カイム、きこりになり損ねる。 <1/2>
不浄なる斧 Axe of Filth
野心家の魔術師が火トカゲを閉じ込めた斧。その破壊力と共に、炎の魔術を使うことができる魔剣に成長した。
魔術師は火トカゲの囁きを耳にする。「血を…さすればさらに強大な力を与えよう」。力の魔力にとりつかれた彼は、やがて人を殺めるようになる。
「どうだ?我にもっと力を与えてみぬか?」 魔剣はそう囁き、さらに血と臓物を欲する。力にとりつかれた魔術師に抗う術は無かった。
近年、魔剣と共に枯れ木のようになったミイラが発見された。闇に魅了されし者達に魔剣は今日も囁き続ける。「殺せ」 と……。
(公式設定より)
ある日、封印の森。カイムは斧を振り上げていた。
特に殺人事件が起きたのではなく、解体作業中でもなく、普通に日常茶飯事の光景である。ミッドガルドに限り、カイムに限り、復讐の鬼に限り。
『それっ、と』 ドスン。
「あら、あらァ。血の匂いじゃなくて爽やかな緑の匂いがするわあ。何をしてるのかしら」
『見ての通りだ』
通りすがりのアリオーシュに答えるカイム。葉っぱが付いたままの木を切っている。刃物を振り下ろす対象が人から木に変わっただけの、いつもの光景。不気味だ・・・・。
「なぜ木を切っているの?復讐鬼からきこりに転職したのかしら」
『そんなことはない。いつかはなろうと思っているのだが』
「思ってるのかよ!!あああ、オレ様ちゃんの故郷の森林資源が・・・・!!」
伐採されている。通りすがりのフェアリーはビクッとした。そういう願望あるのかよ!!
封印の森はフェアリーの森。いつの間にかフェアリーの住処が侵食されていた。こんな鮮やかな国土侵害、見たことがない。
「一つ言わせてもらいますけどね!カイム坊ちゃん!!人間がなんの理由があって精霊サマの聖域を荒らすのかと問いたいねコラァ!!」
『おりゃ』 ドスン。
「ギャアアアかすったああああ!!」
顔の近くを飛び回るフェアリーに向けて斧を振り落とすカイム。ものすごい勢いで逃げるフェアリー。
かすっただけで傷はないが、心に傷を負わされた。掠った、かすったよおお長老ー!!ボスに助けを求めるほどに重い被害を精神に刻まれる。
そのかすっただけの斧は地面にドスンと突き刺さる。母なる大地が削れた。
「鬼!!復讐の鬼!!鬼さん!」
『誰が鬼だ。俺はこの時ばかりは心安らげる森のきこりの精神がある』
「お兄さん落ち着いて!!」
誰も心安らげない。切る相手を選ばぬきこりに平和は望めない。デッドオアアライブ。チェーンソーを持った殺人鬼よりも百倍威力がある。
「あらあらァ、だめよカイム」
「そうだっ!もっと言ってやれエルフのねーちゃん!」
アリオーシュの後ろに隠れるフェアリー。出会いがしらが、捕食者(未亡人)と被害者(復讐鬼)の立場であった二人、カイムもうかつにエルフには手を出せない。ムシャムシャされる。
「木を切っているところを見ると焚き木に使うつもりでしょうけど、生木じゃなくて枯れ木の方がよく燃えるわよ」
「そこだけ冷静!!狂気の未亡人はどこへ!?」
『なるほど、俺がうかつだった』
「アッサリ言うこと聞いちゃったよこの人間は!!妖精に仇為す復讐鬼が!」
あっちこっちに突っ込んで回る。なぜか冷静にやり取りする二人とは反対に、フェアリーの理性は風前の灯だった。今の重点は焚き木の話ではない。
カイムの散らばる木々。どこからか持ってきた生々しい生木が転がる。彼の背後では、今切り倒されたばかりの大木(樹齢百年)が無残な様を。森が破壊されている。
「生木では火の付きが悪いし、乾燥させないと。そんなことでは立派なきこりとは言えないわ」
『今の俺では無理なのか・・・・抜かったァアアア!!』 バギャア!!
「テンション高ェエエ!!」
すごい勢いで枝を切り刻むカイム。フェアリーがおののく超連続切り。木に対して恨みがあるとしか思えぬ狂気。森に住む動物達がものすごい勢いで逃げていく。
連合軍もビクッとして逃げる準備を始めてしまった。味方、これでも味方!
あのカイム様が戦闘以外でこんなにも感情的になるとは・・・・きこりに対する執着が半端ではない。
『しょうがない、切るだけ切っておくか』
「怒りが収まった・・・・」
手元にある枝を端材へと切り刻む。狂気が宿っているとしか思えぬ細切れ。おがくずになってゆく。破片がビシバシ飛んでくる。
「フフ、ようやく分かったようね・・・・それでいいのよ」
「きこりの師匠ですか?」
得たりとばかりに呟くアリオーシュ。世間一般にあるきこりの姿でないことはフェアリーにも分かる。あまりにも禍々しい。狂ったきこりの見本である。
『少し足りないようだ。あそこにある枝振りのいい大木を一本もらおうか』
次の獲物に目を付ける。カイムは斧を持ったまま大木(樹齢三百年)へと近付く。木に足があったら速攻地面から離脱している。切られる、ではなく、狩られる。
「あっ、ばかやめろ!!あの木は森を守る御神木としてだな!聞けー!!」
聞くカイムではない。御神木も単なる立ち木として見なす。あと、敵の魔法を防ぐための設置物としか見なさない。
びびったフェアリーはカイムの前に飛び出すが、斧でビシバシ追い払われた。
「切り倒したらどんなことが起きるか分かんないぞー。どーすんだよ!」
『具体的な例を出さんことには納得しかねる』
「分かんないつってるだろボケエエエ!!えーと、例えば・・・・えーと、呪われろ!!」
『望むところだ。俺も負けじと呪い返す』
「お前は陰陽師かァアアア!!」
生い立ちからして呪われている。呪い呪われることに関しては右に出る者がいないとミッドガルドで評判のカイム。生半可な呪いではびくともしない。あとは帝国軍の司祭か司教を連れてくるしかない。
フェアリーの制止をものともせず、枝振りの立派な大木に向けて斧を振り上げる。
「わっ、ホントにやる気かよおー!!」
『木だけに、やる気だ』
「うまくねェー!!」
『気にするな。この木なんの木!!』
「気になる気になる!!」
みんなが集まる木ですから。見たこともない惨事になるでしょう。カイムは立派な幹にザックリ刃を突き立てる。次の瞬間、大木がボカーンと弾け飛んだ。
誰もこんな惨事は予想していなかった。張本人のカイムを筆頭に、アリオーシュとフェアリーはポカーンとした。木が爆発した。
『ん?』
「あらあ?」
「あげええええ!?なんだそりゃ!なんだそれ!?お前はゴーレムかァアアア!!」
御神木が木っ端微塵になった。フェアリーは絶叫した。この木なんの木、もはやおがくずでしかない。木に住み着いていたカブトムシが吹っ飛んだ。オオクワガタがカイムの頭に突き刺さった。
『昆虫の分際で俺の頭に突き刺さるとはいい度胸だ』
「そんなことどうでもいいだろォオオ!!お前何した!?一体何したんだよおお!!」
『根元から一発切り倒そうとしただけだが。まさかこんなことになるとは』
「こんなことになったよ!!なんだ、それ・・・・燃えてるじゃねーか・・・・」
フェアリーが指差した先、根っこだけの残骸に変わり果てた木が燃えている。降り注ぐ火の粉は、葉っぱや木っ端の火炎弾。斧でぶった切ったら、木が燃えた。
『さすが俺、きこりの半人前』
「そういう問題でもねーよなあああ!!そこは、そうだろ!?」
「呪われてるんじゃないかしら、うふふ」
「そー、まさしく呪われて・・・・呪われてる?」
アリオーシュの指摘。カイムの手元を見る。斧の刃が真赤に燃え滾る。あまつさえ熱を発するかのように空気が揺らめく。
明らかに普通の斧ではない。斧は木を切る以外に用途はないが、カイムの手に掛かれば刃物はすべて武器と化す。ミッドガルドの法則。奇しくも元は武器として卸された道具。
まじまじと見つめる。フェアリーは直感した。これは普通の武器ではない。アリオーシュの言う通り呪われている。
「その斧、呪われたモンだな・・・・またヤバイ武器を拾ってきたなー」
『うむ。テラヤバス』
「お前がヤバイよ!!はーやーく、捨てろッ!!」
「血を・・・・」
不気味な声が返ってくる。カイムの声ではない。カイムの聞こえない声ではなく、もっとドス黒い低音。
「なんだあ?誰だよ・・・・」
「・・・・さすれば、さらに強大な力を与えよう・・・・」
斧の放つ熱が格段に増す。カイムは自分の持つ斧を見た。アリオーシュも反応した。しかし喋ったのは精霊サラマンダー。
「こやつは火蜥蜴だ」
「火トカゲだとお?て言うと、あの燃えるトカゲのヤツか?なんで斧なんかに憑り付いて。まるっきりアホじゃねーか」
「だまれフェアリー。人間に媚を売る妖精め、オレサマに気安い口を利くな」
サラマンダーの厳かな声音とは反対に、金属の擦れ合う様なギシギシ声で言う火蜥蜴。
「はー?てめーこそ誰に向かって口利いてんだボケー!!華麗かつ高尚なるフェアリーサマに、トカゲ君の分際で!燃えるのは頭の中だけにしとけ低温爬虫類が!!」
甲高い声で三倍くらい言い返すフェアリー。華麗かつ高尚なる妖精とは思えぬ罵詈雑言。相手に口を挟む間も与えぬフェアリースタイル。
「低温か低脳か知らんけど、てめーこそ斧なんかに間借りして恥ずかしくねーのかよ。おいっお前らもなんか言ってやれ!揃いも揃って、カイム坊ちゃん!!」
『焚き木にするはずの木が爆発した。不良品だ』
「うふふ、斧に火蜥蜴がいたっていいんじゃないかしら。私、爬虫類には興味ないの。冷たい肉には興味ゼロよ」
「アリオーシュはこう言っている。特に我らには問題ないことだ」
「どいつもこいつも反応ウスッ!!」
誰も問題視していない。フェアリーは顔を押さえて仰け反った。爬虫類も妖精もかたなし。
旅中、ピンからキリまでテンションアゲアゲのアリオーシュまで見込みがないとなれば、あんまり大きく取り沙汰する必要はないかもしれない。そうだよね、火蜥蜴の憑り付いた斧が一本くらいあってもいいよね。フェアリーは漠然とした気持ちで諦めた。
「まあいいや、魔剣だろ、それ。武器として使うんなら問題ないだろ」
『じゃあなんだ、俺はどうやってきこりになったらいいんだ。斧を持たないきこりなど死ねばいい』
「どーーーしてもなりたいのか!?きこりに!?そこは諦めて原点の復讐鬼として生きていこうぜ!?」
死ねばいい発言まで出た。全世界のきこりが聞いたら発狂する。泣いて山を下りる。
『くっ・・・・こんな不良品!!』 ガラーン。
「捨てたー!!」
あまつさえカイムは斧を投げ捨てた。ガラーン。ものすごい極端な行動。フェアリーの顔を掠めた。さらに慌てたのは火蜥蜴。
「待たぬか人間め!なんて扱いだ、この殺戮兵器火蜥蜴を手放すとは。後悔するぞ」
『いや。今の俺に必要な物は普通の斧だ』
つれないカイム。この人がまともなことを言うと、まともに見えない。普通の斧を持っていても殺人鬼にしか見えない。それ以外の何者にも見えない。
「なんだと?このオレサマにさらなる血と臓物を食わせれば、ものすごい力が手に入るぜ。木が爆発する程度の騒ぎじゃ収まらんぜ。世界が嫉妬するぜ?」
「急に懐柔策に出たな、お前」
急にフランクな物言いになる火蜥蜴。しかしフェアリーは憐れに思った。そんなことをしてもムダである。
「オレサマにかかればどんなヤツもイチコロだぜ?世界征服も夢じゃないぜ?」
火蜥蜴は斧の中から語りかけるが、カイムは早速別の刃物を物色している。武器ホイールから木が切れそうな物を探している。火蜥蜴の斧はスッパリ思い出から流した。
思い通りにならないカイムに業を煮やし、火蜥蜴は擦過音の唸り声を上げる。
「むぎぎぎ。魔術師に封じ込められたとは言え、魔術師をも滅ぼし、数多の血と臓物を啜ってきたオレサマに見向きもしないとは・・・・さてはキサマ悟りを啓いた聖人か!?」
「ないないない!!いや!絶対ない!!」
光の速さで否定するフェアリー。光の残像が見えた。この火蜥蜴は何を言ってらっしゃる。
達する境地はまさしく人を超えた最終殺戮兵器カイムだが、そんな風に褒められた人じゃない。まじめに言う火蜥蜴だが、皮肉としか聞こえない。
「この人間に何を言ってもムダだぜ火トカゲさんよー」
この地味な展開をどう持っていこうともムダである。これ以上広がらない。フェアリーは投げやりに言った。
「ぎぬぬぬ、なんだこの人間は!力こそパワー!!パワーこそオレサマ!!憑り殺してやろうと思ったが、使えーん!!」
「何言ってんだお前」
確かに何を言ってるのか分からない。オレサマお前マルカジリ。
力のない人間が魔剣を扱おうとしても憑り殺される。カイムやアリオーシュに火蜥蜴の強い魔力の誘惑は効かない。資質以前に人格が問われる人選。復讐鬼に猟奇的なアネキ。
カイムは投げ捨てるし、アリオーシュはまったく興味がないし、火蜥蜴の斧は完全に見向きもされない。
「正直ウゼーよ、火トカゲは。一体どこからこんな斧を持ってきたんだよ。魔剣がそこら辺に転がってる世界ってなんだよ。世紀末か?」
このまま終わるかと思いきや、近付く不穏な足音があった。カサ、カサカサ。
サラマンダー初出です。どんとこい超常現象!どんとこい呪い。気丈なるカイムの冒険。もう一つ続きます。
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