前回の続きです。レッドドラゴンひとなる小話。
アリオーシュの奇抜な発想。
(進行:アリオーシュの奇)

哀しみの棘/悲しみの棘(DOD2武器物語より)
(Level4) 鎌の呪いは凄まじく、人間が目の前からいなくなると、他のゴブリン達に襲いかかっていった。
しかし、同族を殺しつくすも満たされず、ついに彼は自身に刃を向けるに至った。
残された鎌は、死体が地に還る頃 美しいエルフに拾われたという。



レッドドラゴンより大きいブラックドラゴンだが、乗せられる人数は三人が限度。意図的なワザとらしさ。司祭が望む役者の他は招かれざる。
にしても少なすぎる。条件が狭すぎる。しかしカイムは不満の声を上げず、指を折って数え、承諾の頷きを返した。
『人数の制限は分かった。契約者の片割れは含まないな?』
「そのようだな。だがエルフはどうする?」
人員にカイムは欠かせない。フリアエ、カイム・レッドドラゴン、そして最後の一人。
アリオーシュを連れて行けば惨劇を見せ付けることになるが、エルフの契約者として大きな戦力となるだろう。彼女個人の能力は未知数ながらも、世界に名高い種族としてはお墨付きだ。
なれば逆に、大量殺戮魔法を使えるレオナール(戸惑いながら敵を棍棒で殴り倒す)を置いて行かなければならない。海上神殿に乗り込むことを考えれば、どちらも捨てがたい。
レッドドラゴンは選択を促す。
「カイム、おぬしが決めるのだ。アリオーシュとレオナール、どちらを連れて行くのか」
『それ以外の選択はないのか』
どっちも嫌なのか。気持ちは分かる。
ドラゴンの背中の上で首を絞められるのは勘弁してほしい。でなければ、ドラゴンの背中で己の性癖を隠して生きる者(略して隠者)と密着状態である。究極の二択と言っても過言ではない。
珍しく断言できないカイムに対し、レッドドラゴンも強く押し切れない。
自分がカイムの立場だったら、絶対迷う。三日三晩ほど悩んでしまう。
しかし時間はない。司祭はカイム達の到着を待っているが、律儀に果たすとも思えない。
「私に考えがあるわ」
選択を迫られた最中、アリオーシュが声を上げる。口の端にカレーがこびりついている。
『どうした。正気に戻ったのか』
「いいえ。正気を失ったとは言え、人間に助けられたエルフとして、一宿一飯の恩義は忘れないわ」
一宿はいいとして、一飯どころの話ではない。カレーライスを食い尽くしたエルフの恩返し。スパイスの刺激によって?いい考えが浮かんだのか。
かなり心配だ。心配を通り越して、得も言われぬ不安と焦燥、人はそれを絶望と呼ぶ。
狂気にまみれたはずのアリオーシュの目、しかし間違いなく知性の光が宿る。ならば一抹の望みに懸ける。
『エルフの知恵を借りるぞ』
「任せて。三十分ほど時間を稼いでちょうだい」
『分かった。レッドドラゴン、頼む。何か頼む』
「いきなり丸投げするな!!」
一本背負いが如き勢いで面倒事が飛んできた。何かしろと言われても。
『アリオーシュにいい考えがあるらしい。頼む、二十分でもいい』
「お願いよ。やってくれたら若いお肉をあげるから」
「いらん!!・・・・で、我が時間を稼ぐとして、何をするつもりだ?」
「説明するわ。作戦はこうよ」
三人は円陣を組み、アリオーシュがボソボソと呟く。
アリオーシュの作戦はあまりにも大胆だった。大胆を通り越し、奇抜すぎる。レッドドラゴンは反対の声を上げる寸前だったが、他に案はない。
カイムも黙って頷く。喋ると必然的にブラックドラゴンへ筒抜けになるので。二十分でもいい、の辺りが聞こえていると思うが、とりあえず大丈夫じゃないかな。その作戦、乗った。
三人は円陣を解除し、アリオーシュがブラックドラゴンの正面に立つ。
「三十分ほど待ってちょうだい。女の支度は時間が掛かるのよ。女神を連れて行きたいなら待ちなさい」
「それくらい待ってやろう。破滅の開幕に迎える装い、せいぜい着飾るがいい」
『では、待っている間に俺とレッドドラゴンのドラマチックな出会いでも聞くがいい。回想スタート!!
「ここで我に振るのか!?」
いきなりカイムにスタート!と言われ、拒否する間もない。硬直するレッドドラゴンを残し、カイムとアリオーシュはフリアエ(イン・お布団)の元に走り去る。
同じく取り残された兵士達が見守る中、レッドドラゴンは諦めたように了承を示す。フェアリーとレオナールも固唾を飲む。
レッドドラゴンがカイムと契約を交わした事実は明白だが、経緯は誰も知らない。選択の余地がなく、生きるか死ぬかの窮状であったことは確か。全員の気持ちはただ一つ、よりにもよって何故あんな殺人鬼と・・・・。
手っ取り早く言うと、レッドドラゴンは帝国軍に捕らえられ恭順を強いられたが拒否し、戦場と化した女神の城へ瀕死の身を引きずり落された。そこへドンピシャで同じく瀕死のカイムが現れた。
偶然と言えばそうだが、進退の道を失ったモンスターと人間を取り合わせれば必然となる。お互いに仇敵を同じくし、逆襲のために生を求めれば、説明のしようがないほど当たり前の選択。ドラマチックのドの字もないほど現実的な筋書きである。
上記の通り、簡潔な経緯だが、誰一人として居合わせなかったことに加え、声を失ったカイムが語らず、今日までうやむやになっていた。
「カイムとドラゴン殿のドラマチックな出会いとは一体・・・・」
「オッサンの契約に比べたら、よっぽどストーリーがあるだろーよ」
「私とフェアリーの契約ですか?そうですね、この際ですから、お話しましょうか・・・・」
「はい!!やめろ!!ドラゴン様いち早くも回想スタートして!!」
レオナールの回想を体当たりで制止するフェアリー。やめろ、おい。己の性癖を隠して生きる隠者の暴露はやめろ。そんな人間と契約しちゃったフェアリーってどうなの?って目で見られるのは御免である。
因果応報。その四字熟語がフェアリーの脳裏を過ぎる。ほんと、遊び半分で契約しちゃってスイマセン。ホント、スミマセン!!!来世では自重します!!
周囲の期待と不安と怖いもの見たさの視線に耐えかね、レッドドラゴンはしぶしぶしぶと三重にも渋り、ようやく口を開いた。
「では、話してやろう。心して聞くがよい。我がカイムと契約した時のことを・・・・」
その口調の重さは尋常を並外れ、ブラックドラゴンでさえも黙る。


『待たせたな。出発の準備は整った。行くぞ』
二十分後、カイムが戻ってきた。しかし、場の異様な雰囲気が。全員、俯いている。
『どうした。何があった』
「いや、我が話した終えた途端、全員が・・・・」
『泣いているのか』
「泣き出しおった」
連合軍の兵士達、レオナールとフェアリー、ヴェルドレ、すべての生ける者達が顔を両手で覆って泣いている。手短に言うと、感動の涙ではない。同情のむせび泣きである。どこをどう間違っても感涙ではない。
ブラックドラゴンでさえも言葉を失う契約の模様。だから、なんでよりにもよって、そんな殺人鬼と契約した。ミッドガルドが認める殺人衝動。
カイムは訝しげに首を傾げる。
『俺の予想では、ドラマチックな劇的運命の出会いに全員がスタンディングオベーションのはずだが・・・・』
「んなワケねーだろィ!!」 ドス!!
突っ込み特攻要員フェアリーの渾身体当たりアタック。ドラマチックのドラはドラゴンのドラだとは言わせねーよ。フェアリーはこぶしを握って叫ぶ。
「今からでも遅くねーよ!!今すぐ、クーリングオフ!!」
『黙れ羽虫』 バシン。
「ドラゴン殿、今からでも遅くはありません。私でよければ相談して下さい!!」
『黙れ変質者』 バシン。
「世界の封印をおはようからおやすみまで見守るこの神官、二十四時間無休で相談を受け付けます!!」
『だまれ日和見神官』 バシン。
三人連続でカイムにやられた。(下段蹴り攻撃)レオナールは端的に変質者扱い。びっくりするほど鮮やかな連続攻撃、そのままフィニッシュブローが発動できるかもしれない。
その一方的な仲間割れを見下ろし、ブラックドラゴンは嘲笑を投げ掛ける。
「誇り高きドラゴン族が契約に選ぶ人間とは思えんな。己の命惜しさのため契約を選ぶとは」
「貴様が言えることか。容易くも帝国軍の配下となり、司祭の得体の知れぬ策に踊らされるままイウヴァルトと契約を結んだこと、我には浅はかとしか思えん」
「すべては神の意のままに」
侮辱とも取れるレッドドラゴンの反論に深入りせず、ブラックドラゴンは笑って受け流す。その返答、ドラゴンでなければ理解しえぬ真意。
ブラックドラゴンはなおも言葉を投げ掛ける。
「人間の軍門に下ることをよしとせず死を選ぶ決断は褒めてやるが、お前の契約は間違いだったようだ。元からの殺人鬼にさらなる同族殺しの殺人衝動を与えただけではないか。下らん契約など断ち切ってしまえ」
「一度は死んだ身、契約者として生きる道を得たのだ。我を捕らえ死の淵に追いやった帝国軍に一矢報いるのも興ではないか」
「生死の運命を興と成すか。愚かな」
「愚かに歌うな。貴様は貴様でイウヴァルトに破滅の道を見せるがいい。我はカイムを道連れに世界の終わりまで足掻くだけだ。その最後、神の意に従うこともまた、運命だ」
女神の最後と同時に世界の終わりが発動したが最後止められない。放たれた火矢は地上を燃やし尽くすだろう。抗う術は唯一、人間の存在である。
レッドドラゴンの突き放した言い方に、ブラックドラゴンはまともな返答を寄越さなかった。
互いに契約者の状態で人間を追い込む事態は死を意味する。敵味方に分かたれたカイムとイウヴァルトが争えば無傷で済むはずもなく、片割れはドラゴンと言えども即死の可能性はある。
ブラックドラゴンは嘲笑い批難する様子ながらも、同族に教えを説くような一抹が見え隠れする。かなり上から目線ではあるが。




(2015/9/29)


DOD小話