前回の続きです。レッドドラゴンひとなる小話。
カイム、他人を踏み台にするかも。 <1/2>



連合軍のキャンプ地。
フリアエの真摯な説得により撤退したイウヴァルトとブラックドラゴン@帝国軍。よかった、今日も生きてた!連合軍の兵士達はちょっと時間の早いキャンプファイアーで暖を取りつつ、肉を焼きつつ、火の周りで喜びの舞を踊った。
フリアエの真摯な説得 : 己の腕力を駆使し相手の肉体に訴えかける女神殺法撃。相手は骨肉が砕ける。
事情を知らないカイムやアリオーシュの目には奇異に映る、まさに奇祭、狂った宴である。なんでこんな大変な時に踊ってるんだ。度重なる戦いでどうかしてしまったのか。
しかし火には目がないカイム、特に言及もせず、兵士達の奇行を眺めた。(フォークダンス)アリオーシュも火に近付く。
「火はいいわあ。心が躍るわ」
『一緒に踊ったらどうだ』
「それじゃ遠慮なく」
フォークダンスの輪に参加するアリオーシュ。人間社会ではお目にかかれない華麗なエルフダンスで周りを圧倒する。
兵士達は絶句した・・・・そして驚愕し、衝撃を受けた・・・・エルフの文化にはついていけない!!俺達はあんな風に関節が曲がったりしない!!
元は平凡な主婦のアリオーシュだが、エルフの里の祭りではそりゃもう荒くれ者だった。旦那がやめろと言うまで踊り狂ったし、近所のエルフ達からは一目置かれたし、旦那がもう帰ろう!と言っても踊り狂った。
カルチャーショックを目の当たりにした数名の兵士が心に傷を負う。人類はもう・・・・終わりだ!!人妻エルフに負けた!
火に油、キャンプファイアーにアリオーシュ。大変盛大な野営となった。
帝国軍に一発で発見される盛況ぶり。しかし近付き難いだろう。ダメです近付けません!あのエルフ・・・・かなり動きがキレてますぜ。
『戦況は厳しいが、息抜きも大事だろう』
「おぬしはあれを見て息抜きと言うのか?」
人間とエルフの奇妙な宴に対し、レッドドラゴンが疑問を抱く。かなりみんな息が切れている。アリオーシュだけ全力駆動、汗一つかいていない。
「我には狂った宴に見えるが・・・・そろそろ止めた方がいいぞ」
『お前もそろそろ生のジャガイモをかじるのは止めないか』
かじりかけのジャガイモを両手に持つレッドドラゴンに注進する。フェアリーが涙を流した光景である。
さっきからひたすらコリコリカリカリかじっているが、絶対おいしくないと思う。100%でんぷん味。ヨウ素で紫色になってしまう。
カイムの言葉に、レッドドラゴンはフッ!と笑った。鼻で。
「我は火を通したものなど食わぬ。ドラゴンはいつでも生で食らうものだ」
今は人だが。
『しかし火を通した方が栄養の吸収率はいい。ちょうど火もある、焼いてやろう』
ジャガイモ達をキャンプファイアーめがけて放り投げるカイム。もちろん直火で焼く。
豪腕から繰り出されたジャガイモは火種を直撃し、いくつかは兵士達にヒットし、砕けた。チェインの判定出ました。
「燃え尽きてしまうのではないか」
『大丈夫だ。俺の焼き加減に狂いはない』
「だとしたら燃え尽きるぞ!?」
ブレイジングウェイブで常にウェルダン以上。確実に燃えていくジャガイモが焼きジャガイモになる様子を見せ付けられる。
「ジャガイモが炭化していく過程、綺麗だわ・・・・」
舞う四肢を止めたアリオーシュが呟く。それってどんな綺麗の分類なんだ。
『調味料があればいいな』
カイムが料理のさしすせそを探しに行く。狂気、女神、世界、天使、扉。ちょっと間違えた。砂糖、塩、酢、醤油、そ?ソース?
『ブルドック、もしくは、おたふく・・・・』
ソースの種類で迷っていると、急に強い風が吹いた。煽られたキャンプファイアーの火が大きく広がり、薄暗い夕暮れを赤く照らし出す。不吉な予感。
兵士達にざわめきが走り、カイムはオイスターソースを持ったまま空を見上げる。いち早く気付いたレッドドラゴンが迫る黒点を指差した。
「カイム!!見よ、ドラゴンだ!」
『ドラゴンだと?何色だ?』
「時を見計らいつつ参上!!待たせたなフリアエ!!」
やたら耳に刺さる大声が降ってきた。走り出したカイムは火中から焦げたジャガイモを拾い、声の主に向かって豪速球を繰り出す。
風を切る音、砕ける音、悲鳴、一瞬の内にハーモニーを奏でた轟音は惨事を招いた。カイムはグッとこぶしを握る。
『命中した』
「少しは相手を確認したらどうだ・・・・」
ドーンと誰かが落ちてきた。もうもうと上がる土煙。土中から這い出すイウヴァルト、野菜の破片まみれ。
「くっ・・・・魔法か!?」
ジャガイモだとは言いづらい。レッドドラゴンはグッと堪えた。しかし何故イウヴァルトが?
一足先に落下着地したイウヴァルトに続き、バッサアと音を立てて舞い降りるドラゴン、雄々しくランディング。火の灯りで照らし出され際立つ黒さ、紛れもなくブラックドラゴンである。
経緯は分からないが、分からないなりに事情は察する。帝国軍がなぜイウヴァルトを生かしたまま連れ去ったのか、ようやく理解に至る。
「危惧していたことが起きたか」
『イウヴァルトがドラゴンと契約したことか。ようやくドラゴンの良さが分かったようだな。それでいいんだ』
「違う!!なぜそういう結論に至る!?おぬしの目は節穴かっ!失ったものは視力か!?それとも思考か!?感じるな、考えろ!!」
『案ずるな。考えた結果が、これだ』
「なおさらタチが悪い!!」
これですよ。レッドドラゴンは炭化したジャガイモをカイムになすり付けた。黒い。
事情が見えないカイムはさておき、ピンときたフェアリーは顔をしかめる。
「てゆか、あの歌のニイチャンは帝国軍に寝返ったようだぜ。死体くせー、目が赤いしな」
「おそらく 「天使の教会」 に感染し、帝国軍の手先となったのでしょう。一見正気に見えますが、女神を狙う行動にも納得がいきます。彼に説得は通じません」
「ジャガイモぶつけられて落ちたけどな」
「根野菜に負けましたね。ジャガイモでなかったら死んでましたね」
状況を判断しつつ好き勝手に言うレオナール。カイムにかかれば物体みな凶器、ジャガイモでなくても危ない。今の内に硬い物を隠すべきだ。
「カイムが戻ってくる頃を見計らいつつ、再び来た!!さあ行こうフリアエ!」
契約者になってからさらに元気なイウヴァルト。フリアエにズンズン近付く。追い払われてからずっと待機してたのか。
女神の危機だが、その後ろにはブラックドラゴンがいるので誰も動けない。しかし当の本人フリアエが動いた。
「待って下さい。イウヴァルト、まずは兄さんと話を付けて」
限りなく命令口調。女神の言うことはぜったーい!
カイムがいようといまいとフリアエをさらっていくつもり、で・す・が。
帝国軍の兵士として、契約者の強大な力を手に入れた以上、対等に戦える力と立場を与えられた。最大の障壁であるカイムを打ち砕くのだ。イウヴァルトはカイムの正面に立ちはだかる。
過去の親友は今の敵!イウヴァルトは胸を張って剣を構えた。カイムはハッとした。
やめろ!!いくらお前がドラゴンの良さを分かったとは言え、見境なく手を出すのはやめろ!!』
「はーなーせー!!」
レッドドラゴンをガッチリガード。カイムの豪腕でガッチリ固められたレッドドラゴンが呼吸困難、女神よりピンチ。そういう意味じゃない。
カイムの思い違いに対し、イウヴァルトは自分の用事を具体的に伝えた。
「カイム、違うんだ、俺はドラゴン狙わない。女神、目的。フリアエ誘拐。OK?」
『そうか。OK.』
「分かったら離せ!!話し合え!」
契約者同士になったことでカイムの聞こえない声が理解できたイウヴァルト。両者はひとまず和解した。しかしカイム、離さない。絶対離さない!!無駄に強固な意思。
問題はブラックドラゴン。あんな凶悪なドラゴンを持ってこられたら話し合いどころではない。殺意は否定できない。
女神フリアエが目的のようだが、断ったら最後、このキャンプ全体を焼き尽くされてしまう。キャンプファイアーごと火柱。
状況は果てしなくピンチ。凶悪全体魔法を使うレオナールでさえ手を出せない。
ブラックドラゴンを従えたイウヴァルトは余裕満タンで言い放つ。
「さて・・・・おとなしく話し合うつもりは毛頭ないが、フリアエを渡してくれたなら危害は加えない」
「驕るなイウヴァルト」
上手に立つ裏切り者に厳しく釘を刺す。レッドドラゴンはようやくカイムを振り払い、赤い目のイウヴァルトの前に立つ。
今の自分にできることは時間稼ぎ。最後の封印を守る。イウヴァルトは問題だが、後ろ盾が危険すぎる。人の身ではブラックドラゴンには勝てない、カイムとて勝てないだろう。
「操られた者に言葉は通じないが、あえて言わせてもらう、イウヴァルト。女神を守ることが使命ではなかったのか」
チラッチラッ!とカイムに目配せする。自分が注意を引いている今の内に女神を連れて逃げろ!というアイコンタクト。
カイムは小さく頷き、フリアエは両手を広げて待ち構えた。
カイムは炭化したジャガイモをもう一つ拾い上げ、イウヴァルトに投げ付けた。ビュワン!!と聞いたことがない風を切る音が響く。
みんなが唖然とする中で、おいしくないジャガイモを食らわされた標的は倒れ、レッドドラゴンは声を失い、フリアエはこぶしを握った。兄さん、さすがです。
ドッターンと後ろに倒れ込んだイウヴァルト。根野菜まみれ。交渉は決裂した。へへ、オレ達もうお終いだぜ・・・・。フェアリーが叫んだ。
「ななな、アホー!!ブラックドラゴンに焼かれるぜアホンダラー!!死ぬなら一人で死んでくれや!!」
世界とかどうでもいい!!まずは俺と話し合おう、イウヴァルト』
世界とレッドドラゴン、どっちかって言われたらレッドドラゴンを採るじゃない、カイム的に考えて。
単に、自分をすっ飛ばしてレッドドラゴンと話し始めたことが気に入らなかった。カッとしてやった、後悔も反省もしていない。思い立ったら即行動が基本理念。
しかしフリアエを守らなければならない。基本中の基本は忘れていなかったカイム、まずはイウヴァルトにコミュニケーションを持ちかける。
ジャガイモぶつけた相手に対して会話を試みる、その厚かましさ。
『イウヴァルト?』
返事がない。倒れたまま動かないイウヴァルトに、全員は思った。死因 : ジャガイモ。
「対話を試みる相手をノックアウトしてどうするのだ!!」
レッドドラゴンの説教。食べ物を粗末にするな、それを人にぶつけるな。
『イウヴァルトがこの程度で死ぬとは思えない。俺はイウヴァルトの耐久性を信じてやった。だが動かないところを見ると・・・・』
「勝手に死なすな!見よ、ブラックドラゴンは健在だ」
地に伏したイウヴァルトの後ろに佇む黒い山。ブラックドラゴンは暇そうにあちこち見ている。契約者がやられても動じない。どんな方法でやられたとかも関係ない。
足元にわだかまる人間達に興味を示さない、つまり、いつでもどうにでもできるという余裕。今の静けさを翻せば殺戮の牙を剥くだろう。
対抗できる種族は同じドラゴン族のみ。強大な力を知っているからこそレッドドラゴンは迂闊に手出しできない。
「あやつに話は通じぬ。種族の中でもっとも凶悪な輩、人間が主食だ。たとえ我がドラゴンであったとしても勝てるか分からぬ」
『話が通じないとはとんだ蛮族だな』
「だからこそイウヴァルトをどうにかしてうまく乗り切ろうとする努力をおぬしが無に帰したバカ者ーー!!」
レッドドラゴンの咆哮がカイムの耳を突き抜け、兵士達の耳を突き抜け、ミッドガルド全域を揺るがした。それでも起きないイウヴァルトにみんなびっくり。
会話する努力を放棄したカイム、やる気ゼロ。まさに皆無。全力で怒鳴ったレッドドラゴンは脱力した。
「・・・・我に戦う力はない。とにかく女神を連れて逃げるのが得策である」
『分かった。俺はフリアエとレッドドラゴンを連れて逃げる、お前は囮になれ』
「私ですか。私ですか!?ちょっと荷が重過ぎますね!!」
ご指名ありがとうございます!レオナールです。
自己犠牲をも厭わない自分だが、ちょっと困る。ちょっとどころではない。ブラックドラゴンにモグモグされてしまう。道連れのフェアリーも困る。
「お客さァアアん!!そーゆうの困るんだよねー!?軽く言ってくれるけどオレ様ちゃんお安くないのよー!?」
「その通りです!!どうせ食べられるならドラゴンではなく人間で!十歳未満の初々しい少年が好ましいですね!!」
「ホァアアア!!そーゆう問題じゃねー!!」
「そういう問題です!!」
フェアリーとレオナールの戦いが勃発する。自己主張が激しい同士で争うと収拾がつかないので、レッドドラゴンは無視した。もっと別の案、あるんじゃないか。
その時、女神が動いた。黙っていたフリアエが前に進み出る。
「私に任せて下さい。女神力、今こそお見せします」
もう見た。女神殺法で存分に見せて頂きました。兵士達の声なき声が満ちる。あんな殺戮劇場もう見たくない!!
『フリアエ、何をする気だ』
フリアエはカイムを振り向き、ウィンクした。慣れていないウィンクで両目ギュッと。
妹の謎の行為にカイムは戸惑いを隠せなかった。何それ、かわいい。
くるくる回って謎の決めポーズ、フリアエの指先から謎のきらめきが飛び出した。星とかハートが大量に出た。これが女神魔法である。(※実際の女神イメージとは異なる場合があります)
「来ました、女神パワー。人間になーれ!」
星とハートとその他記号♪♭£♯ (※表示できない場合があります) 諸々がブラックドラゴンにキラキラと降りかかる。
直後、回りすぎで目が回ってドサリと倒れ込んだ。その回転っぷり司祭レベル、主演女優賞レベルのふらつき演技力、もちろんカイムの腕の中が着地点である。
『フリアエ!!しっかりしろ!!』
「力を使い果たしました。立てません」
その割にガッチリ腕が回っている、カイムの背中に。その腕力、まさに禁断の女神殺法の使い手。兵士達は固唾を飲んで黙る。
しかし倒れたのはフリアエだけではなかった。ドーン!!と轟音が鳴り、ものすごい地響きがキャンプ地を揺るがす。その場にいた全員は五センチほど浮き上がった。
一体なんなの。地に足が着いたカイム達は音の方向を振り返り、上がる土煙に溺れる。
遮られた視界の中で分かったことは、何かがうごめいている。見覚えのある光景。
「もしや、これは」
ゾワッと寒気を覚え、レッドドラゴンは呟いた。ヴェルドレは 「ピンチなう」 と呟いた。
『何が起きた。この土煙は景観を損なう』
「なうなう言っとる場合か!」
フリアエを抱えている最中のカイムに対し、優しく猫なでパンチでつっこむ。
「これは我の時と同じだぞ。ブラックドラゴンが・・・・」
もうお分かりでしょうが、フリアエの謎の女神魔法によって、なんということでしょうブラックドラゴンが人の身に変身してしまった。
「うう、何が起きた・・・・」
さっきまで無言だったブラックドラゴンが人の言葉で呻く。ドラゴンサイズの巨体が、人サイズに。これにはさすがの「天使の教会」の司祭も苦笑い。
いち早く気付いたのは兵士達。素っ裸!!カーニバル!!
祭りどころではない。今の声は男の声だった。ご冗談でしょうブラックドラゴンさん。服を持てェエエエ!!
そこはちゃんと考えているフリアエ魔法。晴れた視界のど真ん中に鎮座しているブラックドラゴンであった男は、衣服を装備済み。高度なオプションです。
男の存在を確認したフェアリー以下各位、隠者に指示を仰いだ。レオナール殿!!ご判断を!!
レオナールは右手を高く掲げ、こぶしを握った。アウト!!集団はオオ、と騒ぐ。
下した判断はアウト、完全にアウトである。ストライクゾーンを外れた暴投ジャッジ。隠者の心の琴線に掠りもしなかった。
「今の何」
謎の隠者ジャッジ。フェアリーはわだかまる疑問をさておき、同じく疑問符を浮かべているブラックドラゴンを見た。
「オッサンの判断によると、どうやら本当に女神魔法で人間になったのか」
フリアエの怪しい力が効いてしまった。レオナールの認めゾーンから逸脱した暴投気味だが、ドラゴンではなく人間の男で間違いない。
隠者センサーにかかれば判断は容易いものですよ。(隠者の認めゾーンは各自お調べ下さい)
「凶悪なブラックドラゴンも人間になっちまえばチョー楽勝、オレ様ちゃんには負けるがカワイイもんだぜ!カイム坊ちゃん、今こそ!!」
『枝毛が』
「どうでもいいのである」
さあヤッチマイナ!と振り返った先では、カイムがレッドドラゴンの髪の毛を調べていた。フェアリーは口から胃袋が飛び出た。
「チョー余裕かましてんじゃねええー!!枝毛とかどうでもいい!!身の安全より髪の毛!?」
「シッ!!ヴェルドレ神官が聞いていますよ!」
フェアリーの失言を遮るレオナール、その気遣いが逆に痛い。神よ・・・・とか言いながら己の頭を撫でるヴェルドレ。枝毛?毛×二倍!?いいじゃない、嬉しいじゃない。
連合軍がいろんなことに気を取られていると、我に返ったブラックドラゴンが立ち上がり、口を開く。
「か弱いだけの女神と思っていたが、この俺に害を及ぼすとはよくもやってくれたな」
人間語。レッドドラゴンと同じく喋るものだが、見るからに違う。
カイムと似ているが、より年上、角があるし牙もある。ちょっとしたフェアリーか人間かイノシシくらいなら噛み殺しかねない。
「危険な女神は生かして連れ帰るに値せん。死骸だろうと問題はない」
チョー怒ってるー。フェアリー以下各位は戦慄した。人間になっても凶暴性は衰え知らず。女神力でもブラックドラゴンの本性は抑え切れなかった。
しかし間違いなく人の身、等身大、カイムが戦って勝てない相手ではない。枝毛をハサミで切っているカイムを呼ぶ。
「なにやってんだよォ!!枝毛切り!?出番だよカイム様よォ!!」
『俺は将来ヘアメイクアーティストになる』
「なるの!?」
『レッドドラゴン担当』
「商売にならねー!!」
「戦場で未来を語ると死ぬというジンクスがあります。その夢は保留にした方が長生きの秘訣です」
『俺の人生はこれからだ!!』 ザス!!
ハサミでレオナールの真正面のどこかをブッ刺す。フェアリーも同時に血を吐く。一人の夢のために二人の犠牲者が出た。
ワイワイやっていると、ブラックドラゴンの視線が向く。注視は騒ぎの集団をすり抜ける。
「お前、レッドドラゴンと言ったな」
「左様。この様な形だが、我はレッドドラゴンである」
騒ぎ収まらぬ集団の前面に立ちはだかるレッドラゴン。態度は相変わらずドラゴン級。名乗りつつ、大音量の集団に注意する。静かにしろ!!カイムも!
人らしくフッ!と鼻で笑い飛ばし、ブラックドラゴンは尊大な態度で見下ろしてくる。まさに人を食ったような、というか、絶対これまでに十人くらい食ってる。(主食 :人間)
「事情は聞いている。人の身同士、人らしく話をつけようか」
「何をほざく。お互いこうなった以上、話し合いなど無用。元より我々を皆殺しにするつもりであったろう」
「女神の邪魔さえ入らなければな。このままでは死骸を持ち帰ることさえ骨が折れる。海の封印が残っていることを考えれば、女神の死も世界の終わりに関わりない」
「案ずるな。我が契約者が貴様を殺す」
さあヤッチマイナ!と振り返った先では、カイムがカイムの剣 (武器名) を振り上げ、レオナールにとどめを刺そうという寸前。
レッドドラゴンは己の契約者に体当たりした。何ヤッテンダー!!ブラックドラゴンの薄笑い。
「その様子では無理のようだな。敗残兵と契約するとは、焼きが回ったな」
「己の命が惜しいために契約したことに後悔はない。しかし反省はしている」
本音が。レッドドラゴンの本音が露呈した。契約者は選べ、それが契約者業界の基本理念である。よりにもよってカイムだった。
なんでもない顔をしているが、反省してるんだ・・・・無言の異口同音が連合軍内に広がる。心情ご察しいたします。
同情の意をひしひしと感じる・・・・!!レッドドラゴンは居たたまれぬ気持ちになった。だって、しょうがないじゃん!!カッとなって契約した。後悔はしていないが反省はしている。
反省中のレッドドラゴンに対し、後悔も反省もないであろうブラック以下略は追撃をかます。
「人間の争いに興味はない。俺は目的のために一刻を人間に与えたまでのこと。この場に長居する気もない」
「我が契約者は帝国軍に仇為す復讐鬼。帝国軍に与する者は同族であろうと、今は敵対するのみ。我と貴様は敵なのだ。潔く腹を括れ」
「誇り高きドラゴン族が人間の言いなりになって堪るものか」
人の顔で牙を剥く。恐ろしい形相に兵士達は手を出せない。怖気づく連合軍の中、レッドドラゴンはフン!と鼻息を鳴らす。
「目的のためにイウヴァルトと契約をしたことは、我にはなんとも言えん。だが結局は司祭の言いなりではないか」
嘲りとも叱責ともつかぬ言葉を向けられ、ブラックは一歩前に出る。ザザーっと兵士達が波のように引いた。もうテントに閉じこもってもいーですか!よくないです。
ブラックにしてみれば不意を突かれた弾みが抑えられなかったらしい。
このドラゴンは勝者となるべく帝国軍に付いただけだ。己の、ひいてはすべてのドラゴンの目的に繋がる手段として帝国軍を利用している。
目的を明かさない態度で真相は判断できる、否応なしに最深部が透けて見えた。
痛いところを突かれた相手は体裁を取り直し、大きく踏み出した一歩を戻す。
「お前もおとなしく神の意に添い役目を全うしろ。血の記憶に従え」
「血の記憶だと?あいにく我には遠すぎる未来でな。過去など辿るには遠すぎる」
わざとすっとぼけるが、レッドドラゴンは襲い来る焦りを覚えた。
ドラゴン族の最後は神の命令に因る。血の記憶には逆らえない。すべてのドラゴンを本能から支配し駆り立て、一つの使命に走らせる呪縛。寿命を迎え石化したドラゴンでさえも逃れられない。石の殻を破りて人類に牙を剥く。
封印の破壊と女神の殺害を目的とする帝国軍、そしてブラックドラゴン、最後に繋がる神の意思。その先に待ち構える神の仕事とは、紛れもなく世界の破滅と再生である。
真相をこの場で明かしてはいけない。ブラックドラゴンも口外する気はないだろうが。
世界が本当に本気でマジで終わると周知に至れば混乱は必至、か弱き最後の防衛線である連合軍が崩壊する。疑わしき終焉の予想が確定に変わった途端に人間の正気は失われるだろう。
帝国軍の司祭はどこまで知っていてブラックドラゴンを引き入れたのか。司祭もまた神の支配を受ける操り人形かもしれない。
そう考えれば、強力すぎる進軍にも合点がいく。これまでの帝国軍、これからもスポンサー・神でお送りしていきます。元から勝ち目のある戦争ではない。
仕組まれた画策を陰謀と称するには軽すぎる。決して抗えない渦中に組み込まれた、これは成されるべき結末に向かう破綻の途中。今は結末ではない、途中なのだ。
「たとえ血に従うことがあったとしても、今はその時ではない。貴様に指図される謂れはないのだ」
「反逆にも取られるぞ。だが裏切り者にも慈悲は与えられる。いずれ分かるだろう」
「分かりきっていることならば貴様はここで退け。我々が争ったところで損益は少ない。我らが人間の軍勢に味方しようとも、辿るに道に見合う結果が得られる」
珍しく言葉を選ぶレッドドラゴン。人間にも神にもつかぬ発言であることは見抜かれているだろう。重要なのは連合軍に混乱を与えぬこと。
何にもつかぬ返答を聞き、ブラックは取り立て反応を示さなかった。レッドドラゴンの言う通り、世界の終わりを迎えるに当たっては、ドラゴン同士の争いは瑣末なもの。
「俺達が争うのではない。お前の言う通り今は契約者同士、人間の言いなりとなって役目を果たそうか」
都合よく帝国軍vs連合軍の図に戻る。目の前の女神を奪うか残る封印の海上神殿を叩くか。ブラックは選択を迫る。
レッドドラゴンは背後を顧みる。こちらには連合軍の生き残りほとんどがいる。戦えばこちらの人数が減る。しかし相手はブラックとイウヴァルト(気絶中)のみ、戦ったところで失うものは少ない。
最悪でも最良でも、この場から程遠い海上神殿を犠牲にするほかない・・・・レッドドラゴンは決断した。





すぐ出番なくなるイウヴァルト。でも大丈夫、空中要塞で輝き出すから!(2012.2.21)
ひとなるレッドドラゴンはマナに似た感じで、ブラックの方はカイムに似た感じにしました。フリアエの趣味だから・・・・。


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