 『おめでとう、麻生』 達也 『今年は盛大に祝うぜ!!綾ちゃん!!』 綾  『み、みんな…どうして…?』 桐夏 『今日は綾ちゃんの誕生日でしょ?皆でお祝いしようって決めたんだよ』 満面の笑みで綾を迎える桐夏。 涼子 『せっかくの誕生日だ。皆で祝ってやろうと桐夏と恭祐が提案したんだ』 少し恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに綾に微笑みかける先輩。 達也 『去年まではロクにパーティもしなかったしさ、今年は盛大にやろうって決めたんだ』 爆発寸前までに顔を膨らませて喜びを表現する達也。 恭祐 『……おめでとう、綾』 そして俺も、みんなから一言遅れながらも祝辞を送った。 綾  『恭ちゃん……』 俺に振り返った綾の瞳からは、笑顔の中に大きな涙を湛えていた。 ……… やがて俺が用意した大きな袋からケーキを取り出すと、賑やかに綾の誕生会はスタートした。 そして桐夏と先輩が用意しておいてくれた食事を食べたり、達也がどこからか持ち出したシャンパンで乾杯をしたりして、場は次第に盛り上がっていった。 ……… そして盛り上がりも一段落し、みんなが落ち着いてきた頃。 桐夏 『はい綾ちゃん、これプレゼント』 桐夏が綺麗に包まれた袋を綾に手渡した。 綾  『わぁ……そんなプレゼントまで用意してもらって…ホントにありがとうございます!!』    『本当にもらっちゃっていいんですか?』 桐夏 『もちろんだよ。綾ちゃんに喜んでもらえるといいんだけど……』 綾  『え〜っと…その……開けちゃってもいいですか?』 桐夏 『うん』 そして綾が期待に満ちた表情で包みを解いていくと… 綾  『わぁ……可愛い服…ありがとうございます…!!』 まるで花が咲いたように笑顔を浮かべる綾。 涼子 『それと…私からも。つまらないものだが』 それに続くようにして、先輩も箱を手渡した。 あまり派手でない包装が、先輩の性格を窺わせる。 綾  『涼子さんも……ありがとうございます。開けても…』 涼子 『ああ、いいぞ』 そして次なる期待に満ちた瞳で、包装を解いていく。 その中身は… 綾  『あっ、シューズだ!!』 中から顔を覗かせたのは、陸上競技用のシューズだった。 綾  『いいんですか…?こんな高価なものもらっちゃって…』 涼子 『ああ。せっかく麻生のために用意したんだ。もらってくれ』 綾  『ありがとうございます…大事に使いますね!』 綾は、もうこれ以上ないというくらいの笑顔を浮かべて、喜びを露にしている。 俺も手渡すなら、今しかないよな… 恭祐 『綾、みんなすごいものあげてるから俺のは大したこと無いかもしれないけど…』 そう言いながら、さっきの小さなほうの箱を取り出して綾に手渡した。 綾  『恭ちゃんも…あ、ありがとう…』 綾は少し手を震わせながら、俺の手から小箱を受け取った。 綾  『開けていい…?』 恭祐 『もちろん』 そしてゆっくりと綾の指が包みを解いていく。 その包装が解け、そこから顔を覗かせたのは… 綾  『新しい髪留め……?』 恭祐 『悪かったな、そんなチンケなものしか用意できなくて…最後まで悩んだんだけど…』 俺は少し居たたまれない気分になりながら、頭を掻いた。 綾  『そんなことないよ…』 しかし綾は、顔を赤らめながら俺を見上げた。 綾  『恭ちゃんが…また髪留めをくれるなんて思ってなかったから……凄く嬉しい』 「また」というのは、今綾つけている髪留め。これも以前俺が、入学祝いにあげたものだった。 綾  『すごく…嬉しいよ……』 そして綾の双眸からは…一筋の涙が伝って、落ちる。 恭祐 『お、おいおい。泣くことないだろ?』 綾  『ご、ごめんなさい……だって…だって…こんなに嬉しいの初めてで……』 涙を流す綾の肩に手を置いて、俺は優しく声をかけた。 恭祐 『そういうときは泣くんじゃない。笑顔で「ありがとう」って言うんだ』 綾  『……恭ちゃん…』 そして綾はぐっと涙を拭うと、明るい表情で… 綾  『ありがとう、恭ちゃん、みんな……!!』 みんなの心を明るくする声で、そうお礼を言った。 ……… 恭祐 『ところで達也は何をあげるんだ?』 すっかり忘れ去られるところだった達也のプレゼントのことを思い出し、口にする。 すると達也は不気味な笑い声を上げながら俺達に近づいてきた。 達也 『ふっふっふ…どれほどその一言を待ちわびたか…』 桐夏 『た、達也君、なんだか怖いよ…?』 涼子 『なんだか不気味…だな』 達也は後ろでに何かを隠しながら綾に歩み寄っていく。 綾は半ば逃げ腰で、近づいてくる達也を享受しているようだった。 綾  『た、達也君……』 達也 『はい綾ちゃん、これは俺からのプレゼントだ!!』 そして達也は、案外普通の小箱を取り出した。 綾  『まさか爆弾でも入ってるんじゃ……』 達也 『何言ってるんだ綾ちゃん!!俺の誠意を裏切るのかい?』 綾  『そ、そんなことないけど…じゃあ開けてもいい?』 達也 『おう、存分に好きなだけ開けたまえ!!』 一回開けたらもう開けようがないよな…などと思いつつ綾の手の動きを目で追っていく。 綾  『開いたっ』 そして綾が中から取り出したものは… 綾  『ん?何コレ?』 親指の先ほどの大きさで、楕円形をしたピンク色のプラスチックのような物体。そこから一本のコードが延びていて… 綾  『何コレ?一体何なの?達也君』 そう綾が言う頃には、俺は達也の首を締めていた。 恭祐 『貴様……一体何を考えて綾にあんなものを……!!今日という今日は一回死ぬか!?』 達也 『ま、待て恭祐!!穏便に話し合えばわかる!!』 恭祐 『うるさい!!死なすっ!!』 俺は達也の首を締め上げる握力を更に上げていく。 するとそこへ、のん気な桐夏と綾の声が届いてきた。 桐夏 『でもコレ、本当に何なんだろう…?』 綾  『気になりますね。涼子さんは知ってますか?』 涼子 『えっ?あ、いや、わ、私も知らないな。何なんだろうな、それは』 ……知ってるな、先輩。 と、先輩達に気を取られた隙に達也から腕を解かれる。 達也 『はーっ、はーっ、ほ、本当にあんなものを送る気は無かったんだ!!間違えたんだ!!』 恭祐 『ほぅ…?どこをどう間違えたらあんなものを包装できるのかな、君は』 達也 『違うんだ!!実はあのプレゼント、生徒会長の水野白露さんに送ろうと思ったんだ!!』 恭祐 『は?水野先輩に?』 達也 『綾ちゃんには、本当は親の結婚指輪をあげようと思ってたんだけど…箱を間違えたんだ…!!』 恭祐 『親の結婚指輪をプレゼントするなよ…お前は…それと、白露さんにあんなものを送ろうとしたのは何故だ…』 達也 『いや、広陵学園の人気ランキング一位、高嶺の花の白露さんに俺のことをアピールするには、強烈なインパクトを持ったプレゼントをだな…』 恭祐 『…やっぱ氏ね、お前』 無数の突きが達也の体に突き刺さる。 達也 『ぅわらば!?』 …高所から落下したような悲鳴を上げて、達也は動かなくなった。 恭祐 『貴様のことを一番知らなかったのは、貴様自身だな!!』 ……… TPC番外編、終了