※やっつけですので色々許してください
祐一『エリス』
エリス『ん、なぁに?』
持っていた料理雑誌にえんぴつをはさんで、パタリと閉じるエリス。
『早口言葉です』
『はい?』
『いいか、こうだ。「にゃんこ、こにゃんこ、まごにゃんこ」』
『……いきなりどうしたのゆういち』
『いいからやってよ。ほらほら』
『やーよ、めんどくさい。夕飯のメニュー考えてるんだから、ジャマしないで』
エリスはけだるそうにそっぽを向くと、テーブルに置いた本をまた開いた。
──帰ってきたエリスは肉体的にも精神的にも大人になっていて、最近はよく晩飯の世話をしてくれる。ちゃんとバランスなんかも考えてるようで、以前と比べたら、まさに天地の差だ。
それはいいのだが、前より大人になったせいか、逆に幾分か無邪気さが失われたように見える。
あぁ……昔の、俺の言うことに何でも頷いてくれるエリスは何処へ?
それこそ犬らしく、穴を掘れと言えば進んで後ろ足で掘削し、飯の支度をするだけでよだれをたらたら垂らす、あの姿は?
『晩御飯、動物らしくねこまんまにするよ?』
『聞こえてたの?』
『もちろん』
「……いいから言ってみろよ。「にゃんここにゃんこまごにゃんこ」を、パパッと三回復唱。さんはいっ」
「えー……? なんでそんなことエリスが……」
「いいからやれっ!」
「むぐ……」
「じゃ、じゃあいくよ?」
「よし!」
「にゃんここにゃんこまごにゃんこ、みゃんここみゃんこまごみゃんこ、まんここまん──!?」
「やったーーーーっ!」
「なっ、なに言わせるのよ、ゆういちのバカ!」
「いや、最近お前の口から卑語を聞いてなかったからな……」
「はい……?」
「俺は嬉しいぞ。実に嬉しい。そして高まってきた!」
「なにが!?」
「そりゃあお前、ナニってナニに決まってるじゃないか。よし、今の一言で三回はイケる!」
「えぇ!?」
「それじゃ、俺は急用が出来たから。部屋には入らないでくれよ。じゃあな!」
バタンッ
「……たっ、大変だ! ゆういちが脳幹爆発起こしちゃった!
お、お医者さん行かなきゃ! ……でも、あんな狂人みたいな姿、人には見せられないし、うーん……
……しょうがない、ここは黒田さんに連絡してみよう。あの人なら秘密裏に処理してくれるはず……!」
翌日、黒田と一緒に祐一の部屋に入ってみると、ティッシュの山の中で悠然と寝ている祐一が発見されましたとさ。
・その二
その日祐一君は、神楽坂さんのお宅で夕飯をご馳走になっていました。
そして食後のひと時。
「神楽坂さん。早口言葉です」
「はい?」
「にゃんここにゃんこ略、です。言ってみてください」
「は、はぁ……それじゃあ」
ちょこんと居住まいを正して深呼吸する零を見て、祐一は(あぁ、やっぱりこの人は扱いやす……もとい、素直だな)と思った。
「いきますよ?」
「はい(ト゛キト゛キ)」
「すぅ──」
「にゃんこ、こみゃんきょ、まぎょっ!」
「……」
「ご、ごめんなさい、わたし、そういうの苦手で……」
「いやまぁ、苦手なのはわかってましたけどね、正直」
「はい……?」
「しかしその段階で噛まれると、いじりようがない」
「あのぅ……」
するとその時、後ろで二人の姿を傍観していた壱が流れに乗ってきたのである。
「にゃんこ、こにゃんこ、まごにゃんこ、まんこ、こまんこ──って、あぁ間違えた。ちぇっ」
「……」
「なんだ。なに見てやがる」
「男に言われてたって……」
「ん?」
「男に言われたって、嬉しくねえんだよぉーーー!」
「あっ、祐一さん!?」
二秒と経たずに、祐一の姿は豆粒よりも小さくなってしまった。
「よく二秒とか言うけど、絶対嘘だよね」
「そういうことは言わないほうがいいわよ、壱……」
・その三
「久しぶりだな、桜木の部屋に来るのも」
鍵を差し込んでドアを開ける。
だが、勝手知ったる同居人、というわけではない。断じてない。
春乃に、部屋に来るように電話で言われたのだが、不在のときはポストの鍵で勝手に入ってくれ、と言われていたのだ。
突っ込みどころ満載過ぎて困る。普通、不在だからって男に鍵の位置を教えるか? とか、そもそも不在のときに人を呼び寄せるか? とか、主人不在の部屋に男を入れるのか? とか。
「俺が一番ツッコみたいのは、春乃の穴だけどなッ!」
おっといかん。本音が漏れたようだ。
とにかく俺は気を静めて、見慣れた作業場の中で主人を待つことにした。
ガチャッ
「おっ、帰ってきたか」
急いで玄関の前に駆けていき、ドアが開いていくところをすら、まるで秘所が開いていくかのごとく凝視する。
「おかえりんこ」
「──」
春乃は俺の挨拶を聞いて、一瞬、ぽかんと口を開け、次に俺の姿を満遍なく見た。
そして、こう答えた。
「ま○こ」
「……え?」
「なに? 言って欲しいんでしょ? ただいま○こ。ほらほら、ま○こま○こ」
「くっ……!」
「ほーら、あんたの大好きなま○こがついてる女の子が帰ってきましたよー。耳にタコができるほど聞かせてあげる。ただいま○こ、ま○こま○こま○こ」
「ぐぐっ……!」
「ま○こ、ま○こる、ま○これば、ま○こるとき、ま○これ」
「──っ!」
「ま、負けた……」
「勝った!」
なんで勝ち負けっていう概念が存在するんだろう?
ところで、俺はまだ春乃の部屋にいる。
そう、あの早口言葉を試すために!
ちなみに今は、またしても同人誌の執筆作業中だ。
ただし以前とは構図が逆で、俺がメイン、春乃がアシスタント。
題材は、もちろん「落葉の夏」だ。
そしてもちろんおねえちゃん陵辱モノだ。
男がたくさん出てくるシチュエーションだと春乃も燃えるらしく、二人で紙から煙が出そうな勢いで絵を描いている。やはり同人はいい……同人は……。
小休止の間、俺は早速さっきの早口言葉を切り出してみた。
「それを言えばいいの?」
「そうそう」
「ふーん……なんかたくらんでんじゃないの? さっきの仕返しとか」
「んな下らんこと、一々根に持たんって」
「そう。じゃあ……」
春乃は軽く息を整えて、指を三本立てた。三回復唱するからだろう。
そして。
「にゃんここにゃんこまごにゃんこ、にゃんここにゃんこまごにゃんこ、にゃんここにゃんこまごにゃんこ」
指をサッサッと折りながら、スムーズに言い終えた。
「……」
「それで、この後どうするの?」
「そ、それは……」
「こ、ここはなんでしょう?」
ひじを指差しながら言ってみる。
「ひじ。……あのね、それをやるなら「ピザ」でしょ?」
春乃は完全に呆れた様子で、椅子の上(つまり高所)から床の俺(つまり低所)の俺を見ている。
「なっ、なんで噛まないんだよっ」
「なんでって……そりゃ、仕事柄?」
「仕事?」
「あんたも知ってるでしょーが。うち、ネット声優やってるんだよ」
「あっ……」
「発声練習ならいつもしてるもん。お風呂でやったり化粧台の前でやったりトイレでやったり、寝る前にやったり電話ボックスでやったりDMMライブチャットでやったり」
「おかしなの混じってたぞ、この淫売め!」
「るっさい! 冗談に決まってるでしょ、このバイアグラ常用者!」
「何故その秘密を!?」
「冗談に決まってるでしょ。なにムキになってんのよ」
「あ、あぁ……そ、そうだな(ヒ゛クヒ゛ク)」
「にしてもさ」
ふいに春乃が椅子を降りて、俺の隣に座った。
「んだよ。せめーから向こう行けよ」
「んふふ……そんなに言わせたかったの? ま○こって」
「!?」
「かわいいのね、まるでどーてー君みたい。うちを泣かせるようないいモノ持ってるくせに……そんなにここに興味があるんだ?」
胸の前で組まれていた手が段々と降りていき、下っ腹のあたりで止まる。
そして、思わせぶりに「そこ」を、スカートの上から撫でてみせた。指をいやらしくこね回し、完全にそう意識させようとしてくる。
「ここの名前、言って欲しかったんだ? わざわざ早口言葉まで使ってさぁ……」
「おまっ、最初から知って……!」
「あら、なんのことかしら?」
「テメッ……!」
目じりを吊り上げ、思いっきり春乃の瞳を見据えた。
「いやぁ〜ん、こわぁ〜い、犯されるぅ〜!」
「ジョートーじゃねーか! お前が(別の意味で)大好きなち○こで、犯しまくってやる!」
俺は飛んだ。比喩ではなく、本当に空に舞った。
本当に、と書いて「リアルに」と読んで欲しい。
そして飛んだとは言え狭い部屋の中。モノには限度があることも承知しておいて欲しい。
理屈は抜きにして、空で服を置き去りにした。もちろんポーズは水中に飛び込むときのアレである。水色のしましまトランクスですら、言うまでもなく脱いでいる。
眼前に迫るのは、人を小ばかにしたような、そしてどこか期待に満ちたような春乃の甘い瞳──
ガッシ、ボカ!
「ぐぇあ!?」
「はい、アンタは死んだ(笑)」
状況をもうこれでもかというくらい端的に説明すると、春乃にパンチを喰らって堕とされて「ガッシ」、床に落っこちて「ボカ!」である。
「きゃー、裸で仰向けなんて、なんて美味しいポーズ! 写メ撮ろ!」
カシャカシャとシャッター音、およびフラッシュ光が俺を射抜く。
「ほら、どうせなら勃たせてよ。ほりほり」
「んへっ!」
ち○こを何かがつまんでいる。まさか春乃の指──
「ほら、どうしたのよ。血ぃ集めてみなさいよ」
「お前、何してんだ」
「勃たせようとしてんの」
「じゃない! ナニでつまんでんだ!」
「そりゃあ、これを見てうちの指だと思ったとしたら、大層な妄想壁の持ち主ということが確定的明らかになりますねぇ」
「っるせぇ! 便所のハサミで俺のち○こつまんでんじゃねぇ!」
ついに激昂してやった。怒りで、体中の血が燃えるように熱い。
「はいコレ。あんたが欲しがってた、ミヤリサンの描いた夜おねえちゃん同人」
「えっ……」
「相変わらずおっぱいの描き方がエロいよねーこの人」
「うほっ、マジだ、スゲェ──」
「やった、勃起した! シャッターチャンス!」
カシャカシャ
しばらくして。
「いいか……この写真を住所とともにハッテン場に貼られたくなかったら、うちの言うこと大人しく聞きな……」
「やっ、やめてくださいっ……!」
「騒ぐんじゃねぇ! 次デカい声出してみろ。お前のはずかし〜い姿は、たちまちインターネット上にバラ巻かれることにもなるんだぜ。世界中のゲイたちが、お前のいやらしい姿を見てセンズリこくんだぜ。へっへっへ……」
「い、いや……それだけは……」
「なぁに、大人しくしてりゃ、今日のところは何もしねえよ」
「ほ、本当ですか……?」
「応ともよ。もう帰ってもいいぜぇ」
「……そ、それじゃ俺──」
「ただ、また何かあったときは、いつでも連絡させてもらうからなぁ。言うこと聞かなかったり、もし来なかったりしたときは──わかってるな?」
「──(ヒ゛クヒ゛ク)」
「よぅし、帰んな。エリスちゃんが心配してるだろうからなぁ」
「っ!? エ、エリスにだけは……!」
「だぁいじょぶだって。うちもそこまで鬼じゃない。お前が言うこと聞いてる間は大人しくしてるよ。──言うこと聞いてる間はな」
「もっ、もう俺、帰ります!」
「おう、体は大切にしろよ! はーっはっはっはぁ!」
「……あのよ、一つ突っ込んでいいか?」
「なによ?」
「逆だろ!」
……
祐一『っていう夢を見たよ』
全員『……』
┼ヽ -|r‐、. レ |
d⌒) ./| _ノ __ノ
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企画・製作 NHK
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