カイム、隠者と語る。


「カイム、帝国軍の兵士が「視」えます。・・・・また、戦いが始まりそうですね」

目を閉じたままレオナールは言う。カイムは頷いた。
『目敏いな。ということは、相手はあの小さな連中か。少年兵とか言うヤツか。さすが森の隠者。目敏い。いっそのこと森に隠されていろ、一生。神隠しに遭え。それが世のため世界の青少年のためだ』
「やれやれ。どうやらあなたは大きな勘違いをしているようですね・・・・私が見境もなしにそういう行動に出るとでもお思いですか。とんだ勘違い、見立て違いですね」
『違うのか。初耳だ』
「見境はあります。年齢十歳未満、身長120cm以下は除外されます。私のルールから」
『ジェットコースター並の規制だな。俺の思い違いか。己の特殊な性癖を隠す者、略して隠者を責めてはいけなかった』
「カイム。あなたはいろいろ勘違いをしていますが」
二人は山岳の奥地、封印の森に立つ。木々の生い茂る視界は霧に閉ざされ、何もかもおぼろげだ。
契約によって視力を失ったレオナールはまったく別の感覚ですべてを捉える。そしてカイムもまた、失った肉声を用いず会話を続ける。
『しかし、俺もよく責められる』
「あなたが。何故ですか?」
『理由はよく分からんが。イウヴァルトは知っているな?』
「知っているも何も、今あそこでハープをかき鳴らしながら「フリアエ~マイラバ~」と歌っている彼のことでしょう」
そう言いながらレオナールは少し離れた木の上を指差す。言葉通り、イウヴァルトは木の枝に腰掛け「カイム~マイライバール~」と歌っている。先の歌詞とちょっと似ているが中身は全然違う。あんな重いヨロイを背負ってどうやって登ったかは敢えて追求しない。
「彼に責められるのですか」
『ああ。それがあまりにも唐突で俺も困る』
「理由ですか。常識でないことをするからではないでしょうか。私も今ではあれやこれやの規制法において立派な犯罪者です。責められても仕方ありません」
『隠者というか立派なお尋ね者だな。しかし貴様と一緒にするな。俺は至って常識的だ』
「あなたの場合、一度の戦闘で何人殺そうが裁く法律がありませんからね。混沌の時代なのです。いっそのこと規制法も共に葬り去られてしまえばよかったものを・・・・」
隠者の閉じられた両目に涙がきらめいた。泣くところじゃない。泣いても許されない。自信を規制して、森の隠者。
『だから貴様と一緒にするな。俺も突然怒鳴られても困ると言っているんだ、俺の何が悪い。何が迫害の理由だ』
「迫害まで来ているのですか。ならば、ご自分の行動を思い返してみるのが良いかと。イウヴァルトはどんな時にあなたを責めますか」
『ならば隠者のアドバイスに従ってみるか。俺の行動・・・・』
カイムは考えた。イチから思い起こしてみる。なぜ自分は責められなければならないのか。本当に自分に非があるのか。何か特別に間違ったことをしていたのか。

昨日は何をしていたのか。(帝国軍兵士を殺していた)
おとといは何をしたのか。(帝国軍兵士を低空戦で焼き尽くした)
三日前は何をした?(連合軍兵士を虐殺した)
・・・・思いつかない。(ちなみに今日は連合軍兵士を魔法で皆殺しにした)

「どうですか。思いつきましたか」
『いや。まったく。俺に非は絶対ない。完璧だ』
「完全に過去の因果を棚に上げていますね。それでは何の解決にはならないかと」
『俺ルールに則って考えてみたが』
「俺ルールに抜け道があったんですよ、それじゃ」
穴だらけの俺ルールである。レオナールは淡々と指摘する。
「で、今日はどうでしたか」
『今日か?今日も責められた。あれは確か今朝、起きた時・・・・』
「そうです。その時のことを詳しく思い出してみなさい。何があって、何がイウヴァルトの怒りに触れたのか」
『怒るようなことだったのか知らんが』
「あなたはどうも一般常識から外れてますからね。意外と分かりませんよ」
『なるほど』
「納得するところじゃありませんよ、今は」
己の非常識さを知らされながらも、カイムは今朝の出来事を思い出す。
『起きた瞬間、テントの入り口が開いた』
「ふむ。それから?」
『来たのはイウヴァルトだった』
「そこで何かあったのですね。彼は何に怒りを覚えたのか。あなたと彼の間にどんな諍いがあったのか」
『いや。フリアエもいた』
「フリアエ・・・・ああ、女神のことですね。女神もいたのですか。・・・・は?なぜ彼女まであなたのテントに来たのですか」
『来たんじゃない、最初からいた』
「いた、ということは。いつからいたのですか」
『昨晩から』
「・・・・何やってたんですか」
『普通に寝ていただけだ。それが何か』
自分と側の空間を交互に指差してみせるカイム。そことここ。レオナールは諦めたように溜め息をついた。
「・・・・あなたがそこまで常識のない人間だとは思いませんでしたよ。女神様と寝所を共にするなど、もはや恐れ多いこと。イウヴァルトが怒ってもしょうがないことですよ。責められても仕方ありません、諦めなさい。今晩からそれはやめなさい」
『なぜ』
「なぜと問いますか。女神は本来、俗物から切り離された環境にあるべき存在なのです。そこに踏み込んでみなさい、誰だってブチギレですよ、しかもイウヴァルトは女神の元許嫁と聞くではありませんか。彼が怒るのはもっともです」
『そんなに怒ることか。五、六年も前からどうも朝ごとに怒鳴られると思えば、それは怒るようなことだったのか』
「あなた、自分の国が滅んだ頃からそんなことやってたんですか。大変だったのは分かりますが。そう言えば、ちょうど女神が代替えした頃ではないですか」
そうだ、とカイムは頷く。
「カイム。あなたは女神とどのような関係で?連合軍、一介の傭兵でありながら、女神様とただならぬ間柄のようですが・・・・もしや他人には言えない関係では!?」
『俺の妹だが』
「倫理ゼロ!!!たたた、たとえ女神が妹君であろうとも、それは何が何でも許されません。恥を知りなさい」
『貴様に言われたくはないが』
「最初からダメダメですね。ここぞとばかりに不思議そうな顔で見ないで下さい。ほんとにダメですよ」
『不思議なこともあるものだ。いくら戸締りをしていても朝起きると何故かフリアエが隣で寝ている。ドアの前に36連鎖トラップを仕掛けようも三十分で無力化される。両親が健在の頃、彼らも渋い顔していたのだが。しかし、隣に寝てるだけで無害だ。特に俺は何もしていないが』
レオナールの頭に女神最強伝説が浮かんだ。ゴッデス。
しかし、妹を退けるために36連鎖を仕掛ける兄も兄だが。兄妹そろって並ではない。
女神は封印の大業を担い、体に強大な負荷を追う。そのために短命だと聞いたが、それを補って余りあるほどの所業。これも神が与えもうた試練なのか。それとも人選ミスか。
『なるほど。いくら元とは言え、自分の婚約者が別の男と寝ている場面は発見したくないな。俺ルールに一つ加わった』
「あなたね。兄と妹という関係を忘れてますよ。そっちの方が大事じゃないですか。一体何歳だと思ってんですか、この24歳」
『今まで隠してきたが、実は俺ルールには一度に一つのルールしか加えることができないんだ。言いたいことがあるなら明日にしろ。その時に聞く』
「そんな裏設定いりませんよ。しかも聞いてません」
「フリアエ~マイラバ~♪カイム~マイライバール~♪」
木の上ではまだイウヴァルトが歌っていた。すべてを癒す歌声だが、歌詞はもうちょい捻ったほうがいいとレオナールは思った。
「彼の歌、間違ってません?」
『おかしなことを言うな、森の隠者。貴様は己の性癖を押し隠して生きることに専念しろ』
「あなたに言われたくありませんよ。せいぜい気を付けなさい。親友に寝首をかかれますよ、そのうち」
「不思議なこともあるものだ。一年ほど前、朝起きるとベッドの下にイウヴァルトが転がっていた。しかも何者かに切り付けられ重症だった。あの事件、未だに解決してないな。フリアエもいたが、何も知らずに寝ていたらしい」
「なんとなく・・・・犯人は分かりますけどね」
『俺には分からない。おっと、言うな。ミステリーの真相は自分で考える。しかし、イウヴァルトも青い顔で「僕は何も知らない僕は何も知らないフリアエ僕を許して僕を許して」と繰り返すだけで何も語ろうとしない。まさに迷宮入りか・・・・』
「途中に出てくる名は無視なんですね!?」

レオナールの脳裏に再び、女神最強伝説が浮かんだ。ゴッデス。






非常識主人公と変態契約者のお話。セクシャルバイオレットだぜ。(不明)(2005/5/14)
いつもカイムに蹴られているレオナールですが、やられると分かっていて黙らない彼が好きです。契約者中最強。性癖も最強。でも本当の最強はフリアエだと思います。そりゃあイウヴァルトも殴られるさ。兄さんも罠程度では防げないさ。

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