エリスの騎士団新聞。
ある日の朝、ジスモア団長閣下は部屋でお茶を飲みながら新聞を読んでいた。
「今日も封印騎士団は平和だ・・・・なになに、気炎の直轄区で殉教者の暴動・・・・まったく、守護者は何をやっているのか!けしからん。今日の牡牛座の運勢は◎か・・・・フフフ、何かいいことがあるとよいな・・・・」
「団長、何やらご機嫌麗しゅうご様子ですね」
「ハッ!?なにやつ!?」
ドアの隙間から聞こえてきた声にビックリする団長。慌てて振り返ると、隙間から覗いていたのは彼の部下であった。しかし、奇異な。
「お、おお、エリスか。は、入れ」
「失礼します。マドレーヌを焼いてみたのですがいかがでしょうか」
「うむ、一つもらおうか・・・・」
慌てて占いのページを閉じ、いかにもお茶を飲んでいただけのポーズを取る団長。エリスはドアで一礼してから入ってきた。
「はっ。ところでドアの隙間から盗み見ていたのですが、何をニタニタしておられて?良いことでもあったのですか」
「ブファー!!ど、どこから見ておったー!」
「けしからん、の辺りからです。そうですね、今日の牡牛座は何か良いことがあるとよろしいですね。ネッ!!」
「全部見てる!!なぜ余の部屋をわざわざ盗み見る必要があるのだ、けしからん」
「失礼しました。いろんな意味でお声を掛けづらい雰囲気でしたので」
「いろんな意味で・・・・?」
近寄りづらい、近寄りたくない、どっちなのか。
「マドレーヌをどうぞ。今日はオレンジ味にしてみました」
「うむ、よい焼き具合だ。武の才能も秀でているが、料理の腕もまた然りだな」
「お褒めに与り光栄でございます、団長閣下。そしてこちらが今週の騎士団新聞にございます」
「騎士団新聞?・・・・はて、そんなものいつから発行していたのだ?」
「先月からです」
オレンジマドレーヌと一緒に差し出されたのは、エリスの言う通り「週間・騎士団新聞」であった。
先月からと聞いたが、見たのは今日が初めてのこと。ジスモアは訝しんだ。
「前の分はどうした」
「は、失礼と思いながらも師団内で評判を得るまで内密にして参りました。事実上、今回の分が初出ということに」
「事実上か・・・・どれ、ならば見せてもらおうか。週間騎士団新聞」
「拝謁して頂き光栄にございます。記者・編集・構成・印刷・発行すべて私による流れですが、団長閣下にはぜひ編集長になって頂きたく存じます」
「ふむ、よかろう。今日から余の肩書きに騎士団新聞編集長の名が連なるのか、奇異だ」
「奇異ではありますが、このエリス、お貸し頂いた御名に報いる覚悟であります。団長閣下に敬礼!」
「まあ、新聞作りに覚悟は要らんが・・・・」
ビシ!と敬礼の構えを取るエリスに、さすがの団長閣下もちょっと引く。
「どれ、一面の記事は」
『ショッキング!!!!竜の子、ついに空を飛ぶ。
昨日未明、準騎士N(仮名)が騎士団団長の命「お前は先陣を切れ、竜に乗り露払いをせよ!」を受け、通常通り大神殿の屋上から飛び出した。そして野を越え山を越え飛んできたドラゴンL(仮名)が大神殿中庭に到着した。
しかし準騎士Nはあらかじめ隠し持ってた大風呂敷を広げ、四隅を四肢に括り付けたかと思うと、そのままあらぬ方向へ飛び去った疑い。
ドラゴンLは「どこに行く小僧!おい、ちょ、待て・・・・ノウェ!!」と慌てて追いかけたが、準騎士Nの行方は依然として不明である。目撃者の話によると、おそらく突風に乗り「神水の直轄区」へ流された模様。ドラゴンもまた行方不明である。
準騎士Nがそのような行動を取った理由は定かでないが、おそらく日頃から感じていた「俺もいつかはドラゴンになるんだと思っていた」等の鬱屈がとうとう表に吹き出したものと思われる。そしてとうとう自らの意思で飛んだと思われる。』
「大風呂敷・・・・・・」 ←ジスモア
「というワケで、昨日から準騎士N(仮名)が行方不明です」 ←エリス
「いや・・・・仮名も何も、記事の途中で特定の個人を指す呼び名が出てきているが・・・・」
「プライバシーの保護が十分でなかったことは否めませんが。いくら新聞、広報と言えども、周囲には知られたくない個人情報をあけすけに見せることは憚られると思いまして。団長閣下も周りに隠しておきたいことの一つや二つ・・・・お持ちじゃありませんこと?」
「恐喝!?・・・・ところで、その、仮名Nはどうした」
敢えてイニシャルトーク。途中で思いっ切りノウェの名前が出ているが、敢えてのイニシャルトークで。
「ユーリックが探しに行きました。でもその内、大風呂敷に乗って帰ってくるんじゃないでしょうか」
「いくらなんでも風呂敷には乗って帰ってこないだろう。そいつはなんだ、魔法使いか」
「団長閣下もユーモアのセンスがお有りで!オホホホホ!!」
「なぜそこで笑う!?まあよい・・・・今度からは普通の記事を載せろ。あまりショッキングではないものを選べ」
「新聞は話題性のある記事を載せるべきです。そうでなければ読む者も満足しないと思うのです」
しかし、今のはショッキングすぎる。竜の子、大風呂敷を広げて空を飛ぶ。想像しただけで夢に見そうだ。
「しかしエリス、記者という人種は、ジャーナリストは己の職業を聖職と勘違いしてしまうところから道の第一歩を踏み外すのだ。個人の領域に土足で踏み込むことに何ら疑いを持たず、欠片ほどの罪悪感を抱かぬ。そのような者に成り下がることは実に愚かしいというか浅ましいというか、ともかくプライベートについて書き立て暴き立てる様なマネはよせ。絶対に」
「は。そのお達し、しかと肝に銘じます。よもや閣下が今日の占いを見てニタニタしていたなどの醜態、そのようなプライベートを口外いたしません。絶対に」
「うむ、そうか・・・・」
お前ホントに分かってんのか、と部下を問い詰めたい団長閣下。いつか書き立てられそうな気がして堪らない。
「ところで閣下、もう一つご相談が」
「なんだ」
「新聞にはやはり占いと4コママンガは載せるべきでしょうか?」
「・・・・・・どちらも、載せたらいいのではないだろうか」
「は、アドバイスありがとうございます。では早速そのように手配いたします故、来週の構成を練り直さなければ。ああ、今夜も徹夜ですわ!」
実にテキパキと段取りを決めるエリス、彼女は騎士団新聞に情熱を傾けていた。何が彼女をそこまで駆り立てるのか。
「では団長閣下!」
「はい、頑張って下さい」
もう行くもんだろうと思っていたので、団長は再び新聞を広げていた。リアクションもおざなりなことこの上ない。
「編集長、これを」
編集長。突然、机の上に何かを差し出された。これは・・・・
「紙と、ペン・・・・?」
「掲載は来々週からにしましょう。明日までに十個ネタ出しお願いします。4コマはテンポ・情熱が命ですからね!」
「余が描くのか!?何故に!?」
「あら。自慢ではありませんが、わたくし、絵心がありませんもの。編集長にお頼み申し上げるしか手立てはございませんの。簡単ですわ、四つの枠にテキトーにサラサラッと描けばいいんですのよ」
その口調は何。さっきヨンコマはテンポと情熱が命だとか言っていなかったか。テキトーはないだろう。
「余は忙しいのだ。4コマなど描いている暇は・・・・」
「あら嫌だ!もうこんな時間!?わたくしこれから気炎の直轄区へ赴かなければなりませんの、取材の為!!先日の暴動の件についてザンポ殿に尋問・・・・ではなくて、取り調べでもなくて、インタビューを。では、失礼!!」
「エリッ・・・・!!」
引き留める間もなく、エリスは慌ただしくも優雅なバックステップで出て行ってしまった。クルクルと。
残された団長は一人、机の上に置かれたケント紙と丸ペンを見つめた。重苦しい雰囲気。
「余が・・・・描くのか・・・・」
他に人手はない。時間もない。締め切りまで今日しかない。やるしかない。
その日一日中、騎士団団長の部屋から「お前のようなネタはボツになってしまえ!!」などと、呻き声が聞こえてきたとか。閣下、そこまで思いつめなくても。
最近エリスのお嬢様ぶりが大好きで堪りません。(2005/10/1)
きっと彼女は誰に対しても公平であると思います。だからつんけんしてるように見えるのかな。でも一本槍な性格がよいです!ビシバシ、今日もノウェを鍛えます。ビシバシ、今日も騎士団新聞を作ります。団長にヨンコマを描かせたかっただけなんです。