前回の続きです。レッドドラゴンひとなる小話。
フリアエ、最後(から十二番目くらい)の力を振り絞るかも。 <1/2>
(進行:アリオーシュの奇)
「フェアリーが住む封印の森。そして、我らが守り抜けなかった砂漠の神殿。二つの封印はすでに破壊された。残る海上神殿を死守しなければ、ミッドガルドに未来はない」
険しい顔で言い放つレッドドラゴン。人の顔で表情は隠せない。状況は厳しすぎる。
「天使の教会」の赤い目に冒された帝国軍に圧され、連合軍に残された手立てはただ一つ、海上神殿の破壊を阻止する。他に選択肢はない。
でなければ、必然的に最後の封印・女神の命が必死に晒されてしまう。言葉にできない危機がひしひしと迫る。
イウヴァルトと契約者のブラック(ドラゴン)が去った今、目の前の脅威は一時お預けとなった。しかし未来の終わりは免れない。破滅の距離に近いも遠いも関係ない。いずれは訪れる予定だ。
カイムもまた、険しい顔で頷く。連合軍キャンプ地はすでに夜明けを待つ頃合い。燃える篝火に負ける薄闇が空を掃く。
『三つ目の封印が破壊されたら、最後はフリアエだ。女神の命を狙ってくる』
「その通りだ。女神の命と引き換えに危うく保たれる封印など、今現在まで在ってはならない。神官が封印を回復するまで、おぬしの妹を必ずや守り抜くのだ」
空気、光、水。この三つを司る封印の地に加え、要は女神の血。
封印の中では唯一、人に課せられた重き足枷。地上に女神の血が流れ出すことは一人の死亡を意味するのではなく、全人類の血が失われる破滅に直結する。
神殿封印の最後である海上神殿は今のところ無事だが、フリアエの命と天秤に掛けられている。どちらかが失われるという段階ではなく、どちらも守らなければならない。
帝国軍は必ず海上神殿を先に叩く。連合軍に残された猶予と言う名の希望を奪い去り、最後の封印を差し出せと、その後にゆっくりと追い詰めてくる。帝国軍と連合軍の間に存在するフリアエは両軍にとって人質も同然。
カイムは考え込んだ。抗い難い運命の軋みが四方から攻め立てる。抗えないのは見え辛い運命だけではない。
『俺達が海上神殿に向かう手立てがない』
物理的な距離が連合軍の進行を阻む。せめてカイムだけでも行けたらいいのだが。
一人で一騎当千、目の前の動く者を動かなくなるまで斬りまくることに定評がおありの殺人マシーンである。
レッドドラゴンは溜め息を吐く。
「すまんな。我が人間になってしまった今、おぬしを乗せて運ぶことも叶わぬ。まさか泳いで行くわけにもいくまい・・・・」
『俺は泳げる』
「止めたいところだが、おぬしならできないこともないだろう」
『では、背中に乗れ』
「我はイカーン!!」
大声で叫ぶレッドドラゴン。拒否、絶対的なまでの拒否。
空を飛ぶドラゴンが人間の背中に乗って大海原を遊泳するなんて、考えたくもない。プライドの問題ではない。平地でも乗り物酔い(カイム酔い)するのに、海でドンブラコしたら絶対に船酔いする。カイム船酔い。
これだけは絶対的な女神力でも解決できない。
そうそう、頼りになると噂の女神ね!女神殺法(腕力による物理攻撃)でイウヴァルトを退け、不思議な女神力で巨大なブラックドラゴンを等身大の人間に貶めた。
女神力でブラックドラゴンを人間に堕としたことで、フリアエは力を使い果たした。グッタリと地面に倒れ伏している。さっきまでカイムが抱えていたが、なかなか目が覚めないので、地面に引いた布団の上に寝かせた。ホント、顔色はいいんですけどね。薄目でカイムの背中を見ている。
カイムはヴェルドレを見た。ヴェルドレは肩を竦めて首を横に振る。アメリカナイズな仕草で否定を示される。
「私も海を渡る方法は皆目見当も付かないのだ。徒歩で急いだとしても、帝国軍の侵攻には追い付けないだろう。あらゆる方向から考えてみたのだが、海上神殿の警護が持ち堪えることに賭けるしかない」
『なるほど。神官長の考えも同じく、万策尽きたか。考え過ぎて毛根も尽きたのか』
カイムにしては珍しくレアな同情調だったが、ヴェルドレに物凄いダメージ。優しさまでもが鋭い刃だよ。
やはりドラゴンの翼がなければ海までひとっ飛びできない。さらに気がかりなことが一つある。レッドドラゴンはヴェルドレを呼ぶ。
「神官長ならば知っていると思うが。海上神殿の封印のことだ」
「あまり大きな声では話せないことですな」
「封印の守護を任せた以上、人間のやり方を批難するつもりはない。だが、血生臭い方法ではあると思う。今日の危機、エルフの住処が襲われた時から予想できていた」
「仰る通りです、耳に痛いお言葉。何せ、海上神殿の封印は・・・・」
ヴェルドレは声を潜め、人気のない方向へレッドドラゴンと共に離れて行く。カイムも後から付いてくる。何せ、レッドドラゴンの裾をガッチリ掴んでいるから。
『海上神殿の警備に何か問題でもあるのか。職務怠慢の罪で帝国軍もろとも皆殺しにすればいいのか』
「いい加減に敵と味方を区別を付けろ!離せーい!!」
スカートの裾を掴んで離さないカイムをメッチャ叩く。まだ持っていた領主の狩猟刀でメッチャ叩く。しかし連合軍製のヨロイはメッチャ頑丈だったので事なきを得た。何ィこのワシの刀が!!(故・領主)
叩くだけ叩いて息が切れるレッドドラゴン。今は人間だから体力が切れるのもメッチャ早い。
「まあよい・・・・おぬしも聞け。海上神殿の封印を解くための手段、いや、破壊か。どちらでもいいが、その方法を聞いたことがある」
『破壊すれば封印が解けるんじゃないのか』
「単なる破壊を受け入れるものではないからこそ封印の意味があるのだ。砂漠の神殿やフェアリーの里とは毛色が違う。海の孤島に絶対の距離を隔て置かれ、女神よりも安全な場所に在るとも言える」
現在まで大きな脅威は有り得ないことだった。自分たちの住処である世界を脅かす蛮行など誰も思い付かなかった。帝国軍の侵攻が目立ち始め、ようやく封印の本質が暴かれる。
敵も味方も寄せ付けない絶海の孤島から浮かび上がる神殿は危機と希望を両極端に担う。本来ならばミッドガルから永遠に忘れ去られるべき存在。人々の脳裏に呼び起こされた時、すでに時計の針は進み過ぎ、世界は崩壊の一歩手前に立っている。
海上神殿を叩くと言ったブラックの台詞は脅しではない。実行一歩手前の段階にのめり込んだ帝国軍の進行度を示していた。フリアエと引き換えに連合軍の無事を取ったとしても、いずれどちらの封印も破壊される。
万策毛根尽きたヴェルドレは痛ましい表情で呟く。
「女神を守る手段は人海戦術の兵士達だが、海上神殿の人的警護は今となって、ゼロに等しいだろう」
よくそこで、皆無に等しい、と言わなかった。レッドドラゴンは無言で思った。警備体制がカイムに等しいなら帝国軍、今頃は千切りになっている。
『なぜ警護がゼロに等しいんだ』
「絶海の孤島に人間を置くことは難しい。私が神官長に就任するよりも昔、過去には国々の兵士が持ち回りで当たっていたと聞くが・・・・海に人間を送り込む作業が難しく、持ち回りは次第に廃れていった」
『最初から警護の人間はいなかったのか』
幸か不幸か、カイムに因る人的被害がゼロに抑えられた。職務怠慢で叩かれる犠牲者は最初からいなかったのだ。
しかし「天使の教会」と言う名の災いは着々と迫っている。大きな海に対する恐れを思考から排除した帝国軍は予断を許さない。今頃、大海原をドンブラコしているはずだ。
「封印そのものが帝国軍を阻む奇跡を信じるしかない」
『信じればどうにかなるのか。どういう考えなのか知らんが、一体どの類の奇跡に縋っているんだ』
「神、とか・・・・」
『髪とか?』
神官長ならざる、とか。とか発言。そこへカイムに因る大ダメージ。人的被害が。
「カイム、よさないか。ヴェルドレを責めたところで危機は変わらん」
レッドドラゴンはカイムの発言を制する。止めないともっとひどいことを言い出す。相手の頭部や頭皮を凝視しながらお前の頭は大丈夫かとか言い出しかねない。
「海上神殿の場所は不透明すぎる。空を飛ぶドラゴンでさえも容易には見付けられん。我とて、よほど海面に近いところを行かなければ発見は難しい。帝国軍はすでに発見し、今も進行中だろうが・・・・問題は破壊の方法だ」
エルフの血、と囁く。
その言葉を聞き、カイムはアリオーシュを見た。彼女は視線の定まらない目であちこちを見回している。
エルフの平凡な主婦であったアリオーシュ。帝国軍の侵攻によって故郷を破壊され、夫と子供を失くした。惨劇を目の当たりにした彼女の正気と共に永遠に失われた。狂気にすり替わった心は死に絶えず、敵と味方の境さえ判別付かず、彼女だけの律で殺戮を行う。そこに善と邪は存在しない。心を縛る律がアリオーシュの体を突き動かし続ける。
狂った因果に生きる道を見出したアリオーシュは、殺戮を続けるために命を欲した。
帝国軍に捕らえられ、砂漠の牢獄で瀕死の状態に陥った時、エルフの歪み切った心を欲したサラマンダーとウンディーネが呼び寄せられた。経緯は異なれどもカイムと同じ道を辿る。
だがカイムはエルフの哀れな境遇に同情を寄せることはないだろう。契約者は誰しもが、一箇所たがの外れた心がある。たとえ正道を成す行為を取ったとしても。
アリオーシュは桁違いだ。
燃え盛る砂漠の牢獄は連合軍の解放活動に因るものだが、大火への導きはサラマンダーの仕業である。対を成す存在のウンディーネが何もせず黙っていたのは、アリオーシュの心そのものが煉獄の炎を欲していたからである。カイム達が駆け付けずに放っておけば、自分まで燃やし尽くしていたに違いない。
そんな彼女を海上神殿に連れて行けるだろうか。連合軍のキャンプ地に置き去りにして、ヴェルドレと連合軍兵士達が丸焼けになる可能性が大。
「エルフは封印と直接関わっていない種族だが、種族の血が封印の解除方法となる」
『生け贄か』
「そうだ。行く手段はないが、海上神殿にはアリオーシュを関わらせるな。我はそう思う」
『大きな戦力にはなる。だが、俺達が海上神殿に行くことができたとして、フリアエが心配だ。アリオーシュ』
カイムが呼ぶと、アリオーシュは一旦振り向いたが、再びフラフラと離れていく。
『 肉があるぞ!!若い肉が!』
「若いお肉ですって?こうしちゃいられないわ」
若いお肉と聞いてがまんできずに駆けつけるアリオーシュ。ものすごいスピードだ。
「早く、どこなの。子供はどこ?」
『さあ、これだ』
カイムはお皿に乗せたジューシーお肉を見せる。若鶏の唐揚げ。わあ、いい匂い!
アリオーシュはものすごいスピードでカイムの頭をすっぱ抜いた。高速ノリツッコミ。カウンター、カイムは目にも留まらぬ速さで唐揚げをアリオーシュに喰らわせた。(そのままの意味です)
「もごもご」
『美味いと言っている』
「本当か・・・・」
一瞬の内に目の前で起きた攻防。レッドドラゴンは疑わしげにカイムを見る。確かにおいしそうに食べているが、口いっぱいに唐揚げを頬ぼるエルフを見たくはなかった。口の周り、テッカテカですよ。
『お前はここに留まり、連合軍と共にフリアエを守れ。あそこにいる女神だ。どうだ、お前の守備範囲か?』
「もぐもぐ」
『違うと言っている。アリオーシュをここに置いていってもフリアエは無事だ』
「いろんな意味で心配ではあるが」
『お前の家族を殺した憎い帝国軍がやって来たら一匹残らず殲滅してやれ。遠慮は無用。お前の大好きな少年兵士もたくさん来るかもしれん。つまり?』
「ごちそういっぱい!」
『その通りだ。勤しめよ』
めちゃくちゃ生臭いアンサーばかりが返ってくる。それでいいのか、人類よ、エルフの主婦よ。レッドドラゴンは無茶苦茶に不安になる。
「少年兵士と聞いて!!百メートル先から駆けつけましたが!」
レオナールが五秒で駆けつけた。ものすごいスピードだ。それでいいのか、中年よ。レッドドラゴンが何か言う前に、引きずられてきたフェアリーが叫んだ。
「やめろよオッサン!慎めよ!!少年兵士は、エルフの里で皆殺しにされただろ!?」
そうです。カイムが皆殺しにしました。元気ハツラツ皆殺し。
百メートルを五秒で踏破したレオナールは、その元気もすべて失い、ガックリと膝を付く。
「そうでした・・・・。カイム、あなたのしたことは世界の平和のためかもしれません。しかし、しかし!!一人か十人くらい残しておいてくれても罰は当たらないんじゃないですか!?そうでしょう!?」
『消えろ。世界の平和のために。地獄に落ちろ』
言葉による大ダメージ。恍惚の表情でハアハア言うレオナール。フェアリーは愕然とした。だめだ、全然効いていない。
こんなダメ隠者だが、○○モリモリ××な性癖(ゲーム説明書などをご参考下さい)だが、魔法の威力には定評がある。そこでカイムはある可能性に気が付く。
『殺戮殲滅大魔法を使える貴様ならば、レッドドラゴンにかけられた謎の呪い魔法をなんとからできるんじゃないのか』
ハハッ、とフェアリーが自嘲気味に笑う。
「まさかあ。オッサンにそんなことができるとは思えんぜよ。ちょっとばかしオッサンを買いかぶりし過ぎじゃねーかい?少年兵士と聞いただけで心不全に陥っているオッサンが・・・・」
「我もそう思うぞ」
レッドドラゴンは力強く同意する。心不全に陥って、トキメキとハアハアが止まらないレオナール見ると、何より明らか。頑張って、森の隠者。鼓動を正常値に戻して。
「こんな荒業、女神ほどの力がなければ可能ではない」
フリアエの謎の文字化け魔法によってブラックは人間になってしまった。その反対で、発想の転換で、フリアエの女神力を使えば、もしかしたらレッドドラゴンを本来のドラゴンに戻すことが、可能なのでは。
全員はハッとした。フリアエの女神力(めがみぢから)に頼れば・・・・!!
「そうだ!女神サマに頼めばなんとかしてくれるかも!カイム坊ちゃん、女神サマに頼め!」
『フリアエ、大丈夫か。やってくれるか』
「・・・・・・」
フリアエは布団の上に横たわった状態のまま、ピクリとも動かない。ひどく消耗しているらしい。カイムは首を横に振る。
『フリアエは疲れている。今ここで無理をさせたら危ない』
「世界の危機なんだぞ!?オレ様ちゃんはここで死ぬのは嫌だからなあ~!」
人間社会はどうなってもいいが、自分の故郷を破壊された上、世界が滅びるのは御免である。フェアリーはジタバタと暴れる。しかも自分の契約者は少年兵士の四字熟語でハアハアが止まらないし。生き地獄、という単語が豪速で脳裏を過ぎる。もうやめて。
「女神サマあ!!なんとかしてくれよお」
「無理です。動けません。息苦しいので私は一歩も動けません」
苦しい割に、スラスラと答えるフリアエ。詐病、という単語が喉元までせり上がる。
こうなったら。フェアリーはフリアエの耳元まで飛び、そっと囁く。
「息苦しいのはよく分かった。なら、カイム坊ちゃんが人工呼吸してくれるんだってさ」
次の瞬間、フリアエは見たこともない速度で上半身を起こした。が、すぐにバタンと倒れた。ギッコンバッタンしてる。
「兄さん、お願いします」
よーし、来たァ!!生きたァ!!フェアリーは無言でグッとこぶしを握る。カイムに救助要請。
「カイム坊ちゃん、いや、カイム様!!お願いします!」
『何を』
「人工呼吸!!」
『誰に』
会話がブツ切れで要領を得ない。フェアリーはコクッと頷き、フリアエに目配せをする。それに対しフリアエも、汚れなき澄み切った瞳からのアイコンタクト。了承!!
「うっ苦しいです。息が苦しいです。誰か早く人工呼吸をお願いします」
見事なまでの棒読み。しかしまったく下心を見せない澄み切った演技。かなりの大根役者ぶりに、しかし、フェアリーは涙を隠せなかった。努力は認める。
「人工呼吸で体調がよくなれば、女神力が復活するかもしれません」
チラッ!とカイムを見るフリアエ。いや、かなり凝視している。そこまで凝視されて気付かないカイムではない。
『フリアエが一大事だ。かなり危険な状況にある』
「我もそう思うぞ・・・・」
同意を示すレッドドラゴン。健康面ではなく、精神面が。
一刻も早く事を進めたいレッドドラゴンは、グイグイとカイムを前面に押し出してやる。
「おぬしの妹の危機だ。一刻も早く人工呼吸をしてやるがよい」
『だが俺は殺すことは好きだが、人間を生かすことは専門外だ。生半可な知識でフリアエを苦しめるわけにはいかない。医療に詳しい者は誰かいないか、早急に』
お客様の中にお医者様はおりませんか!的な。そんな展開で来ちゃったか。はーいはい来ちゃいましたか。なんでいきなり今、冷静になった。復讐鬼。
思惑が外れたフェアリーは狂ったちょうちょのようにジタバタする。
「いやいや、イーヤーダー!!ここはやっぱりカイム坊ちゃんがやるべきだろ!?大事な女神サマの唇を他の誰かに奪われてもいいのかよっ!」
「分かりました・・・・女性の方は専門外ですが、私は多少なりとも医学の覚えがあります」
「幼児以外は専門外だけど、私も多少なりとも医学の覚えがあるわ」
健康面はバッチリだが精神面で問題が大有りな二人が進み出る。ご存知、レオナールとアリオーシュ。
「何が分かりましただよオッサン!神妙な顔で言ってんじゃねえーよ!ショタコンとロリコンはすっこんでろボケエ!!お呼びじゃないんですよ!」
フェアリーは渾身の力を振り絞って二人を画面外に押し出す。多少なりとも持っているであろう医学の知識内容が怖い。それ、病人を救える方向なの?
フリアエに比べて下心がゼロの二人だが、ここはカイムにやってもらわなければフリアエの女神力が復活しないのだ。危ない二人は釈然としない顔で退場した。
「さあ、邪魔者は消えたじゃん・・・・カイム坊ちゃん!女神サマに人工呼吸をしやがれ!」
『フリアエは普通に呼吸できているようだが』
「それが素人判断の怖いところなんスよ。普通のように見えて、実は呼吸ができてないんですよ」
再びよこしまなアイコンタクト。
実は、フリアエは長年に渡る慢性女神疾患から来たす虚弱体質を逆手に取り、自由自在に顔色を変えることができるのだ。怪我の功名を遺憾なく発揮し、真っ青な顔でバタンと布団の上に転がる。ナイス女神!ナイスブルー感!
「カイムよ。人工呼吸くらいの処置はしてやったらどうだ。女神の危機なのだろう?」
ドラゴン様、ナイスアシスト!フェアリーは心の中で紙吹雪を浴びせかける。
『分かった。それでフリアエが助かるならお安いご用だ。しかし今は海上神殿に行く方が先だ。フリアエ、世界に平和を取り戻すために頼む』
事の順序が明らかに前後している。殺しのテクニックもさることながら、焦らしのテクニックも相当だ。フェアリーは一人でドキドキハラハラした。大丈夫か・・・・!?大丈夫なのか、女神。
フリアエの目は氷の目。氷の視線がフェアリーに突き刺さる。フェアリーは心底ドキドキした。女神サマ、すみません。ミッション失敗しました。
画策したる者達の心境はさておき、レッドドラゴンがカイムに問い掛ける。
「おぬしから世界平和という言葉を聞くとは思わなかったぞ。逆に何か、危険に思想に目覚めてしまったのか?」
疑わしげなレッドドラゴンの視線。世界中の誰よりも世界平和という四字熟語が似合わない人だから。次点は「天使の教会」の司教。どっちが悪者か分からないが、いい勝負してる。
『心配するな。海上神殿の無事がフリアエの負担軽減に繋がる。フリアエの健康は平和に繋がる。つまり世界平和はフリアエの健康を取り戻す。俺は何もおかしいことは言っていない』
「うーむ、確かにそうだな。見事な三段論理」
『お前がドラゴンに戻ろうが戻るまいが、どちらでもいい。しかし戻らなかった場合は、やはり俺がおぶって海を泳ぎきる手立てもやぶさかではない。なぜなら俺は水陸両用だからだ』
「そうだったのか!?」
『知らなかったか?』
「初めて聞いたぞ!!」
『言ってなかったかもしれん。申し遅れたが』
「分かりました・・・・平和を取り戻すまで、お預け、ということですね?」
来た、来たアアア!!その声は、女神サマ!フェアリーはこぶしを突き上げ飛んだ。もう飛んでいるが、さらに三メートルほど上空へ飛び上がった。
「私、やります」
「さっすが女神サマ!頼れる!惚れる!カイム坊ちゃんも惚れる!全世界の俺が泣いた!」
狂喜乱舞するフェアリーに向け、フリアエが親指をグッと立てて見せる。オレ様ちゃんの罪は許されますか?フェアリーは安堵の涙にむせび泣く。レオナールは不思議そうな顔で振り返る。
「どうして泣いてるんですか?」
「ホゲエエー!!お前らのせいでオレ様ちゃんの努力が水の泡になるところだったのに、ホゲエエー!!」
のんきなレオナールにボディアタック。(体当たり)渾身のボディアタック。女神の怒りに触れる寸前であったというのに、少しは身の危険を感じろってんだ。
さっきまでのどす黒い顔色(と腹黒)は微塵も感じさせず、フリアエはパッと立ち上がる。おお、我らが女神様が自立歩行なされた・・・・。連合軍はざわつく。
「では、ご覧に入れましょう、私の女神力・・・・略して、女子力を」
略し切れてない。むしろ、どこから来た子の字。
フリアエはポケットのないワンピースからナイフを取り出す。どこから来た、その刃物。連合軍はざわつく。さすが女神、収納力も優れておられる。女神にも武器ホールがあるんでしょうね。
ナイフを突きつけられ、レッドドラゴンはゾッとした。このプレッシャーが女子力・・・・!!
『フリアエ、刃物を向ける必要があるのか』
「これは魔法ステッキです。私、女神ですから」
『なるほど』
「サマになりますね」
「魔法少女フリアエね」
「納得しちゃったよ!!」
納得しちゃった契約者三羽ガラス。フェアリーには分かる、みなぎっているのは女子力ではなく、どう見ても殺気の部類だ。レッドドラゴンさえも恐怖して、ちょっと後ずさっている。
虚弱体質のフリアエに凄まじいパワーがみなぎる。その力の源、まさに下心。
(2015.6.13)
DOD小話。