カイム、風当たりがきつくなる。
「カイム、嵐の神と勝負する」 の続きです。



「今日はよい天気だ。昨日の嵐が嘘のようであるな」
レッドドラゴンは空を見上げる。曇り空の多いミッドガルド、爽やかな一日が始まった。
『こんな日は武器を虫干しするに限る。武器ホイールの中は意外に湿っぽい』
「それだけ満タンにしていれば湿気るだろう。たまには日の当たる場所へ晒すがいい」
『うむ。時々、中から不気味な物音がする』
「それだけ満タンにしていれば怨念も溜まるだろうに・・・・」
全部魔剣。耳を澄ませば聞こえてくる・・・・うらめしやーたまに使えー出せえええ!!レッドドラゴンはゾクッとした。恨みがキッツイ。
『まあ俺は空耳だと思っているが』
「気味が悪い!!これを空耳だと言い張るおぬしの神経が分からん!!」
空耳で済ませてしまうカイムにゾクッとする。もっと耳を傾けて!魔剣も報われぬ。
「うーむ、こっちから不気味な声が聞こえてきたようだが・・・・」
そこへヴェルドレがやって来た。魔剣の恨み節が届いたらしい。張本人のカイム以外にはしっかり聞こえている。
『空耳だと思いたいが、この武器達から不気味な声が聞こえるようだ』
「それはイカン。魔剣に宿った救われぬ魂達が呻きを上げているのだろう。このお札を進ぜよう」
怪しいと言えば怪しい、ヴェルドレは謎のお札を取り出す。カイムは武器ホイールにそのお札を貼り付けた。
『どれ、試してみるか』

ひぎゃあああ!!彼岸が・・・・成仏するうう!!オガーザーン!!

「救われぬ魂もこれで安らぐ・・・・しっかり供養してやることがためになるのだ」
『これで静かになった。うむ、不気味な声は声は聞こえなくなったぞ』
「おぬしがそれでいいなら、別にいいのだが・・・・」
魔剣に憑り付いていた怨霊のいくつかが成仏してしまった。普通の武器になってしまった。しかし斬れればそれでいいカイムなので、特に問題視はしていない。
爽やかな風が吹く空の下、供養は終わった。これからも戦え!復讐の鬼よ!Fin.
では、終わらない。今日はこれから青の丘陵で百人斬りフリーミッションを控えている。カイムの趣味である。超個人的。
『よし、出発する前に虫干しだ。気のせいか武器ホイールが爽やかに感じる。さらに乾燥剤でも入れればいい』
「成仏してしまったからな。今の内におぬしも安らいでおくことだ。封印がすべて破壊されてしまえば世界の終わりだ。普通ではいられまい」
『なるほど。俺が絶滅させるのが先か、世界が終わるのが先か、いい勝負だ』
「させるな!!敵味方の区別くらいしろ!!目に見えないものに勝負を仕掛けるな!」
『俺は勝負に興味はない。ただ、早かれ遅かれ・・・・という意味でだな』
「なおさら悪い!!」
早かれ遅かれ、帝国軍がしっかりしなければカイムが先にやるという意味で。不吉だ。
敵にしっかりされては困るが、復讐の鬼が跋扈する事態も相当危うい。レッドドラゴンはぬはあ、と溜め息を吐いた。ドラゴンの肺活量で木が一本倒れそうになる。
「物騒なことを言うな。帝国軍は今も世界の封印を破壊せんとしている」
『知っている』
「よし、知っているならテキトーなことをぬかすな!!」
レッドドラゴンの溜め息、ではなく、ドラゴンブレスがカイムを焼いた。表面が程よく焼けました!(ミディアム)
「もちろん女神も、すなわち最終封印も破壊対象である。女神を殺すということだ。今もこの瞬間、おぬしの妹は瀕死の危機に直面しているのだぞ」
『許されん。虫干しは中止だ、ダニ駆除だ!!
ここまで言わないと危機感を持たない。虫でもダニでもいいが、駆除に刃物を使う凄まじさよ。こうでなければ復讐の鬼は務まらない。
ちなみにフリアエは帝国軍にさらわれている最中である。ついでにイウヴァルトもいない。イウヴァルトはさておき。
『空中要塞だ!!』
「激情に走るなバカ者。容易に誘い込まれてどうする」
いきなりどこか遠くへ走り出すカイム。ナイスガッツ。意気込みは認めるが、地上を走っても空中要塞には辿り着かない。
『世界の終わりと封印がどうのこうのはさておき、早くフリアエを助けなければ』
「よし、ナイスガッツだ。それでこそおぬしらしい」
すぐに戻ってきたカイム。世界の平和、放りっぱなし。言っていることは投げっぱなしだが、フリアエを帝国軍から守りきれば世界もよくなる。
『三十分以内にフリアエを奪還するとして、この現地から空中要塞までおよそ直線二百キロメートルと過程する』
「我に飛べと?三十分以内に?時速四百キロで?」
『できる!!』
「できん!!」
『俺はできる』
「堂々とウソで断言するな!!」
ドラゴンにもできないことがある。主に、400km/hの飛行など。疲れてしまう。しかしカイムならできるかもしれない。と思える辺りがゾッとする。
「本当にできるなら見せてみろ・・・・」
『よし、見ていろ!!』
どこか遠くへ走り出すカイム。確かに速いが、時速二百五十キロはムリ。
『疲れた』
「すぐ戻ってくるな!!なんで最初からやめておかない!!」
『装備が重い。武器ホイールを空にすれば・・・・』
ヨロイも重そうだが、一心同体なので取り外せない。カイムは武器の数々を地面に置いた。殺戮の道具しかない。これで身軽になった。
「その時を待っていた!!わしと勝負だ!」
近くの木の陰から怪しい声が。怪しい人物、略称怪人が出てきた。カイムとレッドドラゴンは同時に振り返る。
「素手になるのを待っていたぞゥオオ!!これで貴様は丸腰同然!!さあ勝負だ!」
聞き覚えのある声だった。手には怪しい槍、むやみやたらに風に吹かれて登場、嵐の神。カイムは無言でダッシュした直後、ジャンプした。
『これでもか!!』 ドス!!
「ぬゥオオ!!人間の分際でこの神たるわしにドロップキックとは!!」 ゴギャン!!
「案ずるな、嵐の神よ。そいつは相手が誰であろうとそうする」
上下関係で説明すると、カイムが背中の上、嵐の神が足の下になっている。それにしてもこの復讐の鬼、ノリノリである。躊躇なく人の上に立とうとする。
嵐の神は出てくるなりカイムに成敗された。特に目立って悪いことはしていないが、登場しただけでこんな仕打ち。カイムが黙っていない。
『昨日の今日で負けたことを忘れたのか』
昨日の今日で再戦を試みる根性もすごい。なんというか、勝ちに対する根性が図太い。嵐の神は堂々と言い切る。
「いや、昨日の勝負は無効とみなす。神ルールによってなァアア!」
『いいや認めん。俺ルールに則り俺の勝ちだ。敗者に用はない!!』
「だが二回戦だ!!このわしのハングリー精神を受けてみよ!!」
『なんだと・・・・しかしナイスガッツ、認める!!』
「では二回戦を申し込む!!Are you ready!?」
『OK!!』
ハングリー精神で以て再戦の約束を取り付ける嵐の神、やたらフランクに請け合うカイム。
勝負はどうでもいい。まずはカイムは嵐の神の上から降りるべきだし、嵐の神はカイムの足から逃れるべきだ。それから落ち着いて話し合えと、レッドドラゴンはそう思った。


「勝負は至って簡単!!勝負に関係のない公正な判断を下す第三者をターゲットとし、そやつの外套を剥ぎ取った方が勝ちだァアア!」
もちろん風の力で。刃物で脅すやり方などは除外される。武力行使ダメ、絶対ダメ。
『昨日と同じだ。もっと別の方法はないのか』
「ない!!このわしから風を取ったら一体何が残ると言うのだァアア!!」
『哀れだな』
自分で自分の弱点を暴露する嵐の神。潔い暴露だ。哀れだなと言っておきながら、絶対そうだとは思っていないカイムに、レッドドラゴンはつっこんだ。
「おぬしから刃物を取ったら何が残るかと言うのと同じだ」
『確かにそうだ』
レッドドラゴンの指摘に頷くカイム。しかしさっきは刃物抜きで勝ちに行った。殺戮に対する執念が違う。
「獲物、ではなく、ターゲットを決めるぞゥ!!」
「オレ様ちゃんが決めてやるよォオオオ!!老人は引っ込んでな!」
音速でフェアリーが飛んできた。昨日一番、心に傷を負った被害者である。レオナールの新たな性癖が開花してしまった様を目撃した被害者。
老人と呼ばれた嵐の神は激昂した。怪しい槍を振り上げながら怒鳴る。
「引っ込んでおれ!!妖精に何が分かる!!」
「いーや、オレ様ちゃんには分かるね・・・・」
「何が分かるもんかァアア!!」
「今日はとっておきのターゲットをご用意しました。エルフの姉ちゃん!!出番だぜ!」
「あら何かしら。悪いけど私、後期高齢者には興味がないの」
子供にしか興味がないアリオーシュが現れた。もちろんパクパクする意味での興味である。ごちそう的な意味で。
しかし、嵐の神はフェアリーに歩み寄った。そして二人は人差し指でコンタクトした。
「分かっておるでないか、妖精よ・・・・」
「分かってるだろ?ご老人よ」
二人の未来予想図。
外套を剥ぎ取る。→ 昨日の例から言って、確実に全裸コース。→ オッサンより若いお姉ちゃん。
「完璧だ・・・・これでわしは負けても悔いはない」
「だからオレ様ちゃんに任せろって言っただろ?こーのエロ老人!」
「よさんか、ほっほっほゥウ!!」
やんややんやと賑やかな二人はさておき、レッドドラゴンはアリオーシュに声をかけた。
「アリオーシュよ、あの老人は懐に赤子を隠しておるぞ」
「まあ、ごちそうさま!!」 ザシュゥ!!
悲しみの棘の一閃。嵐の神は倒れた。カイムはアリオーシュに歩み寄り、右手を取った。
『勝者、エルフ!』
「まあウフフ。悪いけど私、勝負ごとには興味がないの。それに赤ちゃんもいなかったし・・・・あなたでいいわ!!」
『油断したァアア!!』
間違った食物連鎖の図。油断した素手のカイム、アリオーシュのネックハガーに捕まえられた。
「本当は未成年対応だけど、お昼のおかずは決まったわあ」
『抜かった、刃物さえあれば!』
悲しみの棘vs素手の押し問答。狂ったランチタイムが始まった。今にもザックリやられそうだが、素手なりになんとか頑張った。なんとか窮地を脱する。
「あら、逃げられたわ」
『昼のおかずになる俺ではない。武器さえあれば負けない。切り刻む!!
「カイム様、これをお願いします」
切り刻むと聞いて、コックのボブさんがニンジンを持ってやって来た。短冊切りでお願いします。
「いけない!!無益な殺生はいけませんよ!!」
切り刻むと聞いて、隠者のレオナールが駆けつけて来た。何があったかは知らないが、ここは私が!!
ボブさんとレオナールのどちらが早かったと言えば、後者の方が早かった。アリオーシュとカイムの間に強引に割り込む。全体図を見渡したレッドドラゴン、嫌な予感はあった。
『短冊切りでいいのか!!』 ザク ビリーン。
レオナールの厚着が短冊切りで弾けた。キャストオフした。嵐の神とフェアリーは我が目を覆った。
「おぎゃあああ!!オガーザーン!!」
「ほげえええ長老ォオオオ!!」
それぞれ助けを求めながら倒れる。嵐の神に母親がいるかは知らないが、目を覆ったままバターンと倒れた。再び目にしてはいけないものを見てしまった。
哀れな被害者をものともせず、レオナールは疾走後のいい汗を拭う。もちろん全裸で。
「ふー、間に合いました。これでいいのです・・・・無益な殺生は避けられました」
『なぜ貴様が割り込んでくる。邪魔だ!!』 ザス!!
「素肌にダイレクトヒッツ!!かなりいい感じです!」
「悪いけど私、中年には興味がないの。食欲が失せたから今日は野菜を食べるわ」
「ニンジンでも食っとれ」
レッドドラゴンの忠告に従い、アリオーシュはニンジン(丸ごと新鮮)を拾ってどこかへ行ってしまった。
レオナール(もちろん全裸)の働きにより無益な殺生は避けられたが、別の意味で被害者が続出した。ボブさんはコック帽を目深にかぶったまま地面に突っ伏している。
「どうするのだ、この惨事を・・・・」
『残った俺が勝者。これですべてが丸く収まったはずだ』
「勝ち負け以前にもっと大事なことがあるだろうに!」


その日、我らがカイム様は森の隠者の厚着を切り捨てることがご趣味らしい・・・・そういう噂が連合軍内で飛び交ったという。
「あのカイム様が・・・・」
「己の新たな性癖に目覚めてしまった者、略して隠者を・・・・」
「連合軍は終わりだ・・・・
兵士がカイムの方を見ながら小声でヒソヒソしている。丸く収まっていない、角が立ちまくっている。
「おぬしの評判、風当たりが相当きつくなったようだぞ。情けない評判を立てるでない、まったく嘆かわしい!!」
『逆風こそ俺に相応しい。そして俺は風評など気にしない』
レッドドラゴンの暴風叱責もどこ吹く風、カイムはまるっきり気にしていない。
『ところでその噂はいい噂なのか?俺が近付くと全員無言になるのだが、聞かせられないほど褒められたことなのか』
「前向きすぎる!!思いっ切り気にしてるどころか、いい内容だと勘違いしている!!」
正反対の悪評ッだー!!兵士達の意向と本音を代表して、レッドドラゴンのドラゴンブレスがカイムを焼いた。もちろんレオナールは全裸のまま終わる。(着替えはない)





嵐の神と勝負する、に入りきらなかったアリオーシュです。(2010.05.10)
レッドドラゴンが400km/hで飛べても、カイムは落ちると思うんです。落ちても這い上がってくるのが復讐鬼クォリティ。

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