46 名前:1/3[sage] 投稿日:04/02/14 17:04 ID:yogASZXL
「起きて、おにぃちゃん」
聞きなれた甘ったるい声と、懐かしい南国の甘い匂いがまどろんだ脳を優しく刺激する。
甘ったるい声は、居間で昼寝していた俺を起こそうとする二つ年下の妹、歩美の声。
甘い匂いは、さっきから歩美が作っていたチョコレートの匂いだろう。
「おにぃちゃん、……起きてってば」
肩をゆすられる度に、甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
「ん……」
まどろみながら空返事をしてまた眠りに落ちようとする俺。

少しの時間、――寝ぼけたままの脳が、妹があきらめただろうと根拠の無い判断を下した時間、
が過ぎ、

――不意に後ろから、暖かいものに頭ごと抱きしめられた。
俺の体温よりほんの少し暖かいものは、その暖かさに似合わない低い、怜悧な音を耳元で囁いた。
「お兄様、早くお起きになったほうがよろしくてよ」
心臓を鷲掴みされたような筋肉の収縮と共に、俺は飛び起きて周りを見回す。
「歩美か……お前、なんて声だすんだよ、しかもお兄様なんて……」
「あら、お兄様はお兄様ですわ。そうでなくて? お兄様」
「お前なぁ……またなんかの変な影響受けただろ」
「そんなことなくってよ。お兄様がちっとも起きて下さらないからよ」
「いい加減やめんか、その喋り、普通に戻せ」
「えへへー、でもネボスケおにぃちゃんには効果あったね。人間も飛べるかもって思えるくらい勢い良く起きたもん。おにぃちゃんこそ、変なの見てるんじゃないの? ハァハァとか言ってそー」
「あのなぁ、こんな起こし方しておいて、そこまで言うか」

目がさめた俺は、キッチンのほうを眺めながら、歩美に尋ねる。
「チョコ、出来たのか?」
「出来た……かな。あとは冷ませば出来上がりなんだけど……」
そういってキッチンのほうへ向かった歩美は、なにやらいじってから、戻ってくる。

47 名前:2/3[sage] 投稿日:04/02/14 17:05 ID:yogASZXL
「これ、食べてみて」
そういって、俺の目の前に手の甲を差し出してくる。
良く見ると、歩美の白い肌の上に、こげ茶色のチョコレートがちょこんと乗っかっている。
早く食べろといわんばかりに手の甲を口元へ近づけてくる歩美に対し、
「手の甲なんかに乗っけないで、皿に盛ってこいよ、汚いだろ」
「おにぃちゃんが舌やけどするといけないから温度を確かめようと……、
 それに、歩美の手ぇ汚くなんかっないもんっ」
「ん、いや、そうだとしても……だ。第一、熱かったらお前が火傷するじゃないか」
「あ、へへ、心配してくれたんだ。でも大丈夫だから、ほらっ、食べてみて」
そう言われて仕方なく、俺は歩美の手を取り、彼女の甲についたチョコを舐めてみた。
「ぃゃん、くすぐったい、おにぃちゃんの鼻息、荒い」
――何言ってんだ、と反論しようかと思ったが、口が塞がったままだ。
「おにぃちゃん、これは罠だよ」
「は? 罠なのか?」
「ぁ、ぅぅん、違う、なんでもなぃよ、言ってみたくなっただけ」
――また、アニメか何かの台詞だな、と心に留めておく。
「ちょっと、肌舐めないでよ、おにぃちゃんのエッチ」
そう言いながらも手を引っ込めない歩美。
「どぉ? 美味しい?」
「ああ、美味いな」
「なんか、おにぃちゃん、私に忠誠誓ってるみたい」
「お前、それが狙いだったのか?」
掴んでいた手を離し歩美に問い掛けると、歩美は俯いて今俺に舐められていた手を眺めながらつぶやいた。
「違うよ……バカ」
そういいながら、キッチンへ戻っていき、調理器具を片付け始めた。

48 名前:3/3[sage] 投稿日:04/02/14 17:07 ID:yogASZXL
そんな歩美の姿を、ぼーっと眺めていたが、手持ち豚さんになり、歩美に問い掛ける。
「なぁ、お前、俺にくれるチョコもあるのか?」
調理器具を洗い始めた歩美に聞こえなかったのか、返事が来ない。
「歩美、俺にくれる義理チョコも用意してあるのか?」
程なくして思いがけない返事が返ってきた。
「無いよ」
「はぁ? 無いのかよ。まさか、さっきの味見で終わりか?」
「おにぃちゃん用の義理チョコなんて作るわけ無いじゃん」

俺たち兄妹は友人にからかわれるほど、仲の良い兄妹だったはずだ。
それに、いくら兄妹とはいえ、いやむしろ、だからこそ義理チョコくらい貰えると信じていた。
――まさか、そんなはずは、
洗い物が終わったのか、一旦片付けたチョコをまた取り出して、なにやらいじっている妹の方へ近づく。

「なぁ、おい。マジでチョコくれないの?」
俺の質問に、歩美は振り向きもせずに答える。
「しつこいな、だから、おにぃちゃんにあげる義理チョコなんて作ってないんだってば」
歩美の手がチョコの型枠を下ろしたのを確かめて、強引にこちらを振り向かせる。
「義理チョコは作ってないけど、チョコは……あげるよ」
そうつぶやいたかと思うと、歩美は、今置いた型枠に入ったチョコを、
まだ固まっていないチョコを中指で少しすくい上げると、自身の唇に薄く広げた。

「おにぃちゃんには、このチョコをあげる」

――歩美はそう言って、表情にかすかな震えを残しながら――――瞳を閉じた。




52 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:04/02/14 17:36 ID:yogASZXL
>>49
どこか懐かしいようなor南国を想わせる、に修正しといてくだしあ。いちお、カカオイメージです。
あと、歩美=あゆみ と言うことで。