残り23錠。 <3/3>




「ふふふ・・・・これでデータはオシャカだよ・・・・残念だったな足達くん!!」
「む、生きていたか」
「死んだらマズイですから!!」
九里子のツッコミ。そこで喜んだのは杉村、床でもがきながらスーハー深呼吸を繰り返し、青黒い顔でニヤリと笑う。普通に怖い。
彼が勝ち鬨を上げると言うことはやはり、撮影データの中身は見られてはまずいものらしい。しかし語るに落ちるとはこのこと。杉村への不信感はMAXへと達した。足達は身を翻す。
「証拠を消していい気になっているつもりですか?」
「証拠なんてものは・・・・だから、写真はプライベートなものだと言っただろう?」
「しかし先生。教師が放課後、物陰に隠れてコソコソしているだけでも十分ですよ。威信を問われますよ。このこと、校長に報告されてもまだシラを切れますか。どうですか?」
「何を!私を告発するつもりか!?」
「ご自分に黒いところがなければ堂々としてればいいだけのこと・・・・そうじゃないですか」
「くっ・・・・。しかしデータは消失したのだよ、足達くん!!証拠もなく、分が悪いのはキミの方さ!」
「ご勝手にどうぞ。教師の身分を盾にして粋がるおつもりなら」
「ぐぐ。ならば、キミがそう言うなら、そうさせてもらおうじゃないか・・・・!!」
「ちなみに今のでデジカメは壊れたけど、保存用のメモリーカードは無事なんで見れますよ」
「なにー!!?は、はめられた・・・・!!」
横から口を挟んだ小田原に絶句する杉村。小田原はデジカメの裏を開けてSDカードを抜き取って見せる。その有様に、杉村は二度地に伏した。そのことを忘れていた。カメラ本体ではなく、外部メモリに保存したのが仇となった。
「あ、ちなみに今の会話も録音してありますから。ご心配なく」
「誘導尋問!?ぬかったァ!!」
足達が背中に隠していた手を見せると、録音機能を働かせた携帯電話が握られていた。今日びの女子高生は怖い。何かあるとすぐこれだ。
追求としてはムダとも思える会話は、十分な証拠を引き出すためにワザと長引かせた結果。証拠がなくなったと思い込んだ杉村はついベラベラと喋りまくってしまったのだ。
歪んだ杉村の表情を見下ろし、足達はニヤリと笑った。これが正真正銘の勝利者が持つ会心の笑みである。勝利を確認した輩は容易に本心を見せない。杉村は最初から完全に出し抜かれていた。多勢に無勢の劣勢面ではともかく、心理面では負けていた。余裕の有無ではなく、最後は駆け引きがものを言った。
『しかしデータは消失したのだよ、足達くん!!』
「ほーらバッチリ録音できてるでしょ」
「すごいですね~。さすが足達さん、話術で丸め込みましたね!」
「イヤ!!やめて~!!」
録音データをバラされて両手で顔を覆う杉村。なんだろう、この傷を抉る辱め。
『何を!私を告発するつもりか!?』
「何を!私を告発するつもりか!?へー、このケータイって結構長く録音できんのね。スゲー」
「キャー!!」 ←杉村
小田原に口真似されて仰け反る杉村。もうこんなことばっかり。足達はフッと笑う。
「こんなこともあろうかとメモリはいつでも空けてんのよ。あとでパソコンに移すし、保存してるし」
「用意周到だな」
「証拠フォルダに分けてね」
「証拠フォルダってなんですか!?」
剣は無表情ながら感心したように頷く。横では九里子が仰け反った。そういう風にファイルを分けている女子高生、初めて見た。大事に取っているということは、何かに利用しているということか。その利用方法よりも足達の根性が恐ろしい。
「そ、そんなもの集めてどうしようと言うんですか~」
「情報収集は怠らないわよ。で、小田原?」
「はいよ」
「なんですか?」
小田原が自分の携帯電話を差し出す。画面には画像が表示されている。
「これ、割と互換性があってデジカメのデータも見れんのよ」
「はー、なるほど」
小田原は携帯電話にSDカードを差し込んで画像ファイルを開いている。杉村を除き四人、寄り集まって小さな液晶に見入る。
「・・・・あれ?この写真は」
先に声を上げたのは九里子。画面と辺りを交互に見やり、
「ここの学校じゃないですか?」
不思議そうに見返す。見返された小田原は「そうね」と答える。場所は違うが、確かに同じ校舎内であることは間違いなさそうだ。学校を撮って、どうする?杉村は何を隠したい?
「ここに写っているのはお前か」
次に問うたのは剣。やはり小田原を見る。小田原は足達を見た。自分でも分かっていない。
「なんだ、これ?」
「・・・・つまりのところ・・・・」
全員に注視され、足達は耳をほじくりながら面倒くさそうに口を開いた。
「剣さんに小田原殺しを依頼した人物が言っていた男、その男がつまり杉村先生、先生の言う好きな相手が小田原だと、そういうことじゃないの?」
「はわ、」
回りくどい説明だが、これでも精一杯かいつまんで要点を整理する。足達の説明を受け、九里子は一拍遅れて叫んだ。
「え~!!?どこからそういう推理が!?」
「これだけ物的証拠が挙がってるんだから、いい加減に分かれ!!この鈍感キツネ!」
「耳を引っ張らないで下さい~!」
「なるほど、なんだかよう分からんが教師をも虜にするほどの魅力、か・・・・魔性の女、略して魔女!!今日からあたしのこと魔女って呼んでいいぜ?」
「呼ばん。魔性なのはキサマの学力だこの赤点女」
「手痛い反撃!!」
足達が九里子のキツネ耳を引っ張っている横で、剣に赤点女呼ばわりされた小田原が仰け反る。ちなみにこの前の数学のテストも滞りなく赤点だった。魔性とまで呼ばれた学力では当然である。さらにその横では秘密を暴露された杉村が床を叩いている。
「はずかしい!バラされたー!!」
「何を言うか不埒教師!!小学生みたいなこと言ってんじゃないですよ」
すかさず足達に突き飛ばされた。この人が何食わぬ顔で授業を続けていたことの方がはずかしい。
「だからこそ隠してたんだ~!!何もここでバラさなくてもいいじゃないかっ。現実なにもしていないのにこの仕打ちはひどすぎる!」
杉村は青い顔から真っ赤になって足達に抗議する。実際に何もしていないからと言われれば同情の余地もある。しかしその程度で揺るぐ足達ではない。隠し撮りがバレた時点で大問題だ。
「隠そうがバラそうが一緒でしょーが。今こそその温厚な相貌の下に隠した劣情を惜しみなく曝け出してみろ!!暴かれた時こそチャンスだと思え!!己の底力を世間体で押し下げるなど愚劣の極み、心のオフェンスラインを上げて行け!!」
「なっ・・・・!!」
「足達さんかっこいー」
「いや、本人も勢いで言ってるだけだと思う」
「当事者のお前も参加したらどうだ」
感心する九里子、まったく他人事の小田原、冷静に割り込む剣。心のオフェンスラインてなんだ。隠し撮りされた本人、小田原はゲラゲラ笑いながら足達と杉村を見ている。
しかし、足達の詭弁的なアドバイスに背中を押され、杉村はフラフラと立ち上がった。
その憑き物が落ちたような表情に、九里子は一歩後ずさる。さっきと打って変わり、異様な雰囲気をかもし出す杉村は危うい。剣は隙あらばもう一度絞め落とそうと構え、小田原はそのまま突っ立っていた。彼女の目の前で杉村が立ち止まる。
「・・・・小田原くん!!」
「なんでしょうか」 バシン。
杉村はいきなり小田原の手を握り締め、小田原は間髪要れず相手の手を叩き落した。しかし杉村は素早く掴み直す。そして小田原は再び払い除ける。目にも留まらぬ攻防戦。
足達のテキトーな後押しで怪しい力を得た杉村はへこたれなかった。三度目の攻防戦ののち、とうとう小田原の手を掴んだ。しかし彼女は素早く腕を引っ込めて袖の中に手を突っ込んでいたので、杉村は空っぽの袖を握っただけに終わる。妥協だらけで二人は歩み寄りを見せた。
温和な顔から弱気が消え、授業中にはなかった男としての覇気が表情に宿る。杉村は真剣な声音で口を開く。
「足達くん、キミは生徒で私は教師だが、これだけは言える!キミが好きなんだ!!」
「わあ、ついに言ってしまいましたよ~!禁断の関係!「魔女の条件」みたいドキドキしますね~」
「それとだいぶ違うけど・・・・。はい、そこで剣さん」
「犬とキツネも種族違いだが禁断ではないぞ」
「シャーラップ!!そういう問題ではなくて!キツネと犬うんぬんではなくて、私はあんたが嫌いなのー!」
「すまん剣さん、ついでにで致命的な言葉を聞かせてしまった」
無表情だが眉を吊り上げる剣の肩を叩く足達。怒りか悲しみか知らないが、ショックを受けているのは分かった。一連の流れで亀裂を走らせてしまった。
さておき、教師からの告白を受けた小田原はと言うと。レスポンスは!?
「気持ちは分かりました、先生」
小田原は割と冷静に答えた。動じてはいない。その口元には笑みさえ浮かんでいる。息詰まる攻防戦を受け切った杉村に対して厚い義理を通した。しかし義理と人情は別物である。
「しかし先生は随分と貧弱でいらっしゃる・・・・」
「確かに私は関節技に対して貧弱であるかもしれない!だがキミに対しての思いは海底の岩盤よりも厚いつもりだ!!それは認めてもらおう」
何も知らぬ第三者から見ればなんの話だろうと思う。両者共いろいろ間違った受け答えではあるが、一歩も引かぬ圧力。対する小田原は次に言い切った。
「情熱だけで何事もまかり通るとお思いになるな・・・・申し訳ない、あたしが好きなのはブルース・ウィリスだ!!」
「ブルース!!?」
『ウィリス!?』
なんかかっこいいポーズで断言する小田原。ブッ飛んだレスに全員が叫んだ。まさかこの場合でハリウッドスターが割り込んでくるとは思わなんだ。アメリカに向かって謝罪したい。
「そうか、ブルース、お前か・・・・」
がっくりと膝をつく杉村。この戦い、分が悪すぎた。初めから勝算などなかったのだ。相手は強すぎる。小田原の後ろにはウィリスが控えている。ハリウッド俳優が相手では勝負の挑みようがない。
小田原殺しを依頼した女も、まさかウィリスによって依頼が達成されるなど思いもよらなかっただろう。予測できるハズもないが。
「私はブルースに負けたのか・・・・ッ!!」
「先生、顔を上げて下さい」
こぶしで床を叩く杉村に、そこへ小田原が手を差し伸べた。その顔には爽やかな笑み。
「確かにあなたは負けた。だが、ビルを占拠したジャパニーズヤクザにたった一人で挑み平和を取り戻した暁には、あなたを認められるかもしれないじゃないですか・・・・」
「小田原くん・・・・キミの返答、確かに頂いた」
二人はがっしりと熱い握手を交わした。何か間違ってる。何か間違ってる。二回も言うほどに。
「これで、いいんですかね・・・・」
「ダメなんじゃないの」
「やっぱりダメだろう」
対照的に三人の冷たい指摘が飛ぶ。だめだろう、こういう展開は。告白と返答の流れとして。疑問符を投げかけたい。
杉村は小田原の手を借りて立ち上がり、さっぱりとした表情でどこかを見上げる。
「分かったよ。私は鍛え直すことにしよう。そうしたらもう一度、キミに挑もう。それくらい、許されないか?」
「待ってますよ。突如宇宙から飛来してきた隕石に乗り込んで爆破させることができたら、待ってますよ」
「え、あのラストって、確か・・・・」
「しっ、九里子さん黙ってな」
「分かってて言ってるんだろう」
「ありがとう小田原くん。私は行ってくるよ!」
三人の内緒話には耳を貸さず、杉村はスーツの裾を翻して廊下を歩き出した。登場シーンに比べてカッコイイ去り際である。四人は無言で彼の背中を見送った。
「・・・・。どこに行った?」
と、剣が自分の懐を探る。足達と九里子は「?」な顔で彼を振り返る。
「剣さん、どうした」
「なんかなくした?」
「いや、薬が」
そう言われて思い当たる。あの惚れ薬・・・・足達は怪訝な面持ちで問い返した。
「薬?っつーと、あの劇薬!!!!!のこと?」
「なんでそんな感嘆符を。そこまで危ない薬か」
「いや、まーね、毒薬って言った方が正しいかも。あんた見なかった?瓶詰めなんだけど」
小田原に訊かれて曖昧に濁す。間違ってあんなものが誰かの手に渡ったら危険だ。今の内に所在をハッキリさせておく必要がある。九里子もうようやく慌て出した。
「そーなんですよ、危ない薬なんでなくしちゃまずいんですよ~」
「んな危ないもん見てないっつーの。誰か毒殺しようとしてたワケ?腕が鳴るぜ!」
「死にゃしないわよ。腕鳴らすない。ただ、服用に注意や警告が必要っつーか」
「あら、小田原さん。まだ帰らないの?」
「あ、先生」
呼びかけられた小田原が振り返ると、教室から女性教師が出てきた。部活の顧問で茶道の指導者である。まだ若いが茶の道では免許皆伝の腕前を持つ。そして足達と小田原のクラスを受け持つ担任。
解散してから随分と時間も経つ。未だにウロウロしている小田原は不審だ。そして今の騒ぎにまったく気付いていない彼女もどうかしてる。精神統一に長けているとか、そんな問題じゃない。茶道をたしなむ穏やかな性格と相まって、割とポヤッとした性格で知られている。
「早く帰らないと暗くなるわよ。足達さんも・・・・その人達は?」
「この人達は見学者、そう、見学者です。な、足達!」
「あ?え?はい、見学者なんです。な、鈴木!」
「え?わ、私が鈴木ですか!?はい、そーなんです、見学者です。ね、坂井!」
「・・・・そうですな」
この剣のおざなりな返事。テキトーな流れで坂井さんになってしまった心境は分かるが。しかもなんの見学者なのか。小田原も至極テキトーな言い訳でしのぐ。
「そうなの?じゃ、みんなも暗くなる前に帰りなさい。今は不審者も多いからね」
先生もあんまり気にしていなかった。不審者なら今し方会ったばかりだ。そんじょそこらの不審者に負ける気がしない。
「あれ、それ」
小田原が先生の手元を指差す。彼女は手に素焼きの器を持っていた。茶道で使う品のいい器。もうお茶の時間は終わって全部洗い終えたはずなのに。相手は「これ?」と答えた。
「これね、一服余っちゃったの。どうせだから誰かに飲んでもらおうと思って。そうだあなた達、飲んでみない?」
足達と九里子と剣は見合わせる。さっきコーヒーショップで飲んだばかりなので要らないと思った。今は濃い抹茶よりもスポーツ飲料を一気飲みしたい気分。疲れた。
「すいません、せっかくですが遠慮しときます」
「お作法は知らないので~」
「作法なんていいのよ。でもしょうがないわね、誰かに頂いてもらいましょ。それじゃあね、お疲れ様」
小田原に向けられた言葉を最後に先生は廊下を行ってしまった。何故か剣は一番最後まで彼女の後姿を見ていた。小田原はフーと溜め息を吐く。
「それよりあの薬さ、どこに行ったんだろ・・・・」
「見付かりませんね~」
床を探しながら九里子が首を傾げる。それから剣を見上げると、相手はビミョーな顔をしていた。
「?薬の在り処、予測できない?」
「あ、なるほど。剣さんなら分かるじゃん。頼むわよ」
「そのことだが・・・・」
未来予測のエキスパートは芳しくない答えを出した。三人は次の言葉を待った。次の言葉も芳しくなかった。
「まずいぞ」
次の瞬間、廊下の奥から女性の悲鳴が聞こえてきた。空気を切り裂く叫びに九里子が耳を伏せる。
「今の声って、お茶の先生の・・・・」
「何ィ、何があった!?剣さん!!」
「・・・・さっきの器に、薬が入っていた」
「あ、」
次の瞬間、『ありえねー!!!』 三人の絶叫が絶妙なハーモニーをかもし出した。空気を切り裂く叫びに剣は耳を伏せた。廊下に反響してうるさい。
「な、な、なんでお茶に薬が!?」
一番先に立ち直ったのは足達。ずっと室内にいた先生の持っているお茶に薬が転がり込むなんて、ありえない。小田原も惚れ薬とは知らないが、劇薬だとか毒薬だとか聞いてしまったので慌てる。
「それで何がどうした!!薬の入ったお茶を、誰かに飲ませた!?どういう展開で!?ありえねーだろ!!」
「一歩先の未来とは過去の気紛れと現在進行とで決まる。どうなってもおかしくはない。薬があの器に入ってしまった過程を説明すると二時間ほど掛かるが、いいか」
『長!!』
「そんなことどーでもいいから~!だ、誰が飲んじゃったの~!?」
一歩遅れて追い付いた九里子が先を急かす。剣にしては珍しく口ごもるが、言った。
「杉村」
「にゃにー!!?あの、整形の先生が!?あの人にお茶をあげちゃったんだ!?」
「と、言うことは!!」
「と、言うことは!?」
小田原は足達の顔を見た。足達は九里子を見た。九里子は驚愕に目を見開き、剣を見た。
「・・・・まあ、三十分も経てば静かになる。三十分で何ができる」
「三十分で何かできるだろーがッ!小田原ァ!!」
「ラージャッ!!」
何かの内容はご想像にお任せすることにして、足達のゴーサインに小田原がすっ飛ぶ。速い!!
百メートルのトラックよりも廊下の十メートルを全速力で駆け抜ける方が早いと名高い小田原である、スタートダッシュと合わせて三秒もあれば容易い。主に逃げ足に多用されると評判である。
「待って下さいよ~!」
「危険よ九里子さん。ヤツの足は並じゃない」
慌てて追いかける九里子を引き止める足達。その目は真剣だった。足達を本気にさせるとは。九里子はゾッとして留まる。
そして四秒後、「キミのブルースになりたい!!」 と女性教師に抱き付く杉村の頭を小田原の飛翔連撃(注:ワザ名)がすっぱ抜いた。華麗に着地を決めた小田原に、「キミは鳥になれる!!」 陸上部・幅跳びの子コーチが高得点を提示する。フィールドでも戦える人材だ。
頭にいい蹴りを食らい、ドサリと床に倒れこむ杉村。完全にダウンを期した。その後頭部を見下ろし、小田原は不敵に笑った。
「さらば、ウィリスを目指した男よ・・・・!!」
その側に呆然と座り込んでいるお茶の先生、その側に転がっている空の器。なんだかよく知らんが、すべては五秒以内で未遂の内に済んだようだ。
先生も事情は分からないだろうが、小田原よりよっぽど驚いたに違いない。へたり込む彼女に手を貸す。
「先生、大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう小田原さん・・・・何があったの?」
「なんにもありゃしませんよ。一瞬の過ちですよ・・・・男はオオカミなのよ~♪」
「気を付けなさい~♪」
なぜここで歌う。小田原の宥めに先生は動転した様子で返す。小田原の手を断り、自分で立ち上がる。
「大丈夫よ、ありがとう。ひとまず教頭先生に連絡しないと・・・・」
フラフラと歩き出し、彼女はうわごとのように呟きながら職員室へと向かう。その様子を廊下の曲がり角から見ていた足達が敬礼を送る。
「結局、上に報告されるのね。さらば、小田原に玉砕した男よ」
「いろんな意味でな」
「並じゃない足って、そういう意味ですか~・・・・」
短距離・長距離どちらの走者も脚力は並じゃない。地を蹴る力は技術を抜きにしても十分に人を蹴り殺せる強力を兼ね備える。走者の皆様すいません、こんな例えに持ち出して。アスリートに謝りたい。
小田原は残された器を拾い上げ、空になった中身を剣に見せる。器の底には緑色の泡がわずかに張り付いているだけだ。
「なんにも残ってないわ。なんの薬?」
「即効の水溶性だからな」
要点をはぐらかした答えを返す剣。しかし小田原は大して気に留めた様子もない。衝撃の展開に気を取られている。
剣はまた、階段を上がっていく女性教師の背中をじっと見ていた。それを見ていた足達が問う。
「剣さん、どうかしたの」
「いや、特に」
再びはぐらかされる。そう言うならばしょうがない。踏み込んでも三度はぐらかされるだけだろう。
「まさに一服盛られたってカンジですね~」
気絶した杉村を廊下の端っこに転がしながら九里子が疲れた声で言う。とんでもないものを持ち込んでしまった責任は自分にある。巻き込んでしまった先生達には悪いが、この仕事にはクビがかかっているのだ。あとが怖い。
ここ一番深い溜め息を吐く九里子、小田原がバンと肩を掴む。
「なんだなんだ九里子よ、何をそんなに落ち込んでる?熱湯玉露が売り切れだったのか?気にすんな、自ら行けよ、八十八夜の茶畑に」
「小田原さん・・・・は、自由でいいですね・・・・」
「?女子高生イズフリーダム、お前も自由に生きろよ!」
「あんたもテキトーな慰めを」
自由に生きすぎてる小田原はともかく、足達は九里子にアドバイスする。
「ま、今日のことは気にしないで、前向きにね。一応のところ杉村先生は小田原を諦めたワケだし」
「そーでしょーか?なんかまた、鍛え直して来るって言ってましたケド」
「俺の予測では、」
そこへ剣の声が割り込む。三人は彼を見た。未来予測のエキスパートは、一瞬の過ちを犯してしまった教師の処遇を言い当てた。
「今日から三日後、三ヶ月は帰ってこない」
「やたらリアルな期間を!!」
「トバされるってことか!?」
「整形の先生すいません~!!」


「杉村先生は一身上の都合で、三ヶ月ほど山奥の分校に出張することになりました」 足達と小田原が朝礼で知らされたのは三日後のことである。驚愕の真実。既成事実はダテじゃない。
結局、剣は薬の在り処を明かさなかった。そしてなぜ、女性教師を気にしていたのかも明かさずに終わってしまったが・・・・


「ところであんた、隠し撮りされてたの知ってた?」
「いやあ、恥ずかしながらまったく知らなかった。なんか視線は感じると思ったんだけど、まさか杉村センセイだったとは。これでついぞの気配の正体が分かってスッキリ」
「どーでもいいけど、これ、あんたなんでバッチリカメラ視線なのか。それが気になる」
件のデジカメデータの写真は、杉村が廊下の曲がり角から隠れて撮ったものらしく、しかし小田原はバッ!!と振り向き、残像が写り込むほどに思いっ切りピースして、ここ一番いい顔でキメていた。隠し撮りになってない。撮影会みたくなってる。
「わたくし、カメラの気配には敏感でありますから!!ほら、こっちも、そっちも、いいお顔をしてらっしゃる・・・・」
「自分で誇るな褒めるな。だからってこりゃ、隠し撮る方の努力が水の泡だな・・・・」
確かに、シャッターを切るより一瞬早く、被写体がいきなりバッ!!と振り向いてカメラ視線になったら、おののく。杉村だってコソコソ隠れてカメラを構えたイミがまるでなくなる。かわいそうに。バレたのかと思って速攻逃げたりしたのに、今日の今日まで気付かれもしなかったことの方がもっとかわいそう。
「よし、なかなかいい顔で撮れてるし、足達にも一枚あげよう」
「ありがとう。証拠フォルダに分類しておこう」
「別名、若き日の想い出フォルダ・・・・ってな!」
ニコ!と笑う小田原に、足達もニコ!と笑い返して、小田原の顔面を掴んでヒザをすくい上げる。
「そしてちょっとは反省しろ朽木倒し!!」 ゴシャ!!
「あいたー!?今日の騒動にあたしが絡んでいたことは認めるが、いち被害者である自分が責められる謂われはないと思うのですがー!!やるなら杉村にやれ!」
「違う。もうやった」
小田原の疑問にそれぞれ答える。床にひっくり返された小田原は、足達の目が光るのを見た。こいつァ本気だぜ。
「・・・・これは、昼間のオレンジジュースの分だ!!」
「今さらかよ!!」 ゴロー
「ギャー!!なんですかー!!」


足達は意外と執念深かった。小田原は床を転がされて教室のドアにぶつかって、戸板が外れた。ちなみに最後の悲鳴は倒れてきた戸板に巻き込まれた九里子。まだいたのかよ!!





なぜか走る小田原。そしてなぜか速い。ここら辺は完全にノリだけでした…(2006/11/16)
これまでで一番長いです、読んで下さったお客様ありがとうございます。ウィリス主演映画の分からないお方すみませぬ!最初に出てきた方は「ダイ・ハード」のつもりで、たぶん詳細はこんなハナシじゃないハズ…後の方は「アルマゲドン」ですね。ラストはひみつ。最後の足達と小田原の会話を忘れていて、急きょ書き足し。剣さんの妙な行動。つづく。(自分メモ)

 
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