犬なのか人間なのか

※やっつけですので色々許してください




家の垣根を綺麗に切り揃えていた。もちろん、そう命令したのは姉さん。
基祐「あちいだりい死ぬう、てゆーか殺せ」
今日も今日とて猛暑日。死ぬほど暑い。比喩ではなく、本当に死人が出る暑さである。
ぱちり、ぱちりと小枝を切り落としていく。それと大して変わらない数のしずくが、俺の体中から零れていた。わかりやすく言うと、滝のような汗というやつ。
「逃げやがるしよお、静のやつも」
多分神社にでも行ったんだろう。あそこだけは若干涼しい。木陰が多いから。
ということで、俺だけ一人、道路脇に立って作業をしていた。ああだるい。

その時である。

夜「あら、いらっしゃい」

垣根の向こう(母屋の玄関のほうだ)から姉さんの声が聞こえた。
視界一杯の枝葉なので見えないが、どうやら来客らしかった。
まぁ姉さんに任せときゃいいだろう……ちょきちょき。

「よく来るのね。そんなにわたしに会いたいの?」
ちょき、ちょき
「きみみたいなかわいい子なら、いつでも歓迎よ」
ちょき、ちょき?
「ごはんにする? お風呂にする? それとも……なっちゃって。くすっ……」
ちょ、ちょ……?
「あっ、やん、駄目だってば、こんなところで……!」
ちょっ!?

なっ、なんだ、犯ってんのか!?

「姉さん!!」

俺の目の届くところで手を出そうたぁ、ふてぇヤローだ。上等じゃい!
「つーかなんで姉さんそんなヤツにいいようにされてるんだ俺というものがありながらもしかして俺に不満でもあったのか最近仕事疲れでしてなかったし愛想尽かされたのかだとしたらどうしよう俺が悪いのかいやでも今は静もいるしそれどころじゃないような気もするんだけどしかし事実はこういうわけだし今から俺に一体なにができるなにもできないじゃないかせいぜい誠心誠意謝って本心をわかってもらうしか──」
怒りに燃えつつ玄関に向かいつつも、心の底ではそんなことを思う。顔色が青くなったり赤くなったりを繰り返していたことだろう。

──で、真相は。

「駄目だってばキスケ、そんなところでオシッコしちゃ!」

「……俺はしてねーぞ、んなこと」
「あら、基祐」
「それはナニ?」
「これは犬よ?」

玄関先にいたのは、小汚え犬だった。

「その犬がナンだって?」
「キスケ」
「俺がなんだって?」
「あなたは垣根を切ってたところでしょ」
「いやだから違……もういいわ」

もう話は見えてんだから、素直に訊こう。単刀直入。

「ソイツがキスケっつーの?」
「そ。かわいいでしょ、あなたと同じ名前」
「なんでよ?」
「そう呼ばないといい子にしてくれないんだもの」
「なんで?」
「キスケに訊いて」

犬に訊け、と言われたので訊いてみた。

「なんでだよ、犬野郎」

ぱくっ

「いてえ噛まれた!」
「そういうことなの。キスケって呼ばないと怒るのよ、その子」
「公害みてーな犬だな、チクショウめ」

ぱくっ

「いてえまた噛まれた! っのやろ……!」
「あ、逃げちゃった」
「捕まえて保健所に送る! 必ずだ!」

だっ!

「キスケを追って基祐まで行っちゃった。
……基祐がいなかったら誰が庭のお掃除するの?」


「たしかこの辺に……」
犬が駆けてきたほうに、一瞬遅れて俺も到着する。
神社の裏側である。なんでこんなところに?

「お、いたぞ」

向こうにある小さな小屋の影に、犬が入り込むところを確かに見た。
捕まえたらどうしてくれようか。犬鍋にしてくれようか。

そろりとその小屋の影を覗き込むと。

静「おかえり、キスケ!」

「っ!?」

危なく吹き出すところだった。なんで静がこんなところに居やがんだ。

「夜さんの前でオシッコしてきた?」

犬は頷いた。意思の疎通が出来てるらしい。方法は知らん。バウリンガルだろ。

「そう、偉い偉い。じゃあ次は……山入端さんちの前で、大をしてくること
そうやっていつかは、町中に「キスケ」の悪名を轟かせるのよ!」

犬は首を振った。そんなマナー違反なことは出来ないらしい。

「出来ないならまた野良犬に戻すよ! いいの? 保健所の人に追われる毎日に、逆戻りするんだよ?」

がくがくと震える犬。そして恐怖に負けるように、小さく頷いた。

「じゃあ行ってらっしゃい。ここで待ってるからね」

犬はどこかに走っていった。多分山入端さんちのところだろう。

「よお」
「あ……キスケ、じゃなくて基祐さん^^:」
「川に沈めてやろうか? 貴様には水底が似合いだ」
「ひい!」
「それが嫌なら犯してやる!」
「それもイヤぁ! たっ、たすけてぇー!」


──夕飯時。

神瀬家には三人分の皿が、食卓に並んでいた。

夜「もぐもぐ」
静「もぐもぐ」
犬「もぐもぐ」

ちなみに、そのうち一枚は犬用である。

夜「──なんでキスケがいて基祐がいないの?」
静「強姦未遂で、山入端さんが捕まえて説教してます。あと、犬のフンの不始末のことも」
「作戦は大成功したのね……」
「いい気味です! あぁいいことをしたあとはご飯が美味しいなあ」
「でも、そこまですることもなかったんじゃ……?」
「なくないですよ。人のお風呂覗いといて、言うに事欠いて「どこでもドアが……!」ですよ? わたしは「もび太さんのエッチ!」とでも言えばいいんですか?」
「……なんてコメントしたいいのやら」
「わんわん」


かくして犬が住み着くことになり、紛らわしいことこの上ない日常生活が始まるのだった。
なお、この犬の存在は今後、かなり変更される可能性があることを付記しておく。名前とか、犬じゃなくて猫とか、そもそもいなくなるとか。
ソーイチローサンとか思ってはいけない。間違ってもだ。



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