カイム、禁断症状を起こす。


死神の大鎌 Deadly Sickle
地獄の門番である死神が持っていたと言われる、「永遠の闇」の入り口を切り裂くための大鎌。闇に落とされたものは二度と生まれ変わらない。
その男も「永遠の闇」の判決を受けて、死神に落とされるのを待っていた。鎌の刃先が暗黒の闇を切り開き始める。
その時、男は死神を後ろから突き飛ばした!吸い込まれていく死神の姿。「愚か者め…意味のないことを……」
すると鎌がひとりでに男の足元を切り裂いた。地獄の門番は死神ではなく大鎌の方だったのだ。そして大鎌は、今も罪人を静かに待っている。
(公式設定より)



地面に落ちている大きな鎌、略して大鎌を見付けたのはレオナールだった。
数ある帝国軍の居城、もはや帝国軍とは呼ぶまい、「天使の教会」の根城である空中要塞。フリアエの元に単身突っ走って行ったカイムに置き去りを食らい、レオナールもまた一人であった。
これは・・・・盲目のレオナールはすべてを見通す心の目で鑑定した。
「ふむ、鎌ですね」
「鎌以外の何に見えるって言うんだよオッサン。でもなんで鎌がこんなところに落ちてるんでしょーね。武器みてーだけどよー」
フェアリーがブンブン飛び回る。割とのんきな構図であるが。
薄暗いダンジョンに光を灯す妖精、辺りにはカイムがざっくばらんに斬っていった帝国軍兵士の血溜まりが浮かび上がる。ざっくばらんに行こうぜ!無礼講過ぎる光景。
「帝国軍の武器、ですかね。帝国軍には似合わぬシロモノだと思いますが」
「あいつら斬ったり突いたり重視の我ら人殺し集団だぜー。鎌なんてレトロジカルすぎるわな。にしてたって、武器にしちゃヒョロヒョロ」
確かにヒョロっとした感じ。ただの棒に切るところがくっ付いただけの何かに見える。武器として扱うには頼りない感じが見受けられる。
「オッサンが使えばいいじゃねーか」
「私が?私にはこの棍棒があります・・・・無益な殺生を避けるためには、私にはこのような木偶の棒がお似合いなのですよ」
「その割にはずいぶんやったりヤリまくりだよな」
困った時にはレオナール、と言わしめられるほど強力な助っ人隠者。
その棍棒で数多の帝国兵を薙ぎ倒し、叩きのめし、魔法は比類なき威力を持つ。盲目の隠者ができる範疇を完全に超越している。たとえ木や建物の陰に隠れようとも、心の目がすべてお見通しですよ・・・・ニコリ。(隠者の微笑み)
時間制限がなかったら、カイムの殺傷力を完全に超越している。魔法の連弾だけで要塞一つが陥落する。赤い兵士もおののく。
「さて、これは置いていきましょう。一刻も早くカイムを探さなければ大変なことになります」
「カイム坊ちゃんじゃなくて、帝国軍がな」
無益な殺生と呼ばわるのも忌まわしいほどの殺戮が起きている、現在進行形で。空中要塞は屠殺場へと変貌した。
レオナールには手に取るように分かる。契約者だけが聞こえる、オラオラオラァ!!帝国のダニ共がァアア!!という狂った笑い声が。カイム、これ以上はもうやめええ!!ヴェルドレの制止も聞こえるが、カイムは聞いていない。
レオナールは鎌を地面に戻そうとしたが、フェアリーが言った。
「ちょうど刃物があるんだからよー。いっそのこと去勢したらどうだよ」
「私がですか?おやおやおや、何をお言いですか・・・・もしもの際、何かあったらどうするんですか」
「このオッサンおんどれの欲望を捨てきれてねええええ!!」
どうするんですか・・・・?ニコリ。(隠者の微笑み)
「ともかく鎌は無用です。私も先を急がねば」
「そんなこと言ってる内に取り囲まれたぞ」
赤い兵士や黒い兵士やノーマル帝国兵士が集まってきた。こっちの方から気配がするぞ!!己の性癖を隠しきれていない者、略して隠者の気配が!
カイムが敵を取り逃がすハズは無し。新たな戦力が投入されたに違いない。
「やはりここは重要な拠点のようですね」
「強そーなのばっかりじゃん!!」
門番のボスまで出てきた。この兵士に囲まれるとまずい。ダッシュで突っ込むとものすごい面白い格好で吹っ飛ばされる。
「カイム坊ちゃんはしばらく戻ってこねーし、オッサンが多勢に無勢で頑張るしかないじゃーん?」
マップは赤い点で埋め尽くされる。ターゲットのボスも混じっている大挙。
「不本意ながらお相手しましょう。私の目がすべてを見通します・・・・選別!!」
「何を選別するんだ、何を」
新米の少年兵が混じっていないかどうかを見極めるんだ。そういう努力を欠かさないレオナール。
帝国軍は戦慄した。この隠者、ただ者ではない・・・・。正気を失った赤い目の兵士達に久方ぶりの恐怖を思い起こさせる。やるかやられるか、そんな問題ではない。
レオナールはすべてを見通した。その目視、わずか一秒を切る選定眼。並大抵の隠者ができる業ではない。
「残念ですが、この者達は除外枠のようです」
「残念ですがって何が残念なんだ、何が。何を何から除外してるんだ」
レオナールのストライクゾーンから。成人男性を。
「無益な殺生は心が痛みますが、心置きなくやれそうですね。では、しからば!!」
「どっちだよ!!心の天秤を推し量れェエエ!!」
「とっ、はっ、たあー!!」 ビシバシズバーン。
「フットワーク軽いなオッサンはよー」
空中要塞を守る兵士は中堅のベテラン揃いだったので、幸運にもレオナールのおめがねに叶う人材はいなかった。幸運なのか不幸なのか。心置きなく棍棒で殴られてゆく。
どこから斬りかかろうがレオナールには当たらない。やられ際の断末魔がたとえ 「いやだ死にたくない!!」 「おかあさーん!!」 だとしても、レオナールは惑わされない。心の目がお見通しですよ・・・・ニコリ。(隠者スマイル)
「帝国軍の兵士には恐れがないと見えます。だからこそ不毛な戦いにも疑問を持たないのでしょう、哀れな・・・・。私はこの戦いを止めたいと願います。南無三!!」
「同情しておきながら容赦ねえー!!」
南無三!と言いながら大量殺戮魔法を連発する。これでも対人というのだから恐ろしい。契約した相手が妖精フェアリーとはとても思えぬ威力。
「これでよいのです・・・・無益な殺生を食い止めることができました」
「確かに誰もいなくなったけどよ」
静かに武器を収めるレオナール。確かに無益な殺生は収まったが、一方的に終わらせている。しかしこの隠者、ノリノリである。
その時、レオナールの足元で動く気配があった。生き残りが床でうごめいているのだ。
「おやおやっと、生き残りがいるようだぜー」
フェアリーが飛んで行き生死を確かめる。赤い目の兵士は死に直結する痛みさえも薄れているらしい。いくら不気味に勇猛だろうと、これでは地獄を見ることになる。
「要らぬ苦痛を与えてしまいましたか。むごいことをしました・・・・」
「今度はサクッと息の根止めろよな。やっさしーオッサンにでっきるカナー?そうだぜ、さっきのこの鎌でヤッちゃえよ」
「そんな非道なことはできません。せめてもの慈悲、私の手で一思いに葬ってやるのがよいでしょう」
「いや、いやいや。棍棒で殴り殺す方がなんぼか非道だと思うのは、オレ様ちゃんだけかしら」
無害なことを言っておきながら実は怖いことを言うレオナール。フェアリーはゾクッとした。
そうこうしていると、遠くから走ってくる音が聞こえた。バタバタ、ドーン!!ギニャアー!!おたすけー!!
「・・・・オレ様ちゃんが思うに、今のはどう考えても曲がり角で美少女転校生にぶつかって恋愛フラグが芽生えた音じゃないよな・・・・」
「私が思うに、今のは走ってきたカイムが帝国兵士にぶつかって斬り倒した音ですね」
『まさしく俺だが。どうかしたか』
「出てきたよカイム坊ちゃん」
カイムが戻ってきた。ぬっと出てきた。カイムの剣(武器名)には今し方ヤッちゃった鮮血がベットリとぬらつく。兵士が出会ってしまったのは復讐鬼だった。泣いても泣いても泣き足りない。
全速力で走ったのかカイムは息が荒い。ハーハー言う。重装備らしからぬダッシュは、見る者の畏怖を駆り立てるという。
しかも最後の踏み込みで生き残り兵士を踏み潰した。武器ホイール満タンのカイムは重過ぎる。
『ダニ共はどこだっ』
「ここら一帯の帝国兵士は倒しました。慌てることはありません」
『何をォ。貴様、俺の獲物を横取りしたな・・・・』
「落ち着いて下さい、まずは息を整えてから」
まだまだゼーゼー言っているカイム。心なしか顔が青い。全速力で走ったせいだけではあるまい。
「どこか具合でも悪いのでは?」
「このカイム坊ちゃんに具合が悪いなんてあるかよー。でもなんか顔色ヤバイってカンジだな。どーしたんだよ」
フェアリーにまで言われる。カイムは酸素が薄いかのような仕草で口をパクパクさせる。
『これは、だな、ハアハア・・・・』
「ヤバイ人っぽいな」
『こんな、狭い、場所に放り込まれては、ぎぬぬ、ここから俺を解放しろー!!』 ザクザク!!
「とうとう狂ったー!?」
叫ぶや否や、足元に転がる死体を切り刻むカイム。元から狂っているが、今回は唐突過ぎる。何が彼を触発したのか。
「見てないでどーにかしろよオッサン!!こっちにまで被害及ぶわ!!」
「この症状、聞いたことがあります・・・・」
カイムの奇行に頷くレオナール。フェアリーに説明する。
「これは世界三大奇病、レッド欠乏症ですね」
「なんだそのおもしろおかしい病気は。世界的に承認されてんのか、カイム坊ちゃんの狂気は」
「主な症状は、赤色に異常な執着を見せるのです。おそらくこの狭いダンジョンではレッドドラゴン殿を呼べず、カイムは極度の低レッド症を起こしているのでしょう。これは大変な発作です、禁断症状かと」
「ぬぁにー。そんなアホな病気があるもんかー!貧血かよ!!そしてこのアホな発作」
『赤、赤色、アガー!!』
「見ての通りです」
「確かに見てて可哀想になってくるけどよ」
ところ構わず壁をゴンゴン斬り付けているカイム。人斬りの断末魔みたいなことになっている。
その狂った刃がいつ自分達に向けられるとも分からぬが、カイムは完全に正気を失っている。何を斬ってるかも分からん。それは柱ですよ。
「オッサン、今の内にその刃物を隠したらいいんじゃねーか?血を見るぜ」
「さっきの鎌ですか。確かに危ういような・・・・」
相当面白いことになっているカイムを横目に、何か打開策はないかと考える。レオナールは鎌を後ろ手に隠した。
「何か赤い物を与えておとなしくさせるってのはどうだ?」
「そうですね、赤い物・・・・あいにくと持っていませんね。よしんば、敵の要塞で探そうにも・・・・」
『ラブレーッド!!』 ドス!!
「あいたー!?」
「刺されたー!?」
とうとう刺されたレオナール。フェアリーが絶叫する。こんなに早くやられるとは思っていなかった。
しかし己の性癖を隠す者、略して隠者とて契約者、この程度の刺し傷で死ぬほどヤワじゃない。むしろ、いつもの背中踏み蹴られ攻撃の方が堪えるくらいである。
『あっはははは赤色ー』
「フフフ、やってくれましたねカイム。的確に私の脇腹を狙うとはさすがです。ツボを心得ている!!」
「喜んじゃってるよこのオッサンは!!もう好きに生きろよマゾ。隠者マゾ」
「愚か者め、意味のないことを。それは囮だ」
聞き慣れない声が響く。要塞全体に響くかのような、それでいて地の底から這い上がってくるような、得体の知れぬ声音。フェアリーは振り向いた。レオナール。ではなく、
「オッサンの・・・・後ろだ!!」
「む?これですか!」
背中に隠していた鎌が妖気を帯び、器物が喋り出す。間違いなく呪われし魔剣である。
「たとえ持ち手を倒そうともゆめゆめ油断するな・・・・本体は私だ」
「なんだ鎌!!オカマ野郎なにもんだー!この忙しい時に!!」
謎のひょろっちい鎌に怒鳴るフェアリー。確かに今、ちょっと忙しい。魔剣なんか今さら珍しくもない。
「鎌なんかに構ってられるかー!」
「それはシャレのつもりですか」
「あほんだら助!!ていうかよー、そんなヒョロヒョロした鎌が魔剣とかありえねーだろ」
魔剣をも恐れぬ侮辱発言。怒らせたとしても器物の身で襲い掛かってくるなんてことはありえない。剣は剣でしかありえないのだ。
たった今、持ち手であったレオナールはカイムに襲撃されて手放してしまったし、ひとりでに動くこともありえない。なのでフェアリーはタカを括っていた。
「愚か者めがまた一人。本体は私だと言っただろう」
「はー?聞こえませーん」
「捨て置いても問題はないでしょう」
「ならば、永遠の闇へ招待してやろう・・・・」
なんとまあ、鎌がひとりでに動き出した。レオナールはぎょっとした。
鎌の切っ先が空中を切り裂く。すると何もないところに真っ黒な裂け目が生じた。まさに永遠の闇と呼ぶに相応しい。紛れもなく地獄へと通じている。
しかも裂け目は彼の足元に出現した。鎌は人を斬るための武器ではなく、地獄への入り口を開く死神だったのだ。死神そのもの。
「なんと!!」
「吸い込まれるー!?」
「さあ堕ちるがいい」
『アガー!!』 ドカーン。
幸か不幸か愚行か、そこへ狂ったカイムがぶつかってきた。なのでレオナールとフェアリーはぶっ飛ばされて、永遠の闇から逃れることができた。レッド欠乏症が初めて功を奏した。
「ナイス坊ちゃん!!」
「おかげで難を逃れましたが、この仕打ちは・・・・」
壁際までぶっ飛ばされた。空中要塞の壁材はとても丈夫なので、人がぶつかったらタダじゃ済まない。レオナールの方がへこんだ。
かつて、永遠の闇の審判から逃れられた者はいない。全世界の罪人死人を罰することに関してはエキスパートと呼ばれた死神の大鎌は驚愕した。
「私の審判を脱するとは・・・・。ならばそちらの人間、お前から裁いてやろう!!」
今度はカイムの足元をスパッとやる。だが狂ったカイムには通用しない。
『貴様が本体だと言ったな。ならばこうしてやる!!』 ゴゲッ。
「ぐわー!!」
「ああ、あんなにもアッサリと・・・・」
フェアリーが呟く眼前、カイムに蹴っ飛ばされた鎌が永遠の闇に吸い込まれていった。なんでそこだけ冷静になる。
みるみる内に裂け目は閉じた。永遠の闇に放り込まれた鎌も戻ってこない。断末魔がぐわー!!って。
「こ、これでよかったのか・・・・」
「よく考えると恐ろしい魔剣でしたが、よいことにしておきましょう」
よく分からない内にハッピーエンドになってしまった。恐るべき復讐鬼の復讐劇。この人は並大抵の刑では処せない。どういう基準で処罰を下していいものか。
とにかく丸く収まった。帝国軍はもっと魔剣の扱いに重きを置いてほしい。
「カイム、おかげで助かりました」
「不本意ながらありがとよー」
『ぜっ、はー、はー・・・・鮮血の赤を見たことで一時的にラクになったが、こんなもので足りると思うな・・・・アガー!!
丸く収まらなかった。世界三大奇病が火を噴くぜ!!カイムは再び低レッド症に陥る。もちろん剣も振り回すよ。
「うわーこっちの方がもっとヤベーよ!!」
「赤い兵士を連れてきましょうか」
「それもヤベー!!」
「兄さん、私を見て下さい」
カイムが狂乱の宴を繰り広げているその時、近くの曲がり角で待っていたフリアエ(天使の教会ドレスアップ時)が覗き見していたことは、誰も知らなかった。ああ、彼女!女神!!赤いよね。





(2008/09/22)


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