カイム、あらぬものを持ち上げる。 <1/2>
「カイム・・・・重いのだが」
ある日、空を飛んでいたレッドドラゴンは呻いた。背中が重い。のは、いつものことだが、今日は尋常でない。
『そうか?』
カイムはなんのことはない風に答える。そりゃ、武器をストック満席にしていたら重い。だけど今日のはやっぱり尋常ではない。背骨にズシリとのしかかる重圧、カイムの体重だけではない。
レッドドラゴンは腑に落ちず、なんだか自分が地面に向かってどんどん落ちていく気さえした。
「やはり今日は重い気がするのだが」
投げ捨てるなんなり、余計な物を積まないでほしい。人間の重荷ごときで音を上げるとはドラゴンの沽券に関わる。しかし今日の重みは一段と堪える。
『そうか・・・・気付かれたならしょうがないな』
「何っ。おぬし、やはり隠し持っていたのか。なんとかしろ、捨てろ」
カイムは頷くかと思いきや、いきなり突っぱねた。
『それはできない』
「何故に」
『これは俺の愛だ!!そう簡単に捨てられると思ったら大間違いだ』
「重すぎるわアホー!!」
重すぎるし気持ち悪い!と叫び、レッドドラゴンは振り向きザマに炎を吐いた。背中の上でカイムが焦げた。本当ならここから地面に叩き落したいくらい。咄嗟の制裁にしてはちょうどよかった。
『そうか・・・・俺の愛は積載オーバーか・・・・』
「明らかに積載超過だ!!何をしんみり言っておるー!!」 ビシ!!
残念そうながらも、してやったり!みたいな顔で言うカイム。を、尻尾で叩く。本当なら首ごとすっ飛ばしてやりたいくらい。
『分かった。背に腹は変えられん。要らん武器は捨てる』
「おぬしだ。おぬしが降りろー!!それで済む!」
『ならば俺は上空二百メートルからラブレッド!!って二百回くらい叫んでやる!ラブレーッド!!』
「いきなり叫ぶなドアホー!!」
レッドドラゴンの制止も聞かず、カイムは上空二百メートルから「ラブレッド!!」と躊躇なく叫んだ。重すぎるし恥ずかしすぎる。その頃地上では、突然空から降ってきた刃物にかすめられた帝国軍が恐れおののき、こだまになって聞こえてきた「ラブレッド!!」に涙した。愛ってすばらしい。
いろんな意味で重すぎることは確かだが、しかし、そんなことで重みがのしかかるわけがない。一向に軽くならない背中を不思議に思い、レッドドラゴンは再び首をめぐらして見た。
「ん・・・・?」
『どうした』
「どうしたは我のセリフだ。それは、どうした」
カイムの傍らに見慣れない鉄の塊があった。武器と言うよりも、まさに鉄の塊と呼ぶに相応しいシロモノ。・・・・見るからに重そうだ。
『これか。コロシアムのダニ共を一匹残らず潰したところ、手に入れた。記念の一品だ』
「貴様は鬼か・・・・!!確かに記念品には違いないな。虐殺の歴史だな」
『うむ。俺が初めて人のために剣を振るったとゆー記念の一品だ』
「もれなく呪われていそうな出所だな」
亜人にさらわれたセエレを賭けての戦いに、コロシアムの生き物は一匹もいなくなったという。チェインと経験値に化けて土に還った。そういう死合いの歴史。
見ただけでも分かる、とても重そうな鉄の塊だ。剣の形はしているが、とても常人が扱えるところではない。扱う人よりも道具の方が重くて振り回されてしまう。そんなことより、持ち上げることさえままならないだろう。
よくもこんなケタ違いのシロモノを持って帰ってきた。重みの正体は分かった。・・・・おそらく呪われた魔剣。背中が重いのは鉄の重量だけではない。
ズシッと重みが増す。気のせいではない。突然のことに、レッドドラゴンは堪らず高度を落とした。
「お、重い」
『それはすまなかった。俺の思いが重いのか』
「うまいこと言ったつもりでごまかすなー!!確かに重い!!」
むしろ、うすら寒い。しかしこの重さは尋常でない。まるでカイムの他に百人も乗ったかのような重圧感。背中に怖気が走る。
「はっはっは・・・・ドラゴンと言えども、この重みには耐え切れまい」
「む、なにやつ・・・・」
上空にいながら地の底から聞こえてくるような声が響く。いきなりの侮辱にレッドドラゴンは剣呑な声で応える。その背中でカイムは自分の剣を取った。
『誰だ』
「我輩の名を知らぬとは若造、後悔するぞ」
「ぐえ」
声の正体は姿を現した。なんと、あの重そうな鉄の塊を携え、ヨロイの亡霊が声を立てて笑う。魔剣が意思を現し、背骨を押さえつけられたレッドドラゴンは潰れた悲鳴を上げた。重い。
「戦場の将軍とは我輩のことだ。命ある者はすべてこの鉄壊の糧にしてくれよう、このバッカスの名を聞け!!」
『亡霊の分際で何をほざく。さっさと世代交代しろ。現代の復讐鬼とは俺のことよ!!』
「おぬしと気の合いそうな魔剣だな」 ←レッドドラゴン
早速魔剣の亡霊と張り合うカイム。あんまりいい名乗りの上げ方ではない。復讐の鬼はこんなに堂々としてない。しちゃいけない。
血塗られた鉄による破壊。その名の如く鉄壊。生前、魔剣の持ち主であっただろうヨロイの亡霊は、軽々と得物を構える。生身を持たずしてもよほどの剛力である。それほどにこもった怨念が強い。持ち主を失った後なお、亜人のコロシアムにて多くの血をすすったに違いない。
「なるほど・・・・自らを復讐の鬼と呼ばわるか。見上げた根性であるぞ、若造」
『貴様がどこぞの将軍かは知らんが場を弁えろ。その武器はもう俺の物だ。ミッドガルドの武器と獲物はすべて俺のコレクションだ』
恐ろしいほどの俺様根性。
「ならばその名に恥じぬ根性を見せてみるがいい。もっとも、お前のような小僧にできるとは思わぬが!!」
亡霊はヨロイに包まれ顔も姿も分からない。しかし身の丈もウェイトも明らかにカイムを上回る。生身がないながらも生前の存在感を再現する。完全にバカにされている。声の調子で分かる。生きている時もこんなカンジだったら部下も苦労する。
対する現代の復讐鬼カイムはと言うと、侮辱を真に受けた様子もなく冷静に剣を構える。だが静かに激昂しているようだった。
『なまくらで俺を脅せると思わないことだ。再び現世に現れたことを後悔しろ。二度死んでみるか』
「二度も死ぬのは初めてだ。面白い、かかってこい若造!」
「貴様ら別の場所でやれ!!」
レッドドラゴンの背中で対峙する亡霊とカイム。ドラゴンの背中は間違っても戦う場所ではない。地に足の着く場所で、どっか別の場所でやってほしい。グラグラしてる。
亡霊将軍は鉄壊を振り上げる。刃物としてはなまくらだが、その凶器は重量で人を潰す。巻き添えを食っては堪らない。
「だから別の場所でやれと言っとるだろーが!ランディング!!」 ズザー。ブチュ!
『うわー』
「うわー」
ズザーと地面に着陸するレッドドラゴン。背中に乗っていたカイムとバッカスはちょっと離れた地面に放り出された。強行着陸、怖い。ちょうど群がっていた兵士が何ダースか巻き込まれた。
普通の人なら死んでるところ、二人はすぐに起き上がり、互いに剣を構える。周りでは帝国軍の兵士がキャーキャー逃げている。惨状である。
『俺の了承なしに人の契約者の背中に乗り込むとは許さん。土にさえ還さんぞ』
「若造、契約者か。ならば斬った突いたところでは死ぬまい。生きたまま潰してやるとしようか」
空気が擦れ合う金属音に誰もが逃げ出した。盛り上がる当事者はさておき、レッドドラゴンは逃げ遅れた帝国軍に炎を吹きかけて壊滅させる。勝手にやって下さい。
「帰って来たぞ。これぞ懐かしき戦場だ。血の臭いがするぞ!グハハハ」
バッカスは全身のヨロイを震わせて笑う。巨大な鉄壊までもが一体になって音を立てる。
この凶悪な亡霊を現世に戻すわけにはいくまい。生身の殻を捨て、悪しき心があふれ出したようである。生きる者さえ手にかけるだろう。それはカイムも同じだが、もはやバッカスは同じ舞台に生きる生者ではない。それは筋違いだ。
「カイム、さっさと始末するのだ。放っておけば必ずや害になるぞ」
『降りかかる火の粉は潰す。使い物にならん武器などさっさと溶かして鍋にしてやる』
「そういう始末は要らん!!」
「グハハハ。・・・・この剣は我輩に負けた弱者そのものよ。貴様の剣こそ潰し煮てやろう」
鉄壊はバッカスにより略奪された武器を溶かし固めたもの。殺された者の恨みつらみが凝り固まり、ついには魔剣へと成り果てた。一層ごとに別物の悪意が宿り、在るだけで邪悪を振り撒く狂剣。
「貴様のその細っこい剣だろうと糧にはなるだろう。ありがたく思うがいい。己の行く先を案じて死にゆけ!!」
『なんだと・・・・』
ムチャクチャなことを言う。生前の所業を悔い改めるどころか、輪を重ねて罪を犯そうとする。この凶器が魔剣に成り下がった理由も分かる。
一方、その犯行予告はカイムの逆鱗に触れた。カイムの持つ剣は死んだ父親から譲り受けた形見の品である。
『亡霊のたわ言は聞かん。この剣は帝国軍を滅ぼし尽くすものよ。限りある血を啜り尽くすまでの余興に貴様を潰す!!ない血を噴き出せ!!』
「反対に呪われそうなだな・・・・」
レッドドラゴンはゾッとした。そんな剣を溶かし固めたら間違いなく呪われる。夜中に帝国軍の兵士の呻きが聞こえてきそう。
迎撃予告を受けたバッカスは、聞くや否や鉄壊を振り上げ、カイムに向かって走り出す。決して速くはないが、亡霊とは思えぬしっかりした踏み締めは次に来る一撃の重さをうかがわせる。
「受けてみよ、鉄壊!!」
「よせ!!カイム、打ち合うでない!!」
レッドドラゴンの忠告も聞かず、カイムは真っ向から挑む。バッカスの横殴りの一撃、カイムは自分の剣で受け止める。しかし止められない。
『ぐっ、』
次の瞬間、百人に殴られたような衝撃に体ごと吹っ飛ばされる。足を浮かされるも、踏みとどまったならばまともに体を砕かれていた。並のインパクトではない。
関節が軋む。肩で地面を擦り、起き上がりざまに剣を見る。刀身はよく持った。その頃、背後を通りかかった連合軍の兵士が巻き込まれてブッ飛ばされていた。何があったのか分からない顔で地面に突っ伏す。よく生きていた。
逃げるのは己のやり方ではないが、正直に打ち合ったなら勝てる気がしない。亡霊の唯一の弱点が強敵。鉄壊を砕こうにも近付くこともできない。
「やはり脆いな、若造!!」
振り切った鉄壊を重そうに戻すバッカス。当たれば強烈だが、動作が遅い。実は自分でもそうそう扱いこなせていない。溜めの隙を突けば脆いのは向こうだ。隙・・・・
「カイム、相手は鉄だ。焼き尽くせ!!」
レッドドラゴンが弱点を突く。いくらケタ外れに巨大だろうと元は変わらない。カイムは頷く。
「我は手を出さん。己の活路を切り開いて見せよ!」
『元よりそのつもりだ。鋳物にしてやる!!』
「おぬしは鍛冶屋か!!」
そして鍋にする気だ。魔剣も成仏したくてもできない。突っ込んでくるヨロイに向け、カイムは剣を振り上げた。
『これが耐えられるなら耐えてみろ、ブレイジングウィング!!』
同じく数多の血を啜って魔剣となった剣が魔法を放つ。剣の切っ先が指し示した軌道に乗り、爆発的な炎が容赦なく弾ける。地面を焼き、草を薙ぎ払い、避け損ねたバッカスを巻き込んだ。
まるで火事のようだった。ここが森とかだったら大惨事になってる。鉄の焼ける臭いが漂い、レッドドラゴンは鼻先をしかめた。
「やったか!?・・・・ここまでやれば鋳物になっとるだろうが・・・・」
『とどめだブレイジングウェイブ!!』 ドボン!!
「手加減を知れー!!」
容赦なく二発目を叩き込むカイム。爆風にかすめられた帝国軍の兵士がヨロイを溶かされてキャーキャー逃げている。復讐劇としては結果的にすべて良くなった。
しかし、亡霊とまでなって凶器に宿った怨念がそれで終わるはずもない。
「心地よいものだな。焼き尽くせるものか」
鉄壊で振り払われた炎が散る。爆風をかき消す勢い。バッカスは炎の中から姿を現した。カイムは剣を引く。
『生きていたか』
「いや、もう死んでいるが」
「確かに」
『確かに』
地味な回答に頷くレッドドラゴンとカイム。確かにもう死んでいる。ともかく亡霊将軍は焼き尽くせた様子はない。鉄壊も原形を留める。
「この程度の熱ではこの鉄壊を鍛え直すだけよ!!ちょっと表面は溶けたがな!」
『ならば感謝しろ!!この俺に!!』
「いちいち噛み付くでない!しかし見ろ・・・・堪えていないわけではないぞ」
確かに見れば、鉄壊の表面はちょっと溶けていた。真っ赤にぬめる表面は柔らかそうで、しかしすぐに凝固し、滴るしずくの形まま凹凸ができる。まったく勝てないわけではない。
わずかに引き下がるカイムを見据え、バッカスは今や遅しと勝ち鬨を上げる。
「我輩を焼き尽くすつもりならば土地ごと滅ぼすことだな。若造が果たしてできるものか!!」
そう言いきり、突進が始まる。間合いを見計らっていてはやられる。そのたび魔法で削っていてはラチが明かない。わずかに足止めするだけだ。足止め・・・・
カイムは剣を収める。敵が攻めてくるというのに正気の沙汰ではない。その沙汰にレッドドラゴンは焦る。
「気でも狂ったか!?もう狂っとるだろーが、何をする!?」
的確な指摘。カイムはあらぬ方向に向けて声を上げた。
無差別(体重が)バトルみたいになった。幽霊に怒るカイム。(2007/3/19)
カイムの発言がいちいち気に障るとゆーか、気持ち悪いですね。ラブレッドって言い過ぎ!続きます。
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