前回の続きです。レッドドラゴンひとなる小話。
ブラック、世界の終わりを明かすかも。
(進行:アリオーシュの奇)
海に向かって怒りの咆哮を上げるフェアリー。その体を鷲掴みにして呼びかける。
「しっかりするのはお前の方だ、どうした」
「すまねェな、ドラゴン様よォ・・・・オレ様ちゃんはここまでだ・・・・」
鷲掴みにされたまま力なく笑うフェアリー。もうダメっぽい雰囲気。
「なんかもう、ここは一つ、よさげなエピソードでお茶を濁してくれ・・・・」
レッドドラゴンは言葉を失う。再びエピソード要望が来た。期待に応えられない。
よさげ?良い内容?そんなエピソードは自分の引き出しに一個もない。特にここ最近は殺戮エピソードしかない。主に、カイムの契約してから以降。
「・・・・ブラック、一つ教えてやろう」
「なんだ」
「貴様が契約したイウヴァルトは、死体群れのど真ん中で歌い始めるという趣味を持っている。契約を破棄するなら今の内だぞ」
何それ、怖い。ご当地(女神の城)ではおなじみのイベント。目の当たりにしたカイムとフリアエは言葉を失った。何この人、怖い・・・・。
ブラックはおもむろに頷いた。
「面白い話だな」
「ッタァーー!!面白いか!?作り話にしたって怖すぎるだろ!?懐が広すぎドラゴンの胸先三寸!!ゾッとしたわ!!」
フェアリーが仰け反って叫ぶ。復活した。レッドドラゴンはエピソードに補足する。
「その死体は全部カイムがやったものだ」
「おやりになったのカイム坊ちゃんカヨ!!そのイウヴァルトという人物は一体、どんな神経を!?しておられるの!?逆に興味湧くわ!!」
「そんな趣味を持つイウヴァルトから歌声を奪い、契約した貴様もまた、神経が分からんと言う話だ」
「待って!オレ様ちゃんの戸惑いを置いて先へ行かないで!」
「契約者とはそういうものなのだ」
「オレ様ちゃんの台詞引っ張ってんじゃねーヨ!!」
フェアリーの叫びと戸惑いを置き去りに、どんどん進んで行くドラゴントーク。お願い、グローバルスタンダードなスピードでお願い。
頭上から被さる影が不気味に形を変える。巨大なドラゴンに陽射しを遮られ、海のど真ん中から灼熱が消える。ブラックは巨大な首をゆっくりと傾げ、レッドドラゴンとフェアリーを見下ろした。
「あの人間の、女神を我がものにせんとする執着は凄まじい。帝国軍の手先としては上等ではないか。赤い目になるべくしてなった男だ」
ブラックはどこかにいるイウヴァルトを笑う。本当に、どこにいるんでしょうね。所在不明。
他人事のように笑っているが、赤い目の危うさを理解した上での契約なのか?対岸の火事を我が身に引き込みかねない言動を疑う。
「天使の教会」に感染した赤い目は容易く死ぬ。己が殺戮群集の一人となりながら、我が身に死をもたらす脅威に対する手立てを一切持たない。加害者と犠牲者の薄皮一枚の身だと理解しない。イウヴァルトが死ねば、おそらくカイムに殺されるだろう、即座にブラックも死ぬ。
赤い目は神と契約した殺戮者・・・・だがそこは飲み込んだ。
人間の肌に汗が噴き出るぬめりを感じ、レッドドラゴンは飲み込んだ息を吐き出す。諦めて認める他ない。
薄皮一枚の身であることは、カイムも同じだ。殺戮者でありながら、死者の側に半歩踏み込んでいる。正気も恐怖も失った、今の姿は残像、かつて人間であった輪郭だ。
どれほど強靭なモンスターでさえ、契約者の人間と長く離れることを嫌う。正気を失ったイウヴァルトの傍を離れ、のうのうとひとり身を晒すブラックは気狂いにしか見えない。今、レッドドラゴンが無力であり、歯牙にも掛けるほどでもないと軽んじているからだ。やはり、司祭は自分達を生かしておきたいようだ。
「そんなに俺の契約者が気になるか?」
表情に浮かぶ疑念を見透かし、ブラックは遠くを見ながら言う。
遠くの方では、戦艦がものすごい爆発を起こしている。大丈夫か、本当に大丈夫なのかカイムとアリオーシュ。ドキドキを押し隠し、レッドドラゴンは答える。
「同じ契約者の身として、不自然な行動に思える」
「不自然なことは何もない。この場にいないということは、あの人間は安全な場所に納まっているだろう」
「神殿の中に、司祭と共にいるのか」
「だろうな。お前達が女神を連れてくる時を待ち構えている」
その女神が偽者だと発覚した時、どうなるのか。ドキドキが倍増する。
ブラックは騙せても、さすがにイウヴァルトには通用しない。誰それ!?ってなるハプニングは予想できる。ハプニングって言うと和らぐ感じするけど、その後でとんでもない事態に流れることは予想できる。
こんな茶番に付き合うほど司祭もヒマではないだろう。封印の破壊を長引かせるための安易な小細工。アリオーシュの変装だと発覚するまで、女神の命を長引かせる。
大海に焼き石を投げ入れる行為だ。途方もない労力を払ってなお、落としどころが見付からない。脈絡のない呟きが口を付く。
「正気も恐怖も失った人間から欲望を引きずり出した結果が、我らだ。人間の亡骸を操り、破滅へと追い込んでいる。それが我らの行く末だ」
「いい方向へ進んでいる。帝国軍の猛攻に抗う残党が上等な働きを見せれば、人間は大したものだ。もしかすると、卵の発現を食い止められるかも知れん」
「馬鹿なことを言うな」
言ってからレッドラゴンは後悔した。このままでは再生の卵が止められないと言ったも同じだ。カイムの刃が司祭に届くはずだと信じていながら、連合軍の努力は帝国軍の大隊に飲み込まれる一歩手前だと諦めている。
二の句を次げずに黙る自分に、ブラックが言葉を被せる。
「では何が起きると思う?世界の解体と創造を食い止めた先、俺達の種に存在意義はあると言えるか」
「我らの存続に大した意義などあるはずがなかろう。すべては流れるままに事は進む。運命に抗うつもりはない」
「だが、お前は封印を守るためにここまで来た。抗うつもりがないだと?」
緩い潮風がビリッと硬度を増す。ヤバイ空気を感じ、フェアリーがレッドドラゴンの袖を掴む。
「ヤバイぜ、この空気。ドラゴントークを邪魔する気はないけどよ、向こうの雰囲気なんかヤバくね?」
「分かっておる。ブラックはドラゴン族の記憶に捕われている」
フェアリーはハッとする。
卵だとか世界の再生はついての具体性は知らないが、ドラゴン族が神の最終決定に添い遂げる伝説は聞き及んでいる。
神に因る最善の手は最終手段、最終決定は世界を終わらせる。世界に現存するあまねくドラゴンが世界の生物に牙を剥く。
あまりにもスケールがドデカイため、正統な伝説ではなく迷信だと思っていた。
「ドラゴンの、血の記憶ってヤツか・・・・本当に、マジで!?」
「そうだ。身に覚えのない経験を先祖に遡って身に刻む。我らはそうして使命を遂行するのだ」
神が世界に見切りを付けた時、再生の卵が現れ、世界のすべてを一掃する。今度はゾッとする。
「まさか、レッドドラゴン様もよォ・・・・」
「我の世代に遂行された記憶はない。とは、言い切れん」
遠過ぎる過去はまるで自身が手を染めた行為のように刻み込まれている。ドラゴンの本能が、欲求として、生まれる前から刷り込まれた措置。神の従者。
抗えない本能の濁流が理性を欠片もなく薙ぎ払う時、契約者同士の繋がりは断絶される。契約者である人間、世界の終わりに不必要な生物を殺し切るため、ドラゴンは殺戮生物と化す。
レッドドラゴンはキッと振り向く。頭上の巨大な顎に言い放つ。
「その時ではない。我が契約者が女神を守る。卵が発現するならば、我らドラゴンは傍観を決め込むだけだ」
「なるほど。殺戮の手段は卵に任せ、成り行きを見守る。それも面白い」
返答が真意なのか。面白いわけがない。
卵が発現すれば、次は雛が生まれる。雛はドラゴンに代わる殺戮兵器の役割を背負い、ドラゴン諸共すべての生物を殺し切る。レッドドラゴンにとっては、どう足掻いても絶望の運命が用意される。
遠い未来であるはずの現実が脳裏によみがえり、思わず息が止まる。大海に焼き石が投げ入れられた。大いなる絶望に一筋の希望は役に立たない。人間サイズの体の中で心臓が激しく脈打つ。
「えっ、ドラゴン様よォ!!しっかりしろよ」
えづくように身を折った背中にフェアリーが飛び付く。かばうようにレオナールが前に出る。
「知らずともよいと言われましたが、納得できないのが人情というもの。卵とは一体なんですか。それが私達に破滅をもたらすものなのですか」
「後悔するぞ・・・・」
「いいえ、知っておかなければなりません」
「いや、オッサン。いつ海から復活したんだよ・・・・」
急に現れたずぶ濡れの中年男性にゾッとする。いや、あなたの契約者ですよ。認めたくはないだろうが。
「未熟ゆえ海に没しました・・・・海のど真ん中にマイクロビキニ少年がいるはずがないと気付き、目が覚めました。とんだハプニングでした」
真面目に言われても。明確な意思を持って実行したフェアリーにとっては、今の方が最高にハプニング。
「行く末が先のない破滅と知っておきながら、終わりをもたらす正体を知りたいとは、さすが人間の根性よ」
ブラックはレオナールに応える。
「同じ世界に根を下ろす存在として、教えてやるのが義理というものだろう。己らの最期くらい知っておきたいだろう」
「止める手段を模索しているのですよ。未知なる脅威に対抗する手段を」
「いい根性だ。ならば止めて見せるがいい。世界に見せよ」
挑発の意。ブラックから発せられる哄笑が期待をはらむ。レオナールは微動せずに応える。
「一度は死んだ身。私ごときの無様な足掻きをお目に掛けて世界を救えるならば、本望でしょう」
「オッサンカッコイーー!!ここ一番やばい展開来たぜ!激アツ!」
「どうしてしまったのかレオナール。海水に洗われて、よこしまな心が浄化されたのか?」
「一回二回のすすぎで洗浄されるとは思わねーけど、いい感じに洗われてきたぜ!」
若干きれいになった森の隠者・奇バージョン。
もっと褒めて下さっても構いませんのよ、などとドヤッてる場合ではない。ブラックの口が今にも真実の火を噴く。危惧を思い出したレッドドラゴンは身を硬くする。
「破滅をもたらすものは天使の卵だ」
「なんですと?」
火の粉が見えた瞬間、どこからか飛んできた何かがバーン!!とレオナールを薙ぎ倒した。飛び散る海水、悲鳴もなく倒れるレオナール。全員がびっくり。
続いて、また別の何かが海から這い上がってきた。泳いで帰って来たカイムだった。
『今帰った。アリ、フリアエを連れ帰った』
「びっくりするではないか!!びっくりさせるな!!」
『サプライズだ』
ハプニングに続き、サプライズ。ミッドガルド語で言うと、サプライズ宴。
(2018.11.4)
