カイム、なでなでする。
「ドラゴン殿、その首はどうなされたのですか」
「レオナールか・・・・いや、これはちょっとな・・・・」
地上、朽ちた帝都に降りたレッドドラゴンは頭を垂れていた。そこへやってきたレオナールが声を掛ける。
「ここの部分だけ、なんと言いますか・・・・色褪せていると言うか、塗装が剥げていますね」
「塗装と言うな!!・・・・まったく、己の性癖を隠している者、略して隠者め。我は車の側面か」
「はいはい、隠者ですよ。それにしてもどうしてこの部分だけ・・・・どこかに擦ったのですか?もしや怪我を?」
「いや、怪我ではないのだが、その・・・・」
ゴニョゴニョと珍しく歯切れの悪い口調で、レッドドラゴンは事の経緯を語り始めた。
「伝説が来おった・・・・」
帝都の上空でレッドドラゴンが唸る。カイムはその光景を竜の背中から見据える。
眼下で今もなお燃え盛る炎にあぶられ、空までもが真っ赤に染まる中、一つの塊と無数の群れが対峙する。
「これ以上・・・・進めぬ」
二人の目の前に現れた群れは、竜の眷属で最も畏れ高い種族、エンシェントドラゴン。今の今まで世界の各地で石化していたはずが、世界の終わりを一目見ようと、「再生の卵」に引き寄せられてきたのだ。何者にも代え難い至高の存在、終焉の事態にも耐えうる神の使い。
相手は巨躯の周りに無数の子供達を集(たか)らせ、点の集まりの向こうからレッドドラゴンとカイムを捉える。
辺りは空気を振るわす息遣いと、ドラゴンの羽音と、燃え盛る炎風で満ちる。カイムがうまく息をできないのは、その為だけではない。これはプレッシャーだ。たかが生き物の威圧で大気が圧される。
「エンシェントドラゴン・・・・聖なるドラゴンと戦うことなど、我にはとても・・・・」
同じ神の眷属だとしても、格が違った。エンシェントドラゴンと比べるならば自分は赤子同然。刃向かうどころか、戦うこともできないまま墜ちてしまう。
聖なるドラゴン、その名は伊達ではない。何者も彼の前では脆弱な羽虫に成り下がる。
怖じ気付くレッドドラゴン。大空に在れば確かに最強の存在であった契約者の、初めて見る姿。頑強な体も恫喝する声も、今では恐怖に捕らわれている。カイムはそっとレッドドラゴンの首を撫でた。
「は、離れろ!暖めてどうなるものでも・・・・まったく、どうかしておる!」
『震えていた。怖いのか』
「当たり前だろうがっ!!相手は彼のエンシェントドラゴン、とても我の敵う相手ではない。それよりもおぬしがそんな気遣いを見せる方が百倍恐ろしいのだが」
『百倍も怖いのか。俺の勝ちだな!!』
「アホか!それで勝てたら苦労せんわ愚か者がっ」
あいにくと自分の首までは尻尾が回らない。レッドドラゴンはツッコミを諦め、おりゃーと首を振った。
『墜ちる落ちる。退くのか』
「しかし、ここを突破せねば帝都には降りられぬ。しかし、戦えば無事では済まぬ。我が死ねば、おぬしも死ぬのだぞ。得策ではない・・・・」
『俺は構わない。ここで死ぬワケにはいかないが、ここで死んだら心中だ。おっとその前に駆け落ちか?』
「愚か者が!!誰が貴様なんぞと駆け落ちするか!心中もまた然り!!」
間髪入れずカイムの頭をすっぱ抜く。今度こそ尻尾が届いた。新記録だ、ドラゴンのツッコミとして。
「礼を言うぞ、カイム。我は今、我自身を超えられた気がする」
『早い早い、そのセリフはまだ出てこないぞ。だが、あのエ、エン・・・・あの不細工な作りのドラゴンを越えなければ「再生の卵」まで辿り着けない』
「エンシェントドラゴン!!言えないならムリして言うでない!そして見た目まんま表現するでない!!」
『あれが神の使いなら、明らかに俺達の勝ちだろうが。勝ち誇ってもいいんじゃないかな』
「バカ者、見くびるでない。見よ、あの無数の子供達を。親の元に辿り着く前に、あやつらに喰われて死ぬのが先か。どちらにせよ、我の身体では無理だ」
カイムはレッドドラゴンの皮膚を撫でながら答える。
『案ずるな。いい身体してるぞ、かなり』
「ええい、触るなっ。おぬしが言うと違う意味に聞こえて嫌すぎるのだが」
確かに。心なしか手付きがいやらしい。
『最初の頃よりも立派になってきたようだが』
「我が成長しただと?黙れ。我はただバカ者になっただけだ」
『早い早い、そのセリフはまだだ。分かった、こうしよう。俺が集る羽虫共を片付けるから、お前がその隙にエンなんとかを叩く、と』
「エンシェントドラゴンだ。子供と言えども人間がドラゴンに敵うものか。いいから大人しくしておれ」
空中でドラゴンに勝る者はいない。ましてや相手は星の数ほどあろうかという多勢、こればかりは常の如く戦うことは難しい。空の王者はやはりドラゴンなのだ。
『見くびるな。フィニッシュブローなら羽虫くらいまとめて吹っ飛ばせる』
「心の底から頼む。せめて人間らしい戦いをしてくれないか・・・・」
『お望みとあらば各種魔法も取り揃えているが』
「いいから黙っておけ!!」 バチン!!
またぞろ頭をはたかれるカイム。そんなことをされた日には、空の王者もさすがに墜ちる。五十本ほど揃えた武器と魔法はダテじゃない。
そして、レッドドラゴンは覚悟を固めた。
「おのれ、もはや伝説も神も善悪も関係ない。酔狂なバカ者と契約した身を恨むことにしようぞ」
『バカとは俺のことか。それじゃ俺は黙っているのも忍びないので、戦いが終わるまでお前を撫でていることにしよう。どうだ、暖かいか?』
「熱い!!!摩擦熱で火を発する程に!?貴様ほど加減の知らぬ人間も珍しいわァ!!」
ものすごい勢いでレッドドラゴンの後ろ首をさするカイム。さすがに火は起きないだろうが、暖かいとか勇気づけるとかそんなことを差し引きにして、ひたすら迷惑行為である。
「あー、もう。早く手を打たなければ世界が終わるのだぞって、熱ー!!いい加減にしろ、離れろ!」
「嫌だ俺は離れない。何があっても!!」
「なんだその根性!!?執着とゆーか執念か!?」
「愛情だ!!」
「威張るな叫ぶな!!行動に見合っとらんことをぬけぬけと───!!」
その頃、地上では帝国軍の兵士達が「痴話ゲンカだ!!」「痴情のもつれだ!!」と空を見上げて騒いでいた。確かに、そうなのだが。
「おぬしと喋っているとバカバカしくなってくるわ!偉大なるドラゴンよ、我らのようなバカ者に出会ったことを後悔するがいい!!」
『俺達まとめてバカ者か。一括りか』
上空でギャーギャー騒いでいると、そこへヴェルドレの焦った「声」が聞こえてきた。
「カイム!そなたとドラゴンの間に何があった?そなたの何がドラゴンを駆り立てる!?」
『変則ハゲは黙っていろ!!今大事なイベント中だ、戦わないヤツは失せろ』
「ひどい言い掛かりだ!!そりゃあ確かに私はドラゴンと戦えない。ドラゴンがドラゴンに挑む・・・・そんなバカげた戦いがあろうか」
『はげた戦いなら任せるが』
「ひどすぎる!!」
その頃、地上ではヴェルドレが「好きでハゲたんじゃない!!」と打ちひしがれていた。よりにもよってエンシェントドラゴンと契約したばっかりに、あんまりな代償であった。
『よし、第一の障害は取り除いた。なでなで』
「よくも容赦のない男よ。って、だから撫でるな!触るな!振り落とすぞ!!」
『できるものならやってみろ!!』
「なんだその元気は!?嫌がらせか!!」
『愛情表現だ!!』
「ぬけぬけと言うな───ッ!!!」
「・・・・と、そういうワケだ」
「はあ。その塗装がはげたところはカイムに撫でられすぎて、色が薄くなったワケですか。災難でしたね」
「レオナール、おぬしからカイムに言ってくれまいか。あまりおかしなことをするなと・・・・」
と、そこまで言ってからレッドドラゴンは口を閉じた。考え直した。レオナールに説得力はない。
「無駄か・・・・己の性癖を隠して生きる者、略して隠者に言われてもムダか」
「二度も言うほど無駄ですか。しかし、彼の性癖にも問題があるようですね。なんとかしなければ」
「性癖か!?あれは性癖か!!?」
「それでは変わったシュミとでも言いましょう。これではいずれドラゴン殿の赤色が薄れてしまい、ピンクになってしまいますよ」
「ピンク・・・・それは困るな」
『ピンクドラゴン!!?』
食い付いてきたのはカイムだった。さっきまで居なかったハズだが、一体どこから出てきた。唐突な参上に、レッドドラゴンとレオナールは硬直する。
『ピンクドラゴン、可!第二形態が一番それらしい色だったのに・・・・』
「泣くほどか。第三形態になった時に一番はしゃいでいたのはどこのどいつだ」
『俺だ!!』
「威張るな叫ぶな!「再生の卵」を目前にして、これでは先が思いやられる・・・・」
『次の成長でピンクになるといいな』
「絶対なるものか!!我の話を聞いていたか!?」
聞いてなかった、と手を上げるカイム。一瞬翻った彼の手の平を見て、レオナールは唖然とした。
カイムの手の平は、真っ赤に染まっていた。
「塗装・・・・色移りするほどだったんですね・・・・」
侮っててすみません、と心の中でレッドドラゴンに謝る。まさかこれほどとは思わなかったのだ。
しかし、生き物の色が取れるほど撫でまくるとは。確かに容赦のない男(24歳)であった。そりゃ帝国軍も全滅するワケだ。
その後、レッドドラゴンがカオス形態になった瞬間、カイムがものすごい勢いで外に飛び出していったのは別の話である。(外?)ショック受けすぎだし、誰も止められなかったという。
後で彼が連れ戻されたのも別の話だが、目も当てられないほどの憔悴様だったという。
DOD2八章イベントにやられ、思わず書いてしまいました。あそこで二人のメモリアルを見せられるとは…若イム!(2005/7/12)
DOD2ネタバレ反転。アンヘルが死んで、一緒に燃え尽きてしまった時、二人は幸せそうだったよ!!最後に一目会えて良かった。カイムは本当にレッドドラゴンに会いたかったんだなあ、と思いました。推定1万18歳と42歳(厄年!?)のラブストーリー。1でのエンシェントドラゴン戦、純粋なラブイベントだと思ってますから!ラブいヤツらめ!私はドラゴン初期形態の丸っこい角が大好きです。ホント、神の作った至高の造形だよ…(うっとり)