- 226 名前:1/? ◆/Juice3Jac [sage] 投稿日:04/02/24 20:25 ID:fjn0mFeg
- 「兄さんっ起きて――兄さんっ」
聞きなれた声が急かすように俺を呼んでいる。この声は――妹の声。でもおかしい、ど
こか違う。――ああ、そうだ……真理はこんな風には喋らない。俺の自慢の妹、真理はフ
ランス人形のような外見そのままに、いつも冷静で、落ち着いている。あの妹に限ってこ
んな口調で俺を呼ぶはずは――
「兄さん、もう時間よ、早く起きて」
どこか違う妹の声に、ねぼけていた脳が活動を再開する。
――眩しい、ここは、どこだ。なんでこんなに明るいんだ!
瞼を閉じた状態でも、自分がいる場所が、とても光の強い場所だということがわかる。
俺はその疑問を解決するためにも、瞼を持ち上げた。
瞳を射つくすように照らす人工ライト、眩しすぎる。そう思って腕で目を隠そうとした
が、はっ! 体が、動かせない! ――首を左右に動かして、周囲を確かめる。右側には
診療台。左側には――妹。――真理!
「真理! 何をしてるんだ。俺を、俺を助けてくれ!」
名前を呼ばれた妹は、頭上のライトの光度を低く調節し、まだ残光でぼやけている俺の
視界に近づき、そしてゆったりとした口調で語りかけてきた。
「――起きたようね。兄さん、今のご気分はいかがかしら?」
真理の端正な顔立ちを近づけられると、妹でありながらも、ついドキッとしてしまう。
「なに暢気なこと言ってるんだ、真理。ここはどこだ、俺を自由にしてくれ!」
「あら、兄さん、よく周りをご覧になって。ここは父さんの病院よ」
光にも馴れ、周囲を――縛られているため、狭い範囲だけだが、観察する余裕もでてき
た。言われてみると確かに、ここは親父の経営する歯科医院の内部のようだ。恐らく幾つ
か並ぶ診療台の真ん中のほうにいるのだろう。見知っている場所だとわかっただけでも、
随分と心が落ち着いてくるものだ。だが、周囲には妹の他に人の気配はない。
「なぁ、真理。なんで俺らはこんなところにいるんだ?」
「あら、兄さん、憶えていらっしゃらないの? まったく、こんなことだろうと思った。
いい、良く聞いて、兄さんはね――」
どうやら妹の説明によると、今は日曜日――当然休診日、の正午で、俺は酒を飲んだ金
曜の夜から、ここにこうしてるらしい……なぜ? そう尋ねた俺に、妹はとんでもない事
を語り始めた。
- 227 名前:2/ ◆/Juice3Jac [sage] 投稿日:04/02/24 22:10 ID:fjn0mFeg
- 「兄さんは、先週から虫歯で悩んでいたのを憶えているかしら? 父さんに観て貰えばっ
ていったのに、『あの人とは喧嘩してる最中なんだ! 俺が虫歯になったなんて知ったら、
何をこそ言ってくるか……だいたいいつも、人の為になる仕事に就けだのもっと運動して
痩せろだの、いちいち俺に――』なんていって、全然直そうとしなかったのよ」
そういえば、そんなことを言った気がする。本当に、あの親父はいつだって、俺にああ
しろこうしろ、俺の顔をみるたびにぶちぶち文句言ってくるから……あんな奴に虫歯の治
療を頼めるかってんだ。
「――それでね、私が『でも、直してくれないと、兄さんにチョコ渡せないわ、私のチョ
コいらないの?』って訊いたら、
『親父に頼むくらいなら、お前に頼む。なぁ、真理。チョコは出来合いのでいいから、そ
の前に俺の歯の治療してくれよ、お前だって医学部通ってる、医者の卵だろ』
なーんて、言いだしちゃって、
『そりゃあ私は医学部ですけど、医者にも専攻ってものが……』
けど、兄さんはいつもの通り、人の話なんて全然聞かないものだから、
『頼むよ、なっ、真理。週末なら親父の医院空いてるはずだから、お前に任すよ。痛みさ
えなくなればいいから――週末の予定明けとくな』
って……もう兄さんは強引なんだからぁ、私しぶしぶOKしたのよ!」
妹は、説明しているうちにそのときの感情を思い出したのか、ちょっと拗ねるような表
情で俺を睨んでいる。ちょっと歪ませた表情が、真理の端整な顔立ちを余計に際立たせる。
ああ、思い出した。言ったさ、確かにそう言ったよ。――でもそれがどうしたというん
だ。俺が今ここに縛られていることと、何の関係がある?
俺の腑に落ちない顔を察したのだろう。俺が疑問を口にするよりも早く、真理は少し伏
目がちに言葉を続けた。
「それで――金曜の夜なんだけど……」
頭の回転が速い真理には珍しく、言葉を選ぶように戸惑いがちに喋る。
- 240 名前:3/ ◆/Juice3Jac [sage] 投稿日:04/02/25 01:03 ID:cbWUQk0g
- 「本当に本気なのかしらと思って、兄さんに尋ねたのよ。――兄さんは、後輩の風見さん
と飲んできた後だったけど――。そしたら兄さん、『男に二言はない。俺が虫歯の痛みを
感じなくなるように、全部お前に任せる』っていうからさ……ふふ、ちょっと胸がキュン
としちゃった――えっと、そうじゃなくてね、その……兄さんから……了承を取ったこと
だし――」
ああ、真理、お前はなんて優しい妹なんだ。こんないい加減な兄の言う言葉を真に受け
て、本当に治療してくれたのか。――しかし、真理の表情がどこかおかしい、なにか違和
感がある。
「真理、ありがとう。虫歯の痛みを取ってくれたんだよな」
「……痛みは……感じなくなったはずよ」
おぉ、カブトガニみたいな幾重にも編み込んだ髪型をした俺の大事な妹、真理よ。なら
ばそれでいいじゃないか、治療の成功を祝おうじゃないか! ん? ――真理? お前は
なんでそんな複雑な顔をしているんだい? おーい、真理ちゃん?
「兄さん、その……手術は成功したわ……」
手術? 虫歯の治療は手術っていうのか? お前は医学部だから医者の専門用語かなに
かでは治療のことも手術っていうだけだよな。
「兄さん、私の専攻は、生化学。今、私のチームが取り組んでいるのは、特殊改良による
生体構造の変化を遺伝子工学の見地から研究すること――」
ふんふん、出来の悪い俺にはちっともわからないが、お前が頭がいいことは良く知って
るよ。なんたって6学年も飛び級したもんなぁ、で、それでどうしたんだい?
「……バッタはね、痛みを感じないの」
話が見えない、お前がそんな回りくどい話し方をするなんて、兄さんは悲しいぞ……
- 247 名前:4/ ◆/Juice3Jac [sage] 投稿日:04/02/25 19:56 ID:tq2jJG1i
- 「その、兄さんは痛いのが嫌だったん……だよね。だから、遺伝子を……」
――いくらおつむの弱い俺でも、この流れはやばい。この先は聞いちゃいけない気がする。
いやだ、聞きたくない、頼む、これ以上はやめてくれ――――
「兄さんの身体をね、バッタさんと融合しちゃったの……ふふ」
バッタさんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!
「だって……私が昔からバッタのこと好きなの知ってるでしょ?、そよ風が吹く草原で、
黄色や白の小さなお花たちの隙間を縫って、ぴょこぴょこ飛び跳ねる草色のバッタ。大き
なバッタは背中に小さなバッタを乗せて、ふたりいっしょにぴょんぴょんと移動して。そ
うやって仲良く飛び跳ねる姿はまるで、足が不自由だった私を、おんぶして連れまわって
くれた、あの頃の兄さんと私のようで……」
――バッタと融合? 俺が?
「私、おんぶして色んな場所へ連れて行ってくれる兄さんがとても好きだったの。小さな
頃から足が不自由でひとりじゃ遠くに行くこともできなくて、でも、兄さんが私を連れて
行ってくれた。兄さんの背中に乗って、兄さんにお尻を支えられて、兄さんの胸元に手を
まわして、大股で歩く兄さんから振り落とされないように、ぎゅーっと胸を押し付けて、
兄さんの後ろから見る世界は、汗をかいた兄さんの首の隙間から見る世界は、とても眩し
くて、そしてとても広大で――」
――冗談!?――真理は不可解な事は多いが、冗談は言わない。
「でも……。ふぅ――、時は残酷な仕打ちをするものね。――私の身体は女性らしく成長
したっていうのに、兄さんは、筋肉の代わりにそのミニ脂肪を纏い、二度目の飛び級の後
だったかしら、私が兄さんの背中に飛び乗ったら……兄さん、そのまま潰れて『ぐぅっぇ』
なんて蛙が踏まれたような声を出して――私、蛙は嫌いなの。あんなぶよぶよとして、這
いずり回るように粘液を遺して、表皮も粘膜がぐちゃーと薄汚く伸びて、解剖してもいつ
までもいつまでも内臓がぴくぴくしてたし、それに――蛙はとても……”痛がり”なのよ。
――同じ飛び跳ねるでも、片足なくしても優雅に飛ぶバッタとは大違い!」
- 248 名前:5/ ◆/Juice3Jac [sage] 投稿日:04/02/25 21:12 ID:tq2jJG1i
- 「ごめんなさい、興奮してしまって。蛙を思い浮かべるとつい……。それでね、兄さん。
それ以来、兄さんは、私をおんぶしてくれなくなって、私それが残念で、とても寂しくて、
『あぁ、兄さんがもっと逞しくなってくれたら』って、いつも思ってたのよ。――なのに、
兄さんたら、私の気持ちなんて全然考えないで……。そのあとも、私はどんどん飛び級し
ちゃったでしょ。だから、いつのまにか兄さんよりも、学年が上になってしまったし、与
えられる課題は難解で時間がかかるようになるし、ただでさえ友達が出来なかったのに、
兄さんと触れ合える時間さえも少なくなってしまって――」
――ムシ、無死、無私、無視、蒸し
「――丁度研究が一段楽したから、兄さんにチョコを作ろうと思って楽しみにしてたのに、
兄さんたら虫歯を治すのが嫌なくらいで、出来合いでいいなんて言うし……。でも、でも
ね、チョコのことはちょっとがっかりしたけど、兄さんに頼りにされることなんて、滅多
にないことだし、それはそれでいいかなって思って、それで私、歯学部じゃないから、虫
歯のことなんてわからないし、私に出来る方法で、虫歯の痛みを取り除こうと思うと、こ
の方法しか思いつかなくて……」
――虫! 虫? 虫!?
「兄さんに喜んでもらいたくて、精一杯頑張ったのよ。先週までモルモットでさえ成功し
てなかった研究を、精度を上げて、人体にも応用が利くように改良して、多分大丈夫って
とこまで完成させて……。献体がなかったから、拒否反応がどう出るかはわからなかった
けど、一発勝負は――成功したようね。ということで、そろそろ兄さんの足りない頭でも
理解できてきた頃だと思うけど、金曜の夜に酔っ払ってた兄さんにここまで一緒にきても
らって、それで麻酔を掛けて――」
――蟲! そうか、蟲だ!
「――もう、兄さんは、虫歯の痛みは感じないはずよ。それどころか、喜んで、兄さん。
今回の手術で、兄さんは身体のあらゆる痛みから開放されたのよ。もう、痛みを感じるこ
となんてないわ。そう、兄さんは今ここに、バッタと人間が融合した、人類初の栄誉ある
蟲人間に生まれ変わったのよ」
――そうだ、僕は蟲だ! 蟲になったんだ!
- 254 名前:6/ ◆/Juice3Jac [sage] 投稿日:04/02/26 01:44 ID:oiqZeCSD
- 「兄さん……? だいじょうぶ? 意識はしっかりなさっていて?」
白い腕から伸びる華奢な手が、僕の頬を慈しむように撫でてくれる。ゆびさきは少し冷
んやりとして、けれども手の平はほんわりと暖かい。女性にこんなにも優しく撫でられる
のは、いつ以来のことだろう。あぁ、母さんが撫でてくれたっけ……。
「兄さん、気を確かに持って。私の声が聞こえて?」
母さん……、もっと優しく撫でておくれよ。そんなに心配しなくとも、僕はいい子だよ。
「兄さん、私が見えて?」
ぺちぺちと頬が叩かれている。母さん、眠いよ。僕は寝ていたいんだ。
「兄さん!(パシーン)」
母さんっ、母さんでしょ!
「んっ、……真理!?」
焦点の合った先には、泣くのを堪えるような真理の表情があった。
「兄さん、ああ、良かった。途中から呼びかけても全然反応がなくなって……心臓が止ま
るかと思ったわ」
「おお、真理、聞いてくれよ。おかしな夢を――――? !?」
絶句した――
「それが貴方の今の姿よ」
いつもの冷静な口調の真理が差し出す鏡には、――バッタのようなものが映っていた。
「夢じゃ……なかったんだな」
「やっと自分の状況を理解したようね。――まったく、馬鹿にも程があるわよ」
「それで、俺は、どうすればいいんだ? このまま驚いているだけでいいか?」
「今のところは、それでも……結構よ」
「ふーん、で、その後は、なにすりゃいいんだ? なにか組織にでも利用されるのか?」
「そんなものっ……ない……はず、いえ、まだ・・・・・・ない……の方が適切かしら」
「はっきりしない奴だな、まあいい。とりあえず身体縛ってるの、解いてくれるか? 全
身を見たいんだが」
「まって、兄さん。まだ、組織が沈着しきっていないの、もう少しだけ大人しくしていて」
考える内容を考えようとした俺に、真理の顔が近づいてくる。真理の頬が上気してみえ
る。顔全体がほんのりと紅をさしている。ゆっくりと、しかし着実に距離を縮めてくる。
「兄さん……」
――そしてそのまま、真理の紅い口唇は、俺の唇――のあった場所? にそっと重なった。
- 267 名前:7/ ◆/Juice3Jac [sage] 投稿日:04/02/28 04:21 ID:ZGTnt7Oo
- 温かい。
そして、柔らかい。
――これがキスというものなのか。
水鳥が落とした羽のようにふんわりと着地した妹の口唇は、それが本物の羽毛だったか
のように温かく、天空に舞い戻る力を失っていない淡い接触にも関わらず、糸紡ぎが丹念
に作りあげたきめ細やかな繭のように柔らかな肌であることが窺い知れた。
程なくして始まった呼吸は、恥らうように弱々しく、それでいて間隔が早い。漏れ出す
呼気は、暖められた甘酸っぱい湿り気を含んだまま、頬までそよぐ。
――はじめてのキス。
手入れなど必要もないくらい自然に緩やかなカーブに沿って整列した眉。
白く透き通った肌にほのかな血管の赤みが映る伏せられた瞼。
植え付けられた細くて長い睫毛。
何処を見ても美しい。
――妹とのキス。
ドクンッドクンッという脈動が体内を揺らす。
強く太い鼓動に、リズムの違う、カン高い悲鳴のような鼓動が割り込んでくる。
ふたつの鼓動は、お互いが競い合うように速度を早める。
激昂する速度に負けず劣らず音量も高まり、部屋中に鼓動の大合唱が鳴り響いている気
がしてくる。その音圧に身体中が共鳴しているようで、血液が沸騰しそうにさえ感じる。
――キス。――それは、淫靡への入口。
俺のこめかみにかけて、そっと妹の左手が差し置かれた。冷んやりとしたその手は、俺
の髪を乱さないように、耳たぶを翻さないように、ゆっくりと動くのがここでのたしなみ
とでもいうように、優しく愛撫してきた。
ゆっくり、ゆっくりと軌跡で俺の頭を包み込むかのように撫でまわすその手によって、
俺の高まりきっていた鼓動も、次第に落ち着きを取り戻していった。そしてそれに呼応す
るように、妹の鼓動も緩まり、別々に鳴り響いていた二つの鼓動は、一つの力強い鼓動へ
と音質を変化させていった。
やがて、顔を持ち上げた妹が、漆黒の瞳を伏せがちに囁いた。
「どうしよう。自分が……止められない」
- 268 名前:8/ ◆/Juice3Jac [sage] 投稿日:04/02/28 16:32 ID:sj1wW3dB
- そう告げた妹の薄く開かれた瞼に収められた瞳は、奥底に怪しい炎を秘めた黒い宝石の
ように輝きながら、俺を見据えていた。そして、そこから溢れ出す感情を内部に推し留め
るためか、またはこれ以上視線を重ねつづけることで、もっと違う何かを悟られるのを避
けるためか、またしても瞳は瞼の奥へと仕舞い込まれた。
そして、その流れるような動作と連動して、妹は口唇を、再度押し当ててきた。先程よ
りも確かな密着を求めるかのように、それは、強くしっかりと押し当てられた。
「っん……」
少しだけ呼吸が荒くなったからだろうか。呼気に混じって妹の声帯を揺らす音が漏れ聞
こえてくる。
「っはぅ……はっんぅ……」
少しずつ、音は声へと移ろい、幾度目かの小さな声が漏れた後、妹の口唇の感触に微細
な変化が訪れた。キュッっと閉じるために使われていた力が緩まり、重力によって上唇と
下唇が撓みだす。そしてほんの少しの隙間ができ、熱く湿った口内から直接、吐息が抜け
漏れる。
息を吸い込むときに流れてきた力が口唇を閉じようとすると、逆にそれが、クチュっと
挟むような甘い愛撫へとつながる。意識せず偶然から始まっただろう仕草は、いつしか明
らかに意識的な強さへとかわり、位置を微妙にずらしながら、俺を刺激する。
「っちゅっ……」
押さえつける乾いた上唇と、下唇の普段は裏に隠れた濡れた箇所とで、挟み込み、優し
く吸いつける。そして少し横にずれた下唇は、湿り気を残したまま弱く舐めあげる。何度
も何度も丹念に、湿り気を擦りこむように揉みあげられるうちに、いつしか俺の
神経の全ては、その触れ合いをあまねく感じ取ることだけに、集中していた。
だから、いつのまにか妹の右手が俺の肩に乗せられていたことも、それが意識的に動き
出すまではまったく気付かなかった。
- 269 名前:9/ ◆/Juice3Jac [sage] 投稿日:04/02/28 20:28 ID:sj1wW3dB
- 縛られているため、ほんの僅かさえ身じろぐことも出来ない俺の身体を、広げられた妹
の手の平が、四指を滑らすように移動する。温かい手の平と冷んやりとした指先の感触は、
緩慢な動きで肩から首筋を通り、空いていた右のこめかみ付近まで移動した。そして両手
で包み込むように優しく頭を撫でた後、今度は下降をはじめた。頬、上顎、頚動脈、鎖骨
と、温められ、指先で冷やされ、手が通りすぎた痕は総じて、皮膚の温度が異様に高まっ
ているのがわかる。
「はぁ、はっぁ……」
なにか漠然とした疑念が脳裏を横切る。だが妹の甘い官能的な息遣いに紛れてしまう。
木の葉のようにゆらりゆらりと舞い降りた手の平は、俺の胸のある場所までくると、移
動を停止した。五本の指が放射状に広がると親指の付け根が肌に触れ、手首が持ち上がる
と五本の指がそれに従ってひきずられる。押し寄せては引く波のように繰り返しなぞる手
の平の感触は、皮膚を通して中枢神経を刺激し、性的な興奮を否応無しに高めさせる。そ
して心臓の上を這いずる手の平の動きは、さながら直接心臓マッサージを行っているかの
ようにポンプ機能を加圧し、煮えたぎった血液を体中に送り届ける。
「んっあっ……はぁぅ」
すこしずつ高まってきた妹の吐息音をリズムとして、高い圧力で送りだされた血液は、
全身を巡りつつも、とある一点で滞留する。続々と届けられる血液によって、許容能力一
杯にまで充填された箇所は、今にもはちきれんばかりに脈打って、痛い。
「くちゅぁ……、ちゅぅ、あっん……」
はさみ、湿らすために使われていた上下の唇は、少しずつ大きく開かれ、歯をつかった
甘噛みも行われるようになっていた。柔らかい唇の感触に慣れていたところに、硬いエナ
メル質の刺激が加わり、噛み締めるときに唾液がこぼれないように吸い込む仕草がまた、
興奮を一層掻き立てていた。
大事なものを抱え込むように優しく頭を撫でられたまま、口唇を刺激され、胸を刺激さ
れ、それらの刺激が絡み合い、より増幅された快楽信号となって、体中の神経を駆け巡る。
妹は、俺の乳首をつまむように、つんっと擦りあげた。
「――!」
びくっと震えた俺に驚き、妹は反射的に顔をあげた。
にも関わらず、空気は――甘い。
- 274 名前:10/ ◆/Juice3Jac [sage] 投稿日:04/02/28 22:47 ID:sj1wW3dB
- 訴えかける子犬のような潤んだ瞳で俺をみつめる真理は、この場のなぜか変質してしま
った雰囲気に既に飲み込まれ、陶酔しきっているように見える。そして、途切れた流れを
すぐにでも再開させようと、とろみを帯びた視線で促しているが、俺は気力を振り絞り、
ほんの少し戻った理性を頼りに、言葉を発する。
「なっ、なんで俺は裸なんだ? ――こっこれ以上はやばいよっ」
何故裸なのかを、今更尋ねても遅いだろうという自嘲の思いが横切るが、言ってしまっ
たものは仕方ないし、なにより、これ以上なし崩しに進むことに迷いと不安があったのだ
から。だが、真理の反応は、俺の意図したものとは微妙に違っていた。
「細胞組織の変質を詳細に眺めるため……だけど――」
妹は、まだ余韻に浸ったままの力ない声で、ぼんやりとしゃべりながら、目を動かす。
視線が、俺の顔、首、胸へと嘗め回すように移動していき、下半身まで振り返ったとき、
動きが止まった。
「――え……これ、こんな……」
上ずった声で、弱々しく驚く口調が、俺を羞恥に導く。
「す……すごい、こんなに……」
こんな状態を妹に見られるのが恥ずかしく、だからこそ、呼び止めたつもりだったのに、
まったくの逆効果だったようだ。
「ぅわっ、ぅぁー、ぴくんっぴくんしてる……」
胸の上で止まっていた右手が、そろそろとそこへ近づいていく。
「ちょ、っちょっと、まった」
妹は俺の願いを聞き入れたのか、右手の動きを止め、態勢を整えた。
「――!」
代わりに左手が、動いていった……。
その手は俺の太ももの付け根で少し躊躇してから、そっと指で触れてきた。
つん、つんっと二回ほどつついた後に、手の平を広げて先端を覆うように触れる。
「すごく、ぁっぃ……それに――」
触れた後は、意外と大胆に根元のほうを握りしめてきた。
「硬い……みたい、きゃっ、また動いたぁ」
俺からは、妹の結い上げた髪と、うなじしか見えない。
「兄さんの……こんな、すご……」
白いうなじが汗ばんでいるのが、ここからでもわかった。
278 名前:11/ ◆/Juice3Jac [sage] 投稿日:04/02/28 23:38 ID:sj1wW3dB
先程までの濃密な熱気は少しだけ弛緩されたが、刺激はより直接的なものとなっていた。
妹は、途切れる言葉遣いでその感触を実況してくれている。その妙な生々さしさが、妹の
視線がそこに凝視されていることをはっきりと想像させ、縛られて動けない自分の立場と
併せて、とても恥ずかしい。だが妹は、俺が興奮で何も言えないことをいい事に、じっく
りと観察しながら、小さな手で握り締めている。
「赤黒ーい……」
「……」
「これ……静脈……?」
「……」
「ぅぁっ、また動いたぁ」
「……」
「こんな風だったんだ……」
「…………」
「なんか、また大きく……?」
「………………」
「えっ、ちょっとやだ。なんかひくひく――」
「……………………」
「え、なんでっ。ちょっちょっと、兄さん、動かさないで」
「……」
「きゃっ、ダメ。まってっ」
「――!」
「いやぁ―――――――――――」
ぷくっと膨らみかけたのに慌てた妹が、それを押さえつけようとぎゅっと握り締めたの
が決め手となり、しかも押さえつけた場所が根元付近だったために、これ以上ないくらい
に勢いよく飛翔したようだ。荒い息を整えながら開いた俺の視界には、じっとりと汗ばん
だ妹の白いうなじが、白濁した液体でところどころ汚されている光景が映し出されていた。
「兄さん……」
妹の肩は、小刻みに揺れており、その振動に併せて液体もぷるぷると震えていた。
ブーッ、ブッブッブ――、機械的なブザー音が室内にこだまする。