右と左指す野球少年。 <2/2>
「おおー。ホントにたくさんありますね」
本棚の間でウロウロする九里子。一冊を手に取るより、単に量を眺めて楽しんでいる。平日の夕方前はまだ空いているので、そのアホ面も人目に付かない。
「九里子は図書館なんて行ったことないの」
「なんかあそこは静か過ぎて・・・・耳がキーンとしてきます」
「あんたの可聴域ってどうなってんの?このデカイ耳」
「あへー」
小田原が九里子のキツネ耳を引っ張っていると、足達が分厚い本を持ってきた。コーナーから持ってきた英和辞典。
「これなんかキレイで新しい版だし、いいんじゃない?」
「もうちょっと使い込んでる方がいいかな」
「人が選んできてやったものを・・・・」
「新しくてキレイな方がいいんじゃないですか?あ、DVDもあるんだ・・・・」
「前の持ち主の形跡が分かる方がいいんじゃないですか。エロい語句にだけマーカー引いてあったりして」
「あんたの基準は分からんわ。九里子さん、そっち18禁!!」
辞書を放り出し、フラフラ歩いていく九里子を追う足達。奥にあるアダルトコーナーまっしぐらだ。コーナーリングしろ。
目を離すと何を仕出かすか分からない。コーナーの入り口には18歳未満お断りと掲げているが、九里子には読めん。彼女が何歳かも知らないが、確実に店員に止められるし気まずい。
「待て。アホ狐」
と、足達より一足先に九里子を止めた人がいた。足達は「?」と足を止める。
小田原はまだ辞書を見ているし、ましてや人物は店員でもなかった。しかも九里子をキツネと呼んだ。
自分の腕を掴んだ手を見下ろし、九里子は相手の顔を見た。次には、いつもののんきそーな顔が引きつった。
「ぎゃっあ!!なぜここに!?」
叫んだと言うより、押し殺した悲鳴。九里子は大慌てで手を振り解いて後ずさり、後ろにいた足達にぶつかった。慌てすぎだ。何事かと足達も相手を見る。
「どちらさんで?」
足達には見覚えのない顔、九里子の知り合いには違いない。相手は長身から九里子を見下ろしている。小田原と九里子に比べて上背のある足達だが、それでも見上げるくらいの男だった。どこか斜に構えた冷たい印象がある。
「また上司?あんた、めっちゃ瞳孔開いてる」
未だにぶつかったままの九里子を押しのけ、足達は彼女自身に尋ねた。しかし九里子は大急ぎで首を振る。否定の意思が目に見える。
「いやいやいや、上司じゃありません。なんとゆーか・・・・同僚ですかね」
「お前に同僚呼ばわりされるとはな。俺の格が下がる」
しぶしぶ答える九里子に足達が言い返すより早く、冷たい物言いで男が遮る。よく言えばクール、悪く言えば冷淡な性格だ。足達はゆっくりと首を上げ、真顔で男を見た。
「あんた・・・・その言い方、的を得ている。冷静な判断だわ」
「いやいやいや!!そこで肯定しない下さいよ!?私バカにされてるんですけど!!」
足達も冷静だった。その顔で今度は九里子を見る。
「本当のことじゃないの。あんたバカでしょ、こっちの同業者と同じじゃないでしょ」
「同僚じゃないかもしれませんけど確かに同業者ですよ!」
マジで!と自分と男を交互に指差してみせる九里子。二人に比べてこっちは必死だ。かなり死活問題。
よく見ると、男の耳も九里子と同じく奇妙な形をしている。人と比べて奇妙と言うだけで、化け物みたいなとゆー意味ではない。顔の両側から伸びる耳は先が尖って黒い。同僚じゃないかもしれないが、やっぱり同業者には違いない。
「そうなると、あんたもコックリさんなワケ?」
「そうなるな。どんな呼び方であれ、このアホ狐と一緒にされる謂れはないがな」
またぞろ突き放した言い方。その冷たい物言いに九里子はギリギリと爪を噛んでいる。よっぽど悔しいらしいが、足達と小田原に見せたリアクションの速さは微塵も見えず、この相手には言い返せないようだ。
「もしかしてあんたにアホ狐って言ったヤツ、この男?」
「そ、そーですよ。しょーがないです、彼の方が実力もあるしキャリアも上ですし・・・・」
「そりゃ見りゃ分かる」
「見た目で即決!?現代っ子はおそろしい!」
「まあそりゃしょーがないわ。こんなとこで行き会ったのも何かの縁、犬に噛まれたと思って諦めろ」
「噛み殺したいのはやまやまだが、あいにく勤務中だ」
その言葉に足達は振り返る。今の言い方からすると、九里子がキツネでこの男は。
「するとあんた、犬なワケね」
「いかにも。だからこんなアホ狐と一緒にするなと言ったハズだ」
「一度ならずも二度までもー!!」
「落ち着け九里子さん。今日までの経緯はいざ知らず、今日だけで一度ならず延べ三回は言われてる」
「なんで足達さんが落ち着いてるんですか!?」
意外に冷静な統計結果に九里子が驚いた。もはや慰めなのかフォローなのか分からない。
「はいはい、どーせ百億万回くらい言われてますよ、ええ!!」
「だからそういう頭悪そうなリアクションを」
呆れる足達に「じゃあ百万回!」と訂正する九里子。数えるこっちゃないが、どっちにしろ覚えてなさそうな九里子にしては譲歩した。しかし頭のわるい評価に変わりはない。
足達に食って掛かる九里子を横目で見据え、男は相変わらず素っ気なく言う。
「ずいぶんと威勢のいいことだな。俺の前では生後一ヶ月の狐より縮こまっているくせに」
「うわー、それメチャクチャ撫でまわしたいわー。両手でゴリゴリと」
「死にますから!!いくら愛玩でも死にますから!!」
撫でまわす擬音にゴリゴリはないだろう。そんなことをされたら首の骨がイッてしまう。あのねー、と足達は呆れたように言う。
「人間の赤子にはそんなことしないわよ。キツネは撫でられたり撫でまわされたりしてなんぼの存在でしょ」
「虐待っぽい・・・・!!手加減とゆーものは」
「今でも同じようなものだろう。おとなしく撫でまわされてろ」
「殺される・・・・!!」
双方に言われておののく九里子。なんだろうこの、ステレオ配置で来る暴言は。
「おーい九里子。お前に読めそうな絵本あったぞ」 ゴス。
「痛い!?平綴じの背表紙で殴らないで下さい!」
そこへ小田原がやってきた。持ってきた絵本で九里子の後頭部を襲う。さらにサラウンド方式。新しいメンツに目もくれず絵本を開いてみせる。
「キツネの話だ。「てぶくろをかいに」と言う」
「どんなハナシなんですか・・・・」
「冬に子狐が手袋を飼いに行くハナシよ。情操教育にピッタリ。人間の里に降りた子狐は、人間に捕まってキツネそばにされてしまいましたとさ。ハッピーエンドじゃないが泣けるぞ」
「確かに!! マイナスの方向で!!」
「そういうハナシだったか?」
「そーですよ、小田原さんはウソをついている!」
「そーね。確か、途中で雪の吹き溜まりに落ちて死ぬ?町にも辿り着けなかった、と・・・・」
「キツネそばと変わりない!!そ、そんな恐ろしい絵本は読めませんよ・・・・!!」
足達のツッコミも厳しいが、キツネそばにキツネ自体入っていない。それはどんな麺類だろう。
「経緯は残酷じみているがうまそうだな」
「剣は黙ってー!!」
「なぬ?こいつは・・・・」
ようやく男に気付いた小田原が振り返る。ちょっと来い!と、足達と九里子を棚の陰に呼ぶ。そこまで深刻な事態か。
「剣ってあいつのことか。見たところアレだが」
「そーだとよ。同僚じゃないけど同業者らしい」
「いちいち傷付きますな!そーですよ、私より遥かに格上ですけど、誰かに呼ばれたらしいです」
いちいち足達に補足される。九里子は耳をベッタリ伏せて声を潜める。
「なるほど。見たところ、あんたよりだいぶトゲトゲしい輩ね。とっつきにくそうだわ」
「九里子さんにはずいぶんと厳しいよーね。あっちの方が頭良さそうだし」
「もう三百年も生きてる狗の眷属ですからね・・・・」
「なるほど、三百年ときたか。九里子がキツネで剣が犬ね。知ってるかい九里子、犬は狩猟を生業にするという。あんたは狩られる側ね」
「狩られますか私は!?そういう自然条件で!?」
「自然は厳しい・・・・あんたなんか一発で噛み殺されておしまいよ」
「厳しすぎる!!生きてけませんよ~」
足達と小田原の言い分がもっと厳しい。へこみそうになる自分を叱咤し、九里子は立ち直りを見せた。
「私だってプロとしての意地が!畑違いではありますが、専門分野に関してはそれなりの腕前を」
「あんたの専門分野ってなんだっけ。腕前つっても」
「この前は結局役に立たなかったし。九里子さん、雑用でもやってたら?」
「むが!それを言われると厳しいですけど、いつの日かお役に立てるものと信じてー!」
あっけなく下されて落ち込む。二人の指摘も間違ってはいない、確かに役に立ってるところを見たことがないからしょうがない。この際だからと雑用でもやらせたら、余波で何かしでかさないとも限らない。
「九里子、あんたそのチャラチャラしたカッコからしてダメだわ。この足!!」 ビシ!
「引っ叩かれるほどに!?お、小田原さんだってスカート短いじゃないですか~」
九里子はショートパンツに短いブーツだったし、小田原は制服のスカートを短く切っている。文句はお互いを見てから言えと。
「検査で絶対引っ掛かるつーのに後先考えないでやるから」
「折り返しもしくはめくるなど、そんなまどろっこしいマネはせぬ!」
「なんとゆー勇ましさ!!」
「めくりはしないだろう」
どんなやり方。再検査でもどうにもならない潔さに頭が下がる。ちなみに小田原は腰で折り返している。
「だってしょーがないですよ、昔からこれなんですから・・・・いわば私の制服と言いますか」
自分を見下ろして言う九里子に、足達が助言する。
「しょーがない九里子さん。私のジャージを貸してやろう、それでなんとかしたまえ」
「嫌な対処法!!いや、次にまではなんとかしてきますから、おそらく!」
後ずさった挙げ句にガン!と後ろの棚にぶつかる九里子。そんなユニフォームは嫌だ。学校指定のジャージでなんとかするつもりはまったくない。
「相変わらず落ち着きのないヤツだ」
DVDのケースを床にバラまいて慌てる九里子を見下ろし、剣は至極見下げた口調で言う。
「そこの人間が言う通り、見るからにバカな格好をしているからこそ普通の仕事もできないわけだ」
「それとこれとは関係ないと・・・・」
「気にするな九里子さん」
「足達さん!」
そこへ足達が割って入る。そして隣を指差して言う。
「小田原なんか割り算もロクにできないから因数分解もできないわけで」
「ああ、それは割と理に適っていると」
「自分で言うな」
嫌な比較を持ち出されて二倍ガッカリする。まったく持ち上げられていない。それは学業としてまったく致命的なのでは。しかし剣は意に介した風もなく投げ付ける。
「そんなに惜しげもなく足を晒して冷え性になったらどうする。終いには慢性がたたって子供が産めなくなったらどうする」
「いや、まだ産んだことはないけれど。そういうもんですかね」
「あんた、何気に重いことを言われて返してるわよ」
「でもホントのことですし。足達さんは?」
「高校生に聞くか」
「あれ、ないんですか?あいたー!!」
オイ、と頭を叩く足達。あいにくこの歳でそんな大事を起こしたことはない。大問題だ。ところで、後ろで聞いていた小田原は「おや?」と首を傾げる。
「お前のような仕事もできないアホ狐はさっさと引退した方が人件費の為になる。もしくは家庭に入って安定した方が賢明だ。そうなれ」
「むが、いくらキャリアとは言え上から物を!バカにするのにも程がある!!」
「いや、あんた何気にプロポーズされてるわ」
憤る九里子に対して、至極冷静な目で見据える足達。引っ込んでいた小田原がしゃしゃり出てくる。
「おいおいおい、さっきから聞いてれば。兄ちゃん、ちょっとツラ貸せ」
「なんだ」
舌を鳴らして剣を呼び寄せる小田原。相手の首を捕まえるが、身長差でまったく届いていない。
「あのー、」
「九里子はすっこんでろ!!そこで一人五目並べでもやってろ!」
「さびしいですよ~」
置き去りにされた九里子は床にしゃがみ込み、ばらけたDVDを片付ける。それが先だ。
「ちょっとワケを聞かせてもらおうか」
小田原の代わりに足達が剣の首根っこを引きずってきた。剣は怪訝な顔で身を屈めた。今度はその三人で小会議になった。小田原の発言。
「貴様、さっきから聞いていればおかしいとは思っていたが、九里子をアホ狐だバカだのと言っておきながら雲行きが怪しいな」
「なんのことだ」
「しらばっくれるのも大概にしとけや兄ちゃんよ・・・・気付いていないのは九里子だけか」
「なんであんたガラ変わってる。まあ、その尖った物言いも裏返しの態度と思えば辻褄は合うわね」
「人間にとやかく指図される謂れはないな」
あくまで肯定はしないが図星らしい。二人はニヤッとして顔を見合わせる。他人事と思えばここまで面白いことに変わりはない。捻じ曲がった楽しみだ。
「おやおやおや、言っていいのか。ユーザーあっての仕事、そんなとんがらなくても」
「否定したい気持ちも分かるが、そんな歪曲的な態度じゃ、まず九里子さんは気付かないわね。ますます嫌われるのがヤマオチよ」
「余計な世話だ。指図される謂れはないと言った」
「遠まわしはアホ狐に通用しないと言っとるんじゃい。もっとストレートにできんのか」
「さっきのはあからさまに直球だったろうけど。ちょうどよくできないのかと私達は問いたい」
足達と小田原のコメントにも過敏な九里子のこと、いちいち言葉端が厳しくてはなるものもならないと。
「他人事に口を出す前に自分の成績でも心配したらどうだ。万年赤点の小田原よ」
「くわっ、この男よ!!言ってはならぬ事実を」
至極妥当な指摘に小田原はこぶしを固めた。しかも自分で事実と認めているのが救えない。ウソでもいいから言い訳をしろ。殴る代わりに小田原は剣に指を突き付けた。
「ちょっと顔がいいからって図に乗るんじゃないわよ。イケメン、活け作りの明太子よ居直れ!!」
「正式名称がそれか。ま、ま。性格が伴わなければ台無しだわアンタ。その喋りからして直した方がいいんじゃないの」
活け作りの明太子呼ばわりされた剣はフンと顔を逸らし、付き合ってられんと首を振った。
「人間の考えに同調する気はない。刹那的な考えをすることしかできないのか」
「いやー、それとはちょっと違う気もするけど。まあ三百年も生きてれば気も長くなるか・・・・」
「私達と感覚がずれていてもおかしくないとゆーこと?時間の感覚はズレていたとしても、貴様のやり口はとにかくおかしい。あんたは小学生か?黒を白と、右を左と言ってしまうようなあまのじゃくか?三百年も生きているならもっと小賢しくいけよ、ずる賢く」
「ずる賢いは余計だ。ひいては悪人か。子供も産んだこともないような小娘が何を知った口を利く」
「産んだことはないけど赤ちゃんをとり上げたことはあるわよ、うちの猫の」
「何を張り合った?」
何を威張ったか、疑わしい目で小田原を見る足達。話題としては共通点があるにしても、まったく意味が違う。小田原はニヤッとして剣の肩を叩く。
「まあ待て兄ちゃん。数多の仲を取り持ったと評判のこの小田原、不肖ながら貴様に助言させていただく」
「しかもそのカップルはわずか一週間で破局するという不評をよく耳にするが。うちのクラスにも犠牲者が数多」
「・・・・お前は信用ならん」
足達の助言とゆーか補足によってあっさり暴露される。今度は剣に疑われた。
「ヤツら色気付くとアッサリくっつくが、その分スピード決着よ。スピーディよ。我が目を覆う!!人の苦労も知らずにネッ」
「先に見極めろよ、彼らがお似合いで有るか無しかを」
そりゃもっとも。最新ではバレー部の女子と吹奏楽部の男をくっ付けて、挙げ句にケンカ別れした模様だが、その模様がすさまじかった。バレー部の腕力で殴られた吹奏楽部が全治一週間の打撲を負ったという。一体彼の間で何があった。
足達は小田原を止めようと思ったが、何も剣が人の範疇に納まる場合ではない。もしかしたら小田原の並外れたマイナスのスキルが良い方向に働くかもしれない。
とは楽観的に思わなかったが、このキツネと犬、見たこともない間柄がどうなるか見てみたい。とりあえず、足達も丸投げの姿勢であったので。共犯者だ。
「お前はこの万年赤点よりも常識があると見たが」
意見を求められた。間近で犬じみた黒目を見られると怖い。しかし足達はフッと笑うと、その場に立ち上がった。
「確かに小田原はアテにならない。信用するな」
「断言か」
「断言ね」
いきなりの断言。英断とも呼ぶ。自信ありげな足達に誰も反論できなかった。
「しかしこの常識を覆す時を、私も見てみたいと思ったのは事実。騙されたと思って騙されろ!!」
「俺は騙されるのを覚悟でこいつの意見を受け入れるのか。そんな多大なリスクを背負う気にはならん」
「いや、騙さん。今さら貴様に猶予とゆー時間はありすぎた、この際もっとストレートに!直球に!!行け!」
出番だ!と、今の今までほっとかれた九里子を呼び出す小田原。離れた床に座って絵本を読んでいた九里子は出番ですか!と振り向く。
「ってか、小田原さん!このお話、さっきのあらすじに全然沿ってないじゃないですか~!?普通に心あたたまる!」
「目に見えるものを信じるな。そのストーリーの裏側に隠された真意を読み取れ!」
「そこまでして深いお話!?」
「そして原稿用紙四枚以内で感想文を提出しろ」
「感想文は苦手ですよ、二百字詰めならなんとか~」
「甘ったれんじゃねえこのキツネ!!だからこの活け作りの明太子にもバカにされる!」
「活け作りの!?なんですかそのおいしそうなものは!」
「口拭け九里子さん」
話の流れが分かっていない九里子にティッシュを差し出す足達。そんなに真に受けるな。そしてヨダレを垂らすな。
「こっちの剣さんがあんたに話があると」
せっつかれて剣もしぶしぶ腰を上げた。すると九里子は一歩引いて青くなる。
「剣の話!?ということは・・・・私は減給ですか?リストラですか!?」
「あんた、どこの権限を握られている」
まったく。話が飛びすぎた。かの主任ならともかく上司でもない相手に裁定を下されるワケはない。そんな引き算もできなくらい九里子は動じていた。動揺しすぎてまたぞろ棚にぶつかった。
「そうだ、さっさと仕事を辞めて専業主婦になれ。苗字も変えてしまえ」
「うーん回りくどい」
「貴様もケンカ腰ではなくて、この際別の方向から攻めてみるとかどうだ。褒めるとか」
「褒めるだと?このアホ狐のどこに褒める点があると言う」
「し、失礼な!私にだってよいところはあるハズ、ですよね!?」
ですよね!と問う九里子に、小田原はOK!と親指を立てて見せた。なんだその自信ありげな態度は。
「確かにこの九里子のどこに褒める点があるかどうかという問題は私にも保障できないが」
「もっと失礼なー!!?」
便乗された。今度は足達を振り向くと、呆れたような溜め息を吐いていた。
「フォローになっとらんなァ。確かに九里子さんにも長所はあるかもしれないが、それが短所に直結しているとも言える」
「なんですと!?いいや、長所と短所は常に表裏一体とゆーじゃないですか!」
「そういうことを言ったつもりだけど」
泣きながら掴みかかってくる九里子を片手でいなしながら答える足達。こっちの方がもっと失礼なリアクションだった。それを見ていた剣は手を叩いた。
「九里子、」
「とうとうリストラ宣言・・・・」
違う、と足達に頭をはたかれる。リストラの言い渡しだけにここまで回りくどいことはしないと。
「こちらの兄ちゃんがあんたのよいところを言ってくれるらしいぞ」
「マジですかー。そんなこと一度も言われたことないですよ~」
訝しむ九里子に剣は親指を立てて見せた。なんだその自信ありげな態度は。
「お前の腰は安産型だ。三つ子くらい楽勝だな」
「セクハラだー!!ハローワークに電話してやるー!」
「あっ、九里子!職業安定所に電話してどうする!!」
「九里子さん、そっちは!!」
いきなりの問題発言に走り出す九里子。ムリもない。なんでいきなりそんなことを言われにゃならんのか。
止めようとした小田原と足達の追いかけた先はアダルトコーナー、ではなくて、店の外だった。しかも慌てすぎて自動ドアにぶつかりながら。もう少し落ち着け。足達が声を掛けたが遅かった。
「そっちは道路・・・・」 ガチャーン。
「違うんですお巡りさん!あっちが急に飛び出してきて!」
「話はパトカーで聞こうね。ところで轢かれた人は?」
「すげえ九里子、車に轢かれたのに逃げてったぞ」
「さすが力任せ、よっぽど驚いたらしいな」
「褒めたのに何をそんなに驚く」
「そういう思考って得するわ。これからはもう少しワンクッション置いて発言しようね」
憤慨する剣の肩に手を置き、足達は同情のカケラもなく声を掛けた。ダイレクトすぎるにも程がある。
「骨盤が、とでも?」
「兄ちゃん、少し動物的な本能から離れようぜ・・・・」
小田原にまで同情される始末であった。
ところで、時速60キロで走ってきた車に轢かれたとゆーのにまったく無傷の九里子は。
「聞いて下さいフリーダイヤル!!同僚じゃないかもしれないけれど同業者がセクハラ発言を!転職したいんですけど!!」
「うん、そういう事情は話さなくていいから転職は取り扱ってますよ。あとハローワークはフリーダイヤルじゃないからね。直接こっちに来てね」
「そんな悠長なー!!」
職業安定所に電話して宥められて、なんだかよく分からないことになっていた。
後半戦が長くなりました。引っ張りすぎてしまいました。(2006/5/24)
三人だけだと寂しいので、コックリさん、狐狗狸さんと言うからには犬を入れてみようと安直ですが。剣さんはそのままケンと読みます。九里子さん以外は全部親戚の名前を借りています。名前考えるのが苦手で…剣は思ったよりへんな人になりました。なんだこりゃ。(親戚の兄ちゃんは普通の人です)