右斜め下を見る暗いパンダ。 <1/3>
「アルキメデスが入浴中、湯船からあふれるお湯を見て気付いたことは?」
「社会にはびこる人々の陰惨なわだかまり・・・・」
「ニュートンが木から落ちるリンゴを見て気付いたことは?」
「リンゴも重圧に弱い」
「コロンブスがアメリカだと勘違いしたアフリカ大陸に上陸して一言」
「ッヒュー!!一番乗り!!」
「あんた、落ち着け」
「そうする」
足達は頭上に突き上げた両腕を下ろした。小田原は教科書を閉じた。誰もこの二人を期末テストの勉強中だとは思わない。
放課後の教室。足達の絶叫がこだまとかき消えた頃、小田原はフッと溜め息をついた。
「この程度の問題も分からなくて期末テストを受けようなどと、十年早い」
「十年までは望まないけれど、あと三日ほしかったわ。もう明日じゃん!!どーすんの」
「どうもこうも・・・・」
小田原は意味ありげな笑みを浮かべ、教科書や筆記用具を鞄にしまう。その笑みは余裕ではなく達観の域。単に諦めきったということで、
「ちなみに今の問題は試験範囲じゃないということが今、判明した!!」
「だったら問題提起するなァアアア!!」
「予期せぬ復習として!!」
「世界史なめんな!!」
足達は三十センチ定規で小田原の頭をすっぱ抜いた。小田原の無意味な行為こそが問題だった。
二人の絶叫が余韻になった窓ガラスを震わせた頃、教室には誰もいなくなっていた。
もう夕方も近い。部活動は試験休暇に入っている。明日の試験に向けてクラスメイト達は早々に引き上げ、まじめに準備する者は今の今まで居残ったりしていない。馬鹿者が二人取り残された。
足達と小田原はしばし無言で見つめ合い、机の上に散らばった私物を片付け、席を立った。
ちなみに今のアイコンタクトは、「今さらあがいたところでムダよ、帰ろう」 「引き際が肝心だ、帰ろう」 無言の了承。諦めが早いというか、ちゃんと勉強しろ。
「これがちょっと前だったらコックリさんに頼るところだけどさ」
校門を出たところで小田原が言う。夕焼け空ではカラスが鳴きながら山に帰るところだった。
「言うない。今の時期、きっと人手が足りないからって九里子さんみたいなハズレが来るんじゃないの」
「九里子、九里子か・・・・そう言えばあいつ・・・・」
ハッと小田原が気が付く。足達も気が付く。二人はハッとして指を付き合わせた。
「忘れてた!!なんか忘れてると思ったら!」
「ピンと来たらご用心!そう言えば九里子だ九里子!!」
ピンと来たら110番。中学の同級生に誘拐されたキツネ。そーだそーだ!!と二人は思い出す。
昨日は、図書館で長谷山に拉致された九里子を見殺し、ではなくて、見過ごしてしまったのだ。今日になったらなんとかしてやろうと思っていたところ、目下テストの準備で頭がいっぱいになって、忘れてた。小田原はフーと溜め息をつく。
「危なかった・・・・学生の本業に夢中になって、危うく九里子のことを忘れるところだった」
「果たしてねえだろ本業。九里子さん、自力で逃げ出せたと思うか?」
「ムリでしょ。あいつ湯豆腐につられてフラフラ行ったんだぞ。そのまま長谷山んちで飼われてたりしてな!」
「笑えん話ではあるが」
笑えない話ではあるが足達は同意した。九里子のことだ、流されやすい。長谷山のいい人ヅラに騙されてずるずる行きかねない。二人は容易に想像できた。
長谷山はかつての同級生ではあるが、別になかよしであったワケでもないし、ましてや心証はよくない。むしろ悪い。小田原に至っては昨日、図書館で足元から引っ繰り返された。
その点、九里子はアホではあるが悪いヤツではない。確かに仕事はできないが、己の使命には一生懸命に取り組み、役立たずで人を厄介ごとに巻き込んだりイラッとさせられたりムカッとさせられたり、二人は尽くの事件を思い出してイラッとしたが、そのイラッとを 「アホなヤツだが悪いキツネではない」 という免罪符で以て帳消しにした。放っておくのも気が引ける。
「まあ、悪いヤツではないからして」
「まあ、悪いキツネではないからして。九里子の様子でも見に行くか」
直帰しようとした足を寄り道に変えることにした。どうせ帰ったところで試験勉強はしない。(断言)
「どこ行く?長谷山の家か?」
歩き出したのはいいが、九里子がどこにいるか分からない。小田原の提案に足達がストップをかける。
「待て。まずは確かめてみよう。あんたコックリさんの様式持ってたわよね」
「コピーした紙まだあるよ。これをどうする?」
「無駄足は省く。九里子さんを呼び出してもらって、帰ってなかったら長谷山の家に行ってみましょう」
「にゃるほど。この様式ならインフォメーション呼べるぞ」
小田原は鞄から四つ折のプリント用紙を取り出して開く。コックリさんを呼び出す様式、お決まりの文字群と鳥居のマークが印刷されてある。
「足達、十円玉持ってるか?」
「あるけど、ギザ十だ!!」
「それは大丈夫か!?」
「価値自体に問題はない」
「確かに」
通りすがりの自転車が転んだ。二人のテンションにびっくりしたワケではなくて、道端に座り込んでいきなりコックリさんを始める女子高生に驚愕した。まず落ち着けと促したい。
足達と小田原は十円玉の上に人差し指を乗せる。周囲の視線に物怖じせぬ度胸。
「コックリさんコックリさん、おいででしたら 「はい」 の方に動いて下さい」
「できたら昨日と同じインフォメーションセンターのキツネねえちゃんを呼んで下さい!!」
「お待たせしましたインフォメーションセンターです。申し訳ありませんがこちら支所となっております」
細かい要望はともかく、インフォメーションセンターには繋がった。なんの因果かセンター支所を呼び出したらしく、恰幅の良い白髪混じりのスーツ中年が目の前に現れる。足達は思いっ切り噴き出し、小田原は無言で腹を押さえて道端に転がった。
「どのような人材をお求めでしょうか?申し訳ありませんが未来予測の者は出払っており五時間待ちです」
「いや、すいませんが・・・・!!顔を、顔を近付けないで下さい・・・・!!」
「き、キツネ耳、耳・・・・!!」
「そう仰られても、わたくしキツネなもので」
脂の乗った働き盛りの中年の、白髪混じりの頭にキツネ耳が生えているサマは、あまりにもな破壊力を秘めていた。
何かが間違っている。足達は片手で彼を制しながらも切れ切れに言い返し、小田原は転がったまま笑いを押し殺す。笑っていいのか泣いていいのか分からない。
キツネ?コックリさん?なら当たり前のことが、ここまで奇異に感じたのは初めてだ。今まで九里子や剣、昨日のキツネ姉ちゃんしか見てこなかったことが仇となった。二人は揃って声もなく震えた。
「ご用事は如何ほどに?」
さらに迫ってくる中年キツネを押し留め、足達はヨロヨロと立ち上がる。
「あ、あのですね、九里子というキツネを呼んでほしいんですがブッハァ!!」
とうとう笑いが噴出した。しかし中年キツネは意に介した様子もなく頷いた。そして懐から携帯電話を取り出す。
「少々お待ち下さい。・・・・もしもし?こちら三番支所です、ご指名入りました。ええ、はい。九里子です。・・・・え?いない?分かりました」
返事を待たずとも分かる。九里子は帰っていない。足達と小田原は頷きあった。
「お待たせいたしました。ただいま九里子は、」
「分かりました!!こっちでなんとかしますので!」 ← 足達
「そうですか?他の者でしたら手が空いておりますが、」
「結構です!!もう十分ですのでお帰り下さい!!」 ← 小田原
見事な連携プレーで中年キツネの言葉を遮る。もうこれ以上間近で見ていられない。しかしそこで足達が引き止めた。
「あっ、ちょっと待って下さい。未来予測の剣はいますか?」
「少々お待ち下さい」
彼は再び携帯電話に向かう。小田原は足達に耳打ちする。
「剣?剣に九里子の居場所を探してもらうとか?」
「それもあるけど、何も知らないまま九里子が長谷山に捕まってるとこ見たら、何するか分からんでしょ・・・・今の内に事情を話しとこうかと思って」
「うまく説明できる気はしないが・・・・」
「お待たせいたしました」
二人の相談を遮り、中年キツネが再び向き直る。足達は剣への言い訳を考えながら再び笑いを噛み殺した。自分はそっちの世界で生きていける気がしない。
「申し訳ありません、剣はただ今出張中です。もう少しお待ち下さればすぐ寄越しますが、如何でしょうか?」
「急いでるんです、お願いします」
「もう少しってどのくらい待てばいいの?」
「一時間ほどになります」
二人は頷きあった。その前に九里子を取り返しておかなければならない。リミットは一時間。
「承知いたしました。こちらをお持ちになってお待ち下さい」
中年キツネが封筒を差し出してきた。普通の茶封筒のようだが・・・・開け口が 「取扱注意」 の判子で封印されている。足達が受け取る。
「なんですかこれ」
「お客様の都合で開封して下さい。お急ぎのようですので、直に剣を向かわせます」
「直に?よく分からんけど受け取ったわ」
封筒と言うことは、手紙でも入っているのか。今ここで中身を確認しようと手をかけると、中年キツネに制された。
「もう少し後でないと繋がりませんのでおやめ下さい。開封時は細心のご注意を。他にご用事は?」
「ありがとう、もう用事は済んだのでどうかお帰り下さい。もう耐えられません」
「お帰り下さい!!」
本音が出た。もうこれ以上キツネ耳の中年を目の当たりにすることが耐えられない。二人は吹っ飛んだ紙を取り繕い、十円玉の上に人差し指を乗せた。
「お呼び出しありがとうございます。またのご利用をお待ちしております」
十円玉が自然と動き、鳥居の上に寄る。キツネ中年は一礼を残し消えた。これでコックリさんは終わった。
「やっぱり・・・・」
小田原は紙を破きながら十円玉を見つめる。足達は疲れた顔で振り返る。
「やっぱり、ギザ十のせいなんだろうか・・・・」
「なんの因果か・・・・」
ギザ十の効果はランダムなんだろうか。中年を呼び出してしまうのか。途方もなくどうでもいいことに二人は悩んだ。
ともかく算段は付いた。九里子は昨日から戻っていない。長谷山と一緒にいると見た。剣はあと一時間で呼び付けられる。事態は剣のタイミングで好転するか悪化するか、二人の判断に委ねられた。
足達は道路から立ち上がり、中年キツネから受け取った封筒を制服の懐にしまう。
「よし、私は図書館を探す。あんたは長谷山の家に行って、九里子さんがいないか確かめろ」
「どこで落ち合う?」
「駅前のお茶屋さん。そこにもいなけりゃしらみ潰しに当たる!」
「よっしゃ任せろ。見付けたら九里子をひっ捕らえる!!じゃなくて長谷山の方が先か」
「手加減無用だ。油断したらこっちがやられる」
二人は別々の方向に向かって走り出す。小田原は鞄から取り出した国語辞典を手に、足達は校舎へ。
「あれ?学校戻ってどーすんの・・・・」
「自転車忘れた!!」
「あんた物忘れしすぎ!!」
その十秒後、競輪部の顧問が 「いいスタートダッシュだ!!」 と言わしめた足達の自転車が小田原を掠めて走り去った。
図書館。
「すいません!ここにちょっと頭が足りなそうなキツネっ娘を連れたちょっと変態的な男子高校生が来ませんでしたか?」
「そういう特殊なお客さんは見ませんでしたねえ」
カウンターでは、足達の奇異な質問に司書が答えていた。司書職十五年、そんなレファレンスは初めてではあるが。律儀に回答をしたものだと思う。
勢いだけの質問だった。足達は後悔した。九里子は人前でキツネ耳を隠しているし、長谷山のいい人ヅラは表沙汰でこそ効果を発揮する。こんな物言いで通じるはずがなかった。
「女の子の方は私と同じくらいの年で金髪、高校生は小池哲平とえなりかずきを足して2で割ってそこから誠意を引いたようなヤツなんです!!」
「ああ、そういう二人なら見ましたけど」
「通じた!?それで、いつ・・・・!!」
「一時間くらい前だったか・・・・あそこの絵本コーナーで金髪の女の子に読み聞かせしてましたよ」
間違いない。 足達は確信した。それは九里子と長谷山だ。しかし一歩遅かった。
「どこに行くとか、聞きませんでした?」
「この時間だし、もう帰ったんじゃないですか。献立の話か・・・・今日は麻婆豆腐とか言ってような」
「ありがとうございました!!」
カウンターに勢い込んでいた体を引き戻し出入り口に走る。九里子め、今日は麻婆豆腐に釣られた。さっさと逃げ出せばいいものを、今日の今まで引っ張りまわされていたらしい。
この分なら小田原の方が早い。もう行き逢っているかもしれない。図書館の外に飛び出すや否や、握っていた携帯電話を開く。
「小田原!!・・・・え?まだ帰ってない・・・・」
長谷山の自宅。
「麻婆豆腐の豆腐買いに行ったんだとよ!!え!?そう、大町のタナカ」
中学時代の連絡網を片っ端から当たり長谷山の自宅を聞き出した小田原は、今まさにその自宅前にいた。携帯電話を片手に走り出す。
「帰って来たことは来たけど、十分くらい前にまた出かけた。間に合う、今走ればタナカで押さえられる!!え?生け捕り?分かってるって、それ用じゃねーから!」
お前絶対分かってねーだろ!!と言う足達の声を置き去りに通話を切る。反対の片手には八百ページ超の国語辞典。それ用じゃなけりゃ何用かと問いたい。
一歩遅れを取ったのが足達なら、小田原は半歩足りなかった。長谷山の母親に聞いたところ、この道で擦れ違ってもおかしくないロスだった。何がいけなかったと言うと、途中で見付けた野良猫を追い掛け回していた二十分がいけなかった。足達がいたら殴り倒している。
ショルダーバッグを背負い、小田原は元来た道を走り出した。
「待ってろ、タナカが貴様の墓場だ!!」
足達の忠告がムダになる一歩手前である。
大町のタナカ。
「九里子ちゃん、どの豆腐が好き?」
「えーと、あのー麻婆豆腐だったら絹ごしがおすすめですよ~」
「絹ごしは試したことないなあ」
九里子を連れた長谷山は普通にスーパータナカで豆腐を選んでいた。九里子も普通に長谷山に連れられている。本当は今晩の麻婆豆腐に釣られただけである。
「絹ごしだと型崩れしやすいんですけど、フワフワしておいしいんですよ」
九里子はほぼ陥落していた。誰だって麻婆豆腐は好きだ。(偏見だ)コックリさんを愛玩動物、もしくは携帯のストラップとしか思わない長谷山の策略にまんまと乗せられている。
「そうなんだ?九里子ちゃんがそう言うなら試してみようか。あ、お菓子買う?甘いのダメだっけ?」
「あの、その、厚かましくもお願いしますけど、うにせんべいでもいいですか~」
「いいよ。五袋くらい買う?」
「ひ、一つでいいです・・・・そんなに一気に食べられないです」
商品棚から一気に五袋掴み取りの長谷山を止める。いくらなんでも、厚かましい九里子でも引く。
長谷山は一瞬止まるが、なんてことのない様子で首を傾げた。
「九里子ちゃん、面白いこと言うね。別に一度に食べなくてもいいよ。明日でも明後日でもいいじゃないか」
「え。でも、さすがに二日も三日もお邪魔するワケには・・・・」
いきなり不意を突かれるコメント、九里子は焦った。おかしいのは場の雲行きの方だ。長谷山はレジへ歩きながら答える。
「別にいいよ。うちの家族も出て行けとは言わないし、気が済むまでいていいよ」
「いや、でも!よくなくないですよ!!私も常識は持ち合わせてますから!そろそろお暇を!」
「あ、もしかして遠慮してる?奥ゆかしいねー」
「遠慮ではなくて、知らない人のうちにいつまでも居座ったら迷惑じゃないですか~!?」
必死に持ち合わせの少ない常識を引っ繰り返して後ずさる九里子。そう、所詮は呼び出し一回限りの一期一会、コックリさんと人間は単発の関係である。容易く顔見知りにもなる程度でもない。それをすっかり忘れていた。
それを長谷山は、長期間に渡って引っ張り出そうとしている。九里子は思い出した。契約違反である。
「うちの母親にも紹介しておいたから大丈夫、キツネ耳あるけど問題ないからって。娘ができたみたいで嬉しいって言ってたよ」
「どういう紹介を!!?だっダメです!!逃げます!!」
いつの間にかへんな方向へ話が進んでいたことにゾッとして、九里子はレジをぶっちぎって走り出した!!
「あげふ!?」 ベシャ。
しかし転んだ。思いっ切り首を絞められ仰け反った。そのまま仰向けに倒れる。そこへ、会計を終えた長谷山が笑いながら上から見下ろしてくる。
「大丈夫かい?こんなこともあろうかと、ちょっと工作を」
「はっ、いつの間に!?」
首に縄が掛けられていた。片方の端は長谷山が握っている。ペット扱いだ。
いつの間にか知らないが、どうりですれ違う人達が白い目で見ていたワケである。笑ってくれた方がいっそ潔い有様。九里子は二度ゾッとした。自分の惨状に気付いたからではなく、見上げた長谷山の目がちょっとやそっとも笑っていない・・・・
この人マジだァ!!九里子は慌てて立ち上がり、文字通り首根っこを捕まえられていることも忘れ、スーパーの外に向かって逃げ出す。
「九里子ちゃん、急に走ると危ないよ」
「危ないのはあなたです~!!離して下さいー!!」
九里子が逃げる後ろから長谷山も追いかけるので、文字通りイタチごっこになる。すれ違うお買い物中のおばさんが 「最近の若い子はハードね!!」 頑張るのよ!エールを送っていた。集団心理、なので誰も止めない。要らぬお節介がますます九里子の首を絞めた。
「あぶぶぶ、いちいち、首を、しめないで下さいいいい」
「いや、逃げるし。明日ちゃんとしたリードを買ってあげるからさ」
「飼われる、飼われてしまうううう!!」
ぐいぐい縄を引っ張られるので、九里子は咳き込んだり、えづきながらもジリジリと自動ドアに近付く。
対する長谷山も手綱を緩めない。もう片手にはレジ袋。日常と非常識がせめぎあっている惨状。完全に遊んでいる。
もうこんな人間とは付き合っていられない。豆腐に釣られた自分の浅はかさを今さら後悔するも、もう限界だ。反省と後悔ならば後からできるが、逃げるなら今しかない!
九里子は自動ドアのガラス戸が割れる勢いで縁を掴み、外に向かって半ば悲鳴で叫んだ。
「足達さん小田原さァん!!もー助けて下さいっ限界です!!もう口の悪い横暴者だとかすぐ国語辞典のカドで殴る乱暴者だなんて言いませんから~!!」
「・・・・と、言ってるようだが。どうする?」
「聞き捨てならんが。九里子さんも反省したようだし、ここは一つ助けましょうか」
ちょうどタナカの近くに到着した二人。足達はレスキューの意を示した。小田原が頷き提案する。
「助けるとなれば、それなりの準備が要るんじゃないかな」
「何を今さら。と言いたいところだけど、真っ向勝負じゃ敵わないのは確か。じゃあ私が長谷山の気を引くから、あんたは後ろからあそこのベンチで殴れ」
「まんまこっちが悪者じゃねーか!!自慢じゃないがわたくし小田原、箸と自転車より重い物は持ったことがあ・り・ま・せん!!自転車のカギなくした時によくやる」
「楽勝な気もするが。まあいいや。それで、準備ってなんなの」
夕方の人通りが多い中、男子高校生を後ろから自転車で殴るワケにはいかない。いくら人命救助とは言えこっちが悪者だ。小田原一人を悪者に仕立て上げる構想を失った足達はしぶしぶ促す。
「他に手立ては?」
「悪者ではないのなら、なんだ?正義だ。それなりのお膳立てを考えました」
「それなりの・・・・」
正義と言い切ってしまう小田原。どこかの神経が焼き切れていなければ出てこない発言に、足達はあらん限りの疑念を総動員した。
しかし他に打つ手もないので、疑念はよそにやっといた。キツネ一人助けるのに善も悪もこの際どうでもいい気がしてきた。真面目な顔で頷いておいて、早く帰ってジュース飲んで寝たいなあ!という気持ちで一杯だった。
長谷川解決編です。あと二個あります。ニコッ!(2008/10/23)