前回の続きです。レッドドラゴンひとなる小話。
レッドドラゴン、お腹が空くかもしれない。



破竹の勢いで捕虜収容所を脱出し、追いかけてくるエルフのアリオーシュを付かず離れずの感じで引き連れ、カイムとレッドドラゴンは砂漠の神殿まで戻ってきた。
※破竹の勢い。竹やぶの中を突っ走ること。カイムとアリオーシュが通り過ぎた後には、たけのこも残らないというたとえ。
破られた砂漠の神殿跡には誰もいない。フリアエ達は一足先に連合軍のキャンプ地へ戻ったようだ。
「お腹が空いたわ」
アリオーシュが言う。その注目から遠ざかり、レッドドラゴンは答えた。
「人もエルフも人類以外のものを食すべきである。キャンプ地に戻れば食べる物もあるだろう」
今は人になってしまったレッドドラゴン、できれば今は自分を人類と見なしてほしい。食用と思わないでほしい。
「カイム、女神が心配だ。一刻も早く戻るぞ」
『分かった。エルフ、お前も来い。腹が減ったなら連合軍カレーを食わせてやる』
「お肉は?カレーに豚バラ以外は認めないわ」
「なぜそこだけ冷静になる」
元は平凡な主婦であったアリオーシュ、こだわりは外せない。主婦としての意見が表面に浮き出る発言が。カイムは答えた。
『こくまろ、豚バラ、玉ねぎ多め』
「行きましょう、一刻も早く」
「和解した!!」
カレーを間に挟むことによって敵対関係が緩和された。びっくりした。レッドドラゴン、カルチャーショック。いいないいな、人間っていいな。
和解には遠いが、とりあえず三人は連合軍の元に向かった。
その頃、すっかり忘れられているイウヴァルトIN帝国軍のアジト@空中要塞。



「ヌハハハ!!やったねピース!!連合軍のモグラ一匹ゲットー!」
ご存知、天使の教会司祭マナがピースサイン。味方でさえすっかり忘れていたイウヴァルトを捕まえてご機嫌である。砂漠の神殿で待ち構えていた甲斐があった。
ひとしきりくるくる回って花びらをバラ撒いたところで、続きを再開する。
「人質?捕虜?そんな生ぬるいことは言わないよ。こいつを利用して、ラクしてズルして女神をいただきかしら!」 (低音ボイス)
マナ様、花びらの補充です!摘みたてイキイキです!赤い目の兵士がカゴで花びらを運んでくる。別の兵士が床の花びらをホウキで掃除している。
「フッフフ。さあーイウヴァルト、赤い目になれ!なるんだ!!これでも食らえ!」
拘束したイウヴァルトめがけ、赤い目の病原菌らしき物をグイグイ押し付ける。しかしイウヴァルト、食らわない!避けた!あともうちょっと!
マナの抵抗もむなしく、イウヴァルトにすべてを回避される。正しくは、イウヴァルトの回避率が半端ない。
「やめろやめるんだ幼女!!」
「幼女って言うない!」
「幼女だか司祭だか知らないが、とにかくやめろ!俺にはフリアエという婚約者がいるんだ!俺に触るな!!」
正しくは、元が付く。フリアエが女神になった時点で容易くあっさりと気持ちよく爽快なまでに破棄された関係である。
あー、元婚約者か・・・・情報通の兵士から事情を知らされ、マナは攻め方を変えることにした。弱みを握ればこっちのもんですよ。
さすれば、こっちに寝返るなら女神を手に入れられるんです!と唆せば万事塞翁が馬。人の心を操ることなど容易いマナにとっては昼飯前である。(現在午前11時)
「その元婚約者?の女神だけど?あんたが帝国軍@天使の教会に入会するって言うなら、女神を手に入れられるかもしれないよ?」
「やめろ!疑問符を多用するな!」
「手に入れられる!!確実!!」
しかし安易に騙されないイウヴァルト。体は売っても心までは売らないわ。
「幼女め!うまい話には裏がある」
「だってさ、女神がほしいんでしょ?」
「そりゃほしいとも」
「じゃあ天使の教会に入れ!今なら無料特典で女神が!!」
「入らん!!」
「わがまま!!」
なかなか手ごわい。安易に人質をさらってこいと命令したのはいいが、扱いにくい人を選べとは言わなかった。もう少し簡単な人材を求めていました。
さすれば、もっと攻め方をきつくしてやる。マナは暗黒微笑を浮かべながらイウヴァルトに近付く。
「女神の近くにいるカイムが邪魔なんだろう?カイムがいなければ自分の思い通りになると思っているはずだ、心の最深部では!」
「やめろ幼女!カイムは俺の親友だ!そんなことは思っていない!!」
「いや、心の底では思っている。己の心と向き合え!」
「そりゃちょっとは五ミリくらいは思っているさ!!」
「あっさり暴露!?」
意外と簡単に陥落した。本音を暴露するのが早いよ親友。その親友、最近やけに無言になったけど、筆談という手もあるじゃない。もしくはレッドドラゴンを通訳に介して。
「五ミリも思ってるなら曝け出しなよ、己の欲望をさ」
「本音と建て前を使い分けるのが社会の常識だ。しかし俺は今もカイムを親友だと思っている。そこまで俺の本音を知りたいなら、まずは俺とカイムとフリアエの出会いから話さなければならないようだな・・・・聞け幼女よ!!」
イウヴァルトの過去バナが始まった。話は十年以上まで遡ってしまった。
己の生い立ちから始まり、城でカイムとフリアエと出会ったところまで一時間を要し、フリアエの第一声がなぜかいつも兄さんが、で始まるのかという疑問や、デートの時はなぜかいつもカイムを連れてくるエピソードが満載だった。
もちろん〆のエピソードは、剣の練習中にイウヴァルトが勢い余ってカイムを傷付けた時、フリアエが鬼の如き勢いでイウヴァルトを責め立て、吠え、荒れ狂ったという事件である。当のカイムは大丈夫だから心配するなと早々に退場していた。
そんな、嵐の如きエピソードの数々に晒され、マナは微動だできなかった。
なんだ・・・・この、胸を打つ感情は・・・・・そう、これは憐憫の情である。
赤い目の兵士達は涙した。感情をなくしたはずの自分達が号泣するなんて・・・・。マナは床にヒザを折った。もうやめて・・・・。
「もういい!!もういい、お前の過去は分かった・・・・つまりカイムを排除して女神を手に入れる、それでFA!?」
「アンサー!!」
「天使の教会に、入る!?」
「OK!!」
上記の流れで、イウヴァルトは帝国軍もとい天使の教会に入会してしまった。


カイム達が砂漠からキャンプ地へ向かっている時と同じ頃。
「なかなか兄さんが帰って来ません」
フリアエはカレーの鍋をかき混ぜながら棒読みで呟いていた。ご存知、連合軍カレーである。ちなみにニンジン少な目。
まさか狂ったエルフの人妻と首を絞め合っている関係に陥ったなどと、さすがのフリアエも思うまい。狂った関係ならミッドガルドでは日常茶飯事。
しかしそこは女神、女神力で見えないこともお見通しである。かき混ぜる手が止まった。
「まさか・・・・捕虜収容所で出会った契約者が人妻であった場合、ロケーションとシチュエーションを併せて鑑みる場合、危ない関係になってはいないでしょうか」
文字通り受け取るならまさに危ない関係になっている。肉を狙い合う関係。そこにレッドドラゴンを挟んでの争奪戦。などとはフリアエも思うまい。
フリアエの手の中で杓子が捻じ曲がった (女神腕力) 瞬間、足音が聞こえてきた。フリアエは音速で振り向いた。
「砂漠の捕虜収容所で大変な目に遭ったものの、奇跡の無事・生還!!ヴェルドレただいま参上ですぞ」
「紛らわしく参上しないで下さい。兄さんと同じ足音で歩かないで下さい」
九死に一生スペシャル・神官長ヴェルドレが先に戻ってきた。無表情のフリアエに無理な注文をつけられる。
「足音を立てないように忍者の如く生きて下さい」
「分かりました女神。このような感じですか、忍び足!!」
「だめです。そこから動かないで生きて下さい」
注文の多いフリアエ。高齢者に無謀な余生を余儀なくさせる。連合軍の兵士達は戦慄した。泣いた。
その時、キャンプ地に強い風が吹き付け、空からは羽ばたきの音が降ってくる。
レッドドラゴン、ではない。今のレッドドラゴンはカイムの背中に縛り付けられて首がガクガクしている状態である。間違いなく別のドラゴン。
連合軍の面々は空を見上げた。うわー!!ドラゴンだ!黒い!黒いってことは、ブラックドラゴンだ!!そうだね、みんな言う通りブラックドラゴンだね。
「なんと、ブラックドラゴン!!帝国軍か!?」
その場から動けないヴェルドレは驚愕した。忍び足でもダメなら、ほふく前進があるじゃない。
「女神、避難を!」
「すみません。私、ほふく前進は苦手なんです」
そんなことを言ってる間に、ブラックドラゴンは地上に降り立つ。ランディングの近くにいた兵士がぶっ飛ばされた。
「ハッハ!!颯爽と登場!フリアエ、迎えに来たよ!」
「イウヴァルト」
帝国軍と思しきブラックドラゴンの背から飛び下りる人物はイウヴァルトだった。連合軍の兵士達は戦慄した。女神が特に驚いていない。
彼が帝国軍のドラゴンを操っているということは、疑うまでもなく寝返ったということである。いきさつは上記を参照されたい。イウヴァルトはズンズン近付いてくる。
「さあ俺と行こうフリアエ。君だけが苦しむ必要は」
「嫌です」
言葉を遮りフリアエは音速で答えた。兵士達は涙した。事情はよく分からないが、イウヴァルトの心情察して余りある。
「フリアエ、俺と一緒に帝国軍@天使の教会に来れば、」
「お断りです。兄さんがいないのに勝手に決めることはできません。まだあなたの出番ではありません。自分の場所に戻って下さい」
そっか、カイム不在では話にならない。出直すことにします。イウヴァルトは納得し、いや納得できない。
そもそも、打倒カイムのために天使の教会に入会したのである。カイムいなくても全然大丈夫!
ブラックドラゴンの背に戻りかけたイウヴァルトはまた戻ってきた。このままでは戻れない。カイムがいないのは好都合、好都合なのか分からないが、とにかくフリアエのところに引き返す。
「確かにカイムは関係あるが、関係ないんだ」
「いいえ、あります」
バッサリ切り返すフリアエ。緊張が走る。兵士達は剣を構え、ヴェルドレはほふく前進のまま見守り、カレー鍋が吹きこぼれる。
「どうしても兄さんに用があると言うなら、私を倒してからにして下さい」
「だからカイムは関係ないんだ!俺は君を連れ去るのさ!」
「分かりました。ではお相手しましょう。私が女神として幽閉されていた期間、暇潰しに鍛えた女神殺法でお相手します」
兵士達は戦慄した。イウヴァルト対、女神殺法。あまりにも一方的な戦いだった。
投げて潰す、シンプルなそれが殺人拳と化す様を目の当たりにした兵士は、のちのちカイムに語った。ええ、あまりにも一方的でした・・・・。女神の腕力、我々はそれを侮っていたんです・・・・。
俺の妹がそんなに腕力強いわけがない、と言ったのはカイムだが、その他大勢の目撃者達は全力で否定した。目を覚まして下さいカイム様!!!


戦い過ぎて日が暮れて、満身創痍のイウヴァルトは地に膝を折る。
「ぐっ・・・・この強さは一体・・・・!!」
「争いは何も解決しません。私は正当防衛を主張します、女神として」
中腰で答えるフリアエ。この構えはトーシロではない。相手の動きあらば標的ごと地を割る女神の鉄槌が発動する。
「イウヴァルト、自分の場所に戻って。まだあなたの出番ではありません」
「分かったよフリアエ・・・・。いつか再び君を迎えに来る!!と、カイムに伝えてくれ!」
「いけない、カレーのお鍋を忘れていました」
すぐさまカレーに戻るフリアエ。出待ちの敵より目先の鍋。
優先順位、カレー>越えられない壁>>>>>イウヴァルト。伝言がカイムまで届かないことは火を見るより明らか。
フリアエの強引な押しにより、連合軍のキャンプ地に平和が戻った。あれ、平和ってこういうもんだっけ・・・・ブラックドラゴンに乗って飛び去るイウヴァルトを見送り、兵士達はボンヤリ思った。
それから三十分後。


「女神は無事か、心配には及ばないようだな」
『ここが連合軍のキャンプ地。これが連合軍の兵士達。あれが連合軍カレーだ』
「おいしそうね」
カレーにつられたアリオーシュを連れ、レッドドラゴンとカイムはキャンプ地にようやく辿り着いた。レッドドラゴンは例によって悪酔いしている。(乗り物酔い)(乗り物、カイム)
「やはりイウヴァルトは戻っていないか。帝国軍に捕まったとは言え、簡単には殺されるとは思えぬ。エルフと同じく、他の目的の手段として使われるのかもしれないぞ」
『あれが女神。俺の妹だ』
「フフ・・・・なかなかのカレーレベルと見たわ」
「聞け!!カレーの話を一時中断しろ!!そんなにカレーが気になるなら鍋に沈めるぞ!追い炊くぞ!!」
『すまん。カレートークに興じてしまった』
「分かればよいのだ。今は連合軍の襲撃に備えなければということだ」
『追い炊きの辺りを詳しく聞きたい。何度程度で?鉄板か?鍋か?俺としては直火を希望したい』
「ばーかーもーのー!!」
炙られることに関しては妥協を許さないカイム。ただしレッドドラゴンに限る。他の人にやられたらブレイジングウェイブでやり返す復讐も辞さない。
レッドドラゴンはそこら辺の石を拾おうかと思った。(用途、殴打) カイムを殴ったら石の方が砕ける。
「つまり我が言いたいのは・・・・さておき、連合軍は女神に炊飯の仕事をさせるのか、女神を守る連合軍!!」
『フリアエの作る連合軍カレーはうまい』
今一度、連合軍の在り方・女神の重要性を問い質したい。フリアエはスクッと立ち上がる。
「おかえりなさい兄さん。連合軍カレーが準備できました。あっ、急に立ち上がったらめまいが。貧血です」
『フリアエ!!』
いきなり倒れ込むフリアエ、カイムは咄嗟に抱き留める。目を覚まして下さいカイム様!!女神殺法を目の当たりにした兵士達は訴えるが届かない。
貧血の割にはとても血色がいいフリアエ。気付かないのはカイムだけである。俺の妹がこんなに顔色がいいわけがない。
「兄さんのために連合軍カレーを作りました。兄さんに食べてもらうことが最後のお願いです」
『食べるとも。お前の気が済むまで食べてやる』
「あの子が女神?とても最期には見えないけど。すごく健康そうだわ」
「言うなアリオーシュ。いろいろあるのだ」
ようやくカレータイムが始まった。寝返ったイウヴァルト襲撃事件ですっかり時間が経ってしまったが、それぞれカレーにありつくことができた。
「確かに美味しいわ、連合軍カレー」
アリオーシュも絶賛。カイムはフリアエを片手に、カレーを片手に。すごく食べづらそうだ。カイム様、女神かカレーかどちらかにして下さい!!
みんなワイワイしているところ、レッドドラゴンも空腹を覚えた。ドラゴンだって腹が減る。
人になった以上、人の食べ物を食さなければならない。ドラゴンの主食?それは、肉とかだよ。(ひどく曖昧) カレー、か・・・・。
「そう言えば我も腹が減ったな。しかしカレーなど、人間の料理など食べたことがない。どんな味なのか」
「辛いわよ」
「つらい?」
「からい、です」
フリアエの補足。連合軍カレーはちょっと辛目寄り。十五種類のスパイスが、以下略。
『刺激物を多く摂取しては健康に関わる』
まともなことを言うカイム。その当人はカレー皿を地べたに置いている。何せ片手にフリアエを抱えている。
女神を離した方がいいのでは・・・・と誰もが思ったが、誰も言えなかった。誰もながら食いを注意できない。育ちの良さに関しては誰もが保障済みなのだが。
「その通り。健康的な食生活は、健康な心身を作るのよ」
「アリオーシュ、正気か」
心の底からその発言を疑う。ちょっと前まで肉肉!お肉!(※若肉に限る) と主張していた彼女が言っても。レッドドラゴンは一歩引いた。
「栄養は偏りなく、塩分控え目、味付けは薄めがいいわね」
「我は人間の調味料など知らん。が、素材の味を生かすことはいいと思うぞ」
『分かった。そういう嗜好ならば俺の右腕をやる』
「利き手!!正気を取り戻せ!!」
右腕!と差し出した瞬間、フリアエがゴトッと落ちた。正気と引き換えに、いろんなものを犠牲にしすぎだろう。
『遠慮するな、ガブッと』
「食えるか!!」
『また生えてくる』
「生えるか!!契約者ならまた生えるなどと、軽々しく言うな・・・・」
誰もがヴェルドレを凝視した。正しくは、ヴェルドレの頭部を。
契約者になったからこそ引き換えに失ったものであるから、どうなんだろうその定義は。レッドドラゴンは軽はずみな発言を悔いた。もう・・・・ダメだね!
ぐいぐい押し付けられるカイムの右腕を前に、レッドドラゴンは食欲どころか元気も失せる。これなんてカニバリズム。
ここはひとつ、プロに判断を仰いでみるべきだろう。
「・・・・アリオーシュ、味見してみろ」
「嫌よ。筋張って硬そう。よく叩くかよく煮込む調理方法をお勧めするわ」
『なるほど。ちょっと待っていろ、煮沸消毒してくる』
「煮沸消毒!?何がどうしてそうなった!!」
ヨロイとかいろんな物を外して素手になるカイム。大変勇ましい腕まくりだが、向かう先が熱湯沸く大鍋って、どうかしてる。人を消毒する方法ではありませんね。
「やめやめ、やめろ!!馬鹿なことをするなー!」
慌ててカイムを引き止めるレッドドラゴン、しかしそのまま引きずられていった。アリオーシュによる主婦目線のアドバイスがさらなる惨劇を呼ぶ。
『煮沸消毒をやめるなら、よく叩くという方法もある』
「よく叩いて粉砕骨折だぞ!?」
「リンゴの切り身に付けておくとか、ヨーグルトを塗っておくという方法もあるわ」
『なるほど。プロフェッショナルのアドバイスはためになる』
「あくまで食用!!いつからおぬしは食用になったー!我はッ食肉と契約した覚えはない!!」
ああ、そう言えば初対面で肉と見なしていたね、カイムを。なんてことはない。
ゴリ押しされて契約したことを今さらながら悔いる。悔いる要素が、まさか煮沸消毒とは。
レッドドラゴンはハッと思い出した。契約者同士は一心同体。つまりカイムが右腕をジュッと煮沸したら、自分も右腕イタイイタイになってしまう。
「あ、ああー・・・・我の右腕もお終いだな・・・・」
『よし、やめる』
秒速で中止決定。今までカイムを焼いたり叩いたりしてきたが、それはご愛嬌。
人間の受けた傷などドラゴンには痛くも痒くも、ちょっと痒いかなって程度、しかし今の人の身で同じダメージを受けたらヤバイ気がする。確実に右腕を持っていかれる。
アリオーシュのアドバイスが活かされることはなかったが、これでよかったのだ。ヨーグルト浸けの右腕でございます、て出されても。
『食わず嫌いはよくない。この際カレーを食べてみろ』
「うむ・・・・」
レッドドラゴンは連合軍カレーを一口食べてみた。次の瞬間、火を噴いた。
「辛!!か、つらい!!痛い!!」
痛いコメントまで出た。そう、連合軍カレーは辛めスタイル。
自力でドラゴンブレスしてしまうほどの辛いレベルに、レッドドラゴンは泣いた。号泣レベルである。
舌が味覚の役目を放棄し、全面的に痛覚を押してくる。これをウマイウマイ!って食べる神経が分からない。レッドドラゴンは人間のすべてを否定した。
「辛いものを美味いと言うなど、人間はどうかしている・・・・!!」
『落ち着け、水を飲め』
「自ら辛酸を舐めるなど、マゾ!!マゾヒズム!!劇物!!おぬしとの契約もこれでお終いだー!!」
スプーンを投げ捨て走り出すレッドドラゴン、コップを持って追いかけるカイム。契約破棄の原因がカレーだったとは後世に語れぬ。
のちに聞いたレオナールは提案した。「カレーでファイアー・・・・連合軍カレーを常備しましょう」 ドラゴンブレスに代わる妙案だったが0.3秒で却下された。
人のカレー文化に脅威を感じたレッドドラゴンは走って逃げた。しかし走り慣れないので、すぐに疲れて座り込んでしまう。こけなかっただけマシかもしれない。後ろにカイム。
『いきなりカレーは危なかった。甘口を持ってきた、試してみるか』
へたばるレッドドラゴンに甘口カレーを差し出す。ボブさん (連合軍の料理長。過去は妻子と共に平和に暮らしていたが以下略) が別に作ったものである。
連合軍内で細々と生き永らえる甘口派のための、甘口党から絶大な支持を得る逸品である。しかしレッドドラゴンは疑う心を捨て切れなかった。
「人の食文化は恐ろしい・・・・辛くても甘口だろうが、それを食すくらいなら我は玉ねぎをかじって生きる」
無表情で玉ねぎ主食宣言。さすがのカイムも考えた。それは、調理済み?生で?
『考えただけで泣けてくる。せめてジャガイモがいい』
「もうージャガイモかじって生きる!!」
ジャガイモ主食宣言。アリオーシュが聞いたら、栄養バランスが偏りすぎているわと言われるだろうが、カイムの右腕 (生鮮食材) より健康的だろう。
紆余曲折いざこざを経て、レッドドラゴンの主食はジャガイモ (調理済み) として解決。
ドラゴンの主食ってジャガイモなんだ!!なんだろう、この気持ち・・・・無表情でジャガイモ料理を食べるレッドドラゴンを発見し、泣いた。主にフェアリーが。





刺激が強すぎた初カレー。カイムまでもが一足先に泣ける小話でした。(2011.06.20)

 
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