カイム、現実逃避で倒れる。
「天使の教会」 司祭こと、ご存知マナ。マナは地団駄を踏んでいた。現在進行形。
「クソッ、くっそおおお!!連合軍のクズ共め、ナマズ共、うおおおお!!」 (幼女声)
ご存知、人類殲滅計画を遂行中のマナは苛立っていた。現在進行形。
実質のところ帝国軍の裏ボスとして、赤い目の兵士を率いて目下頑張り中だが。うまいこといかないのが世の常である。
ミッションフロム・ザ・ゴッドの大儀を果たすため、昼夜をいとわず女神の城を襲撃したりエルフの森を焼き払ったり封印を撃滅したりと忙しい毎日を送っているにも関わらず、何かと障害が立ち塞がる。障害とはもちろんご存知、連合軍である。
たかが寄せ集めのレジスタンスと思いきや、割と食い込んでくるのが疎ましい。武力火力共に勝っているのはもちろん帝国軍ではあるが。
「負け犬の残飯が集まって何しようってのさ。で、その残飯に邪魔されてるこっちはなんなのさ。っくおおおー!!いい仕事してんじゃないよ!!」 ゴロゴロゴロ!!
他人には見せられぬ異形の回転っぷり。芋虫の如き見事なゴロゴロっぷりに、我ながら若干引く。
我に返ったマナは、おもむろに無言で立ち上がる。
「連合軍のキモは、あいつらだ・・・・あのドラゴンとその契約者・・・・」
あれやそれや。ご存知レッドドラゴンとカイムを指す。特に後者の復讐鬼がやばい。今ミッドガルでもっともやばいと評判の契約者。
「くっ、ぬおおおおー!!」
とりあえずカイムを呪い殺すために不吉な念を送ってみた。方向指示、エルフの里!!
その頃、エルフの里にて。
『むっ、不吉な気配を感じる』
不吉な念を感じたカイム。受信している。レッドドラゴンは特に心配していない。
「案ずるな。おぬしが一番不吉な存在であろうが」
『いや、俺以外で。俺の目は誤魔化せん・・・・そこだ!!』
持っていた首切り包丁を振り上げ、近くの茂みに向けて投げる。この行為、完全に殺意は否定できない。
ザシュッと音が聞こえた。手応えあり。
『やったか』
「やるな!!相手を見極めてから刺せ!人間だったらどうする気だ」
「問題ありません。私、女神ですから」
茂みの中からガサッガサッと出てきたのはフリアエだった。その手には首切り包丁。難なくキャッチしている。
しかしその姿が恐ろしい。茂みに潜む女神に刃物。女神ですから・・・・何?レッドドラゴンはゾッとした。
『フリアエだったのか。驚かせるな。当たったらどうする気だ』
「心配ありません。たとえ刃物だとしても、兄さんの私物であれば当たっても痛くありません」
「どういう理屈だ・・・・」
『いや、それはボブさんの私物だ。俺が借りていただけだ』
※ボブさん。連合軍のベテランコックさん。首切り包丁ですべての食材を切り裂く。
「うっ、あああ」
『フリアエ!?しっかりしろ!』
「なぜ倒れる!?」
糸が切れたようにダウンするフリアエ、キャッチするカイム。フリアエは棒読みで言った。
「私はもうダメです。最後にお願い、しっかり抱きしめておいて下さい」
『分かった!』
「できれば一時間ほどお願いします。以降は延長で!!」
『よく分からんが、分かった』
「ありがとう兄さん」
どこからどう見ても顔色がいいフリアエ。健康の見本として飾っておきたい女神である。
しかし一応、首切り包丁は手放した方がいいんじゃないかな。そうレッドドラゴンは思った。どこからどう見ても怖い。女神、包丁持たない。
戻って、同時刻マナ。汗だく。
「ッ、ぬっはあああ、無理!!やっぱりダメかァアア!!」
手応えがなかった。呆気なく弾き返された気がする。理由はよく分からないが、送った呪いが砕かれた気がする。
※理由、カイムの近くにいる呪いより邪悪な念のため。誰とは言わない、女神とは。
力を使い果たさんばかりに疲労困ぱいのマナ。ここで倒れるわけにはいかぬ。だって私は愛されてるから!
気を持ち直し、カイムを呪い殺すより効果的な方法を考える。何か、いい方法が・・・・。
「はっ、そうだ」
名案が浮かんだ模様です。
「わざわざ人間の方を狙わなくても・・・・契約者は一人じゃないんだからねっ!」
帝国軍もとい、「天使の教会」をナメないで頂きたい。マナは赤い目の兵士達に命令した。
「おーい!!おおーい!準備、用意!!呪い送り器スタンバイッ!!」
割に名前が安易。のーろーいーおくりきー。
パラボラみたいな指向性アンテナを持ってこさせる。発信器?もちろんマナですよ。ケーブルを体のどこかにガッチリ接続して、危ない電波を発する。
「今度こそッ!!ぬあああ!!」
リキの入った雄叫びで呪い発信。ということは、もちろん受信する相手がいるのだが。
その頃、エルフの里、お元気ですか。
『フリアエ、そろそろ終わってもいいか・・・・』
「いいえ。まだだと思います、女神として。延長お願いします」
瀕死を装った元気な女神の策略はまだ続いていた。策略内容は上記を参照されたい。
自らの境遇を逆手に取った大胆な演技・・・・連合軍の兵士達は遠巻きに見守る。気付かないカイムもすごい。
女神として!!と言われたら、カイムも離すわけにはいかない。フリアエはと言うと、徐々に勢い付いて宝塚のポーズみたくなってきた。すごい傾斜角度である。それにしてもこの女神、ノリノリである。まさに職権乱用、女神として。
一番近くで見ていたレッドドラゴンはと言うと、見守るのも疲れたので、少し離れた木陰で寝ている。カイムが静かで大変よろしい。
「やれやれ。骨休めにはよいが、立ち止まっている場合ではなかろう」
「おやドラゴン殿、休憩中ですか」
レオナールがやって来た。もちろんフェアリーもいる。
「あっちでカイム坊ちゃんが遊んでるぜー。それにしてもあの女神、すごい角度で・・・・」
フェアリーまでもが驚愕する角度。常人ならば一分も持つまい体勢を維持している。
「女神って、柔軟性に富んでいるな。背骨が」
「さすが女神、己の背骨の限界に挑むとは・・・・さすが人類最後の砦、さすがファイナル封印です」
「おぬしら好意的に取りすぎだろう・・・・」
誰もこうなった経緯につっこまない。気にしている自分がおかしいのかと、レッドドラゴンは我が目を疑った。いや、おかしいだろ!!なんだか、ほらァアア!!(声にならない叫び)
「感心するのもいいが、そろそろ止めてやらんと女神の背骨が折れるぞ」
「仰る通りです。人類最後の封印が折れてしまえば元も子もありませんからね」
「とりあえず、女神につっかえ棒でも差し込んでおけばオッケーって感じか?そう言えばさっき、ちょうどいい棒を見付けたんだよな」
「そうでしたね。サイズ的にナイスな棒が・・・・」
レオナールが棒を取り出してくる。これでフリアエの背骨も安泰だろうと安心した時、その時、その瞬間。やたら引っ張るが、レッドドラゴンは悪寒を感じた。
「む、何やら寒気が・・・・」
「風邪じゃね?あらら、ららー、ドラゴン様が風邪デスカー?」
「見くびるなフェアリー、ドラゴンは風邪など軟弱な病気に負けぬ。しかしなんだ、この嫌な寒気は・・・・」
『 寒気と聞いて!!俺の出番か!!』 ドサッ。
「地獄耳かバカ者!!」
ものすごい速さでカイムが駆けつける。ドサッの音はフリアエが地面に落ちた音である。つっかえ棒が、間に合わなかった。
妹を放り出してレッドドラゴンの元に馳せ参じたカイム。世界とレッドドラゴンのどっちを取るかって言われたら、そりゃレッドドラゴンを取るじゃない、CK.(カイム的に考えて)
カイムは真顔で選択を迫った。
『さするか温めるか撫でるか抱きしめるか、好きな方を選べ』
「どれも断る!!」
温めてどうなるものでもあるまい。むしろ悪寒が増す。エンシェントドラゴンを目の前にしてもここまで震えない。
返答と同時にドラゴンブレスで鉄槌を下す!!が、何故か炎が出ない。煙も出ない。
いつもなら地獄の業火でカイムが程よく焼けるはずだが。フェアリーが呟く。
「もしかして、不完全燃焼・・・・」
「いや、ガス切れかもしれません。ドラゴン殿、燃料タンクは大丈夫ですか?」
「アホか!!我は車か何かかッ!!」
真面目に尋ねるレオナールの方が大丈夫なのかと問いたい。しかし相変わらずドラゴンブレス不発である。
「この我が不完全燃焼などとは・・・・」
己の不調に気付いたレッドドラゴン、その巨体がグラッと傾く。あっ!と思った時にはもう遅い。地面に倒れ込んでしまう。地響きが起きた。
ドスーンと大きな音を立て、レッドドラゴンの姿は土煙でかき消される。まるで爆煙である。フェアリーがどこかに飛ばされた。見えない視界の中にカイムが突っ込む。
『大丈夫か!!』
「う、うむ。急にめまいが・・・・」
カイムに抱き起こされ、レッドドラゴンは呻いた。て、ちょっと待って。
異常事態に気付いたのはレッドドラゴンが先だったが、明確な指摘を下したのはフリアエだった。
「サイズが小さいです」
もちろん棒読みで。
その場に居合わせた全員が呆気に取られた。張本人のレッドドラゴンまでもが声を失う。サイズが、小さいです。
カイムに抱えられたレッドドラゴンは小さくなっていた。そりゃ、人間の手に収まるくらいだもの。ドラゴン級の体長ではない。明らかに小さい、人並みに。
レッドドラゴンは人間になっていた。なぜか。
その頃、有頂天マナは。
「どうだァッ!!呪いは届いた模様か!?」
口調は勇ましいが、力を使い果たして床にへばっている。くたばるにはまだ早い。のろのろと立ち上がる。
「なーんてね・・・・こんな非科学的なものでドラゴンにダメージを与えられたら苦労はしないよ・・・・」
いや、効いてる。
「こんな回りくどい手段より、さっさと封印を破壊した方が手っ取り早い!もうー総員セットアップ!!次の標的は砂漠の封印!!何ボサッとしてんだ、さっさと行けーい!!イエーイ!!」
八つ当たり気味に出撃を命じられ、さっきまで呪い送り器をセットアップしていた赤い目の兵士達は慌てる。パワハラである。
月の砂漠の封印がピンチなことに気付いていないカイム達は、その頃。
「そんな、まさか・・・・ドラゴン殿が・・・・」
「現実を見ろよオッサン・・・・しかし、なんだこりゃ・・・・」
辛うじて口が達者なレオナールとフェアリー。フェアリーはなんとかヨロヨロ戻ってきた。
「まさか、ドラゴン殿が!!突然襲われた動悸・めまいによって倒れてしまい、人間になってしまうとは!!」
「状況説明ありがとうオッサン!!」
レオナールの説明通り、レッドドラゴンはカイムの腕に収まるくらいのサイズになってしまった。つまりヒトになってしまったんですね。
「さらに、雌雄同体と思われたドラゴン族が少女!!になってしまうとは!」
「さらに説明を!!その気持ちと性癖は理解してるが、襲うなよオッサン!!」
「その点は心配ありません。私はロリータコンプレックス、略称ロリコンではありませんから。なんら問題はありません」
「だから逆に心配なんだよ!!」
真面目に反論するレオナール。小さく幼き者に性的興奮を覚えてしまう森の隠者のストライクゾーンから絶妙な角度で外れている。不幸中の幸い。
驚きを隠せない。しかし一番びっくりしているレッドドラゴン、そしてカイム。絶句したままだ。カイムは元からだが。
「兄さん、気をしっかり持って下さい」
フリアエが的確に促す。相変わらず棒読みだが一番冷静だ。先に正気を取り戻したのはレッドドラゴン。
自身の体を見てみる。明らかに違う。赤くないし翼もないし、ツノもないし、大きくないし、赤くないし!!何これ!?
「こ、これはッ一体・・・・我に何が起きた!?カーイム!!」
思わずイウヴァルト口調で怒鳴ってしまう。カイムはハッと我に返る。人間に変身したレッドドラゴンを見下ろし、なんとか答えた。
『ど・・・・』
「ど!?」
『ドンマイ・・・・ッ!!』
「カーイム!!気絶するなーッ!!」
一言、ドンマイ!と言い残し、カイムはガックリ倒れ込んだ。目の前の現実に対し、理解の範疇が限界突破。端的に言うと心が折れたらしい。
「重い!!誰かカイムをどけろー!」
自分の上に倒れてきたカイムの重さに怒鳴る。初めて気付いたが、ヒト型では人一人の重量にも耐えられない。
「大丈夫ですか!どっせい!!」
駆けつけたレオナールがカイムを地面に転がす。どっせい。特に抵抗もなく転がり落ちるカイム。
「わ、我は本当に人間になって・・・・しまったのか・・・・」
怒りとも驚愕とも判別つかぬ感情に震える。これではレッドでもドラゴンでもなんでもない。誇り高きドラゴンが、ただの人間である。そこへレオナールとフェアリーが切り込む。
「ドラゴン殿、気を確かに!!」
「そうそう、意外と大丈夫!!なんか、ほら!」
「確かに人間ですね」
フリアエがとどめを刺した。気を失いかけたレッドドラゴンが後ろに倒れ込む。この時やっと役立ったつっかえ棒。つっかえ棒が嬌声を上げる。
「ホーホホホ!!愚民共め!!このわたくしをつっかえ棒に流用するとはなんたる侮辱、こつこつ積み立てたわたくしの怨念で全員死ねー!!」
「ぬん!!ただいま取り込み中です!!」 ドン!!
レオナールの渾身のこぶしがつっかえ棒を吹っ飛ばす。支えを失ったレッドドラゴンは後ろに倒れた。フェアリーは言わなかったが、だるま落としみたいだと思った。
よく見ると魔剣である。この状況だ、喋り出すまで誰も気付かなかった。しかも先端が尖っている斧、上下を間違えていたら危うく背中に刺さるところだった。
王妃の玉座 Queen's Throne
アウストラシア王ジギベルト一世妃ブルンヒルデは西ゴート王アタナギルドの娘で王の死後、あとを継いだ息子が摂政となり実権を握った。
一方、ネウストリア王キルペリク一世妃フレデグンデはアウストラシア王国の領土をいまいましく思い、ジギベルト一世国王を暗殺してしまう。
アウストラシアとネウストリアは抗争を続け、ブルンヒルデの血族やフレデグンデの家族が次々と暗殺され、両国間は深刻な状態に陥る。
ブルンヒルデはネウストリア王クロタール二世との和平会談時に謀略に遭い処刑される。この斧はブルンヒルデの首を落とした斧と言われている。
(武器物語より)
もちろん使用者はそんなこと知らない。ああ、なんか見た目カッコイイ斧だね!という感想くらいかな。
知らずに手にした者を斧の怨念が憑り殺す。見付けたのが契約者のレオナールでなければ、つっかえ棒として流用されることもなかったのに。
地面に落ちた魔剣は、凄まじい負のオーラを撒き散らしながら、ガタガタのた打ち回る。見た目も怖い。素手では触りたくない。
「アウストラシア王ジギベルト一世の妃として時の権力をほしいままにしたこのわたくし、西ゴート王アタナギルドの娘であるブルンヒルデになんたる蛮行・・・・!!数多の修羅場を潜り抜けたわたくしの怨念パワーを受けてみよ!」
「それは誠にやんごとなき!!」 ッカーン!!
ご自慢の棍棒(武器)で以て魔剣をかっ飛ばす。王妃の玉座、話が長い上にややこしい。しかも自己紹介で終わっている。
「何ィこの私をホームランですって!?」
「女神ィ!!」
「姉さんやっちまって下さい!!」
「兄さんの私物でないなら不要物です。ハイヤァ!!」
女神ルールに則りとどめを刺される悲劇の斧。バギャァアアン!!(破砕音) 女神の万能性はちょっと侮れない。
「ギャアアア!!このブルンヒルデの怨念を叩き折るとはァアア!!」
レオナールのアタック、フェアリーの口先トス、フリアエが粉砕。(素手) 鮮やかかつ豪快なる流れ作業によって魔剣が負けた。
「この斧は折れました。しかし余りある長い柄が何かに使えそうです。物干し竿として」
「ええ、物干し竿などに・・・・」
「物干し竿とかな・・・・」
女神のリサイクルアイディアはちょっと侮れない。留まるところを知らない。そうやって世界の平和と物質保存の法則が保たれるのである。
「こ、これが、神の与える試練だと言うのなら、我には乗り越えられそうにもない・・・・ここでゲームオーバーだ・・・・」
一方、平和が失われたままのレッドドラゴン。そしてカイムの意識もまだ戻っていない。弱い。フリアエの女神力 (めがみ・ぢから) を目の当たりにした後で際立つ弱さ。
「ドラゴン殿の正気も戻っていないようです。女神、こちらはなんとかできないでしょうか。あなたの女神力で!!」
「女神力ってなんだ、女神力って。そんな万能性があるのか女神力」
「すみません、なんとかできません。私、か弱い女神ですから」
あっという間に投げるフリアエ。女神にもできることとできないことがある。できることと言ったら、魔剣を素手でブチ折るくらいかな。できることの方がすごい。
とにかく人間の姿になってしまったレッドドラゴン、その現実から逃げる形で意識不明のカイム、慰めの言葉も曖昧なレオナールとフェアリー、そして棒読みのフリアエ。
「レッドドラゴンが素っ裸です」
「キャー!!誰か着る物を!」
「今の悲鳴オッサンか!!」
悲鳴を上げる人に誤りがある。兵士達も真っ赤になってキャー!!って言っている。指の間からチラ見するよ。
周囲のリアクションに対し、レッドドラゴンもようやく気が付いた。
「おお、そうだった。しかし我は生まれてこの方、着衣など無用だったものでな」
「冷静すぎる!!こっちは逆に冷静を取り戻した!誰かお召し物をお持ちの方はおられませんかァアア!!」
フェアリーの絶叫が大地にこだましたところで、続いてしまう。
カイム 『(゜Д゜) 』 (2010.8.31)
レッドドラゴンが人間になったっていいじゃない、そうじゃない。佐藤の中ではすでにCエンドまで補完されてるんだから!!妄想が過ぎた小話ですが、このままドラゴン様ヒト型で小話が進んでしまいます。いいじゃない、少女ドラゴン様で!!いつになく前に出るフリアエ。
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