前回の続きです。
カイム、髪の乱れを気にする。
封印騎士団新聞(夕刊)にて。
「本日お昼過ぎ、連合軍のレッドドラゴンが人間に変身した。その理由について、本ドラゴンもとい本人に心当たりはないとのこと。原因は未だ不明。帝国軍広報部は 「事実を確認中、現時点でコメントはできない」 と返答を伏せている。(記事 :エリぴょん)」
「イーッヒッヒッヒ!!思わぬ形で大・成・功!!自分の才能が怖い!!」
新聞で事情は知った。帝国軍アジト(どこかにあるんでしょうね)で高笑いを上げるマナ。悪魔みたいな笑い方、それが怖い。逆に面白い。
午前中、うさんくさい呪いを送ったおふざけが効いたようだ。まさか本当に効き目があるとは思わなかった。自分の才能が怖すぎる。
「しかし、こんな効き目が現れるとは・・・・何これ、怖い・・・・」
ほんとに自分で自分が怖い。別に、レッドドラゴンを人間にしようと思ってやったわけではない。数ある呪いの内容がランダムにヒットしたのかもしれない。
カイムがダメならと、レッドドラゴンに狙いを定めたのはよかった。ドラゴンが人になってしまう呪い。どうりでカイムに効かないはずだ。
ちなみに逆だったらカイムがドラゴンになってた。間違いなく帝国軍の大ピンチ。
「逆じゃなくてよかった・・・・」
マナは心の底から安堵した。ランダムヒットの怖さを思い知る。
「フフフ、連合軍のナマズ共はおしまいだね。ドラゴンさえいなけりゃ戦力はガタ落ち、制空権は帝国軍のもの、ミッドガルの大空はもらった!!」
帝国軍もとい 「天使の教会」 は今、砂漠の封印を破壊するため進軍している。何も知らぬ連合軍は追い付けまい。
その頃、何も知らぬ連合軍。
日は沈み、上へ下への騒ぎは鎮火しつつあった。
『うう・・・・』
「カイム、気が付いたか」
『うーん・・・・もう殺せない・・・・』
「悪夢!!殺伐とした寝言を言うなー!!夢の中でも大虐殺か!」
もう食べられないよ~と同じニュアンス。やっとこ意識を取り戻したカイムだが、ジェノサイド・イン・ナイトメア。現実とあまり差異のない言動である。
「いい加減に起きぬか!目覚めよ!!」
レッドドラゴンに怒鳴られ、カイムはハッと飛び起きる。地面から十センチほど飛び上がった。びっくりしすぎだろう。
「まったく、いつまで寝ているつもりだ」
『おかしな夢を見ていた・・・・お前が人間になるというアクシデントが』
起床十秒後のカイムの目の前には、なんとも言えぬ顔のレオナールが立っている。フェアリーも沈んだ表情でいる。
「カイム、酷な話ですが・・・・」
「それ、現実なんだぜ・・・・」
カイムは後ろを振り返る。見覚えがあるような、ないような、推定年齢ヤングアダルト的な少女が座っていた。なぜか正座で。
『おあっパツキン・・・・!!』
「驚くところはそこか!!」
若干ずれた点に驚愕するカイム。そうですね、金髪ですね。なんでパツキンて言う。
素早いレオナール、再び倒れそうになった背中にすかさずつっかえ棒。折れた女王の玉座の柄部分が役に立った。若干苦しい体勢で踏み止まる。
何度も意識不明になられては困る。いい加減に現実を見つめていかなければ。
「気をしっかり持つのだ。一番驚いているのは我なのだからな」
声は違えども口調はレッドドラゴンのままだ。カイムはようやく声を振り絞る。
『レッ・・・・ドドラゴンなのか・・・・』
「おかしな区切りで言うな!!・・・・ともかく、我は我だ。姿は違うが」
悪夢は現実と繋がった。現実を突き付けられ、カイムはヨロヨロと立ち上がり、すぐに崩れ落ちた。
『ど、あ、うああああ』 ドサッ。
「泣きたいのは我の方なので、頼むからしっかりしろ」
今は人間となってしまった細い両肩になだれ込んで嘆く。もうすごい光景である。
今ならこの復讐鬼を後ろから刺せる。レオナールかエルフがザックリ刺した方がいい、ここぞとばかりに。少しは、微量ながらも、わずかばかりミッドガルが平和になる。
まさに修羅場。重い空気に中てられたフェアリーが呟く。
「さすがにこのオレ様ちゃんもカイム坊ちゃんに同情するな・・・・」
「そうも言っていられません。主戦力であるドラゴン殿とカイムがあの様子では、帝国軍には勝てないでしょう。女神を守れないとなれば・・・・」
「いや、女神サマはめちゃくちゃ大丈夫だと思う」
「私も今そう思いました」
魔剣を素手でブチ折る女神を思えば、こんな状況、微塵も心配ではない。二人は深く頷いた。女神、大丈夫!
「おぬしの妹に服を貸してもらったのだ。人は服を着るものだろう」
『いいぞ、なかなかヒト社会に溶け込んできたぞ』
「こっちもなかなか順応しつつあるな・・・・」
「私達が心配するまでもないようですね」
一番気を揉んだレオナールとフェアリーをよそに、レッドドラゴンとカイムは通常運営に戻りつつあった。慰謝料とか払ってほしい。
「そして兵士達が赤く染め直してくれたのだ。何はおいてもまずは、我のカラーは赤だということでな」
『ラブレッド!!グッジョブ!!』
名もなき兵士達に向けて親指を立ててみせるカイム。お安い御用ですよカイム様!
フリアエのワンピースをレッド仕立てに、レッドドラゴン・ヒト仕様が完成した。しかし何も解決していない。服飾しか解決していない。
その時、レッドドラゴンが何かに気付いた。レオナールも気付き、見えない目で遠い場所を振り返る。
「声が聞こえてきたようです。私には知らない声ですが・・・・」
「そのようだな。我も初めて聞く」
契約者同士で遠く離れていても聞こえる声である。砂漠の神殿にいるヴェルドレという神官から入電しました。
「ドラゴン殿は人になっても声は聞こえるのですね」
「その点は変わっておらん。契約者である以上、声のやり取りはできるらしい」
「話が早い。ヴェルドレ神官は女神を保護して下さるようです。エルフの森はもはや帝国軍の手に落ちました、砂漠へ逃げ延びた方が安全でしょう」
「砂漠か・・・・過酷な環境だが、封印のために女神だけでも生き延びてもらわねば」
「長い旅になりそうです。カイム、一刻も早く砂漠へ出発しぬはァ!!」 グッサァ!!
死ぬはァ。無言でレオナールを刺すカイム、刺されるレオナール。突然の事件に叫ぶフェアリー。
「修羅場だァ!!なぜいきなり刺す!?オレ様ちゃんも血ィ吐くわ!!」
『覚えておけ。これが人類なりのコミュニケーションだ』
「人の道を外れた外道が何を仰る!?」
『砂漠へ行くのか。一刻も早く出発するぞ』
「コミュニケーション取れてねえー!!」
レオナールの発言を横取りしている。誰と会話してるの?話題から取り残されたことが癪に障ったようであられる。
「もっと、入ってこいよ!!話題に!!オレ様ちゃんがレクチャーしてやるぜカモン坊ちゃん!!」
『髪が乱れているぞ。俺が整えてやろう』
「すまぬな。人間とはおかしな場所に体毛があるものだ」
「唐突に度外視!?」
何事もなかったように、度外視。レッドドラゴンのヘアメイクに取り掛かるカイム。人類としてのコミュニケーション・会話を早速放棄している。フェアリー置いてけぼり。
「おい、おいおい。オレ様ちゃんと会話しよーぜ・・・・」
フェアリーはゾクッとした。女神が尋常でない穏やかでない顔だった。言葉では言い表しきれないが、とにかくすごい顔で見ている。
「カーイム!!話は聞いたぞ!!フリアエを砂漠の神殿に連れて行くんだろう、一刻も早く出発だ!!」
唐突にイウヴァルト。そう、この人がいた。と言わなければ誰も思い出さなかった。
「病弱なフリアエにとって過酷な旅になるだろうが、彼女を守るためには仕方がないことなんだ・・・・女神だとか封印だとか、そんなことは抜きにして俺は純粋な気持ちでフリアエを守りたい!!」
『よしできた。編み込みも捨てがたいが、ここはシンプルに二つ結いでどうだ』
「人間の髪型はよく分からんが、今はイウヴァルトの話を聞いたらどうだ」
「兄さん、助けて下さい」
熱血宣言しているイウヴァルト、レッドドラゴンの前で鏡を構えているカイム、フリアエに至っては助けて発言まで出ている。イウヴァルトにガッチリ腕を掴まれている。
話が噛み合っていない。カイムがイウヴァルトの話を聞いていない。両者共に一歩も譲らぬ一方通行ですね。
カイムの声はイウヴァルトに伝わらない。ので、勝手に話が進む。
「俺は先に砂漠へ行く、カイムは後から来てくれ。さあ行こうフリアエ!」
「待てイウヴァルト、個人行動は危険である。たった一人で女神を守り切れるのか」
「兄さん私はここです、助けて下さい」
『リボンがあれば・・・・』
「おぬしはいい加減に会話を成立させろ!!」
リボンが・・・・などと言っている内に、フリアエは強引に連れ去られてしまった。
魔剣をブチ折る腕力があるなら、ここで見せてほしかった。か弱さをアピールしようと思ったの?そして肝心の兄貴が見ていない。
しかしそこは連合軍、イウヴァルトを追い掛けて行く。取り残されたレオナールはカイムを急かす。
「カイム、我々も出発しましょう。女神を守らなければ」
「そうだぜー。女神サマが死んじまったら世界の終わりだろーよー。ていうか、坊ちゃんの妹だろ・・・・」
『分かっている、砂漠へ向かう』
「分かっているならさっさと行動を起こせい!!」
レッドドラゴンの叱咤。お叱りはごもっとも。ドラゴンブレスで炙られないだけまだマシである。
「・・・・しかし我はこの有様だ。飛ぶこともできぬ。契約者として無様な姿は見せられまい。足手まといになるなら置いてゆくがよい」
『よしきた、乗れ!!』
「誰に!?おぬしに!?」
おんぶ体勢でスタンバイ。レッドドラゴンを背負っていくつもりだ。砂漠まで。
レッドドラゴンに乗れないなら、カイムに乗ればいいじゃない。そういうことである。言いたいことは分かるが、ちょっと意味が分からない。
「なるほど・・・・レッドドラゴン殿がドラゴンである時には最大五センチまでしか持ち上げられなかったところを、今なら軽々と・・・・ということですね?」
『そういうことだ。今ならこんなこともできる』
「五センチも持ち上げられたことの方が怪異だ!!持ち上げるな!!」
高い高ーい。(レッドドラゴンの状況) カイムの頭の上まで掲げられるレッドドラゴン。何この有様。
「砂漠まで何十キロあると思っているのだ!無理だ!!」
『案ずるな。なんならこのヨロイは捨てていく』 ドサドサッ。
「防御力ゼロ!!」
身軽になるカイム。ミッドガルにおいて装備における防御力なんて無意味に等しい。実際、序盤でちょっと洒落にならないほど瀕死になってた。
ライドオンを拒否するレッドドラゴンに対し、カイムは持ち前の実力行使を発揮した。
『では行くぞ。全速力で』
「いや、ちょっと待て、待て、ちょとーーー!!」
「カイム!!」
レオナールも止めたが聞き入れるはずもない。人の話も聞かないし言葉も通じない。言葉の力とは時に無力である。特にカイムに対して。
「カイム!!せめてこのスリングを!!」
「それ、赤ちゃん用のおんぶ紐じゃねえか・・・・」
せめての妥協案。なぜ丁度よくそんな便利グッズを常備していたのか、フェアリーは死ぬほど気になった。
「オッサン、隠し子でもいるんか」
「そんなわけないでしょう。この私に?おやおや、はっはっは」
「死ぬほど気持ち悪ィ!!納得できるが!」
隠し子疑惑など塵に等しい。レオナールの私物が気持ち悪いことが判明した。知りたくもなかったが。
しかし終盤、ちょっとサイズオーバーな赤ちゃん集団に囲まれることを思えば、これくらい耐えられ・・・・ない。
カイムの走行時速が何キロか知らないが、レッドドラゴンの悲鳴でなんとなく分かる。遥か遠くから絶叫が聞こえてくる。アルミホイルを引き裂くような絶叫。
「レッドドラゴン殿は元々空を飛ぶもの、地面を走るなど有り得ないのでしょう」
「砂漠に到着する頃、首がもげてなきゃいいけどな」
「悪酔いしそうですが」
確かに。
「しかしカイムのことです、無事にレッドドラゴン殿を砂漠へ送り届けるはず。首に関しても心配はないでしょう」
「首に関してはな。心の問題は?」
「そこは強靭な意志で以て!!」
「すっげえ投げやり!!」
「ヒー!!いぎゃあーーー!!」 その頃、強靭な意志を持ったレッドドラゴンはカイムの背中で絶叫していた。首がガックンガックンいっている。
『そろそろ砂漠に着くぞ。フリアエに追い付くぞ』
「その前に降ろせえええ!!」
などと言ったものだから、カイムは急ブレーキで止まった。ザシャッ!!と砂埃が上がる。ストップの反動でレッドドラゴンの首がゴギッといってしまった。
レッドドラゴンは息も絶え絶えにカイムの背中から降りた。自分で飛ぶのとは大違いだ。スピードはこの際どうでもいい、移動が全然スムーズじゃない。特に上下の振幅が。
「うぬぬ・・・・く、首が・・・・」
『まずいぞ』
カイムが呟く。見ると、敵に周りを囲まれている。言わずもがな、おなじみ帝国軍である。
しかも赤いヨロイの兵士。魔法を跳ね返してくるので、うかつに攻撃できない。青い顔でレッドドラゴンは立ち上がる。(乗り物酔い)
「確かにまずいぞ。帝国軍はすでに先回りしていたようだな。なんとしてでも突破するのだ」
『まずい、髪が乱れている。これを持っていろ!!』
レッドドラゴンに携帯用のハンドミラーを持たせ、再度ヘアメイクに取り掛かるカイム。赤い兵士、度外視。
「今か!?今すぐか!?まずいとは我の頭髪のことか!!」
『他に何がある。・・・・よし、できたぞ。では出発するぞ、乗れ!!』
「妙に手馴れているのが怖い!!またおぬしに乗るのか!」
赤い兵士が手を出すヒマも与えず、妙に素早い手付きでレッドドラゴンの髪の乱れを整える。気持ち悪い、これは素直に気持ち悪い。
あと、これはツインテールではないのですよ、ツインテールでは。耳より低い位置で結んでいる。これがカイムのジャスティス。かわいいは正義。
目の前で個人的なジャスティス(趣味)を見せ付けられた帝国軍、やっとカイムの行動に追い付く。ここは通さぬ!!
『邪魔!!』 ドス!!
おんぶで両手が塞がっているカイム、伝家の宝刀ヤクザキックで兵士を蹴り倒す。フィニッシュブローより攻撃力が高いと定評がある。(エルフの里のエルフAさん、隠者の森の隠者Aより)
「よいのか、こんなてきとうな突破で・・・・」
『いい。帝国軍の赤など俺は認めない。ダニは血ダルマがお似合いだ』
「てきとう抜かしおるわ!!」
『案ずるな。この場は時間の関係で見逃してやったが、赤いヤツらが出たら次は殲滅する、根絶やす』
「牛か!!」
『人間だが』
レッドドラゴンの赤以外認めない。ラブレッドですから!!
砂漠の神殿に着かないので、まだ続く。
死ぬほど動揺しながら立ち直ったカイム。久しぶりに、イウヴァルト。(2010.10.4)
人なるレッドドラゴンの髪の毛に関しては死ぬほどこだわりを持っていますが、あえてここら辺で!ストップ。俺に乗れ!っていう小話、エフハチでもやった二番煎じ。全体的にまとまりなく気持ち悪い感じちょうどいいと思いました。(完結) ブラックドラゴンまで続くよ!
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