レッドドラゴン、歌ってみる。



レッドドラゴンと契約したカイムは、その代償に声を失った。
カイムと契約したレッドドラゴンは、彼の肉声がなくとも契約者同士で交わされる「声」で思いを知る。


『まーいにちーまーいにちーぼくらは鉄板の~』
カイムの声は他の人間には聞こえないが、彼と同じ身上である者、契約者には声と同じように伝わる。
(また何か言っておる・・・・)
青の丘陵でフリーミッション千人殺しに勤しむカイム。熱心だが勤勉ではない。
『うーえでやーかーれーてーいやになっちゃうよ~』
青の丘陵はものすごーい野っ原なので、彼とドラゴンの他にはヴェルドレもフリアエもいない。
あとは帝国軍のダニ共。もはや兵士とも呼ばない潔さが見え隠れする。
神官長や女神はみんな別の場所で待っています、彼の殺戮が終わる時間を。残り時間40分。
地上でバッサバッサと帝国軍の連中を斬り捨てていくカイム。そして、もはや剣ではなくて、つるはしだ。匠のつるはしだ。もはや剣士でもないって、どういうことなのか。
『あーるあーさーぼーくは店のおじさんと~』
つるはしで屠られていく帝国軍の兵士が哀れになり、さすがのレッドドラゴンも空の上から忠告した。
「おぬし、そろそろまともな武器を扱ったらどうなのだ?」
『これではダメか。匠のつるはしでは』
「つるはしよりも・・・・もっといい武器があるではないか。この前見つけた短剣はどうだ。あれもなかなか良いと思うが」
提案すると、カイムは少し考えてから答えた。
『古の覇王か・・・・あれもいいが、ちょっと扱いづらい。匠さんのつるはしの方がいい』
「匠さんって何者だー!!?」
いきなり新しいキャラ名を告げられ、レッドドラゴンは思わず火を吐いた。その勢いで兵士達が炭化する。ものすごいリアクションだ!
『匠さんが作ったつるはし、略して「匠のつるはし」では』
「いくらなんでも匠さんではないだろう。匠とは、優れた技を持つ物作りを指す。固有名詞ではなくて総称だ」
『近寄りがたいな、たくみ。少し歩み寄ってみて、匠くんではどうだ』
「いきなり馴れ馴れしいのでは」
もっともである。いきなり匠を匠くん呼ばわりでは威厳もへったくれもない。
『匠さんではなかったのか・・・・しょうがない、レベルも上がったことだし替えるか』
「そこまで落ち込むか」
そういうワケで、カイムはとうとう古の覇王に持ち替えた。
武器を持ち替えても、やることは殺るし、殺ることに変わりはない。切れたチェインを再び稼ぎ始める。


『けんかしてーうーみーに逃げ込んだーのーさー』
(さっきの、続きか・・・・?)
そろそろチェインが500を越えそうな頃、カイムはまだまだ地上を走り回っていた。
古の覇王を使っているところを見ると、レベル上げのようだ。
わざわざフィールドの端っこから始めたので、敵の位置に切れ間がないよう順序に片付けていく。なんという残忍な企みか。もう誰も彼を止められない。順序に順調に屠られていくのみ。
『はーじーめーてー泳いだーうーみのそーこ~』
めでたく1000Killを越え、殺戮の宴は順調だった。チェインも途切れさせない。
カイムの目に黒い炎が怪しく揺らめく。存分に血の宴を楽しめ!!(フリーミッション・コロシアムより)
『とーってもきもちがいーいもーんだー』
確かに気分は良さそうである。
フィニッシュブローでカイムの前後にいた兵士が呆気なく、いっそ気持ちいいほどの勢いで吹っ飛ばされ、キルカウントに貢献する。
『おーなーかーのアンコがおーもいけーど~』
重装備で固めた帝国軍の一個小隊が、またぞろフィニッシュブローで吹っ飛ばされ、壊滅する。カイムの前では皆軽すぎる。
もうこの光景、人により人に対する殺戮か蹂躙としか言い得ようがなかった。
『うーみーは広いぜーこっころがはーずむー』
確かに、青の丘陵は広い。広すぎて、徒歩では端から端まで五分はかかる。心は弾まないかもしれないが、老人ならば心臓は確実に動悸を起こす。
『もーもーいーろサンゴーがてをふって~』
遠くで帝国兵が白旗を振っている。カイムはみないふりをした!(※コマンドではありません)
『ぼーくのおーよーぎを眺めていーたーよ~』
傍観者はただ一人、一匹?一頭?レッドドラゴンのみとなっていた。
「よくぞここまで滅ぼしたものよ。我が契約者ながら恐ろしいヤツ・・・・」
レッドドラゴンは戦々恐々と呟いた。もう世界残酷物語。
切り裂かれた死体が引きずられ、ぎざぎざになった断面を血に擦り付け、それでもまだ飽きたらず細切れにされた跡。
空からみた地上は血の赤が途切れず、どこまでも線となって続く。 割り切って臨めば見事な光景でさえある。その当事者(殺戮者とも呼ぶ)、カイムは満足げに頷いた。
『頑張ってみた。運命の赤い糸』
「黙っとれ。一体全体どんな運命だ、重すぎる」
『ラブレッド!!!』
「黙れと言っとるだろーが!!大声で叫ぶな!!」
カイムがいくら大声で喚こうが、他の人間には聞こえない。どうせもう誰もいないし、敵もいない。
ミッションクリア、カイムレベルアップ。古の覇王もレベルアップ。 元気ハツラツみなごろC!!丘に住む動物たちも逃げ出す始末であった。


カイムとレッドドラゴンが引き揚げていくと、待っていたヴェルドレとフリアエが出迎える。
「ドラゴン殿、どうかしたのですか?」
「?何かあったのか」
ヴェルドレがレッドドラゴンに尋ねる。何かあったと言えばあったし、無かったと言えば無かった。殺戮はあったが、殺戮しかなかった。それ以上でも以下でもない。
すると彼は神妙な顔で語り始めた。
「いえ、ここであなた方を待っていたところ、カイムの声で「ラブレッド!!」と聞こえてきたもので、何事かと思いましてな」
「おぬしも大声で叫ぶなー!!」
『ラブレーッド』
「黙っとれバカ者ー!!」
再び言い出すカイムを尻尾ですっぱ抜く。物凄い風圧である。風速三十メートル。
「して、「love red!!」とは何事ですか」
「かっこよく言ってもムダだバカ者ー!!」
今度はヴェルドレがやられた。ここは局地的な暴風域だ、周囲に潜んでいた帝国兵がズバーと飛んでいく。
「兄さんは赤色が好きなんですね。私も赤くなろうかしら・・・・どうしたらあなたのように赤くなれますか?」
「女神、おぬしはそのままでいろ。頼むから。人間はどう頑張ったとしても赤くはなれん」
あらー、と考え込むフリアエ。赤い女神とは、また、生々しいというか毒々しい。
三人をそれぞれ黙らせていると、レッドドラゴンはふと思い出した。
そういえば、カイムが殺戮中に何事か言っている「声」が聞こえた。あれはなんだったのか。
空を仰ぐと、さっき吹っ飛ばしたカイムがまだ、空を飛んでいた。
滞空時間、長ァ・・・・
それはともかく、なんだろう、とても気になる。最初から最後まで、ほとんど抑揚のない調子。
まいにちまいにちぼくらはてっぱんのうえでやかれていやになっちゃうよ。毎日鉄板の上で焼かれて嫌になっているのは一体、誰なんだろう。
「まーいにちーまーいにちーぼくらは鉄板の~」
レッドドラゴンは呟いてみた。そして気付いた。この棒読みながらも振幅のある調子。これは歌だ!!

歌・・・・だったのか。(←何か別の、呪いの言葉かと思っていた)

「うーえでやーかーれーてーいやになっちゃうよ~」
呆然としていると、その続きをフリアエが歌った。やはり例によって抑揚のない歌い方が怖い。
「女神、この鉄板の上で焼かれている者を知っておるのか?」
「ええ、知っています。私、女神ですから。毎日毎日鉄板の上で焼かれているのは、たいやきくんです」
「匠くん・・・・」
「匠くん?」
「いや、なんでもない」
思わず件の匠さんの作ったつるはしを思い出してしまう。いやいや、今はたいやきくんだ。
「そのたいやきくんは、どうして毎日鉄板の上で焼かれておるのだ?拷問か?」
「拷問ではありません。彼は食べ物です。なので焼かれているんです」
「そうか・・・・かわいそうに」
たいやきくんがどんな食べ物かは知らない。しかも何日にも渡って火にあぶられなければ食べられないものなのか。
しかし、つまり。カイムは生き物が毎日毎日鉄板の上で火を通されている様を実況していたワケである。聞いてみると、かなり残酷だ。世界残酷食べ物語り。
「逃げ出せて、良かったな!」
たいやきくんの逃走劇に思いを馳せるレッドドラゴン。空を仰ぐと、もうカイムは落ちていた。
「もったいないですけど。ところで、どこでその歌を・・・・人間の歌に興味がおありですか?」
「我ではない。カイムが歌っておった」
「兄さんが?」
「カイムが?」
「カイムが」
フリアエとヴェルドレとレッドドラゴンの目が一斉にカイムを向く。立ち上がり、埃を払っていたカイムは視線に気が付き、なんだろうと顔を上げる。
「あーるあーさーぼーくは店のおじさんと~」
「けんかしてーうーみーに逃げ込んだーのーさー」
『・・・・?』
レッドドラゴンとフリアエが歌詞を続ける。それを聞き、怪訝な顔で首を傾げるカイム。
だが、すぐさま何が起きたのかを悟る。
ザーッと血の気が下がる音。いや、血圧は上がった。カイムの顔が真っ赤になる。
『・・・・!!!』
「逃げた!?おぬし、なぜ逃げる!?」
「兄さん、逃げるほど恥ずかしかったんですか」
「誰にも聞かれていないと思ったのだろうが、ドラゴン殿は欺けなかったようだな・・・・」
遠ざかっていくカイムの背中に、ヴェルドレが「カイムよ油断したな・・・・」と呟く。
「カイム、待て!それからたいやきくんはどうなったのだ!?ももいろサンゴに手を振ってから、彼の行く道はどうなるのだ!?」
『俺を見るなーッ!!』
「待てカイムー!!」
「兄さん、よほど恥ずかしかったんですね」

ジャキーン!!ビュッ、ザクッグシャッ、フィニッシュブロー!!ギャー!!復讐の鬼にやられたー!オガーザーン!!

走り出した勢いは止まらず、群がっていた帝国軍のダニ共を突きダッシュのち、フィニッシュブローで斬り捨てていくカイム。耳まで真っ赤になっているが、ものすごい照れ隠しだ。凶悪だ。
「カイム、それからたいやきくんはどうなる!?気になるではないかー!!」
『たいやきくんは、たいやきくんは・・・・くそっ!!追ってくるなー!!』
「カーイム!!!」

待てというのに!!地上仕様ドラゴンブレスーー!!うわー焼けるー!!?我も熱いんじゃボケー!!

契約者同士の痴話ゲンカは規模が違うし容赦がない。自然災害。
カイムが逃げてレッドドラゴンが跡を追った後、青の丘陵は帝国軍のダニ共の血で真っ赤に染まったという。ラブレッド。みんな、巻き込まれ過ぎだ。



その後、カイムがたいやきくんの末路を語ったか歌ったかは、定かでない。






ひたすら物騒なものと、ひたすら平和なものを組み合わせようと思ったらこうなりました。(2005/8/12)
無表情で「およげ!たいやきくん」を歌うカイム。それを聞いたレッドドラゴンが「たいやきくんって何だろう?」、ポカーンとしていたらかわいいなァ!と、ひたすら安直(愚直とも言う)な情熱で作りました!匠くんもまた然り!(笑)バカバカしい内容に愛と情熱、ラブレッドだけは込めやした!カイムの最後のセリフは2ノウェの「ジスモアが、ジスモアが…くそっ!」と掛けています。カイムでも恥ずかしいことはあるはず!人知れず歌ってたりしてね。戦ってる時に。

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